Female design professional checking 3D drone in industry
Female design professional checking 3D drone in industry

EY Global IPO Trends Q1 2025

企業がIPO実現に向けた明確な道筋を描くには

ウェブキャストのアーカイブを視聴する:Insights to navigate transformation on your path to IPO。EYの最新のIPO市場レポートのPDFをダウンロードする

世界のIPO市場では、地政学的情勢が著しく変化し、不確実性が高まっているにもかかわらず、調達額が前年同期比で20%増加しました。


要点

  • 主要なIPO市場では、収益性の高いIPOの急増が必ずしも市場の勢いにつながってはいない。
  • 米国の政策転換を受けて世界各国の防衛費が過去最高を更新したことから、航空宇宙・防衛セクターでIPOの機運が高まっている。
  • テクノロジー、金融、ヘルス・ライフサイエンスの各セクターではIPO準備企業が人工知能(AI)を企業の成長戦略を語る上での重要な要素としている。

2025年第1四半期における世界のIPO市場では、2つの主要市場の混乱と、複雑に絡み合う情勢が投資家心理に影響を与え、不確実性の顕著な高まりが見られました。米国新政権の広範に及ぶ政策課題を踏まえると、地政学的/規制的枠組み、貿易/租税政策、移民戦略における構造的転換が起こる可能性があります。こうした構造的転換は、世界全体に機会とリスクの両方をもたらすでしょう。さらに、より費用対効果の高いAIモデルの台頭で競争が激化し、投資家の不確実性が高まっています。

全体として、世界のIPO市場は、2025年第1四半期にレジリエンスを示し、市場の著しい混乱にもかかわらず、件数と調達額が前年同期に比べ増加しました。

主要IPO市場で黒字企業は増えたが、市場の勢いは予想を外れる

2025年第1四半期は、ASEANと日本を除くほとんどの国・地域で、利益を計上した新規上場企業の割合が前年と比べ急増しました。中国本土では、IPOの質を高めるために厳格な規制措置が講じられてきましたが、国・地域を問わず収益性の高い新規上場企業が幅広く増えており、堅調な経済基盤の企業に対する投資家の意欲が依然として高いことがうかがえます。国・地域別に見て、前年同期比で黒字企業の割合が特に急増しているのは、米国とインドで上場した収益性の高い企業です。その背景には、旺盛な需要、価格決定力の強化、効率的なコスト管理があります。


ほとんどの国・地域で金融緩和政策がとられているものの、金利は高止まりしたままです。貿易摩擦や規制の変化、AI関連企業の破壊的な増加で市場の不確実性が高まり、投資家は今まで以上に慎重になり、より堅調で予測可能なリターンを求めるようになっています。IPO準備企業は今や、より優れた財務業績と価値創造を実現する可能性を示すことが必須となっています。

国・地域別で見て、2024年第1四半期と比べて、米国と中国本土のみが2025年第1四半期にIPO初日の平均リターンが3~5%上昇し、現時点のリターンも約10%上昇しています。米国では2025年第1四半期にIPOによるリターンが上昇し続けたにもかかわらず、上場した企業が玉石混交であったことから、利益を計上した新規上場企業は半数に満たず、成長性より価値や安定性を重視する投資家層が浮き彫りとなりました。香港、ASEAN、日本、韓国、欧州、中東、インドなどはいずれも市場が低迷しており、こうした傾向が現時点のリターンにも反映されています。このような状況は、幅広いIPO銘柄が好調なパフォーマンスを示しているのではなく、選別的な回復基調であることを顕著に表しています。

2024年第1四半期は、いくつかの国・地域で、初日のリターンがプラスだった上場企業の割合が、黒字企業の割合を上回りました。しかし、投資家は今、上場企業に単なる収益力以上のものを求めています。2025年第1四半期は、ほとんどの主要な国・地域で初日と現時点、両方のリターンがプラスだった上場企業の割合が、収益性の高い企業の割合を下回りました。

一部収益性の高い企業が割安な公開価格を提示し、慎重な見通しを示唆したことが初期の売り圧力と需要の落ち込みを招き、先般の市場混乱の中、株価は一時期、公開価格を割り込みました。こうした状況は、貿易戦争、インフレリスク、経済リスクなど新たな動きが市場の安定性と投資家の信頼感を損なう中で、収益性の高い企業でさえ、上場後の成功にはIPOの準備を強化する必要性があることを示しています。



「EY Global IPO Trends Q1 2025」全文では、さらに深い分析とインサイトを紹介しています。PDFをダウンロードする


米国の政策転換を受けて航空宇宙・防衛セクターの機運が上昇

かつて成長を阻む要因とされていた政策の不安定性は、今では国家安全保障に不可欠とされる特定セクターの成長の加速要因と見られるようになっています。地政学的脅威の高まりを受けて、米国に加え、アジア(インドを含む)、欧州、中東諸国では防衛費が増加しています。

航空宇宙・防衛関連企業は民間資本市場で着実に成長しており、資本基盤の拡大を図るため、公共資本市場にも目を向けています。現在民間セクターにおける防衛関連企業は3,400社強あり、そのほとんどがベンチャーキャピタル(VC)の支援を受けていますが、プライベートエクイティ(PE)企業から資金提供を受けている企業の方が、一般的にバリュエーションの中央値が著しく高いのが現状です。また、当セクターでは約90社がIPOの準備を進めており、10社以上がIPO申請中で、300社以上がすでに上場しています。IPO準備企業90社のうち、半数以上が米国でのIPOを目指しており、クロスボーダー上場を目指す大半の企業は欧州に拠点を置く企業です。

当セクターの上場件数はこの3年間で着実に増えており、米国で昨年上場したStandardAero Inc.などの超大型IPOをはじめ、2022年以降はIPO調達額も急増しています。

政策の追い風と市場の勢い、バリュエーションの上昇が重なって、当セクターの構造が大きく変わりつつあり、事業拡大と資金調達活動の活発化を図る大きな機会が生まれています。最近の市場の大混乱をよそに、当セクターでは上場活動が活発化し、さらなる事業拡大とイノベーションに必要な資金調達が進むことが予想されます。


AIがIPO環境を変革する中、企業はAIを活用した成長を巡る競争を加速

ビジネス界ではAIが変革の原動力となり、企業の成長軌道に大きな影響を与えています。これは特にIPOの準備を進める企業で顕著になっています。業務の効率化から市場戦略の見直しまで、AIのビジネスモデルへの組み込みが、企業による株式公開準備と株式公開の進め方を再定義しつつあります。

AIを活用することが予想される銘柄に魅力を感じる個人投資家は増えています。特に人気があるのは、AIの活用で新たな収益機会を生み出している銘柄です。例えば、生成AIは、広告の作成やカスタマーエクスペリエンスのパーソナライゼーションにより、メディア/マーケティング関連分野で新たな収益を生み出しています。フィンテック関連の新規上場企業は、取引やリスク評価にAIを活用して、利益率の高い成長を加速させ、ヘルスケア企業は創薬の加速、研究開発期間の短縮、数十億米ドル規模のマイルストーン支払いの確保を図っています。業界の枠を超えたAIの利用も拡大しており、モビリティにおける自律型物流関連の新規上場企業では、輸送コストの削減と新たなサービスモデルの実現が期待されます。

企業の提出書類は、投資家の関心を集めるために、新規上場企業がどのようにAIを活用しているかを明らかにしています。2024年から2025年第1四半期にかけて対象となった新規上場企業において、提出書類でAIの活用を最も多く強調していたのはテクノロジー・メディア&エンターテインメント・テレコム(TMT)、金融、ヘルス・ライフサイエンスセクターの企業です。開示情報の40%~50%で、AIに言及していることが推定されています。2025年第1四半期に新規上場した企業の上位50社では、特にヘルス・ライフサイエンスセクターの創薬分野でのイノベーション促進において頻繁なAIへの言及があり、デジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ策の強化、現場業務の合理化についてもAIによる貢献を示しています。

一方、企業は資金が潤沢な巨大テック企業のみが当領域を席巻するという常識に反して、生成AIのイノベーションを比較的低コストで進めています。AIの導入が加速すれば、世界経済の成長における役割が広がり、世界経済のダイナミクスが大きく変わる可能性があります。AIはもはや、単なる流行語ではなく、企業戦略や投資家向けナラティブとして、その重要性が増しています。地政学的情勢の変動が激しい今、AIでアジリティを高めることは不可欠となっており、関税率の変更やサプライチェーンの混乱に企業が対応する一助となっています。各国・地域が不確実性に対応する中、AIを活用してレジリエンス確保と成長を図る企業の競争は加速する一方です。



IPOパイプラインが拡大する中、最も自信を示しているのが工業、不動産・ホスピタリティ・建設セクター

2025年第1四半期は、全てのセクターにおいてIPO準備を進める企業が前年同期比で急増した一方、上場を完了した企業が前年同期比で増えたのは半数のセクターにとどまったことで、楽観的な見解は示されていません。

 

その中でリードしているのは工業セクターと不動産・ホスピタリティ・建設セクターです。いずれのセクターも、IPOパイプラインの成長と完成に自信を示しています。中でも建設セクターはインドがけん引役となり、2001年以来最高となる第1四半期の記録を達成しました。

 

ヘルス・ライフサイエンスセクターも株式公開での強さを示しており、新規IPO準備企業の累積数が前年同期比で62%増加しました。これは、IPO完了件数の対前年同期比14%増と並び、株式公開への関心の高まりを表しています。特にヘルスセクターでは2025年第1四半期に11件のIPO件数を記録し、20年以上ぶりに第1四半期の最高数を更新しましたが、このけん引役となったのもインドです。

 

TMTセクターでは米国の力強い成長と、インドや韓国の大型テクノロジー関連ディールにより、第1四半期にIPO活動が回復しました。

 

一方、消費財、エネルギー、金融などのセクターは2025年第1四半期にIPO準備企業が増えた反面、完了件数が減り、複雑な状況に慎重に対応する必要がありました。このような対照的な動きは、不安定な環境で停滞しているペントアップ需要があることを示唆しており、企業は3月後半の暴落とボラティリティの急激な高まりの影響も含めIPO市場に注目しています。

IPO件数のセクター別推移

今後の見通しおよびIPO準備企業へのアドバイス

一部の民間部門による市場ベースの指標においてインフレ期待が高まっており、米国をはじめとする世界各地では今後、関税問題でさらにインフレ圧力が高まることが予想されます。金融政策の方向性は極めて不透明です。一部の中央銀行は関税問題に伴う需要の大幅な減退を軽減するため金融緩和のスタンスが望ましいとする一方で、インフレ率の上昇が長期化するリスクを最小限に抑えるために、金融引き締めのスタンスを維持するところもあるでしょう。国境を越えたサプライチェーンの混乱と、米国の関税政策に起因する貿易の不確実性が相まって、ドイツなどのEU諸国や、中国本土など米国の主要貿易相手国を中心に、一部の国・地域では成長が鈍化する見通しです。これらEU諸国や中国本土では、2025年のGDPは小幅な伸びが予想されているものの、関税が大きなリスクとして立ちはだかっています。

 

当初2025年に上場を計画していた一部の企業は、不確実性に直面し、第1四半期以降、場合によっては2026年の早い時期にIPOを先送りしています。この動きは、特に2025年第1四半期の上場を目指していた企業に顕著です。また、第1四半期に上場した企業の新規公開後のパフォーマンスはさまざまです。このような不安定な市場では、予想されていたIPOの急増はすぐに減速する可能性があります。例えば、PE企業は多くの新規公開準備案件と共に2025年を迎えましたが、戦略的な買い手企業を探しセカンダリー取引を追求する傾向が強くなるでしょう。

 

IPO市場は、地政学的緊張や貿易摩擦、経済見通しの冷え込み、インフレリスクの高まり、短期的な市場ボラティリティ、さらには最近の株式市場の下落といった激しい逆風にさらされていますが、その中でほぼ全てのセクターでIPO準備企業の数が高水準で推移していることや、主要セクターに的を絞った政府からの支援があることは希望の光となっています。

 

市場参加者が不確実性の高まる厳しい情勢を進む中で、今年上場を目指す企業に求められるのは、IPOに向けた万全な準備を整えることと、アジャイルなアプローチをとることです。そうすることで、ボラティリティが低下して市場環境が安定したときに生まれる限られた機会をものにできるはずです。

株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

株式公開の手引き


過去のIPOレポート


本記事に関するお問い合わせ

サマリー

世界のIPO市場は、地政学的情勢が不安定であるにもかかわらず、収益性の向上や、航空宇宙・防衛セクターへの投資の増加、AIを巡る継続的なディスラプション(創造的破壊)と期待によって一定の勢いが増しています。

 

関連記事

ローカライゼーションとM&Aが鍵となる地政学リスク時代の成長戦略

2025年9月期の「EY-Parthenon CEO Outlook調査」は、混乱と変革の中、リーダーがどのように自信、回復力、成長戦略を構築しているかを明らかにします。

クロスボーダーIPO:4つの落とし穴とその回避策

クロスボーダーIPOの課題とメリットについて掘り下げて説明します。どの要因を優先するかについて、詳細はこちらをご覧ください。


    この記事について