EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
大学におけるデジタルトランスフォーメーションを成功に導きたいのであれば、リーダーはこれまでの取り組み方を変える必要があります。その最適な方法は、デジタルトランスフォーメーションの中心に人を据えることです。
前回のレポート、大学変革の土台となるのはテクノロジーの導入か?人を中心に据えたアプローチか?では、既存のデジタル化戦略に関する多くの課題が挙げられ、大学が学生や教職員の期待に応えられていない現状が明らかになりました。
しかし、その中で前向きな考察もありました。2022年にEYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールが複数の業界を対象に行った調査では、トランスフォーメーションの成功モデルを特定しました。それは、6つの主要な対応に沿って、人を中心に据えるアプローチであり、変革を成功に導く可能性を格段に高めることができます。このうちのいくつかを採用するだけでは成功を収めることができませんが、6つのすべてをうまく実行すれば、トランスフォーメーションの成功率を2.6倍高めることが可能です。
私たちは、この6つの成功要因という観点から、高等教育機関におけるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みについて、その現状を調査しました。今回のレポートは、EYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールが共同でまとめたレポートの内容と、高等教育機関の教職員と幹部に行った直接インタビューで得た知見に基づいています。
大学の変革においては、従来の大学モデルが、その推進を阻む最大の障害となる可能性があります。多くの大学の組織は細分化、サイロ化されており、個々の学部は、独立した小規模な組織として機能し、学部の垣根をまたいだ取り組みの一元化や調整を必要とする戦略に抵抗する場合もあります。
「変革が1年に1回、場合によっては四半期に1回起き、それが体に染み込んでいる企業等の営利組織とは異なり、大学は変革に非常に不慣れです」とコーク大学(アイルランド)でIT サービスのディレクターを務めるGerard Culley博士は説明します。
この問題を複雑にしているのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に経験した大変動を何とか乗り越えた教職員が、往々にして変革疲れに陥っていることです。今回のフォーカスグループのあるカナダ人参加者は、次のように述べています。「パンデミックを切り抜けたと思ったら、今度は新しいツールについて話していますが、中には、『ちょっと一息つかせてほしい』と言っている人もいます。数年続いたカオスのような状態がようやく終わり、私たちには心を静める時間が必要なのです」
今度は新しいツールについて話していますが、中には、『ちょっと一息つかせてほしい』と言っている人もいます。数年続いたカオスのような状態がようやく終わり、私たちには心を静める時間が必要なのです。
トランスフォーメーションに対する大学の構造的・文化的抵抗と闘うためには、リーダーは変革の中心にいる人たちを常に支援する必要があります。教員や職員のインタビューに基づいて、大学のリーダーが6つの成功要因を強化するための実践的なアイデアをご紹介します。
従来の大学では、組織がサイロ化し、また強固に守られているため、大学全体のトランスフォーメーションの実現を望むリーダーは、他のセクターよりも慎重に取り組みを進めなければなりません。高等教育機関のリーダーがこの問題に対処するには、以下の対応が必要です。
上層部は、ツールがどのようなものかを十分に理解せずに、ブームに乗っかろうとしているように感じます。
デジタルトランスフォーメーションは、リーダーが明確なビジョンを設定し伝え、それを実現する道筋を示すことから始まります。リーダーが賛同を得るために、取るべき対応は以下の通りです。
重要なのは、コミュニティと共に戦略を策定することでした。(中略)テクノロジーについて話すよりも、それがどのようなメリットをもたらすのかという観点からのアプローチが必要です。
デジタルトランスフォーメーションは、創造的で、かなりの労力を要するプロセスであるため、リーダーは、変革の中心にいる人たちに対する精神的な支援に尽力しなければなりません。また、変革が困難を伴うことを認識して、障害となり得る問題について率直に話し、以下の対応を取る必要があります。
フィードバックが求められたとしても、それが考慮されず、結果にあまり影響も与えていないように感じます。
他とは異なる専門性を持つことから、医学や工学、人文科学などの分野では、状況に応じて独自の適応を認める対応が不可欠です。リーダーは、デジタルトランスフォーメーションの目標に沿って、独創的な解決策を考案する自律性を、教職員に持たせる必要があります。そのために、リーダーが取るべき対応は以下の通りです。
デジタルトランスフォーメーションの成否を左右するのは、ビジョンをサポートするテクノロジーへの投資と、それを効果的に使用するための教職員の教育や支援です。教職員がデジタルスキルの訓練だけでなく、デジタルマインドセットを醸成するサポートも受ける必要があることは言うまでもありません。IT組織の場合、事業の「運営」から、「成長」と「変革」の取り組みへと重点をシフトさせることも必要です。カーティン大学(オーストラリア)でCIOを務めるJason Cowie氏は、「必要なのは、有能なだけでなく、正しいイノベーションマインドセットを持つチームです」と述べています。こうしたデジタルマインドセットを育む支援をするために、トランスフォーメーション推進リーダーが取るべき対応は以下の通りです。
必要なのは、有能なだけでなく、正しいイノベーションマインドセットを持つチームです。
デジタルトランスフォーメーションは、大学のさまざまな組織が合流し、つながる未来を後押しするための「川」のような役割を果たすことが求められます。サイロ化した従来の学部や学科全体を横に結ぶつながりを広げ、強化するに当たり、リーダーは以下の対応が求められます。
高等教育機関がデジタルトランスフォーメーションにおいて、より大きな成果を上げるための鍵を握るのは、人材への投資であり、適切なテクノロジーへの投資よりもそれを重視する必要があります。大学幹部は、教員や職員から賛同を得ること、大学全体の連携体制の整備、迅速かつ大規模なデジタル化の推進、精神的なサポートの提供、デジタルスキルとデジタルマインドセットの構築、関係者を定期的に招集し成果の奨励、学びの共有、全員の士気を高め、その勢いを持続させることなどを含め、多くの重要な任務を担っており、これらを遂行することが求められています。
大学がトランスフォーメーションを模索する中、リーダーは教職員の要望とニーズに応える必要があります。具体的には、トランスフォーメーションがもたらす心理面・感情面の影響への理解と支援などが挙げられます。そうすることで、リーダーは、トランスフォーメーションへの取り組みを成功に導く可能性を2~3倍高めることができます。今回のレポートでは、トランスフォーメーションを成功に導くためにリーダーが採用すべき6つの対応を紹介しています。
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DXは職員の負担を減らし、学生の利便性を高めます。しかし、部局ごとに独自の自治がある大学では横のつながりが希薄で、連携を取りにくい状況があります。そのような状況を打開するには、対話の機会を設け、思い描く未来像を共有することが大切です。