EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
欧州議会は、2024年4月10日、欧州グリーンディール及びEUのメタン戦略の一環として、エネルギー部門におけるメタン排出量を削減する規則を採択し、気候目標を達成し大気の質を向上させるための重要な一歩を踏み出しました。欧州委員会のウェブサイトは、メタンは強力な温室効果ガスであり、現在の気候温暖化の約3分の1を引き起こしていると解説しています。新規則は、エネルギー部門における排出量の測定と削減に関するルールを定めるとともに、EUに輸入される石油、ガス、石炭に関連するメタン排出量についても対象としています。この規則は、欧州理事会の採択後、EU官報への掲載を経て、20日後に発効することになります。
新規則は、各国で設立される所管当局によって施行され、認定検証機関が報告されたデータの検証を担当します。新規則においては、石油、ガス、石炭を取り扱うエネルギー会社といった「事業者」(又は「対象企業」)が、コンプライアンスに関する責任を負います。
メタン規則は、EUにおける以下の類型の企業に適用されます。
石油・ガス・メタン・パートナーシップ(以下、「OGMP」)2.0基準に基づく、資産レベルでの義務的な測定・報告・検証(以下、「MRV」)システムが段階的に実施されます。透明性と規制遵守を確保するために、「事業者」は発生源レベルのメタン排出量の定量化を含む定期的な報告書を提出する必要があります。
さらに、対象企業は、全体的な排出量を削減することを目的とした特定のメタン削減義務を遵守しなければなりません。
対象企業は、漏洩検知・修繕修理(以下、「LDAR」)プログラムを関連する国家当局に提出し、漏洩が検出された場合には、直ちに又は遅くとも5日以内に、漏洩の検知及び修理の調査を実施するとともに、一定レベル以上のメタン漏洩が検知された部品を修理又は交換しなければなりません。
温室効果ガスとしてのメタンの強い影響を考慮し、ベント(メタンを直接大気中に放出すること)やフレアリング(メタンを制御燃焼させて処分すること)は、緊急を要する場合、故障が生じた場合その他やむを得ない特別な場合を除き禁止されます。
EUは、石油、ガス、石炭の大部分を輸入しています。この規則は、これらの輸入に関連するメタン排出に対応しています。
2027年1月以降、石油、ガス、石炭の新規輸入契約は、EUの生産者と同じMRV基準に準拠する必要があります。新規則は、メタン排出強度測定の方法論を定義し、新規輸入契約とEUの化石燃料の両方について最大強度レベルを設定しています。その結果、外国の生産者は、罰則を回避しEUへの輸出能力を維持するために、コンプライアンスを確実にする先進的なMRV手順を実施し、排出量を定められた数値未満に維持する必要があります。
輸入者が十分な情報を得た上で意思決定ができるように、この規則に基づいて、一般に公開されるメタン透明性データベース及び国や企業のメタン・パフォーマンス・プロファイルが迅速に作成されます。
LDAR措置は規則の6カ月後に発効し、報告義務はさらにその6カ月後に開始され、時間の経過とともに実施が強化されます。所管当局による最初の調査が、規則の施行後21カ月で行われます。輸入者は、EUの企業と同様のMRV要件を満たさなければ、2027年からEU市場へのアクセスを失うおそれがあり、多額の罰金も科されます。規則の開始日から6年経過後、厳しいメタン強度の制限により、排出量の多い石油、ガス、石炭の輸入者の市場参入は事実上制限されます。
影響を受ける企業においては、EUの新しいメタン排出報告及び削減要件を遵守するために、社内の税務・法務・財務などのさまざまな部門が関与して措置を講じる必要があります。規則が発効する前に内部メタン報告手順を確立し、OGMP2.0基準を遅滞なく採用することが必須です。規則を遵守するには、社内における部門横断的なメタンのコントロール体制の確立、従業員の能力開発、メタン報告のためのデータを取得、保存、分析する内部プロセスの設定が必要になります。さらに、EUの輸入者は、輸出パートナーから収集したデータに基づいて契約を改訂する必要があります。コンプライアンス違反がある場合には、罰金やEU市場へのアクセスの喪失などの潜在的なリスクが生じます。
EY弁護士法人
松田 暖 マネージング・パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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