EU経済・財務相理事会(ECOFIN)、EUブラックおよびグレーリストを改定

  • 2023年10月17日、欧州連合(EU)の財務相らは、税務面で非協力的な国・地域のリスト(EUリスト)の改定版を採択した。
  • 同リストの付属書Iでは、税務情報交換(基準1.2)への対応を理由としてアンティグア・バーブーダ、ベリーズ、セーシェルを追加した一方で、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、マーシャル諸島が除外された。
  • 同リストの付属書IIでは、4つの国・地域(ヨルダン、カタール、モントセラト島、タイ)が除外された。
  • EUリストの次回の改定は2024年2月の実施が見込まれる。

日本企業への影響

EU加盟国にEU加盟国が定める基準による中規模もしくは大規模法人を所有する日本企業においては、2024年6月以降に開始する事業年度において、国別報告書(CbCR)の開示義務が課されることになります(ルーマニアにおいては2023年から早期適用がなされます)。

CbCR開示制度では、全てのEU加盟国ならびにEUブラックリストおよび2年度連続でEUグレーリストに掲載された国・地域について、国別に情報を開示する必要があります。日本企業の多くが活動している国・地域であるEUブラックリストに掲載されているグアム、パナマ、ロシア、EUグレーリストに掲載されている英領ヴァージン諸島、コスタリカ、香港、イスラエル、マレーシア、トルコ、ベトナムについて、実際の開示対象期間においてもEUリストに掲載されるリスクについて留意し、CbCRの開示について準備する必要があります。

エグゼクティブサマリー

2023年10月17日に開催された欧州連合理事会(EU理事会)の経済・財務相理事会(ECOFIN)会合において、EU財務相らは改定版EUブラックおよびグレーリストに関するEU理事会の結論を承認しました。同リストの付属書I(EUブラックリスト)においてEU理事会は、税務情報交換(基準1.2)への対応を理由として3つの国・地域(アンティグア・バーブーダ、ベリーズ、セーシェル)を追加するとともに、3つの国・地域(英領ヴァージン諸島、コスタリカ、マーシャル諸島)を除外する決定を下しました。同リストの付属書II(未実行の確約の現状に関する文書、EUグレーリスト)においては、ヨルダン、カタール、モントセラト島、タイを除外しました。なお、英領ヴァージン諸島、コスタリカはEUグレーリストには掲載されています。
EU理事会は今後も年2回のEUリストの検討および更新を継続することになっており、次回の更新は2024年2月に予定されています。

詳細解説

背景

2016年、EUは税務面で非協力的な国・地域のリストの作成に着手しました。2017年12月5日、2つの付属書で構成される、税務面で非協力的な国・地域のEUリストの初版がEU理事会から公表されました。付属書I(EUブラックリスト)には所定の期限までにEUの基準を満たすことを怠った国・地域が掲載され、付属書II(EUグレーリスト)には租税政策の改革について十分な確約を表明しているもののその実行まで、綿密な監視の対象となる国・地域が掲載されています。全ての確約を実行した国・地域は付属書II(EUグレーリスト)から除外されます。

当初の付属書I(EUブラックリスト)には、欧州委員会によって定められた該当する基準を満たすことを怠ったとみなされる17の国・地域が掲載されていました1。このEUリストの内容は、EUの法人課税に関する行動規範グループ(Code of Conduct Group for Business Taxation:COCG)の提言に基づいて、例えば新たな国・地域または制度がCOCGによって識別・分析された場合や、すでにEUリストに掲載されている国・地域の評価が見直された場合において複数回にわたり改定され、全ての条件を当該国・地域が満たすようになったと認められた場合には、付属書Iと付属書II(EUリスト)両方から除外されました。

また欧州委員会は2018年3月、リストに掲載された税務面で非協力的な国・地域への最初の対抗策として、特に財務および投資活動に関するEUの法律に、税源浸食防止の新たな要件を盛り込むコミュニケーション(指針)を採択しました2。これらの要件は、EUの外部開発および投資資金が、対抗策に抵触することなくして、付属書I(EUブラックリスト)に掲載された国・地域内の事業体を通過または経由できないようにすることを狙いとしています。

