EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYは地域経済と環境の両立を目指した取り組みを支援しています。本記事では苫小牧港の挑戦をご紹介します。
EYは持続可能な未来の実現に向け、地域社会との連携を強化しています。このたび、北海道の苫小牧港が進める水素・アンモニア拠点の形成に向けた先進的な取り組みを紹介することとなりました。苫小牧港は北海道最大級の港湾として、以前から物流とエネルギーの重要な拠点として機能してきました。近年では、地域のカーボンニュートラル実現に向けた中核的な役割を担っており、水素・アンモニアといった次世代エネルギー拠点への転換に向けた取り組みが注目されています。
苫小牧港は、北海道の太平洋側に位置する国際拠点港湾であり、道内最大級の取扱貨物量を誇る物流の要所です。国内主要港との間に多数の定期航路が就航しているほか、新千歳空港にも近く、空・海・陸の多様な交通ネットワークが高度に集積する総合物流拠点として機能しています。苫小牧港は掘込式港湾として市街地に近接して立地しており、都市機能とのアクセス性に優れる点も大きな特長です。特に近年は苫小牧中央インターチェンジの開業やJR貨物駅の立地などにより、背後圏との接続性も一層強化されており、道内外へのスムーズな物流展開が可能です。こうした地理的・構造的な優位性を背景に、自動車、石油製品、紙・パルプなどの多様な貨物が効率的に集積・流通し、北海道の産業基盤を支える重要なインフラとしての役割を担っています。また、石油やLNGをはじめとしたエネルギー資源の受け入れ拠点としても機能しており、北海道の産業活動と生活を支える中核的存在となっています。
近年、国内外で脱炭素化の機運が高まる中、港湾の果たす役割も大きく変化しつつあります。苫小牧港が立地する北海道苫小牧市は、2050年までにCO₂排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言しました。産業や物流など多方面での脱炭素化に向けたエネルギー転換が求められる中で、地域の産業構造・エネルギー供給構造の起点である苫小牧港は、水素・アンモニアといった次世代エネルギーの導入・供給における拠点としての役割を担うことが期待されています。(詳細は「カーボンニュートラル×地域ビジョン~北海道苫小牧市が目指すゼロカーボンシティの実現~」を参照)
苫小牧港では、水素・アンモニアの受け入れ・供給体制の構築に関して、多様な検討が産官学連携で進められており、2023年に設立された「次世代エネルギーの供給拠点の形成に向けた検討ワーキンググループ」では、港湾インフラの高度化、受入体制整備、将来的な需要創出方策の議論が重ねられてきました。
具体的には、既存のエネルギー基地を最大限に活用しながら、水素・アンモニアの貯蔵設備を新たに整備する計画が検討されています。想定されている貯蔵能力は、最大で水素が約1万トン、アンモニアが10万トン規模であり、大型タンカーによる受け入れにも対応可能な仕様が想定されています。あわせて、港湾内に約3キロメートルの海底パイプラインを敷設することや、東西の港湾を接続する延長20キロメートル超のパイプラインを敷設する構想も示されています。これらのインフラ整備は、国の水素・アンモニアの拠点整備支援制度などを活用して進めることを想定しており、北海道内各地で進められている再生可能エネルギー由来の電力を用いたグリーン水素の製造プロジェクトや苫小牧で進められているCCS技術を用いたブルー水素の製造事業との接続に加え、北日本最大のアンモニアハブ港としての燃料供給・海上輸送ネットワークの拠点としての役割も期待されます。
これらのインフラ整備によって、2030年代には水素・アンモニアの年間供給量が水素換算で十数万トン規模に達する見通しであり、短期・中期・長期の3フェーズで段階的な導入・拡張を目指しています。短期(~2030年頃)では、水素・アンモニアの供給基盤整備が中心で、既存のエネルギー基地活用や陸上輸送連携、荷役設備の導入検討などが進められています。中期(2030年代)には、供給量の拡大と内陸部の産業需要との連携強化が図られ、工場等で使用される熱源の水素化や石炭火力発電所でのアンモニア混焼などの需要が立ち上がり、パイプラインや内航輸送網の整備を通じて広域供給体制が構築される見込みです。官民連携による事業化検討やプロジェクト誘致も本格化していくことで、長期(2040年以降)には、苫小牧港がアジア圏を含む国際エネルギーハブとしての機能を果たし、広域的な水素・アンモニア供給拠点として確立されることが期待されています。
