目指す姿はさまざまですが、トランスフォーメーションの第一歩は多くの場合「計数作成業務負荷の軽減」です。ただし、個別ツールや作業を起点とするのではなく、思い描く将来像を前提に、決算プロセスと組織の全体像を設計することが重要です。
2-2.人とデジタルを“対立”ではなく“融合”で考える
EYではこれまでの経験から、人材育成と業務効率化を同時に進めることが肝要と考えています。実際のご支援においても、ツールやテクノロジーの要件定義の受託のみにとどまらず、研修インプットの同時提供や、クライアント主体の要件定義を支える伴走支援が多くなっています。
なぜ、このようなアプローチをとるのでしょうか。これは、テクノロジーを使いこなすにはエンドユーザーがその特性を理解し、使用する環境を整える必要があるためです。自動化・デジタル化は目的ではなく、あくまで将来像に向けて利用すべき手段であり、現場が「なぜ変えるのか」を理解しているユーザー主体の活動でないと、テクノロジーを現場に適した形で導入することが難しくなってしまいます。ツールを導入したものの結局うまく使いこなせていない、想定した結果と違ったというのは失敗例としてよく耳にする話です。
一方で、ユーザーがツールを開発できる環境では、各ユーザーが独自のルールでツールを作成してしまい、組織全体での統率がとれなくなる状況も生じる可能性があります。これを防ぐため、ユーザー部門におけるアクセス権の管理、棚卸ルールの整備、開発と運用の人員を分けるなど、内部統制の観点での整理も必要になると考えられます。
このように自動化だけに着目して改革を推し進めるのではなく、内部統制も踏まえて業務の在り方を見直した先にテクノロジーを位置づけることが、人とデジタルの関係においてあるべき姿です。
2-3. “人がやるべきこと”と“機械がやるべきこと”を分ける
決算プロセスは、「機械的な処理」と「専門的判断を伴う業務」が混在し、その実態が可視化されていないケースが多くあります。効果的なトランスフォーメーションには、両者の特性を踏まえたアプローチの検討が重要です。
「機械的な処理」は担当者の判断や裁量が介入しないため、システム対応やデジタルツールの導入による自動化を実施しやすい領域と考えられます。
一方、「専門的判断を伴う業務」は、担当者の知識や経験により判断のクオリティにばらつきが生じており、判断基準も暗黙知として埋もれているケースが多いため、自動化が困難な領域といえます。
トランスフォーメーションは、こうした「処理」と「業務」を分離し、「人にしかできない業務」を定義した業務プロセスの全体像を可視化するところから始まります。
2-4. “ツール導入”ではなく“業務再設計”から始める
決算プロセス全体の可視化により、これまで別々の作業として捉えられていた処理と業務を標準化して組み合わせた将来モデルを策定できます。
「機械的な処理」は、インプットデータを特定し、定義されたデータ処理をシステムやデジタルツールで行うアプローチが基本となります。データ処理は定型化されているため、インプットの精緻化や、データ構造基盤の見直しが重要です。
「専門的判断を伴う業務」は、インプットの特定や処理の定義に加え、暗黙知となっている属人的判断を均一化することが求められます。
業務上の判断は、「可視化・ルール化できるもの」と、「知識や経験に基づくもの」に分類できます。前者は業務自体の見直しやマニュアル等に含めるなどして容易に標準化できますが、後者は標準化が困難となります。こうした領域では、インプットデータと実際の判断結果をAIに学習させ、担当者によるクオリティを均一化するアプローチなども考えられます。
このように決算プロセス全体を可視化・標準化していくことで、業務のスリム化と属人化の排除が進み、業務基盤を支えるサステナブルな決算体制が構築されていきます。
2-5. “人材”と“業務”は一体で設計する
業務の可視化・標準化は、効率化施策の足掛かりを形成するとともに、人材の高度化を図る育成環境の構築にもつながっていきます。
新規加入者の業務習得や引き継ぎが容易となり、単純作業が自動化により手から離れることで、経理人材に余力が創出されます。これにより、高付加価値業務や専門性向上に時間を振り向けることができます。
また、特定領域の業務に特化するのではなく、決算プロセス全体を俯瞰(ふかん)し、時代の変化に応じて業務プロセスを再設計できる人材の育成にもつながります。
個別業務特化型の人材では、決算プロセス全体の再構築を企画することすら困難な場合が多くなります。トランスフォーメーションによって得られた高度人材は、激動する時代の変化に応じた最適な経理プロセスの構築にも大きく貢献します。