金融機関の財務部門が価値創造部門へ進化する条件とは ―ファイナンス・トランスフォーメーションに求められる視点

金融機関の財務部門が価値創造部門へ進化する条件とは ―ファイナンス・トランスフォーメーションに求められる視点


金融ビジネスの多角化、規制対応の高度化――財務部門を取り巻く環境や求められる役割が変化する今、ファイナンス・トランスフォーメーション(業務改革)をどのように進めるべきかを解説します。



要点

  • 財務部門は「過去の数値をまとめる組織」から「未来の意思決定を支える組織」へ進化することが求められる。
  • 業容拡大や規制対応により決算業務が複雑化する一方、組織のリソースは限られるため、業務改革が急務である。
  • 業務改革はテクノロジーの導入が目的ではなく、将来像を見据えた組織・業務プロセス・データ等の再設計から始めることが重要である。


1. なぜ今、ファイナンス・トランスフォーメーションが避けられないのか

1-1. 金融機関の財務部門は構造的転換点を迎えている

金融機関の財務部門は、事業の多角化やグローバル展開、規制の高度化により、業務の複雑性が急速に高まっています。事業環境の変化に伴い、求められる役割も、決算・開示の正確な遂行に加え、経営の意思決定に資する情報を適時に提供することまで広がりつつあります。

特に重要なのは、計数の作成にとどまらず、背景にある事業の動きを踏まえて経営層と深度あるコミュニケーションを行うことです。想定と実績の差異を事業の文脈で捉えて初めて経営判断に資する情報となります。こうした役割のために、財務部門は事業を理解し、経営意思決定を支える機能としての役割が求められます。

1-2. 財務部門の本質的使命は不変

環境の変化にかかわらず、「組織の内外に信頼できる情報を提供し、説明責任を果たす」という財務部門の使命は変わりません。「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則(BCBS239)」をはじめとする規制対応の高度化や、会計基準の改正による会計処理の複雑化などにより、財務数値の透明性と、経営層・投資家・規制当局への説明責任は一層高まっています。

財務部門の本質的価値は会計・税務・規制に対する専門性の発揮であり、その専門性を深めるには、自社の業務やビジネスの理解に時間を充てる必要があります。このため、正確性を安定して維持するサステナブルな決算体制を構築し、決算業務の品質を属人的に担保するのではなく、標準化された再現性のあるプロセスで支えることが重要です。

さらに、事業の多角化・グローバル化の中では、数値の背景にある取引や事業構造を理解し、経営の視点で解釈できることが求められます。そのためには、プロセス全体を理解し、変化に応じて業務・仕組みを再設計できる人材が求められます。
 

1-3. 金融機関の決算・開示業務を取り巻く現状

一方、従来の決算プロセスには、複数のスプレッドシートを前提とした手作業や確認作業が相互に連動するなど、構造的な課題が多く、効率化が難しいケースが見受けられます。

規制対応や新規業務への対応は局所対応となりやすく、ファイルやツールの肥大化・複雑化を招きます。特定のファイルに例外処理や補正が集約され、判断ロジックやデータの流れがブラックボックス化すると、多重チェックや目視確認が常態化し、人の経験や注意力に依存した品質担保となります。このような状態では、業務の標準化や判断基準の明確化が難しく、サステナブルな体制構築の障害となります。

また、こうした環境では、担当領域に精通する「個別業務特化型」の人材が中心となりやすく、業務全体や他領域との関係を踏まえた判断が難しくなります。その結果、担当者変更や業務量の増加に脆弱(ぜいじゃく)となり、知識・判断の継承や後進育成も困難となります。

これらの課題は、個別の業務改善や一時的な効率化施策では解消が難しい状況にあります。人が担うべき判断と、仕組みに委ねるべき処理を見極め、プロセス、データ、人材、テクノロジーの構造を持続可能な業務基盤へ再設計することが、ファイナンス・トランスフォーメーションの重要な目的となります。


2. EYが考えるファイナンス・トランスフォーメーションの実践モデル

2-1.ファイナンス・トランスフォーメーションとは

ファイナンス・トランスフォーメーションとは、単なる自動化やテクノロジー導入ではなく、財務部門のビジョン・ミッション・提供価値を再定義し、その実現に向けて変革することを意味します。

目指す姿は企業の規模や事業内容などによって千差万別であり、これに向けてとるべき施策も多種多様です。「リソースが減少する中でミスを減らすために、特定業務を自動化したい」といった短期的な目線や、「多角化・グローバル展開を支えるためにグループ内でリソースを最適化したい」といった中長期的な目線でのアプローチまで、ポリシー、プロセス、データ、人材、テクノロジーの観点から重要課題を定義し、将来像を設計することが最初のアクションとなります。

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目指す姿はさまざまですが、トランスフォーメーションの第一歩は多くの場合「計数作成業務負荷の軽減」です。ただし、個別ツールや作業を起点とするのではなく、思い描く将来像を前提に、決算プロセスと組織の全体像を設計することが重要です。
 

2-2.人とデジタルを“対立”ではなく“融合”で考える

EYではこれまでの経験から、人材育成と業務効率化を同時に進めることが肝要と考えています。実際のご支援においても、ツールやテクノロジーの要件定義の受託のみにとどまらず、研修インプットの同時提供や、クライアント主体の要件定義を支える伴走支援が多くなっています。

