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サステナブルイベント~イベント開催によるビジネス社会への影響


本レポートでは、イベントがサステナビリティの観点でビジネス社会に与える影響の大きさ、近年のイベントにおけるサステナビリティの取り組み状況・トレンドをご説明します。その上で、イベントにおいてサステナビリティに取り組む課題、社会的価値を創出する可能性をご紹介します。


要点

  • イベントは社会・経済・環境に広範な影響を及ぼし、企業活動にも直接的な波及がある。
  • サステナビリティ対応はイベントの信頼・競争力に直結し、調達・人権・地域連携が重要課題となる。
  • 一過性でなく、イベント後も残る社会的価値を創出する視点が企業のサステナビリティに貢献する。


2025年10月に閉幕した2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、「サステナビリティ」が主要テーマの1つに掲げられ、国内外から大きな注目を集めました。近年、国内外の多くのイベントにおいても、「持続可能なイベント」や「SDGsの課題解決」を掲げて取り組みが進められているように、イベントでの「サステナビリティ」は重要視されています。

イベントは、開催前から開催後まで、環境・社会・経済の各側面で、主催者、参加者、サプライチェーン、地域住民など多様なステークホルダーに影響を及ぼします。イベントのバリューチェーンにおいては、開催前の企画・設計、会場建設・整備、物品調達、開催期間中のイベント運営、開催後の撤収・処理といった各ライフサイクルで、関与する産業やステークホルダーに対し、サステナビリティの観点で配慮が求められます。

イベントの全ライフサイクルにわたってサステナビリティに取り組むことは、イベントが与えるネガティブな影響の防止、さらには各産業でのポジティブな変化を促す機会となります。

イベントバリューチェーンと関わるステークホルダーの一例


近年のイベントで見られるサステナビリティの取り組み

多くのイベントで、環境・社会・経済の各側面で共通するサステナビリティの取り組みが見られます。具体的には以下のような事例が挙げられます。

  • 環境面:CO₂排出量の削減、廃棄物削減・3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進、生態系保護
  • 社会面:人権尊重、労働安全衛生の確保
  • 経済面:地域経済の活性化、地域住民の参画促進

近年はイベント独自の取り組みも増え、より広範なステークホルダーを対象とした積極的な取り組みが進んでいます。主なトレンドは以下の通りです。

  • サプライチェーン全体への配慮

持続可能な調達基準が策定され、物品購入や委託契約におけるサプライヤーに対してもサステナビリティの配慮を求める動きが強まっています。サプライヤーでの問題がイベント組織のレピュテーションリスクとなることを防ぎ、サプライチェーン全体の持続可能性を高めることが可能になります。

  •  イベント参加者によるカーボンオフセットの促進

従来、温室効果ガス削減・吸収に関する取り組みはイベント運営側が主体となるものでしたが、オフセット付きチケットの導入など、イベント参加者が主体的に関与する仕組みが広がっています。この仕組みでは、チケット収益の一部をイベント運営に伴う排出量のオフセットに活用することで、参加者の意識向上と実効性のある削減が期待されます。

  • 人権保護のためのセーフガーディング体制

イベントのライフサイクルを通じ、差別・ハラスメント・暴力などの人権侵害を防止し、万が一発生した場合には迅速に対応する体制の整備が強化されています。特にスポーツイベントでは、会場内やSNS上での選手などへの人権侵害を注視した動きが見られます。

これらの取り組みは、イベントのサステナビリティを高めるとともに、社会的責任を果たし、ステークホルダーの信頼獲得にもつながります。

 

イベント事業者におけるイベント運営とサステナビリティの取り組みを両立する重要性・意義

イベント事業者にとって、サステナビリティの取り組みは、時間・費用・人員の面で追加的な負担となることも考えられます。しかし、準備段階から計画的・効率的に取り組むことで、組織内への意識浸透や必要数以上の調達の回避、コスト削減につながります。

さらに、イベント当日のみならず、イベント後の社会に残る成果を意識することで、投入したリソースが長期的に価値あるものとなります。例えば、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で策定された「持続可能性に配慮した調達コード」は、他イベントや東京都の「社会的責任調達基準」へと展開されました。また、イベントの社会的影響を可視化する「インパクトレポート」の作成は、イベントでの取り組み・成果を社会に示す有効な手段です。

 

EYにできること

サステナビリティへの取り組みは、イベント運営におけるスタンダードとなりつつあり、社会からの期待も高まっています。EYでは、イベントの特性を踏まえた効率的・効果的なサステナビリティ支援を提供しています。

EYジャパンでは、国際的なイベント・サステナビリティ・マネジメントシステムであるISO20121*の導入・構築支援や第三者認証取得支援をはじめ、以下のサステナビリティ分野において専門的なアドバイザリーサービスを提供しています。

  • 気候変動、サーキュラーエコノミー、人権・労働、サプライチェーンに関する支援
  • イベントの社会的影響を分析・評価し、可視化する「インパクトレポート」の策定支援

イベント組織における財務・税務アドバイザリー、プロジェクト管理、調達支援、公益財団法人の設立・維持・解散に関するコンサルティングといった各プロフェッショナルサービスも提供しており、サステナビリティに関する支援と互いに連携できる体制となっています。さらに、グローバルネットワークをもつEYファームでは、各国の多様なイベントに対するサステナビリティに関するアドバイザリーサービスの提供実績を有し、国際的な知見の共有も図っています。イベントおよびイベント組織ごとの特性や実態を的確に捉え、最適なソリューションを提供することで、持続可能なイベント運営の実現を支援いたします。

*ISO20121:イベントのサステナビリティに関するマネジメントシステム(Event Sustainability Management Systems)の国際規格。


【共同執筆者】

木内 志香
EY Japan Assurance Climate Change and Sustainability Services (CCaSS) Manager
橘 智子
EY Japan Assurance Climate Change and Sustainability Services (CCaSS) Senior Consultant

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー 

イベントは一過性ではなく、企業の調達・人権・地域連携に影響を及ぼします。対応次第でイベントの信頼・価値創出につながります。


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