成長戦略を市場に先駆けて進化させる方法
成 長 戦 略 を 市 場 に 先 駆 け て 進 化 さ せ る 方 法
執筆者
Jim Hsu
EY Americas Vice Chair of the Office of Strategic Execution
Jeff Wray
Global EY-Parthenon Leader
Joonyoung Byeon
EY-Parthenon Asia-Pacific Strategy Leader
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多くの企業が、競合市場について正しく把握しないまま企業戦略を立てています。
現在の成長戦略が今後2~3年で競争上の優位性を獲得し、持続可能な価値を実現することについて、CEOはどの程度確信を持っているでしょうか。
本稿では、市場競争における企業の実際のポジションを把握する方法、テクノロジーによって現在の市場がいかに急速に時代遅れなものとなっているか、そしてどうすれば市場を取り巻く環境を利用して持続可能な成長を促進できるかについて考察します。
市場を取り巻く環境を把握する──潜在的なパフォーマンスを示す最大の指標は競争力
市場環境の分析(EY-Parthenon/EYパルテノンのフルポテンシャル・パラダイム)では、競合他社・隣接セグメント・新規市場参入企業と比較し、規模や収益性で企業がどのポジションにあるかについて見解を提供します。今日の競争力学を考えると、市場環境を正しく判断することは困難です。しかし適切な判断を下せた場合は、以下に示す重要な問い掛けのほとんどに回答することになります。
企業や業界の成長と収益性を促進する要因は何か。 業界は集中化しているか、断片化しているか。統合が進んでいるか、変わっていないか。 最大の競合先はどこか。業界トップの入れ替わりが起きたのか。それはなぜか。 どのような業界の垣根が取り払われようとしているのか。 市場における貴社のポジション、また首位、追随する二番手の企業のポジションはどこか。貴社の相対的な市場シェアに変化を生じさせる主要因は何か。ここに挙げた要因はどのように変化しているのか。
これらの質問に回答することで、成長がどこから生じるのかを見極め、長期的価値をもたらすためにどのようなM&Aに狙いを定めるべきなのかを判断することができます。
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テクノロジーが全てを変える中、市場環境を定義するには
市場環境を定義することは科学でもあり、芸術でもあります。業界のダイナミクスを考慮して、ビジネスの定義方法を分析することから始めましょう。
その際、業界についての従来の定義に依拠するのではなく、より分析的なアプローチをとることが重要です。Customer(顧客)、Cost(コスト)、Capability(ケイパビリティ)、Competition(競争)という4つの「C」を活用しますが、これをイノベーションというレンズを通して分析し、テクノロジーといったディスラプティブな要因を把握します。こうすることで、複雑性が増すだけでなく、貴社と競合他社に関してより意味深い視点を得ることができます。
以下に示すテクノロジーイノベーションの3分野が4つの「C」に影響を与えます。
情報テクノロジー: 大量なデータの収集・保存・分析・配信が行われるようになり、多くの産業が影響を受けています。今日では、市場や自社の評価を行う際、誰もが従来よりも複雑な情報にアクセスが可能になりました。例えば、携帯電話会社はデータを活用して潜在的な顧客をセグメント化し、適切なマーケティングを行うことができます。
製品テクノロジー: 製品開発は大きな技術的改善が見られた分野です。例えば、サイズの縮小、バッテリー寿命の向上、有効性の向上といった改善により、テクノロジーがインスリンポンプ市場の進化を促進しています。
ビジネスモデル・テクノロジー: 企業のバリューチェーンに固有のテクノロジーです。例えば、ドローン技術とそれが流通企業に及ぼした影響、3Dプリント技術とそれが製造プロセスに与えた影響などが挙げられます。
こうしたテクノロジーが業界の顧客、コスト、ケイパビリティ、競争にどのように影響するかを理解することで、自社を取り巻く競合の状況をよりよく把握できます。成長をもたらす競争上の優位性を得るために何をなすべきかを判断しやすくなるのです。
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「顧客」とは、同じような問題を解決する目的を持って製品やサービスを購入する、ある業界や地域全体の一般的な購入者を意味します。ただし、競争の力学は顧客市場を変化させ、多くの場合、新しいテクノロジーがこの変化を促進する触媒となります。その一例が、製品の「プレミアム化」を推進するイノベーション(つまり、新しいハイエンド製品の導入)です。
顧客のターゲティングが市場環境にどのように影響するかを示す良い例が、携帯電話市場です。この市場に属すどの企業も、携帯電話を購入したい人々という同じ顧客基盤を共有しているように見えるかもしれません。しかし、市場で大きなシェアを獲得している企業もあれば、製品のイノベーションによってプレミアムブランドとしての地位を確立し、より小規模な顧客基盤に注力することで高いマージンを確保している企業もあります。
