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ライフサイエンス業界におけるM&Aの動向2024年度版 ~変化の時代にM&Aを成功させる戦略とは


ライフサイエンス業界は、コスト削減と収益向上の圧力の中で、再びM&A活動を活発化しつつあります―製薬会社、医療機器企業などのライフサイエンス企業が適切なディールを特定し、価値を確保するためには何が必要でしょうか。


要点

  • 2023年、大手製薬会社は再び大規模なディール締結に取り組み始めました。数多くの主力製品が今後5年間で特許満了となるためです。
  • すべてのライフサイエンス企業は、将来にわたり価値を提供し続けるために、今、適切なディールを行う必要があります。
  • 企業は、世界規模でビジネスと規制が激変する時代を乗り越えるために、パートナーシップ、ディールストラクチャー、疾患領域、戦略を醸成する必要があります。


EY Japanの視点

グローバル大手製薬企業は、持続可能な成長を確保するために、豊富な資金力を基に外部資源の獲得に向け積極的な投資を再開しました。迫りくるパテントクリフや足元の経済環境を踏まえると、EYは今後もこのトレンドが続くものと予想しています。日系製薬企業はグローバル大手製薬企業に比べて相対的に規模が劣るため、資金力で対抗することは困難ですが、自社の強みが発揮できるコア疾患領域にフォーカスすることにより、競争優位性を発揮できる余地はあると考えます。


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大岡 考亨
EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネス・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 バリュエーション、モデリング & エコノミクス パートナー

ライフサイエンス分野のM&A投資額において、2023年は2022年を上回っています。2022年の総額は1,420億米ドルでしたが、2023年は12月10日までに既に1,910億米ドルに達しました。ただし、取引件数が増加したのではありません。取引件数は、2022年の126件に対し、2023年は116件でした。それに対し、バイオ医薬品企業の平均ディールサイズが77%拡大しています。ライフサイエンス分野の最大手であるグローバル大手製薬企業が、再びM&Aに注力し始めたためです。


2022年には38%にすぎなかった大手製薬会社のM&A投資が、2023年には67%に拡大しました。一方、医療機器セクターは、M&Aの面では相対的に静観する状態が続いています。これらの企業は、トップライン製品の成長鈍化、高コスト、高成長が期待できるターゲットの不足など、常にさまざまな逆風にさらされています。
 

今後の展望:2023年の活況がまだ始まりにすぎない理由

バイオ医薬品企業のM&Aがさらに継続・加速すると予想される根拠は十分にあります。現状ディール締結が活発化しているにもかかわらず、このセクターはまだM&Aに投資可能な資金を1兆3,700億米ドル以上保有しています。


バイオ医薬品企業は、2024年以降、間違いなくこの蓄えられたファイヤーパワー(企業のM&A実行能力を貸借対照表の健全性に基づいて測定したEY独自の指標)を投入するでしょう。というのも、この業界には今、懸念される「パテントクリフ(医薬品の特許切れに伴う売上の急減)」が迫っているためです。特許の存続期間が終了する主力製品が続出すると、収益が急激に減少します。主要なバイオ医薬品企業にとっての課題は、直近の成長のギャップを埋めるために、どのアセットをターゲットにすべきかということです。

M&A取引の担い手にとっての問題は、米国のインフレ抑制法(IRA)やその他の規制の進展と並んで、世界の企業を取り巻く経営環境に広く見られるボラティリティがあります。このような状況の中、バイオ医薬品企業はどのようにすれば、適切なディールを行い価値を確保できるのでしょうか。

どのディールが最高のリターンをもたらすかについて、結局のところ万能の答えはありませんが、企業が将来にわたり価値を維持する機会を提供する特定の戦略は存在します:

  • より焦点を絞ったビジネスモデルを構築する:

    ライフサイエンス業界を取り巻く環境は複雑化が進み、すべてのビジネスモデルで抜きんでている企業はありません。このことを認識した企業は近年、「投資のための売却」を始めています。つまり、周辺事業や部門を切り離して、中核となる価値の提供に集中するのです。

  • 付加価値を生み出すことのできる疾患領域を特定する:

    特定の疾患領域の戦略的重要性を検討する企業が増え始めています。2028年までに、世界のバイオ医薬品市場全体が4,190億米ドルの成長を遂げるという予測がありますが、このうち1,420億米ドル(34%)は、がん治療の分野が占めるとされています。がん治療市場の大きな成長可能性は、過去5年間にこの分野に重点的に投資された、企業のM&A投資額に表れています。また、規制環境の変化により希少疾病にも注目が集まっています。IRAのような法律が希少疾病用医薬品の価格設定に影響を与える可能性は低いため、最大のM&Aターゲットの1つとなっています。
バイオ医薬品市場の成長をけん引すると予想される主な疾患領域(TA)2022~2028年見込み
バイオ医薬品市場の成長をけん引すると予想される主な疾患領域(TA)2022~2028年見込み

  • 新たに現れる革新的なオポチュニティを把握する:

    企業はまた、市場に大きなインパクトを与える画期的なイノベーションを常に念頭に置く必要があります。GLP-1受容体作動薬は、肥満の抑制や心血管・代謝系の健康改善に対する有効性を示す試験データの検証が進んでいることから、最近の画期的な新薬の中でも最も注目されています。高い発症率や、治療方法の確立を求めるニーズから、内分泌・代謝疾患領域では今後5年間で780億米ドルの成長が見込まれています。このビジネスチャンスの大きさから、製薬会社は戦略を見直し、この分野にファイヤーパワーを積極的に投入する可能性があります。


  • 買収とパートナーシップの適切なバランスを見つける:

    アライアンスやパートナーシップは、バイオ医薬品企業のイノベーション戦略において重要度が高くなっています。企業は、革新的な臨床技術プラットフォームを追究するために、しばしばアライアンスを利用してきました。細胞・遺伝子治療、抗体薬物複合体(ADC)、デジタル技術は、2020年以降、アライアンス投資額が最も高い5つの分野に入っています。これらの大きなビジネスチャンスが実際に利益につながり始めれば、企業はこれらの分野へより本格的にファイヤーパワーの投入を始めるでしょう。2023年に、ADC市場は明らかにこの転換点に達しています。しかし一方、他の新しいモダリティ(創薬技術・手法)が未完成の間は、企業はM&Aと並行してアライアンスやその他の投資を進めて、新しいイノベーションへのアクセスを確保する必要があります。


  • M&Aから価値を引き出すため、適切なエグゼキューション戦略を構築する:

    M&Aの課題は、適切なディールを実行するだけでなく、「ディールを適切で効果あるものにする」ことです。企業のM&A戦略で価値を創造するためには、ディール締結後のエグゼキューションを適切に行う必要があります。
     

すべてのディールに個別のチャンスと課題がありますが、企業がM&Aを通じて価値を実現し、維持し、増大するためには4つの方法があります:

  1. 戦略主導の原則に従う―M&Aの成功は、買収者の成長戦略に最も適合するターゲットを特定することから始まります。
  2. デューデリジェンスとシナジーの評価実施―M&Aの失敗例でよく見られる2つの重要な要因は、コストの過小評価とシナジーの過大評価です。規制、安全性、品質基準の順守や、研究開発統合の可能性には特に注意を払う必要があります。
  3. 効果的なM&A統合の実行―統合プログラムは、効率的な意思決定と迅速な実行を促進することが重要です。企業は、シナジーをどのように起こす計画なのか、また、価値向上のために統合後の事業をどのように運営するつもりかを明確に定義する必要があります。
  4. 将来のための強固なM&Aプロセスとロードマップの構築―アクティブな買収者は、将来の取引のために、一貫した再現可能なM&A活動ができるよう強力な基盤を確立し、プレイブックを作成し、高度に熟練したM&A専門家のチームを構築します。
     

2024年に向けて、ライフサイエンス業界では、大規模なディールへの投資が継続していくのは間違いないと考えられます。バイオ医薬品企業や医療機器企業が世界的な混乱が続く時代を乗り切ろうとする中で、外部イノベーションへの投資は戦略上必要不可欠なものとなるでしょう。われわれの分析によれば、重要な課題は、単に適切なディールを行うだけでなく、ディールから価値を創出し将来の成長を確保するための、適切な専門知識と実行力を持つことです。


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サマリー

ディール締結は、その必要性はもちろんですが、今後はその緊急性がますます高まっていくでしょう。企業は、収益性を回復するために、適切なターゲットと適切な提携アプローチを探求し続ける必要があります。魅力あるコアアセットに集中し、主要な成長疾患領域の深掘りを進めて、真に価値創出できるアセットを特定することが、重要な要件となるでしょう。どのような場合でも、ディール締結は始まりにすぎません。適切なディールの実行は一連のプロセスであり、企業はディールを成功させるために適切なパートナーを見つける必要があります。


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