EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
前回は仕入税額控除が問題になった最高裁判例の、用途区分に関する部分について取り上げました。今回は、同判例を題材に、「当局による見解の変更」について考えてみます。
前回記載のとおり、A社事案とM社事案は同種の争いだったのですが、下級審の判断が分かれていました。そのうち、先行のM社事案の控訴審で、過少申告部分については、納税者に「正当な事由」があるとされ、一部処分が取り消されていました。これは、平成9年頃に、賃貸中のマンションの購入費用に関する事例について「課のみ」でよいとの回答を当局がしており、その後、「共通対応」にすべきと見解を変更したことにつき、当該変更を明らかにするような措置を当局が講じなかったというのが理由です。
ところが、A社事案の控訴審では「正当な理由」は認められませんでした。その後の最高裁判決でも、M社事案・A社事案とも「正当な理由」は認められていません。当局が、遅くとも平成17年以降は、本件同様の課税仕入れを、共通対応にすべきとの見解を採っていたことが明らかだったことが主たる理由です。また、上記平成9年の回答は当局の一般的な取扱いを示したものではなく、回答が公表されたわけでもないと評価されています。要するに共通対応にすべきという現在の当局のスタンスが明確である一方で、従前の「課のみでよい」との見解が一般的に浸透していたとは言えないことから、見解の変更を周知する必要性は認められないという判断がされたものです。
納税者の中には、特定の税務処理について、当局が従前と異なる見解に立って納税者に指導等することについて、強い不満感を持つ方もおられます。当局に自らの発信について責任を持ってほしいという気持ちはもちろん理解できますが、申告納税制度においては、申告する義務は納税者にあることも事実です。本判決にも、税務処理については納税者自身が責任を持つべきだとの価値判断がうかがえるところです。
上記を踏まえた上で、なお、当局が見解変更の周知を怠ったと主張するには、現在の取扱いの明確さと従来の取扱いの明確さを比較考量することが必要です。例えば、現在の当局の見解が類似事例の裁判における当局の主張や、当局所属の者による講演等でかなりの程度明確であれば、それと異なる過去の取扱いがかなり明確でない限り、見解変更周知の必要性が認められる可能性は低いということになります。逆に、従来の見解が実務に浸透しており、当局としてその処理を認めるようなスタンスをとっていたにもかかわらず、現在の取扱いを変更しようとする場合には、見解変更周知の必要性が認められる可能性は相対的に高くなります。
そして、「明確」性については、何をもって「明確」であったのかを慎重に吟味する必要があります。通達や事務運営指針などでその取扱いが定められていれば、かなり「明確」であったと評価できるでしょう。しかし、多くの場合は、各種の文献や講演録などを総合的に評価して「明確」であったかどうかを判断することが通常で、事実認定のノウハウが必要になってきます。さらに、見解変更周知の必要性がありそうだという話になっても、当局が変更後に採用した見解が、そもそも現行の法律に照らして正しいかどうかはまた別問題になります。
このように、当局の見解変更を争いたいという場合には、事前に関連裁判例も含めた精緻なリサーチが必要になります。準備の必要はありますが、以前の指導が誤っていたとして見解の変更を当局から認めてもらい、附帯税を免れた弊社取扱い事例もありますので、適宜専門家の知見を活用いただければと思います。
EY Tax controversy team
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