英国、2023年秋の予算編成方針にて成長のための税制措置を発表

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  • 英国財務相は、2023年秋の予算編成方針(Autumn Statement)の発表に際し、成長を実現するための110の個別の措置を盛り込んだ成長のための予算編成方針であると説明した。
  • その中には、英国企業を後押しする措置(法人税の減税を含む)や、労働に報いる(reward work)ための措置が含まれている。
  • 秋の予算編成方針で発表された多くの措置を実施する2023年秋の財政法案がまもなく発表される予定である。


エグゼクティブサマリー

2023年11月22日、英国財務相は秋の予算編成方針1を発表しました。英国の秋の予算編成方針で発表された税制措置の注目点は以下の通りです。

全額費用化の恒久化:2023年第2次財政法では、2023年4月1日から2026年3月31日までに発生した支出に対する2つの暫定的な初年度アローワンス(First Year Allowance:FYA)が導入されました:

  • 標準償却率の対象となる設備または機械の設置に係る適格支出に対する100%のFYA(全額費用化)
  • 特別償却率の対象となる設備または機械の設置に係る適格支出に対する50%のFYA

財務相は、これらのアローワンスを恒久化すると述べました。

リース用の設備および機械に対する支出は、引き続き全額費用化の対象から除外されます。リース用の設備および機械を含めるよう適用範囲を拡大する可能性を政府が検討する際の参考とするため、法案に関する技術的コンサルテーションが近日中に公表される予定です。政府はまた、英国のキャピタル・アローワンスをさらに簡素化するため、より広範な変更に関する技術的コンサルテーションを開始する予定です。

研究開発費税額控除:政府は、単一の簡素化された研究開発費税額控除制度の導入を進めます。統合された制度で適用される控除率は、現行の研究開発費控除(RDEC)の控除率20%となります。統合された制度で赤字企業に適用される名目税率は、RDECで現在設定されている25%の標準税率ではなく、19%の少額利益税率となります。新制度は、2024年4月1日以降に開始する会計期間から適用されます。さらに、研究開発集約型の赤字中小企業に対する追加支援の閾値(2023年4月1日から40%に設定)は、2024年4月1日から30%に引き下げられ、1年間の「猶予期間」が導入されます。

税源浸食と利益移転(BEPS)第2の柱:2023年7月18日と9月27日に、一部の改正に関する法案がコンサルテーション用に公表されました。政府は、寄せられた回答を反映し、若干の変更が加えられたと述べています。さらに、無形資産に係るオフショア受領(ORIP)規定を2024年に廃止する法案を提出するとしています。この廃止は、第2の柱の軽課税支払ルール(UTPR)の導入と同時に、2024年12月31日以降に発生する所得に適用され、ORIPが対抗しようとしていた多国籍企業によるタックスプランニングの取り決めをより包括的に抑制することができると政府は考えています。

クリエイティブ産業:Call for evidence(根拠に基づく情報提供の照会)では、映画やテレビの税額控除という形でインセンティブを増やす方法を検討し、視覚効果産業における課題と機会についての意見を求めます。回答期限は2024年1月3日です。2023年秋の財政法案では、軽減措置の申請ルールにいくつかの変更が加えられる予定です。

発電事業者課税(Electricity Generator Levy:EGL):2023年11月22日以降に実質的な決定が行われた、発電所の新設または既存発電所の拡張を行う新規の再生可能エネルギー発電プロジェクトについては、EGLが免除されます。新規の発電プロジェクトには、独立した発電所の新設、容量の増加、既存の発電所の発電プラントの全面的な交換が含まれます。

インベストメントゾーン:財務相は、インベストメントゾーンの税制優遇措置を5年から10年に延長し、2031年までとすることを確認しました(最初の発表は2023年11月20日)。また、5つの新しいインベストメントゾーンの詳細も発表しました。

国民保険料の引き下げ:被用者の国民保険料(NIC)率は、被保険者適用賦課基準額(Primary Threshold)(現在週242ポンド)から報酬上限額(Upper Earnings Limit)(現在週967ポンド)までの所得に対して12%です。2024年1月6日から、この料率は10%に引き下げられます。自営業者の第4種NICの料率は、2024年4月6日より9%から8%(下限利益(Lower Profits Limit)と上限利益(Upper Profits Limit)の間)に引き下げられ、第2種NICは廃止されます。

エンタープライズ・インベストメント・スキーム(Enterprise Investment Scheme:EIS)およびベンチャー・キャピタル・トラスト(Venture Capital Trusts:VCT):政府は2023年秋の財政法案において、EISとVCTの現行のサンセット条項を2025年4月6日から2035年4月6日まで延長する法案を提出する予定です。

他に公表された文書

財務相が発表した秋の予算編成方針に加え、政府は2023年7月に開始された石油・ガス財政レビューへの回答を公表しました。その回答の結論の中には、エネルギー(石油・ガス)利得税(Energy Profits Levy:EPL)が2028年3月に終了すること、あるいはエネルギー安全保障投資メカニズム(Energy Security Investment Mechanism:ESIM)が発動された場合はそれ以前に終了することが確認されています。

