周波数ひっ迫リスクにいかに対峙するか ~周波数有効利用促進に向けて~

周波数ひっ迫リスクにいかに対峙するか ~周波数有効利用促進に向けて~


衛星通信・HAPS、V2X、ドローン等の新技術の発展により、無線通信が社会インフラとしての重要性を増す中、周波数のひっ迫リスクが顕在化し、有効利用に向けた再設計と実行が求められています。


共同執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスクコンサルティング パブリックアジェンダ
ディレクター 稲垣 智子
マネージャー 友部 勝文
シニアコンサルタント 田丸 紗都美



要点

  • 周波数需要の急増により資源制約が深刻化し、有効利用の必要性が高まっている。
  • 移行・共用・デジタル化、新技術導入を一体的に進めることが今後の主要な方向性となる。
  • 実行には課題・論点整理、調査・分析、実証の一体推進が鍵であり、分断解消が重要である。


なぜ今、周波数の有効利用が重要なのか

電波は、携帯電話、放送、防災、交通、衛星通信など、社会や産業を支える基盤です。一方で、同じ地域で同じ周波数を重ねて使用すると混信が生じるため、公平かつ能率的な利用が必要です。総務省はこうした前提のもと、周波数を「有限希少な資源」と位置づけ、周波数再編アクションプランを毎年度見直し、公表しています1

実際、携帯電話などの無線局の増加や新たな無線システムの高速化に伴って周波数需要が拡大しており、携帯電話等の通信量は直近3年で1.6倍、直近1年でも約1.1倍に増加しています2。つまり、今後は単に新たな帯域を確保するだけでなく、既存資源をどう再設計し、どう効率的に使うかが重要になります。

周波数利用はどのように変遷してきたのか

周波数の有効利用は、これまでも技術革新や社会ニーズの変化に応じて進められてきました。例えば、公衆PHSサービスの終了を踏まえた1.9GHz帯の有効利用3、アナログテレビ放送から地上デジタル放送への移行4、さらに4.9GHz帯における既存システムの移行と5G向け利用5等は、限られた周波数をより高付加価値な用途へ再配分してきた代表例です。

また、移動通信は、音声中心の通信から、データ通信、映像配信、IoT、AI活用へと用途が拡大しており、周波数に求められる役割も「つながるための基盤」から「社会・産業活動を支えるデジタルインフラ」へと変化しています。

周波数利用はどこへ広がるのか

今後の周波数利用は、陸・海・空・宇宙を包含する統合的なワイヤレスネットワークへ広がっていくと考えられます。

陸上では、自動運転やスマート物流、スマート農場、IoTなど、産業・生活の高度化を支える通信基盤として電波利用が広がっています。空の領域では、ドローンや空飛ぶクルマ等の普及に伴い、機体制御や画像伝送のための上空利用ニーズが高まっています。また、海上・山間部・離島・宇宙領域では、HAPSや衛星通信などの非地上系ネットワーク(NTN)が、地上系ネットワークを補完する手段として期待されています。6

さらに、災害時には、携帯電話基地局の強靱化、衛星回線、移動通信機器、HAPS等を組み合わせることで、通信途絶リスクを低減することが重要になります。周波数利用は、平時の利便性を支えるだけでなく、非常時の通信確保や社会の強靱性を支える基盤へと役割を広げています。

このように、周波数利用は「人と人をつなぐ通信」から、「人・モノ・空間・社会インフラをつなぐ通信」へと進化しています。今後は、電波を「どこでも、手軽に、スピーディーに、いつでも」使える環境を整えながら、限られた周波数資源をいかに有効に再設計するかが問われます。

7

今、何を進めるべきか

こうした状況を踏まえると、もはや「空いているところを使う」という発想だけでは十分ではありません。今後は、周波数帯域を「空ける(移行)」、「分け合って使う(共用)」、「効率性を上げる(技術の活用)」という発想が必要となります。つまり、①周波数の移行・共用・デジタル化等を進めることと、②周波数を有効利用するための新しい技術を導入することの両面を同時に進めることではないでしょうか。

総務省の技術試験や研究開発でも、その方向性は明確です。例えば、周波数ひっ迫対策技術試験事務では、ナロー化、デジタル化、周波数共用、高周波数帯の有効利用などが重点テーマとされています8。加えて、26GHz・40GHz帯の再編に向けた調査、公共用無線局のデジタル化、HAPSやV2Xに関する技術的検討も進められています9

お問い合わせ

より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


また、制度面でも、4.9GHz帯では既存システムの移行を進めながら5G向け利用を進める終了促進措置が実施されています10。これは、周波数の有効利用が単なる技術開発ではなく、制度設計や関係者調整まで含めた実行テーマであることを示しています。

