EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
米国は、中国の製品を対象に課していた追加関税に対して、さらなる関税の引き上げを発表しました。今回の発表では、追加関税の対処となる品目、税率、時期が公表されましたが、関税引き上げの具体的な時期、対象となる品目のHTSコード、適用時外措置などの詳細は含まれておらず、今後の続報が待たれます。
また、今回の発表では、同時に追加関税の実行性を向上させるために、米国税関国境取締局(CBP)への予算の拡充方針も含まれています。この措置は、中国製品の迂回輸入を念頭に追加関税をより厳しい姿勢で執行するという、米国政府当局の方針の表れであると見ることができます。追加関税の適用においては、仮に第三国で製造した製品であっても、その国での製造工程が米国における原産地基準を満たさなければ、当該第三国での原産品と認められず、追加関税の適用対象と認定されるリスクがあります。以前より、米国内ではメキシコ・ベトナムなどの国を名指しした上で、これらの第三国に一部の下流工程を移転することによる、実質的な中国製品の迂回輸入に対して強い懸念が持たれています。
日本企業にとっては、今後も自社の米国向けの輸出におけるサプライチェーンを改めて俯瞰した上で、中国からの輸出製品だけでなく、第三国で製造される製品であっても大半の工程・原材料を中国に依拠している場合には、これらの追加関税の影響を検証する必要性があります。
一方、米国政府は2023年1月に施行されたインフレ削減法(Inflation Reduction Act of 2022)に基づいて、米国への外国企業の投資に対して積極的なインセンティブを与えています。また、これらの連邦レベルの政策に加えて、州・地方当局が実施する数多くの外資誘致施策も実施されています。これらの制度を最大限活用することによって、過去に例を見ないほどの多額の税控除額が受けられることとなり、外国企業にとっては米国への投資に対するROIの大きな改善が期待できます。世界的な地政学的リスクが上昇し続ける中、米国市場を重視する企業にとっては、これらのインセンティブを活用したサプライチェーンの再構築は、検討に値すると言えるでしょう。
<5月27日追記>
その後、USTRより、具体的な対象品目のHSコード、適用除外品に関する官報案1が公表されました。
本官報案によると、計387品目、総額180億ドル相当(2023年比)が追加関税の対象となります(Annex A参照)。関税引き上げ時期は、2024年8月1日、2025年1月1日、2026年1月1日の3段階です。
また、今回は追加関税の適用除外制度が設けられ、その対象は(1)HTSコード84類、85類の貨物で、米国内での生産のため使用される特定の機械のうち、事業者による申請がされたもの(Annex B参照)、(2)太陽電池製造装置のうち、特定の19品目(Annex C参照)です。本除外措置は、それぞれ2025年5月31日まで有効で、申請手続きの詳細は別途公表予定です。なお、今月31日に期限切れとなる計429品目の除外措置の延長については、未だ発表されておりません。
本官報案に対しては、パブリックコメントを受け付けた上で、実際に施行される見通しです。パブリックコメントの実施期間は2024年5月28日~6月29日で、USTRのWEBサイト上2で提出可能となります。具体的な品目および適用除外措置の詳細は、USTRの官報をご参照ください。
米国通商代表部(以下、「USTR」)は、2024年5月14日、中国原産品に対して新たに追加関税を課す声明3を発表しました。この発表によると、鉄鋼、アルミニウム、半導体、電気自動車(EV)、バッテリー、重要鉱物、太陽電池、船舶対陸上(STS)コンテナクレーン、医療品などの戦略分野に該当する品目が追加関税の対象とされています。
バイデン米政権は、EV用バッテリーや太陽光発電におけるサプライチェーンなど、いくつかの分野において優位に立つ中国のシェアを抑制するために追加関税は必要な措置であるとしているほか、インフラ投資・雇用法(Bipartisan Infrastructure Law)、CHIPS法(CHIPS and Science Act of 2022)、インフレ削減法(Inflation Reduction Act)によるサプライチェーンのレジリエンス強化および国家安全保障へのさらなる取り組みを推進することも追加関税を課す目的としています。
1974年通商法第301条に基づき、USTRは今後、以下の中国品について関税を段階的に引き上げる方針です。
<2024年5月27日更新>
なお、2024年5月末に期限切れとなる適用除外措置に関する内容は、本発表には含まれませんでした。
今回の関税率引き上げの決定は、2022年5月から開始されたUSTRによる通商法301条の見直しの一環として、関税措置の有効性や米国経済に及ぼす影響を考慮した上での決定とされています。
USTRが公表した通商法301条に基づく関税の見直しに関する報告書4では、現在の関税措置が中国による強制的な技術移転の不公正な法律、政策、慣行の撤廃、米国輸入者による代替調達先からの輸入増加、そしてより強靭で持続可能なサプライチェーンの構築など、米国経済に良い結果をもたらしたと報告されており、関税措置の継続および戦略分野における中国品に対する関税の拡大の必要性について言及した内容となっています。
さらに、関税措置における今後の目標として、以下の項目を挙げています。
(1)国内製造に使用される機械を対象とした除外措置の確立。
(2)より強力な関税措置に対する取締強化を目的とした米国税関国境取締局(CBP)に対する追加資金の割り当て。
(3)技術盗用に対抗するための民間企業と政府当局間の協力、連携の強化。
(4)サプライチェーンのレジリエンス強化のための、サプライチェーン多元化への取り組みに対する評価の継続。
米中貿易に関与する企業は、当該追加関税措置における潜在的な影響を把握し、以下のような軽減策を検討することが求められます。
301条関税措置により、国外の関連会社から製品を購入している米国国内の販売会社はほぼ確実に移転価格への影響を受けることとなるため、関税の影響軽減策を検討するとともに、移転価格を調整する際に行う米国税関に対する報告方法を見直すことが求められます。米国税関は、輸入後に行われる移転価格調整に厳しく、輸入後に価格が調整される可能性のある製品を輸入する場合、輸入者に対して事前に移転価格文書に特定の文言を追記するなど、特定の措置を講じるケースがあります。
巻末注
EY税理士法人
大平 洋一 パートナー
福井 剛次郎 マネージャー
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