TNFDの移行計画ガイダンス ディスカッションペーパーからの変更点と組織が取り組むべきポイント

TNFDの移行計画ガイダンス ディスカッションペーパーからの変更点と組織が取り組むべきポイント


TNFDは2025年11月、自然関連の移行計画策定を支援するガイダンスを公表。2024年10月に発表したディスカッションペーパー(ガイダンス案)に対するフィードバックを反映し、最終化が行われました。


要点

  • 自然関連移行計画の策定を支援するガイダンスの最終化が行われた。
  • 今回の変更により、TPTなど他の基準との整合性の向上や事例の追加などが行われ、より実務者が取り組みやすい内容に改善された。
  • 組織は、自然関連移行計画を策定するにはTNFDフレームワークに沿った開示を進めるだけでなく、自社と自然資本との関わりの中から、存在意義を見いだすことが重要である。

1. はじめに

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2025年11月に、自然関連の移行計画に関するガイダンスを公表しました。本ガイダンスはTNFD開示推奨事項の4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)のうち、「戦略」の開示要素の1つである「移行計画」(戦略B)をより詳細に解説するものです。移行計画では昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)が目指す、ネイチャーポジティブの実現に向け、組織が取るべき行動を示しています。

2. ディスカッションペーパーからの主要な変更点

TNFDは2024年10月に発表した「Discussion paper on Nature transition plans」に対するフィードバックを反映し、本ガイダンスを最終化しました。ディスカッションペーパーからの主要な変更点は以下(1)~(4)になります。


※「Discussion paper on Nature transition plans」の要点は2024年12月の公開記事にて解説しております。

(1) 多様なアプローチからのフィードバック

本ガイダンスでは、市場協議からのフィードバックやさまざまな分野・地域から参加した15の組織によるパイロットテストからの知見を反映しております。パイロット企業やその他の実例を含む内容とすることで、具体的にガイダンスを適用する方法を解説しています。なお、最終版で追加された事例については(4)をご参照ください。

(2) 実用的な優先順位付けへの改善

複雑なバリューチェーンや金融ポートフォリオ、組織構造に適した対応に向け、計画の優先順位に関するガイダンスの改善が行われました。

例えば、TNFDが提示している自然関連のリスクや機会を特定する手法の1つであるLEAPアプローチを用いて特定された、自然に対する依存と影響が最も高いホットスポットにリソースとアクションを集中させるための具体的な判断基準やプロセスをより詳細に盛り込んでいます。これにより、組織がネイチャー・トランジションに取り組む際に、どこから着手すべきか、特に注力すべき分野をより実用的かつ効果的に判断できるようになりました。

(3) 他の基準との整合性

TNFDは本ガイダンスとTPT(Transition Plan Taskforce)の整合性を高めるため、構成をアップデートしました。

TNFDのガイダンスは、TPTの開示推奨事項に合わせた自然関連の移行計画の開示推奨事項とGFANZ(The Glasgow Financial Alliance for Net Zero)が提唱している ネットゼロ移行計画(NZTP)の5つのテーマに沿って策定した、自然関連の移行計画の構成要素を提供しています。

開示推奨事項は、ディスカッションペーパー時点でTPTの開示推奨事項に対し「Not retained(廃止)」としていた項目(戦略的野心、GHG、カーボンクレジット)を除外し、最終化が行われました。

それに伴い、自然関連の移行計画の構成要素についても、TPTの開示推奨事項に合うように見直しが行われました。これにより、特にTPTに基づき気候関連の移行計画を既に策定している組織は、既存の移行計画と整合を図りながら自然関連の移行計画を策定しやすくなりました。

自然関連の移行計画の構成要素のうち、エンゲージメント戦略の「景観・河川・海景」のガイダンスはステークホルダーエンゲージメントの進め方、共同目標の設定、先住民族および地域コミュニティの権利への配慮に関する実用的な指針など、既存のベストプラクティスに関する情報がより多く盛り込まれました。これにより、自然関連の移行計画が企業単独の活動にとどまらず、地域全体のステークホルダー(先住民族、地域コミュニティ、他企業、政府など)との協働が不可欠であることを強調する内容となりました。

