EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
シンガポールや香港のように源泉徴収制度がない一部の国・地域を除き、赴任者に関する現地での税務コンプライアンスには、通常は課税年度中の月次源泉徴収と課税年度終了後の確定申告の二種類があります。手取り保証の日本人赴任者の場合、実務的にはその両方を会社(雇用主)で対応することになりますが、月次源泉徴収が雇用主の義務であるのに対し、確定申告は個人の義務であるという点で、これら二つのコンプライアンス義務は大きく異なります。会社が赴任先での税金を負担し、現地での確定申告サポートをしている場合であっても、現地の税務当局からみると確定申告はあくまで赴任者(納税者)本人の義務であるという点がポイントです。
確定申告に税務調査が入ったとしても、調査対応は会社がするし、仮に追徴税額が発生しても税金を負担するのは会社だから赴任者への個人的な影響はないはず、と思うかもしれませんが、この認識は必ずしも正しくありません。多くの国では確定申告にself-assessment(セルフアセスメント)という自己申告の考えを採用しており、申告期日までに正確な情報に基づき、正しく申告・納付する責任と義務は、納税者である赴任者本人に課されています。逆に言うと、確定申告が正しく行われていなかった場合、そのしわ寄せとリスクは赴任者本人にいってしまう可能性があるという点に留意が必要です。
会社の担当者の手違いで過年度の確定申告が完了していなくて出国が認められなかった、帰任後に再度出張者として渡航したら、入国はできたものの、未申告分の申告納付が完了するまで現地から出国させてもらえなかった、確定申告書に基づく納付が期日までに完了していなかったため、赴任者の銀行口座が凍結されてしまった、というようなことが実際に発生しています。また未申告や遅延申告に対する再三の当局からの通知を放置していた結果、個人資産の差し押さえや、裁判所への出頭を命ずる可能性を示唆する最後通告が本人へ届いたケースもあります。これらに加え、最近は多くの国で税務当局と移民局の情報連携が加速しており、過年度の申告納付が正しく完了していない場合、就労ビザの更新を認めない国もあり、現地ビジネスへの影響も無視できません。
赴任先での申告を現地法人(拠点)の担当者に一任している場合、現地での支払いや費用負担が発生しておらず、現地担当者に支給実態が見えない(見えにくい)以下のような項目が申告から漏れがちです。
本社サイドでも何となく現地での申告が正しくないかもしれないと薄々感じつつも、現地のことは現地が一番分かっているはず、と現地担当者任せにしてしまっているケースが多いように思います。雇用主にコンプライアンス義務が発生する月次源泉徴収とは異なり、確定申告が正しく行われていない場合、赴任者本人にマイナス影響を与えかねないという点で、本社主導でのガバナンスが求められます。現地の実務担当者は経験年数の長いベテランだからコンプライアンスは心配ありません、というコメントを現地側で税務や経理全般を監督されている赴任者の方からはよく聞きますが、ペイロールを通らない日本側での支給項目の全容を現地担当者が正しく把握し、モビリティ税務の考え方に基づき適切に課税処理するのは容易ではありません。本社サイドのアクションとしては、まずは現地コンプライアンスの簡易ヘルスチェックなど、現地側の正確な現状把握が最初のステップと考えます。
川井 久美子 パートナー
浅田 緑 アソシエートパートナー
羽山 明子 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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