製販連携に基づく中長期収益最大化に向けた製品ポートフォリオ管理

製販連携に基づく中長期収益最大化に向けた製品ポートフォリオ管理

マーケットに追随する事業運営からの脱却


収益性の低さが指摘される日本の製造業において、現状をいかにして打破して中長期の収益最大化を実現するか。「製販連携」や「生涯収益管理」「多面的製品分析」などをキーワードとする製品ポートフォリオ管理の重要性が高まっています。


要点

  • 日本の製造業の収益性が低い背景には、経営目線による意思決定の欠如、成長性の低い製品への継続投資、個別のプロセス改善にとどまるDX、などの課題がある。
  • 現状を変革するには、プロセス横断(製販連携)を強化し、中長期の目線で製品生涯収益を評価し、多面的な分析により投資や改廃の意思決定をすることが重要。
  • 中長期の収益最大化には、プロセスチェーンを横断する連携と、システムおよびデータの統合・可視化、統括部門がリードする意思決定体制の構築がキーとなる。


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製販連携に基づく中長期収益最大化に向けた製品ポートフォリオ管理
──マーケットに追随する事業運営からの脱却
(配信期間:2026年6月10日まで)


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Section 1

日本の製造業が抱える課題と製品ポートフォリオ管理の要諦

「製品ポートフォリオ管理」にまつわる戦略を「製販連携」「生涯収益管理」の観点から深掘りする今回のセミナーは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EYSC)のSC&O(サプライチェーン&オペレーションズ)ユニットと、Tagetik Japan株式会社の連携により開催されました。SC&Oはバリューチェーン全体のBPRや最適化を一気通貫で支援するチーム、Tagetik社はSCMをはじめとする経営管理領域に特化したソリューションを提供する企業です。


昨今、日本の製造業の収益性が海外に比べて低いとされる中、製品開発から終売までの各段階における収益とコストのデータを基にした、生涯収益管理と製品ポートフォリオ分析を組み合わせた戦略の重要性が指摘されています。その具体的な手法について実例を基にひもとくことが、本セミナーの狙いです。そのような趣旨がEYSCの横田雄一によって紹介された後、続いて登壇したEYSCの倉嶋祐介が、まず共通認識として、背景にある業界事情と問題意識、製販連携の重要性などを共有しました。

倉嶋によれば、グローバル企業の経営者層を対象にEYが行った調査の結果、経営者が重視する「変革の成果」について、日本と海外の間に大きな差が見られたと言います。すなわち、「事業運営の最適化と生産性の向上」「持続可能性目標の達成」「売り上げ成長の向上」などといった、経営に資するような項目を挙げる割合が、日本企業は明らかに低い傾向にありました。

また、経済産業省の「2024版ものづくり白書」によると、日本の製造業の利益率が低い要因として、①足し算はできるが引き算が苦手であり、②将来的に成長が見込めない製品にも投資を続ける傾向にある、ことが指摘され、自社の成長戦略に合わなければ売上・収益のある製品でも終売させる欧米とのギャップが顕著となっています。

「つまり、引き算をしないがために膨れ上がるSKU(Stock Keeping Unit)に対し、短期的な損益からのみで評価して、中長期の目線に立った投資がなされていないことが、日本の製造業の課題だと言えそうです。また、DXの取り組みにしても、バリューチェーンのデジタル化や経営の意思決定の高度化など、全社的視点による経営DXは全体の約1割に過ぎず、各業務プロセスの個別改善に終始する傾向がうかがえます」

経営目線での改革に向けた、情報可視化・意思決定高度化に取り組むことが必要です

これらの実情を総じて考えると、「成長性に欠ける製品の継続」「経営目線による意思決定の欠如」「個別プロセスの改善に終始」といった要因が連なり、結果として収益性の低下や競争力の喪失を招くという負のスパイラルが見えてくると、倉嶋は述べます。そこには、製品ラインアップの肥大化を招く行き過ぎた顧客ファーストや、過去の成功体験に依存した経験・勘・度胸による意思決定などの企業文化も関係すると思われます。

収益性向上の実現には、製販情報を連携した中長期の製品生涯収益を評価し、投資を意思決定することが不可欠です

収益性向上を実現させる3つのポイント

では、この状況を正のスパイラルに転じるにはどうすべきか。倉嶋は、「収益性向上の実現には、製販情報を連携させ、中長期の製品生涯収益を評価し、投資の意思決定をすることが不可欠」とした上で、1)プロセス横断(製販連携)でボトルネックと課題を可視化、2)期間損益から生涯損益管理への転換、3)多面的製品ポートフォリオ分析から製品改廃を判断、の3つのポイントを挙げました。以下、順に趣旨をまとめます。

【1】製販連携の重要性

「デマンド」「サービス」「エンジニアリング」「サプライ」の4つのプロセスチェーンの連携が不十分であると、バリューチェーンに以下のような弊害が生じる。

  • 市場や顧客のニーズに過度に応えるあまり、製品・部品のバリエーションが増加
  • デマンドからの一方的な情報連携により、サプライ側で計画調整やコストが発生
  • バリエーションの増加や設計変更の頻発により、開発・調達・生産コストが上昇
  • 保守・サービスの効率性を考えない製品設計により、アフターサービス費が増加

したがって、4つのプロセスチェーンの連携=収益性向上に資する製販連携が重要である。

4つのプロセスチェーンの連携、つまり “収益性向上に資する製販連携”の実現が重要です

【2】生涯損益管理への転換

導入・成長・成熟・衰退といった製品ライフサイクルの各フェーズに分けて、プロフィットとコストの多様な項目を洗い出し、評価することが重要。一定期間の損益に限定される評価では、例えばアフターサービスの収益や費用まで加味した中長期の判断ができなくなる。製品ライフサイクルの観点から、生涯損益を可視化し、収益性を分析したい。

期間損益に基づく評価のみでは、アフターサービス収益など加味した中長期的判断が困難なため、製品ライフサイクルの観点で生涯損益を可視化し収益性を分析することが重要です

【3】多面的な製品ポートフォリオ分析

製品ごとに個別に見ているだけでは、収益性に関わるパフォーマンスの評価は難しい。顧客や地域、部品、事業などの多面的な視点から製品群を横刺しする軸を設け、横断的・立体的に製品ポートフォリオを把握・評価することで、効果的な拡大・終売の判断が可能となる。

多面的視点(顧客軸・エリア軸)で、製品ポートフォリオを分析し、意思決定することが重要です

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Section 2

CCH® Tagetikを用いた製品ポートフォリオ分析の実践

続いてセミナーは、Tagetik Japanディレクターの東裕紀央氏による製品ポートフォリオ分析のデモンストレーションへ。Tagetik社では企業の意思決定を支える経営管理プラットフォームを提供。原価や生産、販売、会計などのデータ収集・管理から、それらに基づく予算管理、連結管理、明細管理などの統合管理を経て、各種分析・レポートを踏まえた全社的な意思決定の高度化に至るという、一連の流れをワンプラットフォームでカバーしています。このシステムを基に、デモンストレーションは以下の流れに沿って行われました。東氏による解説の要点とともに紹介します。


企業の経営意思決定を支える経営管理プラットフォーム(EPM/CPM)。ワンプラットフォームで予算・連結・明細管理までカバーし、現場から経営までの全社の意思決定を高度化
1)生涯損益情報に基づく中長期目標とのギャップの確認
  • 製品別に生涯損益情報を確認
  • 製品合算で中長期目標とのギャップを可視化し、検討対象製品を特定
     
2)多面的視点での改廃候補製品の検討
  • 製品ポートフォリオ情報から製品のポジショニングを俯瞰(ふかん)
  • 製品シリーズや地域、共通コンポーネントなどの多面的視点で改廃候補製品を見極め
     
3)改廃による損益改善効果の検証
  • 改廃判断に基づくプロフィット/コスト計画の修正入力
  • 修正による損益改善効果を確認

     

【1】生涯損益情報に基づく中長期目標とのギャップの確認

CCH® Tagetikでは、複数の製品の利益やコストに関するデータを基幹システムなどからシングルソースで集約することができる。これを基に複数の製品の損益を合算したグラフを表示させ、事業全体の計画と足元の製品群による実績とのギャップを可視化。グラフ上で特に詳しく確認したい箇所を指定すれば、製品別・費目別に、累積と単年度の計画・実績を明細表として表示できる。

つまり、どの製品の、どの時点における、どのような費目に差異が出ているのか、損益情報の詳細な確認が可能。また、製品ごとの今後の予実を確認することで、その製品がライフサイクルでどの段階にあるのかを読み取ることもできる。このように、損益情報に基づいて全体を俯瞰しつつ、個別の製品について詳細化し、その実績と傾向、将来の見通しまでを確認していく。

各製品の利益(Profit-Cost)に関する計画と実績情報を連携、複数の製品の損益が合算されて表示

【2】多面的視点での改廃候補製品の検討

続いて、製品ポートフォリオ情報を用いて個々の製品のポジショニングを俯瞰。デモンストレーションでは製品ポートフォリオを見る軸を「成長性×収益性」としたが、軸構成は評価の目的に応じて最適化できる。また、製品単位で見るだけでは、事業経営や収益性にインパクトを与えるような要因を見極めることは難しいため、製品シリーズや地域、共通コンポーネントといった、多面的な視点から横断的に分析して、改廃候補製品を判断することが重要となる。

例えば、X・Y・Zの3つの地域に分けて製品群を見た場合、製品BがXとYの両地域において終売候補段階にあり、Z地域でも成長性が低く、今後の投資に見極めが必要な状況にあるとする。そこで各地域における製品Bシリーズの損益情報を確認すると、計画値に届いておらず、終売の判断は妥当と思える。しかし、製品Bに使用されるコンポーネントの一部は他の製品シリーズにも使われており、製品Bの終売により、他製品の製造コストや収益性に影響を与えることが懸念される。実際、製品Bと同じ部品構成を持つ製品A-2はすでに成熟期にあって伸び悩んでいる。したがって、製品Bだけでなく、製品A-2についても、併せて今後の方針を見直す必要があると考えられる。

製品シリーズや地域、共通コンポーネントといった多面的視点で改廃候補製品を見極める

【3】改廃による損益改善効果の検証

以上の過程を経て製品改廃の意思決定がなされたら、今後の計画値を修正し、その効果を検証する段階へ。まず、廃止する製品のタイミングと、修正するプロフィット/コスト情報を入力し直し、損益の見通しを更新。新しい計画値として保存する。その上で、上述した製品BやA-2のライフサイクルの全体像を確認。さらに製品群全体への改廃効果をグラフで俯瞰すると、BやA-2の廃止によって事業全体がどのようにシフトしていくのか、生涯損益の観点から確認することができる。問題のある製品を廃止することで、一時的には収益が下がったとしても、削減されたコストを別の戦略的製品に投資した結果、中長期的には事業収益が改善していく様子が見て取れた。

CCH® Tagetikではこのように、製品ポートフォリオに関する社内外のさまざまなデータを収集・連携・加工して分析し、戦略的な意思決定につなげるまでの流れを一気通貫で支援することができる。さまざまな改廃シナリオを作成してそれぞれの効果を比較することや、為替やFTAなどの情報を反映したシミュレーションを行うこと、またAIを使って売り上げ分析や予測を行うことなども可能である。


廃止タイミングと、プロフィット/コスト情報を修正入力すると損益見通しの情報が更新

製品BやA-2の廃止によって事業全体がどのようにシフトするのかを生涯損益観点で確認

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収益最大化に向けて克服すべき3つのハードル

最後のセッションは、前出の横田による講演です。「実践に向けて」と題し、日本の製造業が乗り越えるべきハードルと、その対応について語りました。横田によれば、EYがこれまでに支援してきた事例から翻って考えると、ハードルは以下の3つに集約されると述べます。順にポイントを見ていきます。


【1】プロセスチェーン横断での取り組み

製品・部品のバリエーションを適正化するには、プロセスチェーンを横断した連携とコスト評価が不可欠である。例えば、デマンドチェーンとエンジニアリングチェーンの接点においては、製品バリエーションと収益性を多面的に分析し、製品数を統制することが重要。市場や顧客の求めに応じてSKUを増やし続けた結果、不採算に陥るケースは少なくない。それをいかにして開発・量産段階で止められるか。営業・開発・生産など各部門の裁量に任せるのではなく、それらが連携して、可視化・共有されたワンデータに基づく課題検討と意思決定を行うべきである。営業部門に対して売り上げ責任に加え、利益責任まで持たせるなどの工夫も有効。

また、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携では、モジュラーデザインによる部品の共通化がキーとなる。開発・製造コストを抑えるためのコンポーネント化は有益だが、うまくいかない企業に見られる要因として、部門間のコミュニケーション不足や、目的意識の共有不足が挙げられる。SKUの整理か、品質向上か、コスト削減か、何を目的に共通部品を使うのかをまず明確にし、全社で共有したい。

サービスチェーンとデマンドチェーンの関係では、製品ライフサイクルの捉え方が重要。製品ごとに異なるライフサイクルに応じたコントロールが求められるが、その際にアフターサービスまで含めた収益性判断を行うべきである。通常の営業とアフターサービスの営業を分けて捉え、別々に収益を見ている企業もまだ多いが、総合的な判断が望ましい。

適正な製品・部品バリエーションに向け、プロセス横断し、1つの目的に基づき、可視化・共有された情報・データに基づいて課題検討と意思決定を行うことが肝要です

【2】システム/データ連携・可視化

これまでに見てきた製品ポートフォリオ管理を実現するには、CRMやSCM、ERPなどといった、社内のさまざまな仕組みからデータを収集することが大前提となる。その際、集めたデータをどう活用するか、それに応じてどんなシステムを構築するかをあらかじめ決めておくことが重要。そのポイントとしては、以下の3点が挙げられる。

  1. 定量的な評価を可能にするために、用途やチャンネルなどの視点から製品体系を整理する。
  2. それぞれの製品特性に合わせたポートフォリオ管理を行うために、生涯損益や経済合理性など、指標となるKPIの基準値を定義する。
  3. どのシステムにどんなデータがあり、どう連結できるかなど、データの収集方法について検討する。
システム・データ連携チャレンジとして、製品体系とKPI・基準値の定義、データ取得方法の検討を踏まえ、スモールスタートし、運用と仕組みを走りながら育てることが重要です

【3】データドリブン意思決定の運用スキーム

経営・統括部門が中心となって全体を動かしていく体制を整えることが重要。統括部門を経営会議の直下に置き、全社戦略との整合性や部門ごとの利害関係の調整、関連各部門をつなぐコミュニケーションなど、全体統制を管理し、個別部門へ指示を出す要とする。同時に、営業・開発・生産など各部門の役割と責任を明確にする。製品ごとのライフサイクルに応じて、どの段階ではどの部門が中心となり、統括部門に対して達成状況や最新予測などの情報を上げていくのかなど、細部にわたる役割分担を決めておくことがポイントとなる。

経営・統括部門が、全体統制管理と個別部門への対応指示・結果確認をリードすることは不可欠な取り組みとなります

以上を踏まえ、最後に横田が次のように述べて今回のセミナーは幕を閉じました。

「製品ポートフォリオ管理に当たっては、製品ごとの生涯収益管理との組み合わせや、製販連携による課題の可視化、そして多面的な観点を掛け合わせた分析が、非常に重要な意味を持っています。現在の断面で見ることに捕らわれず、5年後、10年後を見据えた分析により、今の製品ポートフォリオを見直す姿勢が求められていると思います」


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製販連携に基づく中長期収益最大化に向けた製品ポートフォリオ管理
──マーケットに追随する事業運営からの脱却
(配信期間:2026年6月10日まで)


左から横田 雄一、東 裕紀央 氏、倉嶋 祐介

左から
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 
サプライチェーン&オペレーションズ アソシエートパートナー 横田 雄一

Tagetik Japan株式会社 
ディレクター 東 裕紀央 氏

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 
サプライチェーン&オペレーションズ シニアマネージャー 倉嶋 祐介

 


サマリー

顧客や市場の求めに応じるまま、過剰に膨らみ続ける製品バリエーションを放置することは、製品群の競争力を損ない、事業の持続的な成長を妨げることにつながります。製品ごとの生涯損益に基づいて課題を可視化し、多面的視点から製品ポートフォリオを分析した上で、改廃の意思決定を将来の損益改善へと結び付つけることが重要です。


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