さらに2019年、EU理事会は、非協力的な国・地域からの税源浸食防止策に関する追加的なガイダンスを公表しました。同時にEU理事会は、みなし利子控除制度を有する国・地域の評価、および基準2.2(実質的な経済活動を伴わずに利益を取り込むオフショア構造を促進する税制の存在)に基づくパートナーシップの取扱いに関するガイダンスも公表しました3。前者の税源浸食防止策に関するガイダンスによると、EU加盟国は付属書I(EUブラックリスト)の国・地域について、以下の4つの具体的な法的措置のうち少なくとも1つを適用することを2021年1月1日時点で確約しています。

  1. リストに掲載された国・地域において発生したコストの損金不算入
  2. 外国子会社合算(CFC)税制
  3. 源泉徴収税における措置
  4. 株主配当における資本参加免税の制限

多くの加盟国は、これらの税源浸食防止策に関する法律をすでに採択または起草しています。
COCGは最近公表した多年次の作業パッケージ(2023年~2028年)において、EUリスト掲載プロセスを利用してBEPS2.0第2の柱ルールの適用を促進する方法を検討する可能性について言及しています。またCOCGは、新たな受益所有権基準(基準1.4)、および同グループによるEUリストの審査プロセスの地理的範囲(現在はEU域外の約95の国・地域が含まれる)の拡大について、議論を継続する予定です。

改定版EUリスト

2023年10月17日、EU財務相らはルクセンブルクでECOFIN会合を開催し、EUリストの改定に関する結論を採択しました。

前述のとおり、EU理事会はアンティグア・バーブーダ、ベリーズ、セーシェルを追加した改定版のEUリスト付属書I(EUブラックリスト)を採択しました。改定版EUリストに関するEU理事会の報道発表によると、これら3つの国・地域がリストに掲載された理由は、要請に基づく税務情報交換(基準1.2)への対応が不十分であることが判明したためとされています。

またEU理事会は、3つの国・地域(英領ヴァージン諸島、コスタリカ、マーシャル諸島)を以下のとおり付属書I(EUブラックリスト)から除外する決定を下しました。

  • 英領ヴァージン諸島は、要請に基づく情報交換(基準1.2)の枠組みを改正しており、今後OECDの基準に従って評価の見直しが行われる予定であるため、リストから除外された。
  • コスタリカは、国外源泉所得非課税制度の「有害な」側面(基準2.1)を改正したため、リストから除外された。
  • マーシャル諸島は、経済的実質要件(基準2.2)の実施において著しい進展を達成したため、リストから除外された。

改定後の現行のEUリスト付属書I(EUブラックリスト)に掲載されている16の国・地域は、米国領サモア、アンギラ、アンティグア・バーブーダ、バハマ諸島、ベリーズ、フィジー、グアム、パラオ、パナマ、ロシア、サモア、セーシェル、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、米領ヴァージン諸島、バヌアツです。

加えてEU理事会は、EUリスト付属書II(EUグレーリスト)に掲載された国・地域を改定しました。同リストには、租税政策の改革について十分な確約を表明しているものの、確約の実行の間、引き続き綿密な監視の対象となる国・地域が掲載されています。表明されていた確約が以下のとおり実行されたことを受け、EU理事会はヨルダン、カタール、モントセラト島、タイを除外しました。

  • ヨルダンおよびカタールは、有害な税制を改正するとの確約を実行した。
  • モントセラト島およびタイは、支払われた租税のCbCRに関する全ての未実行の確約を実行した。

結果として、改定後の現行の付属書II(EUグレーリスト)に掲載されている14の国・地域は、アルバニア、アルメニア、アルバ、ボツワナ、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、キュラソー、ドミニカ、エスワティニ、香港、イスラエル、マレーシア、トルコ、ベトナムです。

今後のステップ

EU理事会は、国・地域による確約の実行期限の変更や、EUリストの決定にあたりEUが使用するリスト掲載基準の変更を勘案しつつ、今後も定期的なEUリストの検討および更新を継続する予定です。2019年までのEUリストは、第三国において実施された改革を反映させるため、スケジュールを固定せずに常時更新されていました。しかし2020年からは、(i)リスト掲載プロセスのさらなる安定性、(ii)業務の確実性、(iii)リストに掲載された国・地域からの防衛策を加盟国が効果的に適用できる可能性をそれぞれ確保するため、EUリストの更新を年2回までとすることで加盟国が合意しています。したがって、EUリストの次回の改定は2024年2月の実施が見込まれます。

影響

EUはEUリスト掲載プロセスを通じて、第三国に対し、透明性の向上や税制における有害な要素の排除を求める圧力をかけ続けています。非協力的であるとしてリストに掲載されている国・地域で活動する企業は、付属書I(EUブラックリスト)に掲載された国・地域が受ける、主として以下のような影響を把握しておくことが推奨されます。

  • 理事会指令(EU)2018/822(MDR指令またはDAC6)による改定後の指令2011/16/EUに盛り込まれた義務的開示制度(mandatory disclosure rules:MDR)により生じる報告義務。同制度は、支払いの受取人が税務面で非協力的な国・地域のEUリストに掲載された国・地域の税務上の居住者である場合において、損金算入可能なクロスボーダーの支払いを伴うクロスボーダーの取決めを開示することをその一部において要求している。
  • EU加盟国は税源浸食防止のため、課税上の措置および課税以外の分野の措置を含む、1つまたは複数の税源浸食防止策を適用することとされている。これにはとりわけ、コストの損金不算入措置、CFC税制の強化措置、源泉徴収税における措置などが含まれている。

また、これらのEUリストはCbCRの開示義務にも影響を及ぼすことになります。すなわち、CbCR開示制度では国別に税情報を開示する必要があるため、全てのEU加盟国4ならびにEUリストの付属書I(報告書の作成が必要となる対象会計年度の3月1日現在のEUブラックリスト)および付属書II(2年度連続で報告書の作成が必要となる対象会計年度の3月1日現在のEUグレーリスト)に掲載された国・地域について、国別に情報を開示する必要があります5。加えて企業は、EUリストの付属書Iおよび付属書II(EUリスト)に掲載された国・地域に関しては、CbCR開示制度の保護条項に基づいて営業上の機密情報を理由として、開示の延期(最長5年間)を適用することができなくなります。

EUリストに関する作業はダイナミックなプロセスであることから、企業は非協力的な国・地域を対象とした他のEU加盟国による税源浸食防止策の導入を含め、さまざまな動向を注意深く監視していく必要があります。

付録:2023年10月17日現在のEUリスト

付属書I
付属書II

米国領サモア

アルバニア

アンギラ

アルメニア

アンティグア・バーブーダ(新)

アルバ

バハマ諸島

ボツワナ

ベリーズ(新)

英領ヴァージン諸島

フィジー

コスタリカ

グアム

キュラソー

パラオ

エスワティニ

パナマ

香港

ロシア

イスラエル

サモア

マレーシア

セーシェル(新)

トルコ

トリニダード・トバゴ

ベトナム

タークス・カイコス諸島

米領ヴァージン諸島

バヌアツ

巻末注

  1. 2017年12月6日付EY Global Tax Alert「Council of the European Union publishes list of uncooperative jurisdictions for tax purposes」をご参照ください。
  2. 2018年3月22日付EY Global Tax Alert「European Commission adopts first counter-measures on listed non-cooperative tax jurisdictions」をご参照ください。
  3. 2019年12月12日付EY Global Tax alert「EU Code of Conduct Group issues update report, including new guidance」をご参照ください。
  4. これは今後さらに、EU加盟国27カ国に加えてアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーで構成される欧州経済領域(EEA)に拡大されると見込まれます。
  5. 2021年9月28日付EY Global Tax Alert「EU Member States adopt public CbCR Directive」、2021年10月6日付EY Japan税務ニュース「EU加盟国が国別報告書の開示指令を採択」をご参照ください。

お問い合わせ先

角田 伸広 パートナー

須藤 一郎 パートナー

関谷 浩一 パートナー

味田 貴志 パートナー

大堀 秀樹 ディレクター

Joris van Huijstee シニアマネージャー

工藤 保浩 シニアマネージャー


※所属・役職は記事公開当時のものです

EU経済・財務相理事会(ECOFIN)、EUブラックおよびグレーリストを改定