災害時の情報伝達手段の多重化──通信・放送の冗長性を生かす運用のポイント

災害時の情報伝達手段の多重化──通信・放送の冗長性を生かす運用のポイント


止まるのは回線ではなく、社会基盤そのものです。情報通信インフラが途絶すれば、機能不全は連鎖的に拡大します。その途絶を防ぐ鍵が、多重化と運用にあります。


共同執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスクコンサルティング パブリックアジェンダ
ディレクター 稲垣 智子
マネージャー 友部 勝文



要点

  • 災害リスクの本質は、インフラ被害が社会・経済活動の停止へ連鎖する点にある。情報が止まれば、すべてが止まる。
  • 災害対応を真に機能させるためには、機器整備にとどまらず、情報伝達手段の多重化や運用設計まで踏み込む必要がある。「装備」と「運用」の間にギャップがあり、対策が必要本稿では、ギャップ解消のためのポイントを考察する

なぜ、災害時の情報伝達手段を考えることが重要なのか

令和6年能登半島地震では、道路や電力等の被害に加え、携帯電話各社において停波が報告されるとともに、地上基幹放送局やケーブルテレビ事業者においても停波を伴う等、情報通信分野でも大きな被害を受けました。結果として、被災地では必要な情報が十分に届かない情報空白が発生し、このような災害リスクに対する対応の必要性が浮き彫りとなりました。

 

情報通信インフラは、携帯電話やインターネットにとどまらず、放送、防災行政無線、交通制御、衛星通信等を含め、社会・経済活動を支える基盤として機能しています。現代社会においては、産業活動、行政機能、個人の生活のいずれにおいても情報通信インフラに強く依存しており、これらの停止は単なる利便性の低下にとどまらず、社会機能そのものの停止を意味します。

 

こうした重要性から、情報通信分野は国民生活および社会経済活動の基盤である「重要インフラ」1の一つとして挙げられており、電気通信事業者や放送事業者は、有事においてもサービスを安定的かつ適切に提供することが求められています。

 

災害対応の観点から見れば、情報通信インフラは単なる情報伝達手段ではなく、

  • 命を守るための避難判断に資する情報提供(警報・放送)
  • 災害対策本部や救助活動現場等での指揮系統を支える情報(通信)
  • 発災後の社会不安を緩和するための正確な情報提供(放送・通信)

などの手段を担う、社会秩序の基盤そのものとなっています。すなわち、状況把握や避難行動といった災害対応の根幹となるプロセスに不可欠な存在となっているのです。そのため、通信が途絶した場合には、避難遅れによる人的被害の拡大や救助活動の遅延・非効率化といった二次的・三次的な被害が連鎖的に発生する事態に陥る場合があります。

過去災害から見えた情報伝達手段の確保における課題

能登半島地震においては、停電や伝送路・道路寸断に加え、地理的制約も重なり、情報通信分野のうち通信インフラの復旧活動は困難を極めました。通信事業者等は、車載・可搬型基地局や移動電源車等を運用、また陸路からの復旧が困難な輪島市の一部沿岸エリアに向けて船上基地局を運用する等により、通信復旧に向けた活動が行われました2

そのような中、通信確保手段として注目されたのが、低軌道衛星通信サービスの活用です。一部の通信事業者はStarlink機器を避難所や医療現場等に提供し、Wi-Fiを通じたインターネット通信に活用しました。3また一部通信事業者では、切断された伝送路の代替としてStarlinkを携帯電話基地局に接続し、通信を復旧させる取り組みが行われました。

一方で、機器を「整備すること」と、それを現場で「使える状態にすること」は別の課題があります。衛星通信サービスを例にすれば、避難所の建物構造に応じたアンテナ配置・配線が必要となることから、能登半島地震における一部避難所では、適切に運用できる人材が不足し、機器が放置される等の課題が生じました。

また、情報通信分野のうち放送インフラについても、地上テレビ・ラジオ放送・ケーブルテレビにおいて停電や伝送路断線等により停波を伴う大きな被害を受けました。これら停波に対する対応例として、衛星放送によって地上テレビ放送を同時再放送し、被災者に必要な情報が届けられました3

