EYの事例

ホンダモビリティランドが示す人と自然とモビリティの共存、そして次世代への価値創造とは

企業のサステナビリティは、自然資本への対応にも広がっています。一律の正解はなく、自社の事業と自然との関係を捉え直し、現場での実践を通じて最適な在り方を探っていくことが重要です。モビリティリゾートもてぎはその実践を早くから進めており、その歩みは自然資本時代の実践例として発信されています。

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The better the question

世界最高峰のサーキットの隣で、いのちが溢れる森を育てる意味とは何か

モビリティリゾートもてぎは、人と自然とモビリティの共存を現場で形にしながら、子どもの成長と社会価値の創出の場となってきました。その背景にある思想と実践の原点をたどります。

ホンダモビリティランドが運営する「モビリティリゾートもてぎ」は、世界最高峰のレースが開催されるモータースポーツの舞台であると同時に、子どもたちに夢と希望を届ける場として育まれてきました。その根底には、ホンダ創業者である本田宗一郎氏の「車は競技を通じて鍛えられる」という考えと、経営を担った藤澤武夫氏の、独自の乗りものを通じて「操る喜び」を提供し、子どもたちの体験からモビリティ文化とファンを育てたいという思いがあります。こうした鈴鹿サーキット創立時の思想がモビリティリゾートもてぎにも受け継がれ、体験を通じて人の感性や気づきを育み、社会へ価値を広げています。

モビリティリゾートもてぎの総支配人である稲葉光臣氏は、「ここは、21世紀に向けた子どもたちへの未来のプレゼントという発想で誕生しています」と語ります。この言葉の通り、この場所には当初から、単なるレース開催地にとどまらない社会的な役割が託されてきました。

ホンダモビリティランド モビリティリゾートもてぎ総支配人 稲葉 光臣 氏
ホンダモビリティランド モビリティリゾートもてぎ総支配人 稲葉 光臣 氏

その思想は、施設内に広がる森「ハローウッズ」にも色濃く表れています。ここで目指されてきたのは、自然を守ることそれ自体にとどまりません。森との関わりを通じて、子どもたちが感じ、考え、挑戦する力を育み、その価値を社会へつないでいくことです。すなわち、「いのち溢れる森」とは、生態系を守ることに加え、そこに触れる人の感性や思考、自然との向き合い方まで含めて育んでいくことを意味しています。

モビリティリゾートもてぎ・ハローウッズ
モビリティリゾートもてぎ・ハローウッズ

モビリティリゾートもてぎでは、開発当初から自然への影響に配慮が払われてきました。土砂の搬出入を極力抑え、生態モニタリングやアセスメントを実施し、土地本来の生態系を把握した上で、この自然をいかに生かすかを構想してきました。そこで導かれたのが、「森の元気と子どもの元気」という考え方です。ハローウッズでは、子どもたちが不思議に思い、感じる力としての想像力と、自らつくり上げ、成し遂げる力としての創造力――ふたつの「ソウゾウリョク」を重視し、知識だけではない気づきと成長の機会を提供してきました。

ホンダモビリティランド サステナビリティ委員会事務局長の鬼寅紘史氏も、象徴的なエピソードを語ります。「私は、森の中にあるトイレで、微生物によって分解された水が、臭いもなくきれいになっていることに衝撃を受けました。その体験が、自然を“知る”だけでなく、“感じる”ことの大切さを教えてくれたと思います」

水生生物研究室
水生生物研究室

さらに、モビリティリゾートもてぎの取組みを特別なものにしているのが、「人と自然とモビリティの共存」という視点です。稲葉氏は、「ハローウッズの特徴は、サーキットという最新技術の実証が行われる場の隣で、音のある環境の中で自然を育んでいること」と語ります。一般に、モータースポーツは自然と対立的に捉えられがちですが、モビリティリゾートもてぎではそうした二項対立を乗り越え、技術を持つ人間が自然といかに共生し得るのかを問い続けてきました。実際、レーシングコース周辺には、カヤネズミやアナグマが暮らし、フクロウやオオタカが餌場として利用する環境があります。こうした共生の実践は、数字にも表れています。総敷地面積640ヘクタールのうち、415ヘクタールが森林となっています。開発当時は荒廃していた森林が回復・再生をしたことで、現在では5,800種まで増加してきました。さらに、毎年10万人以上がこの地を訪れ、自然と触れ合っています。

※ 引用元:モビリティリゾートもてぎ「ハローウッズとは?(はじめに)」
www.mr-motegi.jp/hellowoods/concept/ (2026年7月3日アクセス)

多用な生きものが生息するモビリティリゾートもてぎ
多様な生きものが生息するモビリティリゾートもてぎ
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The better the answer

自然と技術の共生を、持続可能な実践へと育てるために

モビリティリゾートもてぎの実践の根底には、人が適切に関わることで自然と共生するという発想があります。その思想は自然資本時代の議論にも通じる一方、事業として持続させる難しさも伴います。


こうした実績の背景にあるのは、単なる自然環境保全ではなく、人が適切に関わることで自然の力を引き出し、共生を成立させるという考え方です。稲葉氏は、その根底にある思想について次のように語ります。
「原始的な自然回帰ではなく、技術によって自然と共生していくという宣言でもありました。ヒントになったのは、昭和初期までの里山です。人が木材を薪や炭として利用しながら、自然を最大限に生かして暮らしていた在り方です」