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企業の生産・配送・サービスに関連するコスト構造を理解することは、真の競合相手を特定する上で役立ちます。これによって、貴社は独自のビジネス定義を絞り込むことができます。一般的には、潜在的な購入者が抱える同様のニーズを満たす、同じようなコスト構造を持つ複数の企業が競合と見なされます。しかし、ディスラプション(創造的破壊)をもたらすようなビジネスモデル・テクノロジーは、バリューチェーン、ひいてはコスト構造を根本的に変えてしまう可能性があります。
航空業界を考えてみましょう。評価が低い価格設定や収益性に対するプレッシャーは競争力を維持するためのものですが、テクノロジーイノベーションはこの面においても航空業界にさまざまな影響を与えています。一例として、空港でのオンラインチェックインやセルフサービスでの手荷物預け機の利用があります。いずれも運用コストの削減によってマージンを改善し、最終的には航空会社が価格設定で効果的に競争できるようにしました。テクノロジーが航空業界にどのような影響を与えたかを示すもう1つの例は、オンライン予約プラットフォームの誕生です。これによって、顧客は価格を比較しやすくなりました。
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包括的な組織能力を分析することによって、貴社の全体的な習熟度を見極め、評価することができます。また、実際の競合企業の特定や、関連性のある隣接市場の事業者の定義にも役立ちます。分析すべきケイパビリティとしては、ハード資産(知的財産、建物など)とソフト資産(従業員や評判)の2種類があります。コストと同様に、バリューチェーンにおけるテクノロジーのディスラプションは企業や業界の組織能力に影響を与え、製品やビジネスモデルの効率性に改善をもたらすことによって大きな競争上の優位性を生み出します。
製品のテクノロジーイノベーションを果たしたサムスンが、ディスプレイ技術のリーダー的立場を生かして、電子部品サプライヤーからテレビやスマートフォンの大手プロバイダーへと転身を遂げた事例を考えてみてください。このトランスフォーメーションにより、最終的には競争に対する認識が、そして市場環境が変化したのです。
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これまでの分析は全て、自社と競合企業のポジションを比較しつつ明確にする上で大いに役立ちますが、重要なのは市場を直接見て、隣接市場の事業者や新規参入企業を評価することです。競争の激しい市場を見て、その市場が時間の経過とともにどのように変化したかを理解し、将来どのように変化する可能性があるかを認識する必要があります。ゲームのルールを一変させるようなテクノロジーがある場合は、隣接市場の事業者や新規参入企業が加速度をつけて競合がひしめく市場に加わってきます。
自身が属する業界の端の方に位置する新製品や新サービスの市場を精査することは、自社に対する将来の脅威を特定するために不可欠です。タクシー業界は、新しいテクノロジーが競争にどのように影響するかを見事に示す例です。業界ではいまだに特定の2地点間の輸送を提供していますが、UberやLyftといった新規参入者の出現は、ドライバーを直接乗客へとつなぐアプリを介して技術的なディスラプションをもたらし、タクシービジネスの定義を塗り替えました。
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収益性の高いM&Aによる成長機会を明らかにするために市場環境を利用する
市場環境を設定し、自社の独自ビジネスが何か、どこに競争力があるのかを定義し終えたら、フルポテンシャル・パラダイム(FPP)の次のステップは、長期的な成長や利益可能性を予測するための最良の因子の1つとされる、相対的な市場シェア(RMS)の計算です。RMSの伸びは、実際の収益性をけん引します。RMSは標準市場シェア(SMS)よりも計算が確実に複雑になります。これは、幾何平均計算によって企業の競合群の最終的な市場売上高を指標化するためです。1
RMSは競争市場に関して、SMSにはない新たな知見を提供します。なぜこれがそれほど重要なのでしょうか。収益の増加のみに焦点を当てた成長戦略は持続可能ではありません。(市場環境分析に基づいて)適切に規定されたビジネスの場合、収益性はRMSによって決まります。RMSが高い企業は、他の内容が同じであれば、RMSが低い企業よりも収益が多くなります。このことは実際に、企業が「大き過ぎて成長できない」という考えを覆すものです。RMSが高くても、収益の増加が制限されることはありません。
成長戦略の設定におけるRMSの力を視覚化するために、FPP構造によるEYの診断結果を以下に示します。私たちは、調整済み売上高利益率(adjusted return on sales:AROS)に対してRMSを設定し、クライアントが定義されたマージン目標を中心に成長目標を確立できるようにしました。さらに、これらの目標を達成するために行われる特定のM&Aの機会を評価しています。