こうした取り組みは、単にエネルギーの受け入れ機能にとどまらず、将来的には苫小牧港が「脱炭素型産業の集積地」として新たな成長の核となることを見据えたものです。エネルギー供給基盤の強化と併せて、新たな産業活動や雇用の創出にもつながることが期待されており、地域経済の持続的な発展とカーボンニュートラルの実現を両立させる重要なステップとなっています。
このように、苫小牧港の挑戦は地域の持続可能な発展と産業競争力強化の両面で極めて重要です。官民連携による水素・アンモニア拠点形成は、エネルギー転換に加え新たな産業機会の創出と地域経済活性化に寄与しています。
EYはこれらの取り組みに深く共感するとともに、豊富な専門知見と実行力を生かし、事業機会を探る企業に対して長期的価値を創造する新しいビジネスモデルへの変革を提案することで、脱炭素型の社会に転換する“Green Transformation”を地域の多様なステークホルダーと連携しながら、力強く支援してまいります。
今後もEYは、苫小牧港の次世代エネルギー拠点への転換に向けた挑戦を全力でサポートするとともに、地域と共に持続可能で魅力ある未来づくりに挑み続けます。
苫小牧港は、既存インフラと地域資源を生かし、水素・アンモニアを中心とした次世代エネルギー拠点への転換を加速しています。この挑戦は、地域の脱炭素化と産業振興を両立させる新たな“Green Transformation”のモデルとして、日本全国への展開が期待されます。EYは、こうした取り組みに共感し、持続可能な社会と地域経済の未来を切り開くパートナーとして、専門性と実行力をもって支援を続けてまいります。
世界150以上の国と地域で展開するサービスと専門的な知見を駆使し、脱炭素化に取り組むクライアントのエネルギートランジションを戦略から実行に至るまで一気通貫で支援します。
関連コンテンツのご紹介
カーボンニュートラル×地域ビジョン~北海道苫小牧市が目指すゼロカーボンシティの実現~
苫小牧市が挑むカーボンニュートラルの最前線。2050年のCO₂排出実質ゼロを目指し、CCUSを核とした地域主導の脱炭素モデルの構築を推進しています。EYはその挑戦を支援するために、地域経済と環境の両立を目指した取り組みをご紹介します。
「グリーン」水素を通じて次のゼロエミッション革命を創り出すには?
新たなテクノロジー、コストの低下、適切なインセンティブ政策により、グリーン水素は世界の脱炭素化に向けて、今まで以上に重要な役割を果たすことができるようになります。詳しい内容を知る
データセンターの電力グリッドへの統合~運用柔軟性を通じた方策とは
生成AI利用拡大等に伴うデータセンター増に起因する局所的電力需要に対し、データセンターの運用柔軟性の高度化によって電力グリッドとの統合を図る取り組みが注目されております。当該取り組みは、電力システムの将来像においてどのように位置付けられるのでしょうか。
バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)投資の指針となる4つのポイント
RECAI 63:系統の不安定化を受け、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)への需要が⾼まっています。EYが作成した国・地域別のBESS市場の魅力を示すランキングは、BESSへの投資機会・投資戦略の参考となるでしょう。
特定地域において⾃⾝で配電系統を運⽤する配電事業の促進は、次世代に向けて分散型リソースを活⽤し安定した電⼒システムを構築するために、有効な可能性があります。 現状の配電事業制度の論点はどのような点にあるのでしょうか。
エネルギーシステムの再構築は今、急ピッチで進められていますが、その進め方は国・地域によってさまざまです。再構築を加速させる原動力は3つあります。