EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
⽇本においても、社会全体で急速にDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進んでいます。⼤学にとってもDX改⾰は関⼼の⾼いテーマであり、少⼦⾼齢化による学⽣数の減少、グローバル化による競争の激化など、多くの課題を抱えています。法政⼤学のDXを推進する⾦井教授に、⼤学DXの現状と課題について、EY Japan 教育セクターリーダー / EY新⽇本有限責任監査法⼈ パートナーの濵⼝慎介がお話を伺いました。
濵口:法政大学では、デジタルはどのような役割を担っているのでしょうか。
金井氏(以下敬称略):法政大学では、DXの1つとして学習支援システムを導入しています。教材の配布や小テストの実施、授業に関する連絡等は、学習支援システムを介して行っています。
システム増強のきっかけは、新型コロナウイルスの流行でした。学生が自宅からオンラインで受講できるように設備投資を行い、対面とオンラインを併用したハイフレックス授業を可能にするためにネットワーク環境を増強し、今に至ります。
濵口:大学では授業にオンラインで参加する学生もいれば、リアルに教室で参加する学生もいますね。法政大学の場合、日本の各地域から進学する方、社会人など「オンラインの方がいい」という場合も多いと思います。もちろん、18歳で高校を卒業して入学して、通常のキャンパスに通いたい学生もたくさんいらっしゃると思います。対面とオンラインの併用は、学生の多様なニーズを満たすことにもなりますね。
金井:大学としてはキャンパスに来てほしいというのが本音です。しかし、オンライン授業はすでにニューノーマルとなっており、この先、完全な対面授業に戻ることはないでしょう。逆にそのような環境を活用して、学生たちがより使いやすく、より学びやすい環境をDXで実現したいと考えています。
例えば、現在、学生証をかざすことで出欠を記録したり、課題を出したりできる授業支援システムがありますが、そのシステムは成績管理システムとはつながっていません。また、学生自身が自分の学習のポートフォリオをまとめて確認でき、出席率や成績などの情報を一元管理できるシステムがあれば、非常に有用でしょう。また、ディプロマポリシーに対する到達度を可視化し、必要な科目の組み合わせを支援できるようなシステムも検討中です。
濵口:学生が4年間でどの授業が必要なのか、各年度でどこまで習得して、どうすれば改善できるか、というのが見てわかるようになるというわけですね。研究面でもデジタル活用は推進しているのでしょうか。
金井:システムの一元化は、当然ながら研究面でも必要です。将来的には、研究者の管理業務を減らし、より研究に集中できるような環境づくりを実現したいと考えています。すでに事務の現場では、電子決済システムの導入や職員のテレワーク環境の整備を行っています。
このようなさまざまなシステムを安定的に安全に提供する基盤として、セキュリティインシデント対応を行うシーサート(CSIRT)も設置しています。
濵口:DX化において、苦労されている点があれば教えてください。
金井:大学には教育部門と研究部門がありますが、それぞれが縦割り構造になっており、横の連携が取れているとは言い難いのが現状です。法政大学でも、これまでDXに向けてさまざまな努力をしてきましたが、それぞれの部門が個別に展開をしていました。
しかし、DXにおいて最も重要なことは、教育や事務、研究支援などを単にデジタル化することではなく、組織を超えた横のつながりを強化し、効率化していくことです。そこで法政大学でも、コンセプトを共有しながら一丸となってDXを推進することになりました。それが、現在策定に向けて動いているICT基本戦略です。
濵口:大学は横の連携が弱いという話は、私も時々耳にします。DX化にあたり、どう連携を進めていけばよいのでしょうか。
金井:縦割り組織で最適化を考える文化が強い現状で、横の連携を取っていくことは容易ではありません。特に大学の場合、教員と職員が明確に分かれており、勝手に動けば軋轢が生まれてしまいます。何かをつくるために他の組織が絡むことになった場合でも、面倒だと諦めることなく、横のつながりをつくっていく粘り強さが必要です。
法政大学には現在15学部ありますが、ICT事業に関しては各部、各校地に委員会を設け、そこで出た意見を集約する機関として、総合情報センター運営委員会を設置しています。いろいろな方の意見をまとめて、より良い方向にベクトルを定めながら、合意を得つつ進めていくことが求められていると考えています。
濵口:これまで法政大学がDX化で実現したいことや基本的な戦略を教えていただきました。それを実現するにあたっての課題や挑戦についても教えていただけますか。
金井:DXを推進していくための課題は、主に3つあると考えています。
1つは人材です。ICT技術を持った人材を育成するのか、業務委託するのか。いずれにしても、人材がいなければシステムを開発することも運用することもできません。法政大学では常に知識をアップデートできるよう、業務委託業者との連携を図りながら、その分野に特化した専門的人材の育成を見据えた組織づくりを検討しています。
また、ICT技術を教育に生かす研究を行っている「情報メディア教育研究センター」の力も借りて、研究成果を運用に取り入れていきたいと思っています。
2つ目は資金です。主に学費で運営されている大学は民間企業と違い、投資できる額は多くありません。その中でいかにDX化を進めていくかは非常に難しい課題と言えるでしょう。
3つ目が、前述した縦割り文化です。大学は、どうしても組織ごと最適化してしまう風潮があります。組織横断的に横串を刺して連携を取ることは、効率化を推し進めていく際に避けては通れない課題です。組織間でしっかりとコミュニケーションを取り、全体を統括するような組織体系や風土を醸成しなければなりません。
濵口:民間企業とは異なり、大学では人材や資金面の確保が難しいこと、また縦割り文化が大きな課題というわけですね。まさに大学ならではの課題という印象ですが、現行の大学の組織体制で、この3つの課題を解決することはできるのでしょうか。
金井:現状の組織でやり繰りするだけでなく、やはり変革を行うには新しい組織が必要だと考えています。
民間企業には法務部門や知財部門がありますが、法政大学にはなく中の組織で機能を果たしています。また、民間の研究所にある企画部門のような明確な組織はなく、研究の推進や支援が不足していると感じています。新しい組織の構築、また既存の組織の強化に取り組みたいですね。
濵口:最後に、DXを推進する大学のリーダーに向けて、メッセージをお願いします。
金井:ICTは非常にお金がかかります。大学では、企業のように先行投資というわけにはいかず、拡大再生産もできません。そこにどう折り合いをつけながら進めていくか。悩みながらDXに向き合っている大学はとても多いのではないでしょうか。
限られた財源の中で投資効果を最大限発揮するには、何を優先すべきか、常に取捨選択していくことが求められます。そのような意味でも、共通の戦略に基づく全体的な運用が重要であると考えております。また、外部資金獲得等の研究資金の増大も重要と考えています。
法政大学はDXを進めるにあたり、同規模他私大との会議などで情報交換も行っています。将来的には、地域社会や行政と連携しながら、DXを推進することも視野に入れ、改革を進めていきます。
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大学DXを推進していくためには、人材の育成や資金の調達、そして組織の横の連携を強化していくことが求められます。効率化するには、現在、個別になっているシステムを一元化することが欠かせません。そのためにも縦割り組織に固執せず、全体を統括するような組織体系や風土を醸成する必要があります。