千北 氏:当部には行動経済学の知見が共通認識として根付きつつあり、「心のツボはどこか」「どの要素がバリアになるか」といった会話が自然と出てくるようになりました。その結果、意思決定の際の判断基準や優先順位が明確になったと感じています。科学的な視点を取り入れられるようになったことで、これまでの経験や感覚だけに頼った判断から、より納得感のある意思決定に移行してきていると思います。
ただし、会社全体で見ると行動経済学の考え方を理解している社員ばかりではなく、共通認識が浸透してくるのはこれからだと感じます。
伊原:会話の中で行動経済学のキーワードが出てくるようになったことは、大きな変化ですね。貴社とのお打ち合わせの中でも、数値をファクトとした科学的な検討をされるようになったことで、意思決定のスピードが速まったと感じます。
科学を起点にした考え方に共感し、問題解決のヒントとしていただけていることはうれしいです。
原口:サービス開発の枠にとらわれず、意思決定にまで行動経済学を組み込んでいることは、これまでの活用例とは一線を画していると感じます。より多くの人を巻き込み、より多くの範囲で行動経済学を活用していくためにはどのようなことが重要だと思われますか。
千北氏: EYの知見をお借りしながらUI/UXを設計したウェブ事故受付は、A/Bテストを実施して最も効果的だった心のツボを検証しながら実装を進めています。テストの結果が行動経済学をベースとした試算と一致していれば、多くの部門や社員が行動経済学に関心を持つきっかけになるでしょう。こうした実績を重ねていくことで、行動経済学を活用する機運も高まっていくと思います。
その結果として会社全体で意思決定を合理化することができれば、組織変革につながります。保険業界という広い視野で見ると、お客さま・保険代理店・保険会社が支え合ってきた歴史のために変化することが難しい一面はあるものの、行動経済学に基づいた実践知を積み重ねていくことで、科学を起点とした変革のきっかけをつくっていきたいと考えています。
原口:貴社は、保険業界におけるベンチマーク的な存在です。「スマートセレクト」の取り組みは、科学を起点とした変革のモデルケースとなりそうですね。今後の展望や目指す未来像についてお聞かせいただけますか。
千北 氏:これからも変わらず、最もお客さまから選ばれる保険会社を目指します。そのために、お客さまが求めるものを的確に把握し、ニーズを満たすサービスを提供していきます。これまで、他社との差別化を図るあまりサービスが複雑化し、過剰品質となっていた面がありました。速さ・分かりやすさを追求しつつも、よりお客さま体験価値の高いサービスをお届けできるよう、行動経済学をはじめとした幅広い知見の活用をさらに進めていきたいと思います。
同時に、デジタルが得意とする領域では積極的にデジタル化を推進し、効率化によって生まれた時間でお客さまに寄り添った対応を強化していくことでも、体験価値を向上させていきます。
原口:今後も、保険業界を取り巻く環境は変化を続けていくと思います。どのような状況でもお客さまに最適なサービスを提供できるようEYがお手伝いをさせていただくことで、組織変革を加速させる一助になれればと思います。
※本項では、行動経済学や心理学をはじめとした人の行動のメカニズムを明らかにする学問全体を、学術的に正確には「行動科学」と呼ぶべきですが、多くの方になじみのある「行動経済学」として表現しています。