EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
本稿の執筆に当たり、ご協⼒いただいた次の⽅々に感謝の意を表します。
内部監査が変化の時代に対応し、組織に持続的な価値を提供するためには、戦略的な人材マネジメントとテクノロジーの融合による監査機能の進化が不可欠です。
EY Japanでは、内部監査の高度化に向けた4つの要素を定義し、それらを実現するための実践的なアプローチと手法を提供しています。
近年の多様化・複雑化するリスク環境に対応するため、監査ユニバースの再構築、データ分析の活用、AIや自動化の導入、テクノロジー人材の配員などを通じて、監査の効率化と高度化の両立を支援しています。
監査部門が経営にとって戦略的なパートナーとして機能するための体制構築を実務レベルから伴走支援します。
EY Japanの窓口
林 直樹
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング パートナー
鈴木 章嗣
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング ディレクター
内部監査部門がその役割を十分に果たすためには、データ分析の活用、リアルタイムでの報告体制の構築、そして柔軟な人材戦略の導入といった新たなアプローチへの適応が求められています。急激な技術革新と変化が加速するビジネス環境における昨今、内部監査部門は効率性と信頼性を維持するために継続的に適応していかなければなりません。多くの企業が今、監査戦略を再考する必要性を一層強く認識し始めています。その背景には複雑化するリスク環境と多様化・高度化するステークホルダーとのコミュニケーションニーズがあります。データ分析を活用し、リアルタイムでの報告体制を整え、柔軟な人材戦略を取り入れることで、内部監査機能の業務効率と対応力を大幅に向上させることが可能です。
次に挙げる10項目は、内部監査の継続的な改善を促進し、複雑かつ変化の激しい環境に柔軟に対応できる力を高める手段となります。
内部監査部門が新たなテクノロジーや労働世代の多様化に対応するためには、柔軟かつ戦略的な人材戦略の構築が不可欠です。スキル評価*1の実施によって、必要とされるケイパビリティと現状とのギャップを確認できます。加えて、新たなテクノロジー導入の促進に的を絞ったトレーニングプログラムを採用することでギャップを解消します。さらに、人材獲得戦略を見直すことで、必要なスキルを持つ人材の確保につながります。柔軟な勤務形態の推進は、多様なワークライフバランスへのニーズに対応し、従業員の満足度と定着率の向上につながります。
監査ユニバース(監査対象領域)を3〜5年ごとに既存の枠にとらわれず、根本から見直すことで、監査の対象が常に最新かつ適切な状態に保たれます。このアプローチは、新たに引き起こされるリスクの特定に役立ち、監査ユニバースを自社での優先事項と認識づけます。陳腐化したり、重複したりした領域を除去し、リソースの配分を最適化します。定期的に刷新することで、監査ユニバースを絶えず変化するビジネス環境や規制環境に適応させることも可能です。このアプローチを取ることで客観性を高めながら継続的な改善を促し、監査実践力の定期的な再評価と進化を図ります。
効果的なリスク管理には、強力なリスク評価のアプローチが不可欠です。データに基づく手法を取り入れることで、リスク評価において正確な洞察を導き出すことが可能になり、リスク管理活動と報告を統合的に運用することで、情報の流れが効率化され、ステークホルダーに最新のリスク情報を迅速に提供できます。これにより、リスク対応をリアルタイムに実施でき、新たに引き起こされるリスクを迅速に特定し対応できるようになります。リスク評価と報告機能とを組み合わせることにより、情報に基づいた意思決定が可能となります。全体として、このアプローチを取ることでリスク管理の有効性が向上し、頑強なリスク軽減戦略とより万全な企業資産の保護へとつながります。
サイバーリスクと外部委託先(二次委託先含む)のレジリエンスに対する監査手法を見直すことで、監査対象のリスクをより包括的にカバーすることが可能になります。外部委託先の評価を実施することで、潜在的な脆弱性の特定につながり、組織全体のサイバーレジリエンスが強化されます。サイバーリスクに関する監査手法を再設計することで、関連する法規制や業界基準へのコンプライアンス(遵守)をより確実に実現することができます。サイバーセキュリティに関する取り組みを定期的に見直すことで、リスクへの能動的な対応が可能となり、取り組みの透明性確保と協働を通じて、関係者との連携がより強固になります。