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基準帯域(Normative Band)診断は、市場における企業の競争力をx軸(RMS計算)、収益性の観点から見たパフォーマンスをy軸(AROS)とし、その関係を示しています。業界ごとに、グラフ全体に右肩上がりの傾斜を描く独自の基準帯域があり、その下限はパフォーマンスが20パーセンタイル、上限は80パーセンタイルです。
この基準帯域を使用することにより、企業は収益性が堅調か(80パーセンタイル:A社)、卓越しているか(80パーセンタイル超:B社)、低調か(C社:80パーセンタイル未満、20パーセンタイル超)、あるいは業界からの撤退を余儀なくされる可能性があるのか(D社:20パーセンタイル未満)を特定することができます。
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上図は、市場における自社の地位を向上させるために企業が取り得る複数の選択肢を示しています。A社は上方に移動して収益性を高めることもできます。また、右方に移動してより大きな相対的市場シェアを獲得することもでき、これは後々、収益率の向上にもつながるはずです。このタイプの分析を用いることで、企業はM&Aをはじめとして、どのレバーを引けば収益性に影響を与えることができるのかを評価できます。すでにM&Aを選択している場合には、企業の競争上の優位性を促進し、収益性の高い成長や長期的価値をもたらすために、そのM&Aが取引の正当な根拠をどの程度満たせるのかを、より適切に評価できます。
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上図は、ある業界とその業界に含まれる企業群の例を示しています。各企業には独自の視点があり、収益性の高い成長を達成するまで追求できるだけの独自の選択肢群があります。
A社:市場における現状のポジションに満足している場合、リーダーは内部的に調整を図り、現在のRMSで80%のパフォーマンスを目標として、最適な収益性を実現できます(80パーセンタイルに合わせて円の中心を移動します)。 B社:最も高いRMSを有しています。価格を下げることでこれを達成したと考えられます。この方法にはリスクが伴い、市場シェアを今後も獲得するためには短期的に収益性が低下するでしょう。B社はRMSを最大限に活用して収益性を回復する必要があります。 C社:D社のような隣接市場の事業主、あるいは直接の競合相手を買収することによってRMSを獲得できます。RMSの拡大と、D社が持つ高い収益性の両方が期待されます。 D社:上述の買収が発生した場合、デューディリジェンスが重要となります。D社では研究開発プログラムが弱体化し、イノベーションが停滞しているために高い収益性を実現できている可能性があります。あるいは、収益性を適切に管理する優れたリーダーシップを持つのも手でしょう。これにより、効率という考え方や文化が導入され、適切に統合された場合には、C社の収益性を押し上げる可能性も出てきます。図3におけるこのようなシナリオのそれぞれが、よりRMSを得ること、あるいはAROSを向上させることの必要性を示しています。この例では、C社とD社は分析を使用して特定のM&Aの対象企業を見極め、早期にRMSの拡大と収益性の向上を実現できる可能性があります。
経営者は、思慮深い戦略的成長の決定を下すために、競合他社との関係性において自社が基準帯域のどこに適合するのかを決定することが不可欠です。
M&Aを戦略に合わせることが長期的価値をもたらす
ほとんどの業界がディスラプションの最前線や渦中にある現状では、確信を持って成長目標を特定することは困難です。オーガニック成長は重要な要素ですが、多くの場合、ビジネスに大きなインパクトをタイムリーに与えるものとしては不十分です。その差を補うには、M&Aが求められます。市場環境を理解することは、業界の市場力がどこにあるのか、そしてそれがビジネスと買収の機会にどのように影響し長期的で収益性の高い成長をもたらすかを評価する上で重要です。
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1. RMSは、ビジネスの従来の市場シェアを、主要な競合他社のシェアで割ることによって指標化します。当該の主要な競合他社のRMSは、そのシェアを次に大きい企業のシェアで割ることによって計算します。いずれの場合も、最終顧客の収益が使用されます。
サマリー
ディスラプションが加速化する今日の世界では、多くの企業が、自社が競合する業界や市場について正しく把握しないまま、企業戦略を立てています。本稿では、市場競争における企業の実際のポジションを把握する方法、テクノロジーによって現在の市場がいかに急速に時代遅れなものとなっているか、そしてどうすれば市場を取り巻く環境を利用し、M&Aを駆使して持続可能な成長を促進できるのかについて考察します。
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