モビリティ(海外赴任)コラム:当局の情報交換

当局間の情報交換はもはや常識です。昔は情報交換というと、同じ国の中での税務当局と移民局との間での情報交換を意味していましたが、今は主に海外税務当局間の情報交換を指します。

租税条約等に基づく情報交換には、自動的情報交換、自発的情報交換、要請に基づく情報交換の3つがあります。最近よく耳にする共通報告基準(CRS: Common Reporting Standard)は、非居住者の金融口座情報に関する自動的情報交換の一種です。CRSでは銀行の預金口座や証券口座の口座番号や残高、生命保険や年金保険の契約情報の詳細が、海外の税務当局へ共有されています。

アジアでは新たにベトナムがCRSに加盟し、初回情報交換時期がこれまで未定だったタイも本年9月までに2022年の金融口座情報の自動交換を開始すると発表しています。これまで未加盟だったベトナムが加盟したことで、日系企業の主なアジアの進出先はほとんどがCRSに加盟済みとなりました。CRSに基づく国税庁からの情報交換先の約8割はアジア太平洋向けです。インドネシアなど、国外個人所得を含む全世界所得課税の国への赴任者については留意が必要です。

多くの日系企業の場合、赴任者の給与は手取り保証、日本でみなし税を徴収する代わりに赴任先の税金は会社負担のため、赴任者の手を煩わせずにいかに現地申告を完了させるかにこれまでフォーカスされがちでした。そのため良くも悪くも赴任者が現地の確定申告について無関心なケースが見られます。会社が現地の税金を負担している場合であっても、現地の税務当局からみると確定申告はあくまで赴任者(納税者)本人の義務です。欧米企業では赴任者ごとの赴任・帰任時の税務ブリーフィングの実施が一般的であるものの、日系企業ではまだ多くありません。当局間の情報共有の加速にともない、現地申告の重要性や申告範囲、個人の義務について正しく赴任者に理解してもらうための施策(赴任時の税務ブリーフィング、または全体説明会など)を日系企業も今後検討していく必要があります。

CRSと同じく非居住者にかかる法定調書情報も、自動的情報交換の対象です。赴任先で申告していない所得があるけれど、支払いも費用負担も日本だから、このまま申告しなくても現地当局には分からないはず、という時代ではなくなりました。そもそもの大前提として、当局はすでに知っている(手元に情報はある)というのが今のデフォルトであり、現地当局側の優先順位の都合上、「たまたま」まだ日系企業に調査や質問が入っていないという状況にすぎません。当局の手元にある情報を、どのタイミングで、どのように使ってくるのかは分からないものの、その気になれば質問や調査を入れることができる十分な情報をすでに現地当局は持っていると思っておいた方がよいでしょう。これまで申告していないことに気付いているものの、指摘されないからきっと大丈夫、と見過ごしてきたことはないでしょうか。気になることがあれば、一度じっくりと整理・検討してみることをお勧めします。

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