監査カバレッジは、リスクレベルに応じて監査対応・手法を調整することで最も効果が出ると期待されます。さまざまな監査対応・手法を定義することで、リスクの性質に応じた柔軟なアプローチが可能となります。監査対応・手法の多様化とリスクレベルに応じた監査アプローチを取ることで、戦略リスクからオペレーショナルリスクまで幅広く対応することができます。多様な監査手法を活用することでリソース配分を最適化し、高リスク領域に重点的な対応が可能となり、また監査対応の選択肢が広がることで、変化するリスク環境にも柔軟に適応できるようになります。明確な監査カバレッジと多様な監査対応・手法を用いた幅広いリスクへの対応により、ステークホルダーに安心感を与え、組織のリスク管理体制への信頼性を高めます。
効果的な監査報告は、ステークホルダーに監査結果やリスク評価に関する最新の状況を提供します。リアルタイム報告は最新のデータを用いての意思決定を推進し、透明性を高め、信頼を向上させます。また、リアルタイムに近い報告も、早期にリスクを特定して軽減することでプロアクティブなリスク管理を支援します。報告プロセスを効率化することで、業務の生産性向上と規制遵守の維持に貢献し、ガバナンスと説明責任に対する高い意識を示すことにつながります。
監査チームにデータ分析の活用を奨励することで、マニュアル手続きでは識別できなった、データ特性や傾向の把握や洞察を抽出する監査チームのケイパビリティが向上し、ファクトに基づく精緻な監査を行えるようになります。これらのケイパビリティを監査実務に組み込むことで、新たなリスクに迅速に対応できるようになります。適切なツールとトレーニングを提供することで、スキルの開発と専門性の成長が促進されます。このアプローチは効率性を向上させ、データ分析専門チームへの依存度を減らし、より関連性が高く、実行可能な洞察をもたらします。
既存プロセス、リスク、コントロールの一覧を活用して自動テストを構築・実行することで、業務プロセスが合理化され手作業が減り、監査効率が向上します。自動テストの実施により、人為的エラーの発生が減って精度が向上し、一貫性があり信頼性の高いアウトプットをもたらします。また、リアルタイムモニタリングの実現にもつながり、迅速な課題検出と修正ができるようになります。自動テストは拡張性が高く、リソースを増やすことなく、より多くの業務プロセスをカバーできるようになります。さらに、データに基づいた洞察を生成し、戦略的意思決定を支援し、リスク管理の効率性を向上させます。
企業におけるAIの役割を理解することで、組織知の向上が期待できます。AIガバナンスに関与することで、監視体制が構築されます。AIフレームワークとガバナンスに対する監査やシステム監査、製品レビューを実施することで、企業目標および法規制に合致したAIソリューションの創出に役立ちます。
内部監査にAIを取り入れるには、組織の目標と連動した戦略作りが欠かせません。これにより、AIの活用範囲が広がり、監査の価値を高めることができます。戦略的に取り組むことで、効果の高い活用領域を見極め、リソースをROI(投資対効果)が高い分野に集中させることが可能になります。ROIを評価するための明確な枠組みを設けることで、導入に伴うメリット・コスト・リスクを総合的に判断できるようになり、ファクトに基づくより納得感のある意思決定が行えます。ROIの視点を取り入れることで、限られたリソースを有効に活用し、成果が見込めるAIプロジェクトに優先的に投資できます。継続的なモニタリングと改善により、AIの活用方法を洗練させ、持続的な価値の創出につなげます。
本稿は執筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしもErnst & Young LLPまたはEYのメンバーファームの見解ではありません。
*1 https://www.ey.com/en_us/cro-risk/reimagining-skills-assessment-in-internal-audit(英語版)
人材戦略、リアルタイム報告、包括的なリスク評価、そしてAIの活用を通じて内部監査部門を強化することは、組織全体のレジリエンスと有効性を高める上で重要です。監査手法を継続的に進化させ、革新的なテクノロジーを積極的に取り入れることで、リスク管理と組織の改善を促進できます。長期的な成功と安定のために、リーダーはここに挙げた考慮を優先事項として捉えるべきです。
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