一方で、当該放送が行われていることを被災者に対してどのように周知し、必要な情報に接する機会を広げていくか、また、受信環境をどのように整備するかが課題となりました。4

通信および放送インフラ双方の課題に共通するのが、「災害対応として機器を整備するハード対策とともに、それらを『誰が、どこで、どの順番で、何の目的で、どう運用するか』のソフト対策も合わせて行わなければ、ハード対策は十分な効果を発揮しない」ということです。

災害時に情報伝達手段を機能させる3つのポイント

ここまで、災害時に情報伝達手段を有効に機能させるためにはいくつかの課題があることを見てきました。今後、災害時の情報伝達手段の多重化に向けては、どのようなポイントがあるのでしょうか。以下に整理しました。

① 情報伝達手段の効率的な多重化

まずはハード対策として、災害時の情報伝達では、特定の通信手段に依存しない設計が不可欠です。

一般的な避難所を例に情報伝達手段の選択肢を考えると、固定通信・移動通信をはじめ、地上テレビ・衛星テレビ・ラジオ放送、ケーブルテレビ、防災行政無線等が挙げられます。避難者の視点から、関連する機器を見てみると以下の図の通りとなります。


これらの情報伝達手段は、それぞれ到達範囲や耐災害性等の特性が異なるため、単独で準備するのではなく、相互に補完し合う「多重化された情報伝達網」を構築することが肝要です。

一方で、情報伝達手段の多重化は、設置や維持管理等の経済的コストとも不可分であり、すべての避難所に同一水準の設備を一律に整備することが必ずしも最適とは限りません。重要なのは、避難所ごとの役割や想定される孤立リスク等を踏まえ、必要な情報伝達手段を適切に組み合わせることです。

また、避難所となる施設は平時の利用形態が異なるため、平時から使用される通信環境や放送設備を災害時にも活用できる形で整備しておくことが効率的と言えます。平時の業務や地域活動で使われるような情報伝達手段であれば、経済的コストの観点で効率的になるだけでなく、日常的な点検や操作習熟が進みやすく、円滑に運用できる可能性が高まります。


② 機器整備と運用能力の一体強化

災害時の情報伝達手段は、機器を整備しただけでは十分に機能しないため、運用能力を高める施策と一体的に行う必要があります。

衛星インターネットや放送受信環境の切り替え等は、設置から運用手順までが明確でなければ、緊急時に活用できない恐れがあります。特に被災直後は、避難所における情報伝達手段の確保担当者も混乱の中にあり、平時に使い慣れていない機器を即座に扱うことは容易ではありません。

そのため、操作手順や連絡系統をマニュアル化するだけでなく、平時の防災訓練の中に情報伝達手段の確保に関するプログラムを組み込むことが重要です。これは通信途絶や避難所の孤立等を想定し、対象機器の起動、環境の確認、避難者への情報掲示、自治体の災害対策本部への報告といった一連の流れを実際に確認しておくものとなります。

また、避難所の運営は自治体職員だけで完結するものではなく、自主防災組織や施設管理者等、多様な関係者によって支えられます。大規模災害時には、自治体職員も被災者となり得るうえ、災害対応業務が集中するため、現場では人手が圧倒的に不足することを前提にしなければなりません。したがって、情報伝達手段の運用は特定の担当者に依存させず、さまざまな関係者が平時から役割を共有し、最低限の運用ができる体制を地域全体で備えておくことが求められます。

加えて、自治体は自らの体制整備とともに、国等が提供する通信・デジタル分野の災害対応支援制度を積極的に活用する視点も重要です。

  • 総務省では、災害時テレコム支援チームによる被災地ニーズの把握や通信確保調整、通信機器の貸与、臨時災害放送局の開設支援等が行われています。さらに、能登半島地震対応を踏まえ、激甚災害時の通信確保と被災状況収集を官民連携で対応する体制である「通信復旧支援士制度(仮称)」の検討も進められています5
  • デジタル庁では、大規模災害時に被災都道府県の災害対応をデジタル面から支援する災害派遣デジタル支援チーム「D-CERT」が創設されており、被災地のニーズに基づくデジタル支援メニューの提案や具体化を行う枠組みが整えられています6
  • 一般社団法人情報支援レスキュー隊が行う「IT DART」は、災害時に情報の収集・活用・発信を支援しており、能登半島地震や令和6年奥能登豪雨では通信環境提供に関する簡易設置マニュアル作成、デジタルサイネージの情報更新、ボランティア募集情報の整理・発信等の支援が行われました7


