中堅企業の成長を加速するM&A戦略と税制活用――経済産業省が語る「中堅・中小グループ化税制」の可能性とは

中堅企業の成長を加速するM&A戦略と税制活用
―― 経済産業省が語る「中堅・中小グループ化税制」の可能性とは


経済産業省は2024年を「中堅企業元年」と位置付け、日本経済の成長を左右する中堅企業へ向けて、補助金や税制を通じた後押しを本格化しました。その中核となるのが、M&Aを推進する「中堅・中小グループ化税制」です。本記事では、本制度の狙いや活用ポイント、2030年に向けた成長ビジョンについてご紹介します。


要点

  • 従業員数2,000人以下――中小企業より大きいけれど大企業ほどではない、そんな中堅企業の成長を後押しするため、政府では補助金や税制をはじめとしたさまざまな支援策を整備。
  • 「中堅・中小グループ化税制」は、M&Aに伴う株式取得額の損金算入を可能にし、キャッシュ・フロー改善を通じて成長投資を促進。今回の税制改正ではより大きな税務メリットが得られる形に改善。
  • 中堅企業には、M&Aの活用による規模拡大と生産性向上を通じて、地域経済を支える成長と賃上げの担い手となることが期待されている。


中堅企業の成長を後押しする政策体系 ― 「中堅企業元年」の狙い

経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業政策課 課長補佐 青木 辰二 氏
経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業政策課
課長補佐
青木 辰二 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター パートナー 池尻 能
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
公共・社会インフラセクター パートナー
池尻 能
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター マネージャー 山先 康義
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
公共・社会インフラセクター マネージャー
山先 康義

経済産業省が推進する中堅企業政策。その中核施策の1つである「中堅・中小グループ化税制」は、2024年度税制改正により従来の「中小企業事業再編投資損失準備金」を拡充したもので、2027年3月末までの時限措置であり、企業の成長戦略において重要な選択肢となりつつあります。制度活用の期待が高まる中、経済産業省の青木辰二氏をお招きし、その狙いと政策の目指す姿について伺いました。

池尻:経済産業省では2024年を「中堅企業元年」と位置付け、「中堅等大規模成長投資補助金」などの施策に取り組まれています。EYも令和5年度の補正事業より制度設計のご支援に関わっておりますが、改めて、従業員数2,000名以下の中堅企業支援に注力する背景についてお聞かせください。 

青木氏:政府はこれまで、中小企業に対して補助金や税制を中心とした成長投資の後押しを行ってきたのですが、従来の「中小企業か、大企業か」という二分構造では、中小企業が大企業へと成長するハードルが高く、増資や従業員規模の拡大を躊躇させているのではないかとの指摘がありました。

そこで、大企業と中小企業の間に新たに「中堅企業」という区分を法律上設け、段階的な成長を後押しする政策体系を整備しました。中堅企業は、さらなる成長に向けて、1つの事業を育て上げる経営スタイルから、海外への展開を含め、事業領域の拡大や新たな収益の柱の確立が求められます。組織面でも、ガバナンス力の向上や資本政策、人材の強化といったさまざまな面から打ち手を講じていく必要があります。

政府は2024年を「中堅企業元年」とし、中堅企業の成長支援を強化しています。

池尻:賃上げをはじめとした人への投資が重視される中で、中堅企業に対する期待についてはいかがでしょうか。

青木氏:中堅企業には、地域経済を支える存在として、賃上げや雇用創出の担い手としての役割が期待されています。高市政権においても「強い中堅企業」の創出を掲げ、1者当たり最大50億円規模の補助金やM&A支援などを通じて成長を後押ししています。

また、半導体や造船といった政府が掲げる戦略17分野においても、中堅企業はサプライチェーンの中核を担う重要な存在です。ぜひ、各種施策を活用し、日本経済の成長の中核として、さらなる発展を遂げていただきたいと考えています。

M&Aを加速する税制拡充 ― 非連続な成長を実現する仕組みとは

池尻:中堅・中小企業の成長手段として、M&Aの重要性が高まっています。2024年度の税制改正により、従来の「中小企業事業再編投資損失準備金」を拡充し、「中堅・中小グループ化税制」が導入されましたが、その概要とメリットについて教えてください。

青木氏:本制度は、企業がM&Aで株式を取得する際、その取得価額の一定割合を損金算入できる仕組みです。将来的に、一定期間を経た後、益金として戻す前提ではありますが、課税の繰り延べにより、一時的なキャッシュ・フローを改善し、企業の成長投資を促進する効果があります。

池尻:今回の税制改正によって、どのような点が拡充されましたか。また、中堅企業の取り組みにおいて期待することがあれば教えてください。

青木氏:拡充ポイントとしては、大きく2点あります。まず、据置期間が従来の5年間から10年間へと延長されました。次に、以前は積立率が株式取得価額の70%でしたが、改正後は初回が90%、2回目以降は100%へと引き上げられています。制度を繰り返し活用することで、損金算入割合が拡大し、より大きな税務メリットを得られる設計です。

そのため、特に「ロールアップ戦略」を推進する企業にとって、M&Aを継続的に進める上で強力な後押しとなる仕組みとなっています。この税制を活用いただき、非連続な成長を実現していただきたいと考えています。

