オーストラリア、国別報告(CbCR)の開示に関する修正法案を公表

概要

  • 2024年3月5日までを期限として意見を募集するために修正法案を公表。
  • 適用開始が12カ月先送りされ2024年7月1日以降に開始する財務報告期間から適用。
  • オーストラリア売上高1,000万豪ドル以下の新たな適用判定基準。
  • 開示が求められる情報は前回の法案よりも軽減。
  • 指定国以外の国であれば情報の合算が可能(指定国には香港、スイス、シンガポールが含まれている)。
  • 罰則の項の修正。

オーストラリア財務省は、国別報告の開示(PCbCR:Public Country-by-Country Reporting)法案に関する修正公開草案を公表しました(2024年2月12日、財務省ウェブサイトにて:こちら)。 こうした税の透明性強化策は、2023年4月に公表された2022-23年度連邦予算案(前回の公開草案)、そして2023年6月に提出されたオーストラリア政府の2023年財務法改正法案(多国籍企業に相応の負担の支払いを求める - 誠実性と透明性)(Treasury Laws Amendment(Making Multinationals Pay Their Fair Share—Integrity and Transparency)Bill 2023)の注釈において提示された変更案を経て、今回は欧州連合のCbCRの開示制度により近い内容に改訂された公開草案が公表されました。

オーストラリアのPCbCRは、大規模多国籍企業に対して、オーストラリア国税局(ATO)による開示用に一定の情報を国別に準備することを求めるというものです。この施策はオーストラリアの多国籍企業と外資系の多国籍企業の両方に2024-25会計年度から適用されます。

今回の修正案は、前回の公開草案について提出された意見を受けてまとめられたものであり、EYや他の関係者が提出した意見に一部応える改訂が盛り込まれており、オーストラリアの規定は欧州連合の国別報告(CbCR)の開示制度と近い内容となっています。

それでも、オーストラリアのCbCRの開示制度は世界的に見て最も広範なCbCRの開示制度になり、これを順守するに当たり対象となる企業グループには事務的な負担となる見通しです。新たな草案においても、これらの規定は自国・地域におけるCbCR適用基準を下回っている企業でもオーストラリアの適用基準を上回っていればやはり適用されることになります。

修正公開草案における前回の草案からの主な変更は次の通りです:

  • (以前発表された通り)2024年7月1日以降に開始する財務報告期間から適用される。
  • 適用基準の追加 - 当該課税年度の売上高合計のうち1,000万豪ドル以上がオーストラリアを源泉とする場合に限り報告が義務付けられる。
  • 開示が求められる情報が以前の草案よりも少なくなっている。
  • 指定国に指定されていない国については、それらの国の情報を合算できる(指定国には香港やスイス、シンガポールが含まれている)。
  • 罰則の規定が修正され、必要な情報を期限までに提出しない場合においては多額の罰金が科せられることが明らかになった。

これら変更案の範囲は非常に広く、多くの企業グループに関係すると考えられます。したがって慎重に検証を行い、自グループにどのように関係するかを検討する必要があります。対象となる企業グループは、これら新たな報告義務を怠ると多額の罰金が科されかねないため、これらを順守するための仕組みを整える必要があります。

重要なポイント

これらの規則が適用される場合においては、CbCRの開示義務を課される親会社(CbCR親会社)は所定の税務情報をオーストラリア政府のウェブサイトにて公表することが求められるようになります。CbCR親会社は該当する会計年度末から12カ月以内に、承認された書式にて情報を国税局長官に提出し、それを受けて国税局長官がその開示を進めます。また、開示した情報に重大な誤りがあるときは、それを認識してから28日以内に国税局長官に通知し、正しい情報を提出しなければなりません。また、重大ではない誤りがあれば、それも修正することも認められています。

報告義務

今回の修正公開草案には、無形資産の一覧等、営業上慎重な扱いを要する情報を含む提出すべき情報の軽減など、評価すべき変更がいくつか盛り込まれています。

修正された新たな報告義務の案は次の通りです:

  • CbCR親会社は自らの企業グループの税へのアプローチを含む基本情報を公表する必要がある。
  • オーストラリアと、当該企業グループが業を営んでいる指定国・地域について、CbCR親会社はグループレベルにて(下表にまとめられている)一定の情報を公表しなければならない。
  • 指定国・地域:アンドラ、アンギラ、アンティグア・バブーダ、アルバ、バルバドス、バハマ、バーレーン、ベリーズ、バミューダ、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、クック諸島、キュラソー、ドミニカ、ジブラルタル、グレナダ、ガーンジー、香港、マン島、ジャージー、リベリア、リヒテンシュタイン、モーリシャス、モナコ、モンステラット、ナウル、ニウー、パナマ、マーシャル諸島、セイント・キッツアンドネイビス、セイント・ルシア、セイント・マーテン、セイント・ビンセント・グレナダス、サモア、サンマリノ、セーシェル、シンガポール、スイス、タークスアンドカイコス、米領ヴァージン諸島、バヌアツ
  • 指定外の他の国・地域については、グループは全ての国・地域について同じ情報を公表するか、指定外の国・地域全てについて集計ベースで若干少ない情報を公表するかを選択できる。

