EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
画像診断支援AIは、日本ではすでにPMDAの承認を受けたプログラム医療機器(SaMD)として、実臨床で使用されています。一方で、導入そのものが目的化すると、期待した効果が得られないという課題も、多くの医療機関で共有されています。
特に、
といった期待が先行した場合、実際の運用段階で現場が戸惑い、結果として利用が定着しないケースも少なくありません。病院経営層に求められるのは、どの業務課題に対して導入するのか、またどのような効果を期待するのかを事前に明確にしたうえで判断することです。
効果を把握しやすい領域から段階的に導入し、評価と改善を重ねていくことは、現行制度の前提を踏まえた、実務上も無理のない進め方だといえます。
画像診断支援AIとは、CT、X線、内視鏡などの医用画像を解析し、病変候補の提示や注意喚起を行うソフトウェアです。日本では薬機法上、プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)として位置づけられており、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が有効性・安全性を審査します。
制度上の前提は明確です。
これは、AIの出力が診療行為に影響を与え得る以上、
「技術として正しいか」だけでなく、「臨床現場でどのように使われるか」まで含めて安全性を担保する、という制度思想に基づいています。この前提を、経営層・管理部門・現場医師が共通認識として持つことが、導入後の混乱を防ぐうえで重要です。
PMDAの公表資料によると、日本では内視鏡画像診断、胸部X線、CT画像などを中心に、画像診断支援AIの承認が進んでいます。
これらの領域に共通するのは、次の点です。
これは「用途を限定すべき」という意味ではありません。むしろ、効果を評価しやすい領域から導入し、組織としてAI活用に慣れていくという意味で、現実的な入口になりやすい領域だと整理できます。
① 臨床的価値をどう評価するか
AIが提示する結果の受け止め方は、病院や診療科によって異なります。
そのため、
について、院内で統一した考え方を整理する必要があります。
これは個々の医師の判断に委ねる問題ではなく、医療安全と診療品質に関わる経営判断として整理すべき論点です。
② 運用・責任体制と患者対応
同指針では、画像診断支援AIの使用に際し、
が求められています。
これは、AIを「便利なITツール」として扱うのではなく、医療機器として継続的に管理する対象と捉える必要があることを意味します。
また、患者への説明を行うかどうか、行う場合の内容についても、事後対応ではなく、導入段階で院内方針を定めておくことが望ましいとされています。
③ 費用対効果をどう位置づけるか
多くの画像診断支援AIは、導入・利用そのものによって新たな診療報酬を直接生むものではありません。一方で、ライセンス費用や保守費、システム連携・運用管理に係るコストは継続的に発生します。そのため、画像診断支援AIは「投資すれば自動的に収益が上がるツール」ではなく、費用が発生する前提のもとで、どの価値を院内として優先するかを判断する対象として位置づける必要があります。
このときの判断軸は、単純な収益性ではなく、
といった、定量化が難しいが経営上は無視できない効果を含めて整理されるべきです。
言い換えれば、「AI単体の費用対効果」を問うのではなく、現在の画像診断体制に内在するリスクや負荷に対して、どこまでコストを許容するのかという経営判断の問題として捉えることが重要です。
(補足:診療報酬制度上の位置づけ)
一方で、令和6年度診療報酬改定により、画像診断管理加算3・4の施設基準において、「人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理」が明記されました。
これは、AIが診療報酬上の「成果物」として評価されたというよりも、高度な画像診断体制を構成する前提条件の一部として制度上に位置づけられたと理解するのが適切です。
すなわち、画像診断支援AIは「使えば点数が取れる技術」ではなく、一定水準の診療体制を維持・説明するために求められる環境整備の一要素として、今後ますます経営判断の俎上(そじょう)に載る存在になりつつあると整理できます。
出所:厚生労働省保健局医療課「令和6年度診療報酬改定の概要【医療技術】」(令和6年3月5日)
画像診断支援AIの活用は、現時点では主に個別病院内での運用を前提としていますが、将来的にはその活用範囲が院内にとどまらない可能性も考えられます。
例えば、地域医療全体の視点に立った場合、画像診断支援AIは、医療の質の担保や医療安全の底上げといった目的に資する技術として位置づけられる余地があります。
具体的には、
といった観点で、画像診断支援AIが活用される可能性は一つの方向性として考えられます。
もっとも、画像診断支援AIを地域医療全体でどのように活用するかについて、現時点で明確に制度化・方針化された政策は存在していません。そのため、こうした活用像は、あくまで将来的な可能性の一例として捉える必要があります。
重要なのは、現行制度の範囲内での実務的な導入判断と、将来を見据えた技術の位置づけを混同しないことです。
画像診断支援AIは、短期的には各医療機関の診療体制や医療安全を支えるツールでありつつ、中長期的には、地域医療の持続性や質を支える基盤技術の一部として発展していく可能性を持つ──そのような視点で整理することが、現実的かつ建設的な理解だと考えられます。
画像診断支援AIは、日本ではすでに実装段階に入っています。
一方で、その導入効果は、技術そのものではなく、目的設定・運用設計・組織的合意形成によって左右されます。
病院経営層に求められるのは、短期的な効率化ではなく、中長期的な医療安全と診療体制の持続性を見据えた判断です。
綿貫 万遥
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 シニア
大手医療機器メーカーおよびプロフェッショナルファームでの豊富な経験を基に、医療機関向け病院情報システムの導入支援をはじめ、医療分野に関する省庁へのコンサルティングを実施。
画像診断支援AIの制度的位置づけと導入判断の前提を整理。病院経営層が誤解しやすい論点と運用設計の考え方を解説します。