また、建設産業スキーム(Construction Industry Scheme)の改革に関するコンサルテーション(総支払ステータスのテストを強化する提案を含む)や、雇用契約が税務上誤って自営業として扱われていた場合にみなし雇用主のPAYE負担を軽減することを可能にする直接雇用外の労働(off-payroll working)に関するコンサルテーションへの回答も公表されています。これとは別に、政府は、リチャード・ハリントン卿が外国直接投資(FDI)に関する報告書の中で行った、英国への潜在的な投資家のためのコンシェルジュサービスを含む主要な提言をすべて受け入れる予定です。

2023年秋の財政法案で約束された法改正の中には、不動産投資信託(REIT)のルールのさらなる変更も含まれており、これには、租税条約に基づく課税が英国REITの保有割合によって変更されない投資家には、「権利過大保有者」ルール(REITの10%以上の保有を細分化する必要がある場合がある)が適用されないという重要な変更も含まれています。

また、2024年1月1日からは、成長市場における印紙税・印紙保留税の免除が、より小規模で革新的な市場にも拡大され、外国市場への証券の発行(および関連する特定の譲渡)に対する印紙税・印紙保留税の現行の0%課税は維持され、英国法に恒久的に導入されることが確認されました。この後者の規定は2024年1月1日から適用され、公表された歳入決議に基づき、直ちに法的効力を持ちます。最後に、政府は2023年秋の財政法案において、付加価値税・物品税法が2023年維持されたEU法(撤回・改革)(Retained European Union Law(Revocation and Reform)Act 2023)による変更に照らしてどのように解釈されるべきかを明確にする法案を提出するとしています。

秋の予算編成方針と同時に発表されたものはありませんでしたが、政府は、英国の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入を含む、カーボンリーケージのリスクを低減するための可能な措置に関するコンサルテーションに言及し、近日中にその回答を公表するとしています。

英国におけるキャプティブ保険会社の設立と成長を促進するための新たな枠組みの設計に関するコンサルテーションは、2024年春に実施されることが約束されました。

助成金とその他のインセンティブ

秋の予算編成方針ではさらに、英国の優先セクターの今後の方向性を明示し、予想される資金の流れを確認するとともに、将来的にどのような資金が提供される可能性があるかを示しました。

  • 2025年から5年間、自動車、航空宇宙、ライフサイエンス、クリーンエネルギーといった戦略的製造セクターに45億ポンドが提供されます。申請プロセスの詳細については、追って発表があると思われます。
    • ゼロエミッション車、そのバッテリー、サプライチェーンの製造・開発を支援するため、自動車セクターに20億ポンド超
    • エネルギー効率の高いゼロカーボン航空機技術の開発を支援するため、航空宇宙セクターに9億7,500万ポンド
    • 将来の健康上の緊急事態に対するレジリエンスを構築し、英国の研究開発の強みを活用するため、ライフサイエンスに5億2,000万ポンド
    • 英国全体の強力なクリーンエネルギー製造能力を支援するため、グリーン産業に9億6,000万ポンド
  • 2024年1月には、産業エネルギー転換ファンド(Industrial Energy Transformation Fund:IETF)のフェーズIII(1億8,500万ポンド)が開始され、産業施設がよりエネルギー効率の高い低炭素技術に投資できるよう支援します。2つのコンペティションに分かれ、対象が拡大され、新たな産業(管理環境園芸、業務用クリーニングおよびテキスタイルレンタル施設)が含まれるようになり、バイオマス/バイオガスの対象が更新されました。政府はまた、2025年から始まる6年間の新しい気候変動協定スキームの下でエネルギー効率目標を達成する代わりに、年間約3億ポンドの減税を提供し、居住用建物や関連する慈善目的のみに使用される建物への省エネ材料に対する付加価値税の軽減を拡大しています。
  • また、9億6,000万ポンドのグリーン産業成長アクセラレーター(Green Industries Growth Accelerator:GIGA)も発表され、英国が最も明確な強みを発揮できるクリーンエネルギーセクター(二酸化炭素回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CCUS)、水素、洋上風力、電力ネットワーク、原子力)の製造能力への投資を支援します。
  • 電力系統への接続に依存する投資の障壁に対処するための一連の対策として、100GWの容量を解放してプロジェクトがより早く接続できるようにすること、大多数のプロジェクトが待つことなく希望する接続日に接続できるようにすること、実行可能なプロジェクトについては、全体的な接続の遅延を5年から6カ月以内に短縮することなどがあります。
  • 英国内の映画やハイエンドTVの制作を支援するため、政府は来年、英国フィルム・コミッションと英国映画協会の認定部門に210万ポンドの新たな資金を提供します。さらに政府は、クリエイティブ産業の研究開発費への公共投資を、歳出レビュー(Spending Review)の時期に合わせて見直す予定です。

巻末注

  1. 秋の予算編成方針の全文はこちらからご覧いただけます。英国財務省のランディングページでは、補足文書や関連文書が集められており、英国歳入関税庁(HMRC)は税法と税率の概要を公開しています。

お問い合わせ先

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo

email Richard Johnston アソシエートパートナー

email Rebecca McKavanagh シニアマネージャー
 

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London

email Jo Stobbs パートナー

email 小林 仁紀 シニアマネージャー

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