EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
現在のエグジット環境を一言で表すとすれば、これまでと同様、「対処困難なパラドックス」です。Global Private Equity Exit Readiness Study 2026に回答者として参加したジェネラルパートナー(GP)によると、世界中のPEファンドの投資先企業3万2,000社の多くにおいて、原資産のパフォーマンスは引き続き堅調である一方で、資本市場を取り巻く外部環境により、流動性の機会が引き続き制約されています。実際、投資先企業が価値創造計画に沿って歩みを進める中、地政学的ショック、株式市場の変動、金利環境といった逆風が相まって、バリュエーションやエグジットの道筋がさらに複雑化し、予測が難しくなっています。
このような環境下では、エグジット準備を、最終段階に実施するプロセスから、戦略的かつ継続的に進める取り組みへと転換させていくことが不可欠です。エグジットを一過性のプロセスと見なすPEファンドは、価値を十分に引き出せないリスクを負うことになります。他方、保有期間全体を通じてエグジット戦略を念頭に置いていれば、エグジットの好機が訪れた際に、それに対応できる可能性は高くなります。
こうした転換には、AIによって新たな側面が付け加えられつつあります。多くの資産について、AIによって投資の魅力を高めるのか、それとも成長、利益率、顧客関係、または競争的ポジショニングに対する新たなリスクが生じるのかの検証を、買い手が実施することが多くなっています。そのため、AI導入準備は、独立した一連の技術的作業というよりも、より広範なエグジット準備に関する課題の一部になっています。
昨年は、優良案件について資金調達が引き続き比較的容易だったこと、買い手の信頼感の回復、企業による買収活動の活発化に支えられ、エグジット市場に一定の勢いが見られました。例を挙げると、トレードセールは、2023年を通じて、また2024年の大半において、おおむね横ばいでしたが、2025年には急増に転じました。この背景には、積み上がっていた戦略的買収の需要が顕在化したこと、および取締役会レベルで資本投入に対する確信が強まったことがあります。PEファンドによる戦略的買収先への売却は、公表によると、総額で5,000億米ドル近くに上り、約70%増加しました(一方、トレードセール件数は24%増加しました)。さらに、Coller Capital社のデータによると、継続ファンドの活用により、さらに1,000億米ドル超の流動性が確保されました。
しかし、ここ数カ月は、中東の地政学的情勢の推移や、ソフトウェア業界におけるAI関連のディスラプションへの注目の高まりを受け、再び慎重な姿勢が見られるようになっています。その結果、市場全体のセンチメントが再度修正され、市場の勢いが落ち着いてきました。
この急速な変化は、エグジットが依然として喫緊の課題であることを浮き彫りにしています。通常は、年間でPEの純資産総額(NAV)のうち20~25%がリミテッドパートナー(LP)に還元されますが、現在は15%程度です。また、世界全体でポートフォリオの35%が6年を超えて保有されています。PEファンドによると、プロセスの長期化、競争入札件数の減少、エグジットの失敗や遅延の増加が生じています。買い手は一層選別を強化しており、超優良資産に的を絞っています。その一方で、中堅企業が十分な関心を集めたり、買い手間の競争環境を形成したりすることが難しくなっています。
こうした中、PEファンドはより戦略的にエグジットに取り組んでいます。例えば、継続ファンドなどの代替的なエグジット手段の活用を増やすほか、バリュエーションギャップに対処し、将来上昇した場合に利益を得る可能性を残しつつ流動性を確保するため、アーンアウト、セラーファイナンス、条件付き価値受領権(CVR)といった調整手法の導入も拡大しています。
すべてのディールで実施されているわけではないものの、PEファンドは、バリュエーションギャップに対処し、不安定な状況の中で流動性を確保するため、多様な調整手法を活用しています。
このような環境では、エグジットへの準備態勢を整備することが極めて重要です。エグジットの機会は不確実で、多くの場合すぐに消滅してしまうため、場当たり的に急いで準備するのではなく、状況が許せば「すぐに行動に移せる態勢」を整えておくことで、他社に差をつけることができます。また、包括的な準備のための期間を十分に確保しておくことが不可欠です。全体的に見て、調査に参加したGPの86%が、エグジット準備の取り組みにより、エグジット時のバリュエーションが向上したと回答しています。特に注目すべきなのは、売却の12~24カ月前に準備を開始した企業が、最も大きな効果を挙げている点です。そのような企業の約50%が、準備によってエグジットの結果が「大いに」あるいは「非常に」改善したと回答しています。これと比較して、エグジットの6カ月前以降に準備を開始したPEファンドでは、成果が著しく低くなっており、大半が中程度の改善にとどまったと回答しています。
投資先企業の経営陣は、どのように考えているのでしょうか。概して、私たちが聞き取り調査をしたGPよりも、投資先企業の経営陣の方が、エグジット準備の価値を高く評価しています。約60%が、準備によってエグジットの成果が「大いに」または「非常に」改善したと回答しました。
「エグジット準備が万全な企業」とは、どのような企業でしょうか。財務部門は引き続き、エグジット準備における中心となる存在です。今回の調査結果では、最も根強い根本的な課題の一部が解消されつつあることが示唆されています。回答者によると、データ整備に関する問題が若干軽減しています。昨年の調査では、GPの72%が、財務部門における最大の課題として、信頼性の高いデータセットとKPIの構築を挙げていました。しかし、今年の調査ではその割合が60%に低下しており、根本的な課題の解決に一定の進展があったことがうかがえます。とはいえ、この問題は依然として課題のトップに挙がっています。これは、信頼性の高いデータが、エグジットの成功を導く中核的役割を担っていることを示唆しています。社内の業績評価と、投資家がエクイティストーリーを支持するために期待する詳細なデータの間に隔たりがある事例も多数見受けられます。例えば、統合プラットフォーム全体でのクロスセリングの成果を強調していても、顧客やセグメントのレベルでこれを裏付ける基礎的データが不足している場合などです。
幸いなことに、AIを利用することでデータの取り込み、標準化、クリーニングが容易になるなど、技術の進歩によって障壁が低くなりつつあります。これにより、従来の手作業での集計という負担が軽減され、特にインサイトの解釈やデータと結び付いた価値創造のような、より付加価値の高い活動に労力を振り向ける機会が生まれています。
エグジット時のEBITDAに価値創造の取り組みの成果を反映させることは、引き続きPEファンドにとって最大の課題であるとともに、エグジットの成果に最も大きな影響を及ぼす要因でもあります。価値創造の取り組みを詳細に追跡できる、信頼性の高いシステムや報告体制を取り入れている企業では、多くの場合、これが効果的に実行されています。
「資本市場戦略」は、比較的対応が難しいと考えられる領域として浮上していますが、エグジットの成果に及ぼす影響は、他の領域よりも少ないと認識されています。これは、一部の企業が、資産そのものの根本的な質やエグジット準備に焦点を絞るのではなく、市場のタイミングの見極めに過度に注力したり、エグジット手法の最適化に努めたりしていることを示唆しています。厳しい精査や融資条件の選別の強化を特徴とする買い手主導の市場では、価値の決定において、資産の本来的な質や裏付けのある業績が、単に市場のタイミングを見極めることよりも、重要な役割を果たします。
事業の売却は、単にEBITDAにマルチプルを掛けるだけの問題ではありません。ストーリーを売り込む必要があります。次のオーナーやファンドがこの事業をどう活用できるのか、事業が今後どの方向に向かうのか、どのような機会が残されているのかを説明できなければなりません。
経営陣の回答によると、エグジットに関しては、PEスポンサーとおおむね意見が一致しています。GPの82%およびPEファンドの投資先企業の経営陣の70%は、エグジットの時期、バリュエーションに対する期待、望ましい買い手のタイプなどの点で、意見が「ほぼ一致している」または「完全に一致している」と回答しています。実際、投資先企業は、エグジットプロセスの主要な段階において有意義なコーチングを受けており、これには、買い手候補リストの作成、銀行との連携、売り手側の資料の作成などが含まれます。
こうしたコーチングや準備の取り組みには、明らかに効果が見られます。経営陣の57%が、PEスポンサーからの支援がエグジットプロセス期間中の成果に「非常に」または「極めて」良い影響を与えたと回答しています。一方で、データからは、支援が経営陣の優先事項と十分に合致していない領域や、整合していない領域が明らかになっています。データの整備状況に関する問題の早期検知、経営陣による準備、クローズ後の価値創造ロードマップの策定などの、より高付加価値の活動については、支援の水準が一様ではありません。
これは、経営陣が改善点があると考えている領域によっても裏付けられています。最も多く挙げられたのは「経営陣メンバーの事前準備の強化」でした。この回答結果から、明確な結論が導き出されます。PEファンドは経営陣の準備態勢の重要性を認識していますが、一方で、その効果の最大化に向けて、十分に早い段階から、またはより周到に、投資を一貫して行う余地があることが示唆されています。PEスポンサーと経営陣が、エグジットのストーリー、価値創出の機会、買い手の期待についての合意形成に向けて、コーチング、実践、スキル開発を取り入れ、早い段階から体系的に取り組むことで、経営陣が戦略を明確に説明できるようになり、投資のストーリーが強化されます。最も重要だと考えられるのは、このような取り組みが、デューデリジェンスの過程で生じ得る、交渉を頓挫させかねない下振れリスクや不測の事態の抑制に役立つということです。
エクイティストーリーと戦略計画について、経営陣の足並みが完全にそろっていなければなりません。結局のところ、エグジットに向けた準備は、大編成のオーケストラをまとめ上げるようなものです。すべての要素が相互に調和し、連携して機能する必要があります。
他には、どのようなものが、エグジットプロセスの順調な進展に対して最も効果的なベストプラクティスとして挙げられたのでしょうか。経営陣のプレゼンテーション準備に向けた会合、アドバイザーの効率的な活用、リアルタイムのデータルームの効果的な利用、定期的な運営委員会の開催などです。これらは、規律、連携、コミュニケーションに重点を置く取り組みです。
AIは、現時点ではエグジット準備における最大の課題ではありませんが、最も急速に重要性を増している課題の1つです。昨年、投資先企業の売却準備において、AIを課題として挙げたGPはわずか7%でした。直近の調査では、この数値は2倍以上に増加しています。これは、AIの位置付けが、エグジットプロセス周辺の考慮事項から、より中心的な要素へと急速に変化したことを反映しています。買い手は、企業のAI活用方法にととまらず、AIがもたらすディスラプションの影響をどの程度受けるかについても、詳細に調査する姿勢を強めています。
EYパルテノンができること
IPOまたはそれに代わるトランザクションを成功させ、それを継続するために必要な、見込みある資本調達戦略や組織変更を共に実現します。
続きを読むAIを課題と捉えている回答者の割合は、投資家と経営陣の間でおおむね同じ水準であり、GPの18%、投資先企業の17%が懸念事項として挙げています。これは、AIがエグジット準備において共通の焦点となりつつあることを示しています。経営陣にとって、多くの場合、課題は実務的であり、データの断片化、ユースケースの責任の所在が明確でないこと、導入の規模拡大が限定されていること、AI関連の取り組みの影響の定量化が難しいことなどが原因で、買い手に対して、AIについて一貫性のある説明が難しくなる場合があります。
従って、買い手がリスクと上振れ余地の双方を評価する際に、AIを視点に取り入れる重要性がさらに高まっています。リスクの面において、買い手は、対象企業の市場がAIによって再編される可能性、例えばAIが価格決定力、顧客の行動、コスト構造、サービス提供モデル、参入障壁に及ぼす影響などを把握したいと考えています。上振れ余地の面では、対象企業がAI活用による生産性や事業効率の向上、意思決定の高度化、製品開発の強化、顧客体験の向上を実現するための実効性ある戦略を有しているかを評価しています。
重要な点として、買い手はAI関連の取り組みとAI戦略を区別しているとみられます。試験運用や個々の生産性向上ツールのリストを作成しても、バリュエーションの裏付けとしては不十分かもしれません。説得力のあるAI戦略では、事業モデルにAIが組み込まれている領域、AI導入の効果の測定方法、ガバナンス体制の整備状況、さらには、次のオーナーの下で導入をどのように拡大できるのかが明らかになっている必要があります。
これは、データ整備の重要性を改めて浮き彫りにしています。クリーンで、利用しやすく、適切に管理されたデータがなければ、デューデリジェンスの過程でAIに関する主張を裏付けることが困難になってしまいます。結果として、AIはエクイティストーリーの一端を担う要素になりつつあります。PEファンドには、現在のAI活用方法だけではなく、将来の価値創造、競争上の立ち位置、下振れリスクにAIがどのような影響を及ぼすのかという点についても、明確な説明が期待されています。具体的な進捗状況、数値化されたメリット、確かなロードマップを示せる企業は、買い手の信頼を高めることができるでしょう。それができなければ、特にAIがもたらすディスラプションから影響を受ける可能性が高い業界では、精査の厳格化、デューデリジェンスの長期化、バリュエーションへの圧力に直面することになりかねません。
PEファンドは、エグジット実行における規律の重要性が、これまで以上に高まる時代を迎えつつあります。市場環境は、往々にして、PEファンドがコントロールできない外部要因によって変動します。しかし、データインフラの強化、規律ある報告体制の維持、AIや新興技術の導入、経営陣による準備の徹底、根拠に基づいた説得力のあるエクイティストーリーの構築などにより、早い段階からエグジット計画に周到に取り組んでいるPEファンドは、パフォーマンスを実際の価値へと転換する機会を最大限に生かせる立ち位置を得ることができるでしょう。このような環境下で他社をしのぐ成果を上げる企業は、必ずしもパフォーマンスが最も優良な資産を保有しているわけではありません。市場の状況が許せば、果敢に「行動に移す」準備ができている企業こそが、優れた成果を上げることができるのです。
Global Private Equity Exit Readiness Study 2026では、エグジットを成功に導くには、エグジット準備を、売却の12~24カ月前から戦略的かつ継続的に進めるべき取り組みと見なす必要があることが明らかになりました。データに裏打ちされた明確なエクイティストーリーに基づくジェネラルパートナーと経営陣の強固な連携と、経営陣による綿密な準備が、価値創出と確実な実行を可能にします。AI戦略の重要性がさらに高まっており、買い手は、AIの導入やAIがもたらすディスラプションのリスクを評価しています。市場の変動が激しく、複雑な資金調達環境が続く中では、信頼性の高いデータインフラの構築や代替的なエグジット手法の活用を含め、規律ある準備を早期に開始する必要があります。保有期間を通じてエグジット準備に周到に取り組んでいる企業は、流動化機会の実現とバリュエーションの向上に向けて、より有利な位置に立っています。