法令草案は41の指定国・地域の一覧を提案していますが、注釈案によると、税制優遇や税情報の透明性など、利益の移転を促す可能性が高い問題があると指摘されることが多い国・地域が基本的に指定されています。なお、同一覧にはさまざまな「タックス・ヘイブン」が含まれているほか、香港やシンガポール、スイスも含まれています。一方、キプロス、アイルランド、ルクセンブルク、オランダはEU加盟国でありEUのPCbCRの適用を受けると考えられるため、一覧に含まれていません。

指定国・地域はEUのブラックリスト・グレーリスト(EUリスト)と一部重なりますが、例えば、香港、シンガポールとスイスはオーストラリアのPCbCRリストにしか載っていない一方、ロシア連邦などEUリストにしか載っていない国もあります。

今回の修正公開草案は、網羅している項目および一覧に明記されていない国を集計できる点について、EUの規則に合致する度合いが増しています。

もっとも、評価すべき変更を加味しても、オーストラリアのPCbCR法は世界的に見てなお最も広範な内容になっています。

同法はCbCR親会社が提出すべき文書として「税へのアプローチ」を残しており、自主的な非財務情報の開示に関するインデックスであるGRI 207.1に記載されている指針に言及しています。

税へのアプローチはグループレベルで説明するとされています。つまり、関係する国・地域の全部を網羅しなければならず、企業グループ内の全事業体による税へのアプローチの総合的評価と記述が求められます。税務ガバナンスの義務がすでに確立されている国については、単純な作業になるかもしれませんが、規制当局が具体化された税務ガバナンスを義務化していない国の事業体については、税へのアプローチの具体化が必要になるかもしれません。

また、発生税額と、税引前利益にその国の税率を乗じて得られる額との間の差異の説明も求められます。税源侵食と利益移転(BEPS)2.0の準備をしたことのある企業グループであれば、この説明は複雑なプロセスであることにお気付きになるでしょう。

他にも、当該国・地域以外の関連当事者への売上高を開示する義務も盛り込まれています。この規定はGRI 207.4と合致し、この基準に従って報告している企業においては同情報がすでにある一方、多くの企業グループではこの基準を採用しておらず、この情報を収集し提出する既存の手続きが整備されていない可能性があります。

開示する必要のある全項目を網羅したリストを以下に示します。

報告が必要な情報

CbCR親会社

オーストラリア + 指定国・地域
– 国・地域ごと

その他の国・地域
– 合算データ

事業体の名称

国・地域の名称

グループに属する
他の事業体の名称

主たる事業

主たる事業

税へのアプローチ

従業員数

従業員数

第三者への売上高

第三者への売上高

当該国・地域以外の関連当事者からの売上高

当該国・地域以外の関連当事者からの売上高

税引前利益(損失)

税引前利益(損失)

有形資産の帳簿価額(現金以外)

有形資産の帳簿価額(現金以外)

法人所得税納税額(実際の納付額)

法人所得税納税額(実際の納付額)

税額(当期発生ベース)

税額(当期発生ベース)

発生税額と、税引前利益にその国の税率を乗じて得られる額との差異理由

算出および表示に使用された通貨

情報の算出および表示に使用された通貨

これ以外にも規制により必要な情報等が追加される可能性があります。

注釈案には企業グループのEUの国別報告へのリンクの公表も記載されているようですが、最新の公開草案には明記されていません。

対象の納税者

この新しい法律は基本的に、オーストラリアに拠点があり、かつグローバル連結売上高が10億豪ドルを超える多国籍企業グループ全てに、当該事業体または当該企業グループの構成体がオーストラリアの居住者であるか、オーストラリアの恒久的施設(PE)を運営する外国居住者である場合に適用されます。提出義務は最終親会社に適用され、その事業体がオーストラリア国籍か外国籍かを問いません。

今回の修正公開草案には、オーストラリア源泉の所得が1,000万豪ドルを超えるグループに限り報告義務が適用されるという新たな適用基準が追加されています。

同法はまた、国税局長官は一定の類型の事業体および特定の事業体について免除することができるとしています。一定の種類の政府系事業体が免除されることが示唆されていますが、他の免除は限定的になると予想されます。