さらに、効率的なネットワーク整備の観点から、インフラシェアリングの活用も重要になっています。総務省は、5Gの導入に当たり、基地局の小セル化・多セル化が必要となる一方、鉄塔やビル屋上等の設置場所には制約があることから、鉄塔等の設備を複数事業者間で共同利用するインフラシェアリングが、これまで以上に重要になると整理しています。11携帯電話事業者においても、インフラシェアリングを活用した取り組みが進んでいます。例えば、KDDIとソフトバンクは、5G JAPANを通じて基地局資産を相互利用する取り組みを進めており、2024年5月には、対象を地方から全国へ拡大し、5Gに加えて4Gの基地局資産の相互利用も検討することに合意しました。12こうした取り組みは、基地局整備やエリア展開の効率化を通じて、限られた設備・周波数資源を有効に活用する動きの一つといえます。

持続可能な電波利用に向けて

一方で、実務の現場では、こうした方向性が分かっていても、すぐに動けるとは限りません。大きな要因の一つは、既存の利用実態を正確に把握できていないため、どの周波数帯で、どのような打ち手を取るべきかが見えにくいことです。周波数の再編や共用は、制度、技術、運用、費用等の論点が複雑に絡み合うため、断片的な情報だけでは実行可能な方策に落とし込みにくいのが実情です。

また、新しい制度や技術を導入したい場合でも、制度面の整理、運用設計、費用の考え方、関係者との調整等が追いつかないことが少なくありません。

つまり、周波数ひっ迫リスクに立ち向かい、周波数を有効利用するための課題は「技術がないこと」ではなく、課題・論点整理、調査・分析、実証が分断されやすいことにあると考えられます。

限られた周波数資源を、将来にわたって社会全体で有効に活用していくためには、将来の利用シーンを見据えた実行可能な道筋を描くことが重要です。周波数の有効利用は、通信政策上の課題にとどまらず、デジタル社会の成長、地域の強靱化、災害対応力の向上を支える基盤的なテーマになっているのです。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は今後も、周波数の移行・共用・デジタル化、新規技術活用に向けた支援を通じて、持続可能な通信インフラ整備と、無線通信のさらなる高度利用に貢献してまいります。


  1. 総務省「周波数再編アクションプラン(令和7年度版)の公表」、www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000563.html (2026年5月21日アクセス)
  2. 総務省「電波資源拡大のための研究開発の実施」、www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/purpose/kenkyu/(2026年5月21日アクセス)
  3. 総務省「電波法施行規則及び無線設備規則の一部を改正する省令案 (2023年9月22日 諮問第22号)」、www.soumu.go.jp/main_content/000903346.pdf(2026年5月21日アクセス)
  4. 総務省「放送用周波数の割当ての現状」、www.soumu.go.jp/main_content/000530382.pdf(2026年5月21日アクセス)
  5. 総務省「携帯電話の基地局整備等について」、www.soumu.go.jp/main_content/000991787.pdf(2026年5月21日アクセス)
  6. 総務省「令和6年版 情報通信白書」、www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd223420.html(2026年5月21日アクセス)
  7. 下記を参考にEYにて作成
    総務省「最近の電波利用の動向について」、www.soumu.go.jp/main_content/001001891.pdf(2026年5月21日アクセス)
    総務省「WX(ワイヤレストランスフォーメーション)推進戦略 ~ ワイヤレスサービスにより創造性と多様性が発揮される社会にするために ~」、www.soumu.go.jp/main_content/000964330.pdf(2026年5月21日アクセス)
    総務省「社会環境の変化に対応した電波有効利用の推進の在り方について」、www.soumu.go.jp/main_content/001001711.pdf(2026年5月21日アクセス)
    総務省「周波数再編アクションプラン(令和7年度版)」、www.soumu.go.jp/main_content/001042686.pdf (2026年5月21日アクセス)
  8. 総務省「周波数ひっ迫対策技術試験事務」、www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/purpose/tectest/(2026年5月21日アクセス)
  9. 総務省「周波数再編アクションプラン(令和7年度版)」、www.soumu.go.jp/main_content/001042688.pdf(2026年5月21日アクセス)
  10. 総務省「4.9GHz帯の周波数再編のための終了促進措置」、www.tele.soumu.go.jp/j/adm/system/ml/mobile/4900/index.htm(2026年5月21日アクセス)
  11. 総務省「移動通信分野におけるインフラシェアリングに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」、www.soumu.go.jp/main_content/000830467.pdf(2026年5月21日アクセス)
  12. KDDI「KDDIとソフトバンク、5Gネットワーク共同構築の協業範囲を拡大」、newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_nr_s-2_3337.html(2026年5月21日アクセス)
 




お問い合わせ
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


サマリー 

周波数需要の増加により枯渇リスクが高まる中、移行・共用・デジタル化、新技術導入による有効利用を促進し、論点整理から実証まで一貫した実行が重要となります。


ニュースリリース

EY Japan、携帯電話の電波が届かない地域におけるWi-Fi HaLowを活用したドローンサービス実証を支援

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、総務省が行う令和6年度「地域デジタル基盤活用推進事業」の実証事業として、広島県神石郡神石高原町(じんせきこうげんちょう)で「中山間地域のLTE不感エリアにおけるWi-Fi HaLowを活用したドローンサービス実証」を実施したことをお知らせします。



この記事について