ここで示されているのは、人の営みから自然を切り離して守るのではなく、人が手を入れることで森の健全さや多様性を保っていくという発想です。間伐として樹を間引くことで、光と空間が生まれ、萌芽更新により若い樹木が再生することで、多種多様の生命が息づき、そして樹自体の種の保全にもなるといった、多様な生きものが共存できる森へと育まれます。植樹だけを善とするのではなく、人が関わることで自然の活力を引き出していく。こうした考え方は、いま世界的に注目が高まるネイチャーポジティブや自然資本の議論にも重なります。


モビリティリゾートもてぎ・ハローウッズの風景
モビリティリゾートもてぎ・ハローウッズの風景

近年、企業を取り巻く自然資本の議論は大きく変化しています。気候変動対応に加え、生物多様性や自然への依存・影響・リスクを可視化し、経営に組み込むことの重要性が高まっています。EY新日本の堀江雄太は、「2020年代に入り、企業や人間が自然資本に大きく依存し、同時に影響を与えていることが改めて認識されるようになりました。こうしたイニシアチブやフレームワークが、モビリティリゾートもてぎが25年前から重視してきた考え方と重なりつつあると認識しています」と語ります。

その意味で、モビリティリゾートもてぎの取組みは、後から付け加えられた環境施策ではありません。施設の設計思想の中に自然との関係が組み込まれ、継続的に手を入れながら更新されてきた点に、大きな意義があります。

もっとも、自然資本への対応は、単なる保全活動だけで完結するものではありません。企業にとってとりわけ難しいとされるのは、自然との関係を「守るべきもの」として扱うだけでなく、事業として持続可能な形で実装し、社会的な価値として循環させていくことにあります。モビリティリゾートもてぎが向き合っているのも、まさにこの課題です。森を維持するには継続的な人手が必要であり、特に落葉広葉樹林は、単純な経済合理性だけでは扱いにくい側面があります。CO2吸収と生物多様性保全の両立にも工夫が求められます。
稲葉氏は、その難しさを率直にこう語ります。
「自然には成果が見えにくい局面があります。何が正解か分からない中でも、経済優位性だけを追いかけると、生物多様性のような要素は劣後してしまう。面倒で、通常の企業なら手を出さないことにも、私たちは手を出していく。その価値に賛同してくださる企業や地域との枠組みを、これから作っていきたいと思っています」


生命の塔
「生命の塔」
森を伐採した時に出る丸太でくみ上げ、中に落ち葉を入れる 生きものたちがさまざまな形で利用する

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The better the world works

モビリティリゾートもてぎの挑戦:自然との共生が生む多層的な価値を可視化し、社会実装を通じて広く展開しながら次世代へつなぐ

モビリティリゾートもてぎは、自然との共生が生む多層的な価値を可視化し、社会と価値を共有しながら、次世代への価値創造へとつなげようとしています。その実践は、人と自然、事業の新たな関係を示しています。


この新たな課題に向けて、モビリティリゾートもてぎはすでに歩みを進めています。長い年月をかけて育まれてきた価値であっても、それが社会に正しく伝わり、共感を呼び、新たな連携を生むためには、「可視化」という取組みが重要な要素の一つと考えられるためです。自然に関する価値は、CO2削減量のように単一の指標で捉えられるものではありません。教育的価値、感性の涵養、企業文化への浸透、ブランドへの寄与、地域との関係性、生態系への好影響――それらは相互に連関しながら、複層的な価値を形づくっています。ゆえに企業には、自らの取組みがいかなる価値を生み出し、いかなる社会的意味を持つのかを、定性的・定量的の両面から丁寧に言語化し、社内外のステークホルダーと共有していくことが求められます。EY新日本の堀江が指摘するように、世界がようやくこのテーマに追いついてきた今こそ、モビリティリゾートもてぎの実践をより広く社会へと開いていく好機といえるでしょう。

実際、モビリティリゾートもてぎは、約25年にわたる里山の森林再生・生物多様性保全の取組みが評価され、2023年に環境省の「自然共生サイト」に認定されました。本認定はOECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として国際データベースにも登録され、日本においてはじめて認定された事例の一つとなっています。

そして、その先に見据えられているのは、次世代に向けた新たな価値創造です。AIやバーチャル技術が進展する時代であるからこそ、森を歩き、音を聴き、匂いを感じ、身体を通じて学ぶリアルな体験の価値は、むしろいっそう際立っていきます。モビリティリゾートもてぎが目指しているのは、そうした体験を通じて、人の感受性を呼び覚まし、行動を促す場であり続けることだといえます。稲葉氏は、「私たちにはモータースポーツという、人に伝えるための事業基盤があります。スポーツを通じて、一見型破りに見える取組みを価値に切り替えていく中心的な存在になりたいと考えています」と語ります。また、鬼寅氏も「次世代に気づきを提供し、関係人口を広げ、ベストプラクティスとして発信していくことが社会への貢献になると考えています」と述べています。


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モビリティリゾートもてぎの取組みは、夢や希望を語ることにとどまりません。自然と技術の関係を改めて問い直し、それを事業として持続可能な形に育て、社会と共有し得る価値へと昇華させようとする実践です。自然資本への対応が経営課題として本格的に問われる今、企業に求められているのは、自社ならではの実践を価値として語り得る言葉へと磨き上げ、それを社会へと開いていくことです。モビリティリゾートもてぎは、その困難に正面から向き合いながら、人と自然、そして事業の新たな関係を着実に形にしようとしています。


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