モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任者と出張者のためのグロスアップ計算と外国税額控除の活用

近年、海外赴任や出張が増加しており、企業にとっては関連する税金の処理が重要な課題となっています。特に海外への出張者や帰任者に対しては、現地で支払われる税金を日本で適切に処理することが求められます。今回は、出張者と帰任者にかかる現地税金のグロスアップ計算と外国税額控除の活用について、詳しく解説していきたいと思います。

まず、多くの企業では、海外赴任者や出張者に対して、その赴任や出張により発生した追加の日本及び現地の所得税額等は会社が補填するというポリシーを採用しています。そこで、日本人帰任者及び出張者について、海外で支払われる税金を会社が補填した場合の取り扱いを見ていきたいと思います。

<課税の範囲と課税処理方法>
海外に一年未満の予定で行く出張者は引き続き日本の居住者になるため、会社が補填する現地税金は日本で課税となります。
海外からの帰任者については、赴任期間中は日本では非居住者となりますが帰国後は日本の居住者になるため、帰国後に会社が補填する現地税金は日本で課税となります。
会社が補填する税金を日本から直接支払う場合には、給与課税処理が必要となり、源泉徴収により納税を行うことになります。また、発生する税金を会社負担とする場合には、グロスアップ処理により税引後の手取りが保証される計算を行う必要があります。さらに、翌年以降に発生する住民税や社会保険も対象となるため、併せてグロスアップ処理が必要となります。
グロスアップ計算は原則的にはその補填が行われた月において、補填税額を本人に対する経済的利益として、行う必要があります。その後、年末調整時において、年収ベースでグロスアップ計算を行い、月次処理との税率差を調整したグロスアップ税額を計算します。この際、翌年に賦課される住民税額の補填も併せて実施するのが一般的です。
年末調整時のグロスアップ計算の仕組みについては、下記の図をご参照ください。

<外国税額控除によるコストメリット>
出張者の場合には、日本と現地の2カ国間で二重課税が発生することとなります。そのため、日本の確定申告の際に適切に外国税額控除を適用することで、現地税額の全部又は一部を日本で還付を受けることが出来るため、会社の税負担コストを削減することに繋がります。
税金のグロスアップコストは避けられないと考えられる企業が多いことから見落とされがちですが、下記の図にあるように出張者が多い企業にとってはコストメリットが大いにあります。たとえば、下記のような対象者が年間20名いた場合には、120万円x20名=2,400万円が年間の税負担コストの削減につながります。

<対象者への説明や実務的なプロセス構築の重要性>
出張者や赴任者に対しては、グロスアップ計算による税金の調整だけでなく、本人への説明と補填内容の明示が重要です。具体的な明細を提供することで、適切な補填がされていることや赴任者を大切に思っているというメッセージを明確に伝えることができます。
また、会社の税負担ポリシーや状況に応じて、計算のタイムラインやグロスアップ計算の方法を選び、継続的なプロセスを構築することも大切です。

海外赴任や出張は、グローバルなビジネス展開において重要な戦略の一つであり、それにかかわるコンプライアンス処理は当該戦略に合致し、また正確で透明性の高い処理が求められます。海外赴任や出張に関わる税金の処理は、個々のケースによって異なる場合があります。税制や法律も変動する可能性があるため、会社と従業員の双方にとって公平かつ透明な処理を継続的に実施するために、定期的なチェックと専門家の助言を受けることが重要です。

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川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

能上 るみ マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです