モビリティ(海外赴任)コラム:中国ホットトピックス:免税手当 ー管理のポイントとオポチュニティー

2023年8月29日、中国財政部と国家税務総局は、「外国籍個人の補助・手当の個人所得税政策延長の公告」(財政部・税務総局公告2023年第29号)を交付し、2023年12月31日に期限が到来する以下の時限措置を、2027年12月31日まで延長することを発表しました。

  • 外国籍個人に対する免税手当
  • 年一回性賞与に対する優遇税制
  • 上場企業の株式報酬に対する優遇税制

税制改正により2019年1月から廃止が決定した外国籍個人に対する免税手当は、2023年12月末が2度目の時限措置の終了日となっており、日系企業の間で時限措置の再延長の有無に高い関心が集まっていました。中国当局は通常、このような決定をぎりぎりまで発表しない傾向があり、前回の時限措置の延長は、初回の時限措置の終了日の2021年12月31日に発表されています。この点を考えると、4年間という延長期間、かつ期日の4カ月以上前の発表は、当局としてかなり外資系企業に配慮した対応と言えるのではないでしょうか。通年の赴任者で、家族帯同で子の教育費ありのパターンだと、グロスアップ税額のインパクトは年間数百万円にのぼるという試算結果もあるため、日系企業の皆さまは、安堵されているものと思います。

時限措置が延長され、これまでどおり優遇税制が少なくとも2027年末までは継続適用できることになり、一見短期的に問題が解決したように思われるかもしれませんが、留意すべき点もあります。中国税務当局による金税四期(税務管理システム)の導入で、中国赴任者の管理のポイントはこれまでの事前申請(事前承認)から、(税務当局による事後調査に備えた)事後管理へと移ってきています。特に、外国籍個人の免税手当の適用については、当局の事後調査により、証憑とされていた発票が偽発票だったことが判明したケースや、住宅手当に光熱費や管理費など、本来免税扱いとはできない費用が含まれていたことが指摘されたケースなど多数の事例が報告されており、当局の管理監督がより一層厳しくなってきています。これにともない、会社の事後管理がより重要になっています。

外国籍個人に適用可能な免税手当に含まれているものの、日系企業ではあまり使われていない項目に、食事手当とクリーニング手当があります。中国への赴任者に食事代やクリーニング代を補助している日系企業は少ないかもしれませんが、一律どの国の赴任者に対しても同じ名目で支払っている手当(たとえば海外勤務手当など)について、中国赴任者への手当の一部を「食事手当」(または「クリーニング手当」)に変更することが可能な場合、発票回収プロセスや規程の整備などひと手間かけて社内プロセスと文書を整備することで、食費(またはクリーニング代)相当分について非課税扱いにすることは可能と考えます。ただし、優遇税制に基づく免税の適用は、当該項目の支給(支払い)が合理的金額であり、発票に基づく実費精算であることが大前提となっています。所轄の税務当局から、単なる支給項目の名目変更により優遇税制を利用して意図的に課税所得を減少させているという指摘を受けないよう、上述の社内プロセスおよび文書(規程など)の整備を事前にきっちりと行っておくことが重要となります。

赴任者管理ではコンプライアンスリスクの管理と同様に、税コストの最適化がますます重要になってきています。受け身ではない、積極的な税務プランニングの姿勢がこれからの国際人事には求められています。

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川井 久美子 パートナー

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羽山 明子 ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです