モデレーター/岡部:よろしくお願いいたします。本日、「AIエージェント」という言葉が出てきましたけれども、これは分かりやすく言えば、「今夜、日比谷か銀座でおいしいおでんを食べに行きたい。人数は4人で、18時から……」とインプットすると、AIエージェントがお店を探して予約までしてくれる、こういった認識で合っていますでしょうか。
砂金氏:大体合っていると思います。ただ、予約行為であれば大きな問題は生じないかもしれませんが、社内稟議ではどうでしょうか。誰の権限でエージェントが動いたのか、それは本当にやって良かったのか、ダメであればどのように対応すべきか。こういったことが今後、問題になってくると思います。
小宮氏:AIエージェントの範囲も非常に重要なテーマになると思います。すべてを1つのAIエージェントに任せようとしてもパフォーマンスが発揮できなくなってしまいます。例えば設計分野であれば、電気設計、機械設計といった役割分担をした上で、さらにそこのコンフリクトを調整するようなAIエージェントが出てくる。このスコープをどう設定するかが、これからの論点になると思いますね。
岡部:ガバナンスの観点からは、AIエージェントについてどのようにお考えになりますか。
小林氏:より検証が難しくなると思います。先ほどの例で言えば、そのAIエージェントはなぜ、そのお店を予約してきたのか。他のお店が満席だったからなのか、SNSでブームになっていたからなのか。よく分からないわけですね。ですから、AIは便利な反面、その判断がネガティブな方向に転んだときに責任問題にもなり得るので、その判断に至った理由をトレースできる仕組みを構築する必要がある。これは非常に重要なポイントになるでしょう。
川勝:もう少し細かい点を申し上げると、砂金さんもおっしゃっていたように、結局、誰の権限を委譲しているのかという点を分けて考えなければならないと思っています。「おでん屋を探す」という指示を解釈する役割、お店を探すために行動計画を立てる役割、そのタスクを継続的に自己学習していく役割。AIエージェントの品質を担保するためには、それぞれの役割がきちんと動けているのかすべて押さえて、改善する仕組みが裏側で必要になってくると思います。
岡部:ありがとうございます。次の話題として、生成AIの生み出すイノベーションという観点で、小宮さんはどのようにお考えでしょうか。
小宮氏:ひとつは、例えばロボティクス分野で言えば、これまでインテグレーションした動作をそのままやらせるのが主流だったところ、生成AIを組み込んで柔軟にタスクを切り替えるような形で新しい製品を生み出すようなイノベーション。もう1つは、既存の事業にかけてきたリソースを大きく削減することによって、新規事業にリソースを費やすことができるようになる。それによってイノベーションがもたらされるという、2つの側面があると思っています。
砂金氏:ウェビナーをご覧いただいている方々の中には、経営陣の方も多いと思いますが、信頼できる部下ってそれほど多くないと思うんですよ(笑)。ですから、チャットGPTのような生成AIを相手に「自分はこういう戦略を立てていて、ここまで勝ち筋が見えているけれども、何か見落としている穴がないか指摘してほしい」といった壁打ちをする。このような脳を活性化させるための壁打ち相手として、生成AIは抜群に優秀ですね。
生成AIには、クリエーティブな仕事をさせるというより、人間がよりクリエーティブな状態になるための文房具として生成AIを使う方が、人間とAIがうまくかみ合いながら新しいものを生み出していくことが当たり前になる世の中においては、すごく大事なのではないかと思います。
小林氏:自分が知らないことを聞いたときに間違ったことを言ってくることもあるんですよね。ただし、自分に知見がない分野だと、聞いている私自身が本当に正しいかどうか分からないこともある。そういった意味で、AIによる回答の品質を保つということが重要になってくると思います。
また、現状の日本におけるソフトロー(法律等により明確に規定されていないガイダンスのようなもの)による規制は、企業の皆さんからするとどこまで守れば良いか分からないという状況になってしまっている。イノベーションの阻害とよく指摘されますが、やはりある一定基準のルールを明確化した上で、そこを守りながら乗り越えていこう、という動きを作った方が、結果的に産業全体としてプラスに作用するのではないかと思います。
小宮氏:将来展望という点で言えば、フィジカル、現実世界とAIの融合というのもこれから期待される分野だと思います。NVIDIAもロボットの学習データというものを発表しましたが、学習の環境を合成させて、それを自動運転車や自律的に動くロボットに高速で学習させる。また、AIは機器の制御コードを生成できるようになってきたので、モノづくりもニーズに合わせてカスタマイズしながら自動化されるというように大きく変わってきます。
砂金氏:これを日本で議論するのは詮無いことではあるのですが、われわれ日本人が技術革新のレバーを握り切れているかというとそうではなくて。地球上のどこかで最新のAIがどんどん生まれていて、それをキャッチアップしていく以外に選択肢がないんですよね。ですから、感度を高く持って、最新の取り組みはどうなっているかということを、自分たちで正しく判断する力をもっておく必要があると思います。