出典:経済産業省
出典:経済産業省

池尻:今回の拡充枠では「特別事業再編計画」の認定企業が対象となっています。複数の中小企業の子会社化によって経営を効率化したり、親会社の強みである横展開を図ったりする企業が認定企業に当たるかと思いますが、計画策定に当たって重視されるポイントを教えてください。

青木氏: 計画策定に当たって重視しているのは、「革新性」の観点です。単に既存事業の延長線上にある買収計画ではなく、事業者にとって何らかの革新性が認められる計画であることを重視しています。新しい事業を始めることのみでなく、調達フローや販売フローの整備といった、事業の仕組みをアップデートすることも含めています。これは、先に述べた「日本経済の成長の中核として、さらなる発展を期待する」という考えに基づき、新しい事業・新しい挑戦を後押ししたいという意図からです。

また、M&Aを通じてどのようなシナジーを創出し、企業価値をどのように高めていくのかを具体的に示すことも求めています。

制度活用の現状と今後の対象企業 ― 支援者との連携が鍵に

山先:制度活用が進んでいる業種や企業像について教えてください。 

青木氏:中堅企業および成長志向の中小企業を中心に活用が進んでいます。業種としては幅広いものの、特に運輸業や建設業での活用が多く、最近では情報通信分野でも広がりを見せています。今後も成長志向が強く、国内投資や雇用創出に積極的な中堅企業には数多く活用いただきたいと考えています。中堅企業は全国に約9,000社あり、その多くが地方に所在しています。地域経済の担い手として波及効果も期待できると考えています。

また、現在は中小企業でも、将来的に中堅・大企業への成長を目指す、意欲のある中小企業にも、本制度を通じてM&Aによる規模拡大を進めていただきたいと考えています。 

出典:経済産業省「認定実績2026年4月時点」(2026年4月)
出典:経済産業省

山先:制度の理解や運用には、支援者の存在も重要だと思います。どのようなサポートを想定されていますか。

青木氏:おっしゃるとおり、支援者の存在は極めて重要です。第一に、税理士の皆様です。顧問先の企業の成長戦略を支援する立場から、「ロールアップを進めるならこの税制を活用できる」と、本制度を提案していただきたいと考えています。また、M&A 仲介事業者には、特に譲受企業への制度紹介を進めていただきたいと考えています。

さらに、ベンチャーキャピタルやインキュベーションファンドなどにも訴求していきたいですね。このような支援者は成長意欲の高い経営者との接点を持つことが多く、制度の有効性を理解していただきやすい。こうした多様な支援者との連携が、制度活用拡大の鍵になると考えています。 

2030年に向けた成長ビジョン ─ KGI・KPIで可視化する政策目標

池尻:最後に、本制度を含む施策全体として、経済産業省が目指す姿についてお聞かせください。 

青木: 政府は2025年2月に「中堅企業成長ビジョン」を策定し、2030年に向けたKGI・ KPI を設定しました。 

KGIとしては、中堅企業が年率4%以上の成長を実現することを掲げています。これは、日本全体の 2030年以降の経済成長目標の約4倍に相当します。現状の中堅企業の実質成長率 0.7%から、大幅な引き上げを目指すものです。

KPI は 3点あります。1つ目は、中堅企業の約 1割強に当たる 1,000 社以上が労働生産性を平均 10%以上向上させること。2つ目は、中堅企業によるM&A 件数を年間 1,000件以上へと倍増すること。3つ目は、中堅企業数を現在の約9,000社から 2,000 社増加させることです。

中堅企業ともなると、経営拡大を図る際に、外部資本の活用やM&A、100億円規模での大胆な投資も選択肢となってきます。先ほど触れていただいた中堅補助金によって大規模な成長投資を促すほか、政府系ファンドによる出資や、この「中堅・中小グループ化税制」を通じたM&Aの活性化によって、中堅企業の成長の節目となる局面の経営判断を後押ししていきたいと考えています。

池尻:中堅企業の存在感を高め、日本経済全体の底上げにつながる取り組みですね。われわれEYも多くの中堅企業の経営支援に取り組む中で、ぜひサポートしたいと考えております。「中堅等大規模成長投資補助金」に加え、本税制の活用を通じて中堅企業の非連続な成長を後押しし、日本産業の競争力強化に貢献してまいります。本日はありがとうございました。

中小企業庁「中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)」
www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/shigenshuyaku_zeisei.html

向かって左より EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター マネージャー 山先 康義 経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業政策課 課長補佐 青木 辰二 氏 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター パートナー 池尻 能
向かって左より
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター マネージャー 山先 康義
経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業政策課 課長補佐 青木 辰二 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター パートナー 池尻 能



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サマリー 

中堅企業の成長は、日本経済の持続的な発展に向けた重要なテーマです。特に、M&Aを後押しする「中堅・中小グループ化税制」は、非連続な成長と競争力強化を実現するでしょう。EYは、経済産業省の取り組みを支持し、中堅・中小企業の成長促進を通じて、日本経済全体の活性化に貢献していきます。


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