EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYは地域経済と環境の両立を目指した取り組みを支援しており、本記事では苫小牧市の挑戦をご紹介します。
要点
EYは、持続可能な未来の実現に向けて、地域社会との連携を強化しています。このたび私たちは、北海道苫小牧市が進めるカーボンニュートラルの取り組みを支援するために、その先進的な活動を広く紹介することとなりました。苫小牧市は、2050年までにCO₂排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言し、地域全体で多様な取り組みを推進しています。特に注目されるのが、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の推進です。
日本初となるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の大規模実証試験が、この苫小牧で実施されました。2012年度から実証試験設備の設計・建設・試運転等が行われ、2016年度から地中へのCO₂圧入が開始されました。2019年11月には、目標である累計30万トンのCO₂圧入を達成し、現在はモニタリングが行われています。
その後、当該取り組みのさらなる発展に向けて、NEDO主導の液化CO₂輸送実証試験にも協力しており、京都府舞鶴市との間で世界初の低温・低圧による船舶輸送技術の確立を目指しています。2021年度より行われている液化CO2船舶輸送実証は2024年11月に苫小牧・舞鶴の両陸上設備が完成し、竣工(しゅんこう)式および実証試験船の第一船出荷セレモニーが執り行われたところです。
そして、2025年2月、経済産業省は二酸化炭素の貯留事業に関する法律(以下、CCS事業法)に基づき、苫小牧沖の一部区域を特定区域として指定しました。当該特定区域では現在、CCSを実施するための試掘の許可申請の受付を開始しており、今後は許可申請に対して、CCS事業法上の許可基準に照らした審査が行われます。
すでに、苫小牧エリアでは立地企業3社による2030年度からのCCS事業化に向けた取り組みが始まっており、当該特定区域指定を受けて、今後は試掘で得られるデータの分析・評価等が進められる予定です。
こうしたCCSの取り組みを支え、さらに加速させる重要な役割を果たしているのが、苫小牧CCUS・ゼロカーボン推進協議会です。この協議会は、地域の脱炭素化を推進するために、立地企業を中心に多様な企業、研究機関、行政機関が連携してゼロカーボン社会の実現に向けた議論を行うとともに、積極的な情報発信等による地域産業全体の機運醸成を担っています。
当協議会は、気候変動対策の重要性が顕在化する前、2010年4月に発足しました。当時は「苫小牧CCS促進協議会」として設立され、CCS実証試験の苫小牧地域誘致を目指し、現場視察会や広報活動を通じてCCSの必要性や安全性を広く周知する活動を行ってきました。
その後、経済産業省のカーボンリサイクルに関する政策を受けて、CO₂を貯留するだけでなく、有効活用するカーボンリサイクルへと取り組みを拡大していくことを狙い、2020年9月に「苫小牧CCUS・カーボンリサイクル促進協議会」へと改組されました。さらに、2021年10月には、政府の2050年カーボンニュートラル宣言や企業の脱炭素化の動きに対応し、「苫小牧水素エネルギープロジェクト会議」を併合して「苫小牧CCUS・ゼロカーボン推進協議会」へと再編成されました。
この再編に伴い、CCSだけでなく、水素・アンモニアといった次世代エネルギーの受入・供給体制の整備に向けた検討が始まりました。当該取り組みでは港湾の地理的優位性や既存の石油関連インフラを活用しつつ、エネルギー供給構造全体を脱炭素化するカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を目指しており、構想実現に向けた官民連携による推進基盤が構築されています。(詳細は「水素・アンモニア拠点化構想~苫小牧港が挑む次世代エネルギー港湾への転換戦略~」を参照)
苫小牧CCUS・ゼロカーボン推進協議会は、地域と産業界が一体となって脱炭素化と産業振興の両立を目指す、全国でも最も先進的な取り組みの一つであり、この協議会を起点に、さまざまなプロジェクトへと展開されてくことが期待されています。
EYは、気候変動への対応と地域経済の成長を両立させる苫小牧市の先進的な姿勢に深く共感しています。特にCCUS・カーボンリサイクル、次世代エネルギー拠点の形成などの取り組みは、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩であり、全国に先駆けた挑戦と言えます。
私たちは、こうした取り組みが持続可能な社会基盤の構築のみならず、新たな産業機会の創出にもつながると考えています。地域のステークホルダーとの対話を重ねながら、カーボンニュートラル領域における専門的な知見と実行力をもって、事業機会を探る企業に対して長期的価値を創造する新しいビジネスモデルへの変革を提案し、脱炭素型の社会に転換する“Green Transformation”を推進してまいります。
今後もEYは、苫小牧市の「ゼロカーボンシティ」への挑戦を応援するとともに、地域の持続可能な未来の実現に向けて挑戦し続けます。
苫小牧市は、2050年のCO₂排出実質ゼロを目指し、CCUSを中核とする先進的なカーボンニュートラル施策を推進しています。地域、産業界、行政が一体となって取り組むこの挑戦は、脱炭素社会の実現に向けた日本のモデルケースとなるものです。EYは、この取り組みに深く共感し、地域経済と環境の両立を図る先進事例として発信していくとともに、専門的な知見と実行力をもって、地域の持続可能な未来の実現に向けて挑戦し続けます。
世界150以上の国と地域で展開するサービスと専門的な知見を駆使し、脱炭素化に取り組むクライアントのエネルギートランジションを戦略から実行に至るまで一気通貫で支援します。
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