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③ 新技術を継続的に取り込むための仕組みづくり

通信に関わる技術は日進月歩で進化しており、能登半島地震における衛星インターネットをはじめ、災害対応に活用できる手段も時代とともに進化しています。そのため、新たな技術や機器の活用は、平時から継続的に行うことが重要です。

まずはポイント②で示した通り、自治体が定期的に実施する防災訓練の中に、情報伝達手段の確保を明確な訓練項目として組み込むことが期待されます。訓練では、単に機器を触ってみるだけではなく、災害時に通信確保が行えるよう、具体的な災害リスクをシナリオ化したうえで、機器の設置から運用までの一連の流れを確認します。

さらに、災害対応の改善には、他自治体の取り組みから学ぶ姿勢も欠かせません。先進的な自治体が実施している訓練等の事例は、地域実情との適合性が確認された場合は、速やかに取り入れることで、対応力の向上につながります。そのためには、各自治体の事例を集約し、分かりやすく発信するとともに、自治体間等で継続的に情報連携できる仕組みを整えることが重要です。


技術の進展、地域の変化、過去災害の教訓を踏まえながら、訓練および改善を循環させることが、情報伝達手段を「いつでも使える状態」に保つ鍵となります。

ポイント②③は、単に機器を整備するハード対策だけでなく、それらを「誰が、どこで、どの順番で、何の目的で、どう運用するか」のソフト対策です。この点にこそ、実装上の大きなギャップが存在しており、自治体や国による各種取り組みが不可欠です。われわれは、まさにこの「技術を導入する」段階から「災害時に実際に機能させる」段階への橋渡しを支援しており、情報インフラの多重化を実効性ある備えへと転換する領域に取り組んでいます。

おわりに

災害時の情報伝達は、被災者の安全確保、救出・救助活動、避難所運営、ライフライン・インフラ等の復旧活動等、災害時における地域の安心を支える基盤です。能登半島地震は、通信・放送を含む情報通信インフラが途絶した際に、情報空白が被災地の不安と混乱を大きくし得ることが改めて確認されました。

今後は、通信や放送等の情報伝達手段を多層的に組み合わせるとともに、避難所の役割や施設特性に応じた実効的な体制を整えることが求められます。

そのため、機器やマニュアルの整備にとどまらず、平時の防災訓練や国・専門団体等による支援制度の活用を通じ、非常時に実際に使える運用力を高めていく必要があります。

平時からの備えと連携を積み重ねることが、次の災害における情報空白を最小化し、情報伝達基盤の実効性を高める鍵となります。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は今後も、情報伝達手段の多重化、それを機能させる運用強化の取り組みを通じ、真に機能する災害対応の実現に貢献してまいります。


  1.   内閣官房「内閣サイバーセキュリティセンター 重要インフラ 関係規程集」、www.cyber.go.jp/pdf/policy/infra/kitei.pdf(2026年6月3日アクセス)
  2.   総務省「令和6年度版 情報通信白書」、www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n1120000.pdf(2026年6月3日アクセス)
  3.   NHK広報局「能登半島地震に伴う衛星放送活用の臨時対応の拡充について」、www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2023/20240111.pdf(2026年6月3日アクセス)
  4.   総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会 広域大規模災害を想定した放送サービスの維持・確保方策の充実・強化検討チーム」、www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index06.html(2026年6月3日アクセス)
  5.   総務省「令和6年能登半島地震対応の経験等に基づく災害時の通信確保に向けた検討」、www.soumu.go.jp/main_content/000994798.pdf(2026年6月3日アクセス)
  6.   デジタル庁「災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)」、www.digital.go.jp/policies/disaster_prevention/d-cert(2026年6月3日アクセス)
  7.   一般社団法人 情報支援レスキュー隊(IT DART)、https://itdart.org/(2026年6月3日アクセス)




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サマリー 

災害時の通信確保には、情報伝達手段の多重化に加え、避難所で使える運用手順・人材育成・訓練の整備が重要となります。


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