なぜ、このようなアプローチをとるのでしょうか。これは、テクノロジーを使いこなすにはエンドユーザーがその特性を理解し、使用する環境を整える必要があるためです。自動化・デジタル化は目的ではなく、あくまで将来像に向けて利用すべき手段であり、現場が「なぜ変えるのか」を理解しているユーザー主体の活動でないと、テクノロジーを現場に適した形で導入することが難しくなってしまいます。ツールを導入したものの結局うまく使いこなせていない、想定した結果と違ったというのは失敗例としてよく耳にする話です。

一方で、ユーザーがツールを開発できる環境では、各ユーザーが独自のルールでツールを作成してしまい、組織全体での統率がとれなくなる状況も生じる可能性があります。これを防ぐため、ユーザー部門におけるアクセス権の管理、棚卸ルールの整備、開発と運用の人員を分けるなど、内部統制の観点での整理も必要になると考えられます。

このように自動化だけに着目して改革を推し進めるのではなく、内部統制も踏まえて業務の在り方を見直した先にテクノロジーを位置づけることが、人とデジタルの関係においてあるべき姿です。
 

2-3. “人がやるべきこと”と“機械がやるべきこと”を分ける

決算プロセスは、「機械的な処理」と「専門的判断を伴う業務」が混在し、その実態が可視化されていないケースが多くあります。効果的なトランスフォーメーションには、両者の特性を踏まえたアプローチの検討が重要です。

「機械的な処理」は担当者の判断や裁量が介入しないため、システム対応やデジタルツールの導入による自動化を実施しやすい領域と考えられます。

一方、「専門的判断を伴う業務」は、担当者の知識や経験により判断のクオリティにばらつきが生じており、判断基準も暗黙知として埋もれているケースが多いため、自動化が困難な領域といえます。

トランスフォーメーションは、こうした「処理」と「業務」を分離し、「人にしかできない業務」を定義した業務プロセスの全体像を可視化するところから始まります。
 

2-4. “ツール導入”ではなく“業務再設計”から始める

決算プロセス全体の可視化により、これまで別々の作業として捉えられていた処理と業務を標準化して組み合わせた将来モデルを策定できます。

「機械的な処理」は、インプットデータを特定し、定義されたデータ処理をシステムやデジタルツールで行うアプローチが基本となります。データ処理は定型化されているため、インプットの精緻化や、データ構造基盤の見直しが重要です。

「専門的判断を伴う業務」は、インプットの特定や処理の定義に加え、暗黙知となっている属人的判断を均一化することが求められます。

業務上の判断は、「可視化・ルール化できるもの」と、「知識や経験に基づくもの」に分類できます。前者は業務自体の見直しやマニュアル等に含めるなどして容易に標準化できますが、後者は標準化が困難となります。こうした領域では、インプットデータと実際の判断結果をAIに学習させ、担当者によるクオリティを均一化するアプローチなども考えられます。

このように決算プロセス全体を可視化・標準化していくことで、業務のスリム化と属人化の排除が進み、業務基盤を支えるサステナブルな決算体制が構築されていきます。
 

2-5. “人材”と“業務”は一体で設計する

業務の可視化・標準化は、効率化施策の足掛かりを形成するとともに、人材の高度化を図る育成環境の構築にもつながっていきます。

新規加入者の業務習得や引き継ぎが容易となり、単純作業が自動化により手から離れることで、経理人材に余力が創出されます。これにより、高付加価値業務や専門性向上に時間を振り向けることができます。

また、特定領域の業務に特化するのではなく、決算プロセス全体を俯瞰(ふかん)し、時代の変化に応じて業務プロセスを再設計できる人材の育成にもつながります。

個別業務特化型の人材では、決算プロセス全体の再構築を企画することすら困難な場合が多くなります。トランスフォーメーションによって得られた高度人材は、激動する時代の変化に応じた最適な経理プロセスの構築にも大きく貢献します。


3. ファイナンス・トランスフォーメーションが生み出す価値

3-1. 財務部門は「価値創造部門」へ進化する

財務部門は、「過去の数値を報告する組織」から「未来の意思決定を支える組織」への進化が求められます。ファイナンス・トランスフォーメーションにより、計数作成の負荷を軽減し、業務を可視化・標準化することで、高度な分析や示唆の創出に時間を振り向けることができます。

その結果、経営へのインサイト提供や投資家とのコミュニケーションの質が向上し、財務部門は意思決定の中核として機能します。非財務情報やサステナビリティ対応においても、共通の業務基盤に基づく運営が可能となります。

こうした転換により、財務部門の役割は企業価値の向上に直接貢献する機能へと進化します。さらに、信頼性の高い情報に基づく意思決定を支えることで、企業の持続的成長と社会的価値の創出にも寄与する可能性を広げます。

取組みイメージ

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共同執筆者

EY新日本有限責任監査法人 金融事業部
碓氷 真弘、内田 雄太、尾坂 尚弥

※所属・役職は記事公開当時のものです。



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サマリー 

金融機関の財務部門が価値創造部門へ進化するには、自動化やシステム導入を目的化するのではなく、決算・開示業務の可視化と標準化を起点に、人とデジタルの役割を再設計することが重要です。



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