ライツホルダー中心の人権デューデリジェンスのために企業に求められる役割とは ~2022国連ビジネスと人権フォーラムハイライト~
執筆者
名越 正貴
EY Japan Climate Change and Sustainability Services Global CCaSS Human Rights Solution Leader
大内 美枝子
EY Japan, FAAS事業部 気候変動・サステナビリティサービス (CCaSS) 、マネージャー
2022年11月、「第11回ビジネスと人権に関する年次フォーラム」がスイス・ジュネーブの国連本部にて開催され、人権への影響を受ける人々の声を人権デューデリジェンスの取り組みの中心に置くために、政府や企業に求められる役割について3日間議論されました。
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要点
「ビジネスと人権に関する年次フォーラム」は、「人権」に関する企業行動についての国際合意(「ビジネスと人権に関する指導原則」)に基づく実践について議論をする世界最大規模の国際会議である。
今回の年次フォーラムにおいても、政府、企業、市民社会、アカデミア等の関係者が、規制・ルール、人権リスク対応の企業の実践、取り組みの実効性向上の方策等について議論を交わした。
企業は、人権対応のための形式的な体制整備にとどまらず、課題解決に実際に貢献する取り組みを実践し、その実績を開示していくことが今後重要となると考えられる。
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「第11回ビジネスと人権に関する年次フォーラム」から見える今後求められる企業行動
2022年11月28日から30日にかけて、スイス・ジュネーブの国連欧州本部にて、11回目となる「ビジネスと人権に関する年次フォーラム(11th UN Forum on Business and Human Rights)」が、対面とオンラインによるハイブリッド参加形式で開催されました。「ライツホルダーを中心に(Rights Holders at the Centre)」をテーマに掲げた本フォーラムでは、先住民や地域住民、その人々を支援する人権擁護家等の脆弱な立場にある人々の声を人権デューデリジェンスの取り組みの中心に置くことの重要性が議論され、実際に負の影響を受けている当事者が登壇する機会も多く設けられました。欧米を中心に、企業の人権対応と関連する法規制の強化も進む中、企業は、規制対応といった形式面での取り組みに加えて、関係者を巻き込みながら、サプライチェーンを含めた自社の事業活動に潜む人権課題の発見・解決のための実効的取り組みを進めていくことが求められています。
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人権デューデリジェンス実践における政府と企業の役割
2021年に国連ビジネスと人権に関する作業部会が公表した「UNGPs 10+ ビジネスと人権の次の 10 年に向けたロードマップ」の進捗を確認するセッションでは、欧州委員会のコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令案をはじめとする人権デューデリジェンス法制化の動向に対して、期待の声とともに、法制化による中小企業への影響に関しては、発展途上国における中小企業の能力強化を中心に、政府の役割が重要であることも強調されました。国連の専門機関の代表者も、企業と各分野の専門家が連携して人権尊重の取り組みを進める必要性を訴えました。日本からは、国際人権問題担当の中谷元内閣総理大臣補佐官が本フォーラムに登壇し、日本政府の取り組みとして、2022年9月の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン 」について説明することに加えて、公共調達の判断材料の一部に企業の人権対応を含める議論を開始したことを紹介したことは、日本政府内でのガイドラインを軸にしたさらなる取り組みの検討が進んでいることを示すものと言えます。
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ライツホルダーの視点を取り入れた取り組みの必要性
機関投資家が登壇したセッションでは、ESG投資における環境や人権への影響の考慮がチェックリスト的な対応にとどまらないよう、ライツ・ベース・アプローチ(権利に基づくアプローチ)の投資行動の必要性がフォーカスされました。英国年金基金フォーラム(LAPFF)の議長を務めるダグ・マクマルド氏は、ブラジルの資源大手Vale社の鉱山ダム決壊事故により影響を受けたコミュニティを訪問した時の経験を踏まえ1 、投資家として、救済を必要としている人々の声を直接聞き、期限を設けて投資先企業に行動を促すことを通じて説明責任を果たすことを強調しました。
非司法的な救済の仕組みを開発・運用する上で、ライツホルダーの視点が必要不可欠なことも強調されました。労働者主導型の苦情処理メカニズムとして、米国のCIW (Coalition of Immokalee Workers)によるフェア・フード・プログラム(FFP)のケースを例に、農業従事者がFFPモデルの発展にどのように貢献したかが紹介されました。先進的と評価されているこうした取り組みは、ライツホルダーと丁寧なコミュニケーションを行いながら進めるWSR(Worker-driven Social Responsibility)、すなわち労働者主導型の社会的責任という考え方が提唱される中、企業が、実効的な人権救済の仕組みの構築を進める際に参考にできる事例のひとつと言えるでしょう。
先住民や人権擁護家が直面する人権侵害
本フォーラムでは、開会式と閉会式を含む27のセッションが開催されましたが、多くのセッションで、地域住民や先住民、人権擁護家に対して発生している脅迫や暴力についての言及がなされ、人権への負の影響を受けやすい女性、先住民、地域住民、移民労働者、中小企業や労働組合員等が、人権擁護活動を行うことで迫害を受けやすい状況に置かれる状況に関し、先住民や人権擁護家との連帯を表明するシーンもありました。あるセッションでは、資源採掘プロジェクトの影響で、地域住民の水へのアクセスが脅かされている状況や、地域住民に対する情報共有や意見交換をする機会の不足について、インドネシアから人権擁護家が匿名でリモート登壇する場面もありました。
特に脆弱なライツホルダーを保護するための法的体制・苦情処理のツールやシステムに関しては、導入されたとしても、実際の運用で障壁にあたることが問題として提起され、法的代理人へのアクセスや金銭面のバリア、言語の壁等が挙げられました。今後の課題として、アクセスポイントの多様化や、ライツホルダーの利用しやすさを重視したツールや仕組みを構築していくことの重要性が強調されました。
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日本企業への示唆
各国地域で加速する人権デューデリジェンス法制化に代表されるように、企業に対して、社内外のステークホルダーと対話・協議しながら、人権リスクを特定・評価し、顕在化した人権リスクについては、是正・救済を求める社会からの要求は高まりつつあると言えます。こうした要請に応えるためには、企業は、人権対応のための形式的な体制整備に止まらず、課題解決に実際に貢献する取り組みを実践し、その実績を開示していくことが今後重要となるでしょう。EYでは人権に関する豊富なデューデリジェンスの経験をもとに、事業者の皆さまが人権に対して実効的な対応を進めていく上での基盤として、人権デューデリジェンス体制の構築を支援しています。
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【共同執筆者】
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
篠原 祥子、平井 采花、三浦 舞子、宇佐美 純
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サマリー
企業は、規制対応といった形式面での取り組みに加えて、関係者を巻き込みながら、サプライチェーンを含めた自社の事業活動に潜む人権課題の発見・解決のための実効的取り組みを進めていくことが求められています。
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名越 正貴
EY Japan Climate Change and Sustainability Services Global CCaSS Human Rights Solution Leader
大内 美枝子
EY Japan, FAAS事業部 気候変動・サステナビリティサービス (CCaSS) 、マネージャー
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