(4) 事例や利用ケースの追加

本ガイダンスではパイロット実施組織やその他の組織での利用ケースなど、より具体的な事例を追加しました。

例えば、資産運用会社であるストアブランド・アセット・マネジメント(SAM)が上場株式ポートフォリオの位置情報に基づき、複数の観点(自然資本に対し潜在的に高い依存関係と影響の有無/事業による生物多様性上重要な地域への暴露/先住民族への影響)で依存と影響の優先順位付けを行った事例を記載しております。この方法により、SAMはネイチャー・トランジションに向けて、戦略的かつ管理可能な優先事項を特定しました。今後、これらの優先事項をさらに具体化することで、SAMの計画の焦点と一貫性が増し、ネイチャー・トランジションに対する貢献・対応が促進するだろうと述べています。

以上のような事例や利用ケースの追加により、実務者が移行計画やそれに基づき具体的な行動計画を策定する際によりイメージしやすい内容になりました。

3. 自然関連移行計画の策定にあたり重要なポイント

TNFDは、組織に対して自然関連の依存と影響を特定・評価する段階から、事業変革の段階へと進むことを求めています。このガイダンスを活用し、野心的な目標と具体的な行動を統合した移行計画を策定することで、組織は資本市場や社会からの信頼を築き、持続可能な未来への貢献を加速させることにつながると考えられます。

一方で、移行計画を策定する際には、組織として生物多様性に取り組む方向性や戦略を明らかにし、経営陣や投資家からの理解を得ることが重要です。そのためにも、社会がネイチャーポジティブに向かう中で組織としてあるべき立ち位置、役割役回りといった「存在意義」を検討し、それをベースに自然関連活動の指針や方針を定め、組織としてどのように変革するかを見極める必要があります。

組織が全社的に掲げているパーパスや社是に立ち返り、組織が持ち得る技術や能力と社会が組織に求めるものを掛け合わせることで、ネイチャーポジティブ経済の中での理想的な形としての自社のあるべき姿、すなわち「存在意義」が見えてくるでしょう。

4. EYのサービス

組織として自然資本・生物多様性に取り組むには、まずはTNFDフレームワークに基づき現状把握を行い、それをベースに移行計画を策定し、最終的にはビジネスリスクの最小化とビジネスチャンスを最大化させ、自社のビジネスを持続させることが求められます。一方で、特に自然関連移行計画の策定は取り組む企業も少なく、何から始めればよいかわからないご担当者も多いのではないでしょうか。

EYには、経営を知る公認会計士から長年環境分野に携わっている技術系のプロフェッショナルまで、多様なスタッフが在籍しております。その幅広い知見、知識、スキルを生かし、これまでに多くのクライアントにTNFD開示支援や経営戦略などのご支援を行ってきました。自然資本・生物多様性が経営課題になりつつある状況を踏まえ、組織の現状分析だけでなく、存在意義の確認や変革するべき方向性の発見、移行計画の策定・実行など、経営戦略にまで踏み込んだサポートをさせていただきます。

参考資料

  • Guidance on nature in transition plans – TNFD(PDF)
    tnfd.global/publication/guidance-on-nature-in-transition-plans/#publication-content
  • Discussion paper on nature transition plans – TNFD(PDF)
    tnfd.global/publication/discussion-paper-on-nature-transition-plans/#publication-content

【共同執筆者】

髙篠 葵

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部

北海道大学大学院工学院 共同資源工学専攻修了後、建設コンサルタント会社にて、都市開発やダムなどの大規模な建設工事に伴う土壌・地下水の汚染調査・対策に従事。現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部にて、環境デューデリジェンスや、TNFD開示支援、労働安全衛生マネジメントの体制構築支援など環境・労働安全衛生分野の業務を担当。


サマリー 

TNFDより自然関連移行計画の策定を支援するガイダンスの最終化が発表されました。ネイチャーポジティブへの移行が進められている今、組織は自然関連移行計画を策定し、経営に自然資本の観点を組み込むことが期待されており、そのためにも組織の「存在意義」を見極めることが重要です。


この記事について


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