修正案においても自国・地域にてCbCRの適用基準を満たさない企業について特例を認めていないという点は懸念として残っています。オーストラリアのCbCR適用基準は10億豪ドルであり、他の多くの国・地域における適用基準よりも低い水準です。

したがって企業グループによっては、従来CbCRの義務がないため、CbCR情報をゼロから準備しなければならなくなる場合も考えられます。現在の為替レートに基づくと、オーストラリアの適用基準はおおよそ次の額と同等になります:

  • 6億ユーロ
  • 6億5,000万米ドル
  • 46億9,000万中国人民元
  • 970億円

罰則

新しい開示義務の順守を怠ると、罰則が科される場合があります。

期限までの提出を怠ったときの罰則

修正公開草案には、CbCR情報の提出遅延に適用される新しい罰則規定が別途盛り込まれています。罰則は1日以上28日以下の遅延が500点の違反点数(penalty unit)(提案されている新たなレートである1違反点数当たり330豪ドルで計算すると16万5,000豪ドル1)で、それ以上の遅延は28日ごとにさらに500点が加算され、上限は2,500点の違反点数(新レート案で82万5,000豪ドル)に設定されています。また、重大な誤りがあった場合において国税局長官に28日以内に通知し修正しなかったときも、これらの罰則が科されます。

税法の下の義務の不履行

今回の修正公開草案においても租税行政法(Taxation Administration Act)に、所定の方法によりCbCRを開示する義務の不履行を刑法上の罪にする新セクションの8C(1)(ab)を組み込むとしています。

有罪になるには国税局長官が裁判所に起訴する必要がありますが、初犯の場合は20点以下の違反点数に相当する罰金(新レート案で6,600豪ドル)、3回目の有罪の場合は50点の違反点数(新レート案で1万6,500豪ドル)が科されます。

利害関係者への対応

報告事業体は一般消費者、報道機関、各種非政府組織(NGO)などさまざまなステークホルダーがPCbCRを比較し、矛盾を特定しようとすることを想定しておくべきです。また、税務当局がPCbCRを税務当局に報告されたCbCRの開示と比較することも想定されます。したがって企業グループにおいては、PCbCRと税務当局へのCbCR報告義務の平仄をあわせて統合的に整備することが求められます。例えば、必要な情報の収集や(国・地域によって異なることが予想される)所定の提出書類の作成、開示内容における矛盾の有無を確認するための照合、所定の方法によるこれらの書類の提出に統合的に取り組む必要があります。

PCbCRはATOによって管理されますが、一定の一覧表にして開示すると予想されているため、特定の国・地域における税負担が低いと見られる場合の詳しい理由は、ATOの開示する内容からは明らかにならない可能性があります(例えば、繰延欠損金や、外国子会社(CFC)合算税制による自国での税負担の増加、他の国・地域における第2の柱に伴う税負担の増加など)。そのため、グループにおいてはステークホルダーへのより優れた情報提供のために、オーストラリアのPCbCRとは同時並行でより充実した独自の開示を検討する必要があるでしょう。

また多くの業界においてサステナビリティを重視する姿勢が世界的に強まっており、税務当局を含めステークホルダーはより広範に及ぶ税情報のディスクロージャーを要求しています。複数の報告もしくは開示の枠組みとそれらの整合性を確保し、背景を説明する責任に鑑みると、多くの企業グループはPCbCRへの対応を、より広範にサステナビリティや税務戦略に組み込むべきと考えられます。

今後の予定

  • オーストラリア財務省は今回の修正公開草案について2024年3月5日を期限として意見を募集している。
  • オーストラリア外での影響や必要な作業の著しい増加など広範に及ぶ影響に鑑みると、各企業グループは新ルールに対する準備を始めるべきである。
  • 日本企業の多くは、オーストラリアに子会社があり、オーストラリアのPCbCRの対象となると考えられることから、欧州事業体のPCbCRと同様に、開示義務への対応にとどまらず、ステークホルダーを意識した税情報のディスクロージャー戦略を策定するべきである。

1  違反点数の換算レートを313豪ドルから330豪ドルに引き上げる提案が2023-24年度半期経済財政見通し(Mid-Year Economic and Fiscal Outlook)にて発表されました。
 

お問い合わせ先

EY税理士法人

角田 伸広 パートナー
味田 貴志 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター

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Patrick Giles-Jones JBS Oceania Leader ディレクター

井上 恵章 JBS Oceania Tax Leader アソシエートパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです