三井不動産「ワークスタイリング」の目指す先――すべてのワーカーに「幸せ」な働き方を提供するには

三井不動産「ワークスタイリング」の目指す先――すべてのワーカーに「幸せ」な働き方を提供するには


不動産、ホスピタリティ、建設業界のメガトレンドを探るべく、第一線で活躍するゲストを迎えてインタビューを行う「業界トレンドシリーズ」

第5回はコロナ禍以降、オフィスの役割や働き方は大きく変化した中で、「働きがい」と「人のつながり」を生み出す「ワークスタイリング事業」を通じて、単なる「働く場所」ではない、新しいオフィスの在り方を再定義する三井不動産株式会社。同社の岡村英司氏、譲葉凱誠氏に、事業の取り組みや今後の展望について伺いました。


要点
  • 時代のニーズに合わせ、「働きやすさ」から「働きがい」を提供できるオフィスづくりへと進化。パーパスも「すべてのワーカーに幸せな働き方を」へと刷新。
  • 「ゆるいつながり」をコンセプトに、肩書や立場を超えた交流を促進。企業経営課題の支援や解決にもつながる新しいオフィスづくりを展開。
  • 固定型とシェア型オフィスを展開し、企業の成長に応じた最適な選択肢を提供。すべてのワーカーに開かれた環境づくりを進めている。


「働きやすさ」から「働きがい」へ――オフィスの新たなニーズ

平井:まず、ワークスタイリング事業を拡充されている背景を教えてください。

岡村氏:ワークスタイリング事業は約8年前、社内スタートアップとしてスタートしました。当時の働き方は画一的で、オフィスには固定席があり、会議室も限られ、リモートワークはほぼ存在しませんでした。

その中で、私たちは「どこでも、誰とでもコラボレーションしながら働ける世界」を実現するために、「いつでもどこでも、誰とでも働ける場所」の提供を目的としてワークスタイリング事業を立ち上げました。

当初の利用者は、新規事業担当者やベンチャー企業など、フレキシブルな働き方を求める方々が中心でした。しかし、コロナ禍により強制的にリモートワークが普及し、働き方は一変しました。働きやすさは向上した一方で、「働きがい」や「企業カルチャーの伝承」、「将来の経営層の育成」など、新たな課題が顕在化しました。

これを受けて、ワークスタイリングの価値も「いつでもどこでも、誰とでも働ける場所」から、「人のつながりを土台とした働きがいの創出」へと進化しました。どこでも働ける時代になった今、企業とそこに所属するワーカーが「何のために、誰のために働くのか」という意義を提供することが重要です。パーパスも「すべてのワーカーに幸せな働き方を」に刷新し、人と人がつながる機会の創出に力を入れています。

平井:ワークスタイリング事業を利用している会員にとっての主なメリットは何でしょうか。

岡村氏:フレキシブルな働き方の実現や時間効率の向上に加え、他社との交流や情報交換の機会が得られます。また、従業員としては、フレキシブルな働き方を許容してもらえている、という会社からの信頼を実感し、利用者の満足度は高く、組織コミットメントの向上にもつながっています。 

平井:利用者は大企業が中心とのことですが、具体的にはどのような方が多いのでしょうか。

岡村氏:当初は新規事業部門やスタートアップ企業の方が中心でしたが、最近は大企業のタッチダウンオフィスとしての利用が増えています。お客さま先への訪問の合間の時間や、席や会議室が不足した時などに、セキュアな環境で効率的に働ける点が評価されています。

ただし、現在の私たちの狙いは、「働きがい」を感じられる場の提供です。さまざまな働く人々が会話をしながら、人と人がつながりを感じ、「働きがい」を創出する場づくりを進めています。 

 

ゆるくつながる空間――人との交流が生まれ、経営課題の支援も

平井:コミュニティイベントのコンセプト「ゆるくつながる」が、とても印象的です。

岡村氏:プロジェクト単位で苦楽を共にする関係だけでなく、肩書や立場を超えて、「人」として自然に交流できる“ゆるいつながり”を提供しています。

安部:コワーキングスペースでは、立ち話が他社の方に聞こえるなど、情報セキュリティの懸念もあります。どのように対策されていますか。

岡村氏:どこでも仕事ができる環境では、従業員のセキュリティ意識が重要になってきます。企業によってルールは異なりますが、各社員の皆さまが自社のルールを順守できる環境・体制を整えています。 第三者機関の認証も取得し、安心して利用いただけるように安全性を確保しています。

平井:他社との差別化ポイントは何でしょうか。

岡村氏:まず「居心地の良さ」です。ラウンジやイベントスペースを設け、仕事だけでなく、出会いや会話が生まれる空間を設計しています。また、「有人運営」にこだわり、クルーが皆さまのご利用のサポートをさせていただきます。また、コミュニティマネージャーを配置している点も他社との差別化ポイントです。 

安部:コミュニティマネージャーの役割について、詳しく教えてください。

岡村氏:掲示物を見ている方やコーヒーをサーブしている方などに対して、自然に声をかけ、顔と名前を覚えて利用者との関係を築きます。あいさつや日常的な会話の中から交流のきっかけをつくり、自然にビジネスマッチングや情報交換の場が生まれるよう支援しています。

コミュニティマネージャーの採用基準は「人の幸せを自分の幸せと感じられる人」。海外では、この役割が企業内にも導入されており、社内カルチャーをつくり、社内のつながりの促進に貢献しています。

平井:共用スペースでのイベントでは、入居者にどのような配慮をされていますか。

岡村氏:入居者の皆さまには、当社のオフィスを選んだ価値を感じていただくことを重視しています。立地や物件の良さなどの条件だけでなく、「人のつながり」はどの企業でも共通するビジネスの源泉です。例えば30年以上続く新宿の「のど自慢大会」は、テナント企業さまが社内で企画し練習する過程で、「社内のつながりが生まれチームワークが深まる」と、高く評価いただいています。

譲葉氏:ワークスタイリング事業に限らず、当社としては、「おせっかいな大家」として、企業の経営課題解決に資する取り組みを通じて、経営層や社員の皆さまに満足いただくことで、最終的にその付加価値を賃料収入や物件評価として訴求していくと考えています。

また、私たちはお客さまとの協業や共創を重視しています。全国で約3,000社、大企業から中小企業まで幅広くいらっしゃるテナントの皆さまには、「人的資本経営」、「CRE戦略」、「イノベーション推進」などをキーワードに、経営課題の解決につながるようなソリューションを三井不動産グループ全体の強さを活かして、提供しています。一例ですが、ピックルボールやバスケットボールなどのスポーツイベントを開催し、社員同士、入居企業同士の関係構築・コミュニティづくりをサポートすると同時に、健康経営の視点から、当社が独自開発した健康経営支援サービスアプリ「&well(アンドウェル)」を入居者の皆さまに利用いただき、経営課題の支援や解決につなげています。こういった取り組みによって、今後も「三井不動産のビルに入りたい」と思っていただける環境を整えています。 

 

成長を支える最適なオフィス選択で、好循環を生み出す

平井:固定賃料のオフィスとワークシェアリングでは、デベロッパーにとってはどちらがビジネスとして有利なのでしょうか。

譲葉氏:当社では両者は補完関係にあります。お客さまのニーズが多様化しており、同じ企業でも両方の形態が必要な場合もあれば、どちらかが最適となる場合もあります。ただし、必ずしもビジネスの有利・不利だけで考えるものではなく、現場を踏まえた顧客志向を徹底し、適切にお客さまのニーズを捉える必要があると考えています。

例えば、臨時で2カ月だけ別のオフィスを借りて、期間限定のプロジェクトを組みたい場合はシェアオフィスが適しています。1つだけではなく、さまざまな場面において、このようなニーズをきちんと満たすためには、品質の高いシェアオフィス事業が必要になってきます。

当社は固定オフィスとシェアオフィスの両方に力を入れており、フレックスのレンタルオフィスも含めてラインアップが充実しています。そのため、お客さまに最適なプランをご提案できます。ワークスタイリングと固定オフィスを組み合わせることでコストを最適化し、例えば社員数が急に増えた場合や本社と別拠点が必要になった場合等、多様なニーズにお応えできます。 

平井:より選択肢が増えることで、企業の成長を後押しできるということですね。

譲葉氏:その通りです。最適なオフィスを選択できることが、お客さま自身の成長も支える好循環を生み出せると考えています。

平井:運用面での課題や改善点はありますか。

岡村氏: UXデザインの改善です。予約や利用、空室確認などはすべてオンラインで行えますが、お客さまの声を聞きながら、さらにストレスなく使えるよう改善していきたいと考えています。

 

あらゆる人の多様なニーズに対応する、開かれたオフィスへ

平井:今後の拠点展開やサービス拡充の計画を教えてください。

岡村氏:都心部への人の集中が進む中で居心地の良さを維持するためにも、さらに拠点を拡充していきたいと考えています。地方ではさまざまな提携によって拠点を増やす方針です。

現在は企業会員の皆さまが主な利用者ですが、JR東日本さまやCCCさまとの提携により、一部の個人利用も拡大中です。個人的に勉強したい方や、所属する会社が企業会員でなくても個人でビジネス利用したい方など、すべてのワーカーに門戸を広げる取り組みを進めています。 

どのような方にとってもフレキシブルに働ける環境を提供し、多様な出会いの機会を創出したいと考えています。

安部:新たに出店する際には、何を重視していますか。

岡村氏:事業性はもちろんですが、アクセス性や周辺環境、窓からの景観なども確認します。利用者にとってメリットがある立地を重視しています。

平井:今後5年後、10年後、オフィスの在り方はどのように変化すると考えていますか。

岡村氏:どこでも仕事ができる今、オフィスはもはや単なる“仕事の場”ではなく、“人のつながりや企業カルチャーを形成し伝承する場”になっています。会社の中での上司と部下の会話や会議の雰囲気など、日常の交流が文化をつくります。フレキシブルで多様な働き方が広がる中で、企業文化を戦略的に形成し、継承していくことが重要です。私たちは今後も、企業文化と人のつながりを育むオフィスづくりを進めていきたいと考えています。


平井 清司、譲葉 凱誠 氏、岡村 英司 氏、安部 里史

向かって左より

EY Japan インフラストラクチャーセクター EY-Parthenonリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 トランザクション・リアルエステート アソシエートパートナー 平井 清司

三井不動産 法営統二・法営業部 譲葉 凱誠氏

三井不動産 ワークスタイル推進部 岡村 英司氏

EY Japan 公共・社会インフラセクター 監査サービス・マーケットリーダー/不動産・ホスピタリティ・建設セクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー 安部 里史


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サマリー

オフィスは「仕事場」から「人と組織の文化を育む場」へと変化しています。三井不動産は、フレキシブルに働ける場の提供から「人とのつながり」「働きがい」を提供するオフィスづくりへと進化させてきました。企業とワーカーの双方の満足度を高められるよう、オフィスが果たす役割は、これからさらに重要度を増していくでしょう。


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