事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト   オペレーティングモデルの現状分析と将来設計 #3

事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト

カーブアウト分析の進め方 ──
オペレーティングモデルの現状分析と将来設計 #3


対象事業の独立運営に向けて解決すべき課題を特定し対策を検討する「カーブアウト分析」。必要な経営資源や機能を適切に構築するためには、カーブアウト特有の複雑性を踏まえた精緻な分析と準備が欠かせません。



要点

  • カーブアウト分析の要諦は、対象事業のバリューチェーンやオペレーティングモデルの棚卸しにより把握した「現状(As-is)」と、Day 1後に望まれる「将来像(To-be)」との差分を埋めることにある。
  • 現状分析では、PEACS(業務プロセス、従業員、資産、契約、システム)の5つの観点に沿って対象事業を調査・検証し、本社や外部取引先との依存関係を明らかにする。
  • 依存関係にある業務やサービスのうち、カーブアウト後も必要となるものを「スタンドアロン・イシュー」として特定し、対応策の方針とコストを検討する。


対象事業のスタンドアロン化に向けた調査・分析の進め方

前回は、カーブアウトに関する準備と手続きの全体像とそのポイントについて概観しました。今回は準備段階の中でも、ディールの成否に関わる重要な役割を担う「カーブアウト分析」について見ていきます。カーブアウト分析とは、対象事業が独立した事業体(スタンドアロン)として運営されるために必要な要素を洗い出し、新オーナーの下で迎える「Day 1」に向けて望ましいオペレーティングモデルを構想する作業を指します。対象事業のカーブアウト範囲を正しく導き出し、適正な財務情報と価値を買い手候補の企業に提示するためにも、非常に重要な意味を持つプロセスです。

本稿では、カーブアウト分析の具体的な進め方について、1)オペレーティングモデルの現状分析に始まり、2)売却後に望まれる新しい運営体制を描いた上で、3)両者の間に生じるギャップへの対応策を検討し、4)その対策に必要なコストを明らかにする、という4つのステップに分けて話を進めていきます。

なお、カーブアウト分析を開始するに当たっては、対象事業に関わる従業員に不安や不満を抱かせないよう、また情報漏えい防止の観点からも、調査に関わるメンバーはキーパーソンのみに限定し、NDA(秘密保持契約)を結んだ上で慎重に進めることが重要です。

Step 1 オペレーティングモデルの現在地を知る

カーブアウト分析の第1段階は、現状のオペレーティングモデルを調査・検証することから始まります。その短期的な目的は、対象事業を切り離すことによって売主のビジネスや、これまでの顧客や取引先に与えるマイナスの影響を最小限に抑えることにあります。企業価値を高めるためのカーブアウトであるはずが、顧客離れで売り上げ低下を招いたり、取引先との関係が切れて仕入れが滞ったりしたのでは本末転倒です。また、長期的な目的には、切り出した事業が将来にわたって成長し、持続可能なビジネスとして存続できるよう、有効なオペレーションを確立することにあります。その青写真が見えないことには、買い手にとって魅力的な事業であるとは思えないでしょう。

 

対象事業における現状のバリューチェーンやオペレーティングモデルがどのような構造になっているのか、詳細に把握することが調査・検証の第一歩です。主な対象となるのは、以下に挙げるProcesses(業務プロセス)、Employees(人材)、Assets(資産)、Contracts(契約)、Systems(システム)の5つ──PEACS(ピークス)です。それぞれの現況を多角的に分析し、業務の成り立ちとそれを支える組織構造を可視化します。それはすなわち、本社やグループ会社、外部取引先などと対象事業との依存関係について整理することでもあります。

Processes(業務プロセス):

バリューチェーンと各業務領域における業務プロセスの観点から対象事業における現行業務の構造を把握。例えば、物流部門が複数の事業をまたいで機能している場合、カーブアウト後は対象事業から物流機能が欠落することになります。そのような個々の依存関係を明らかにしていきます。

Employees(人材):

業務プロセスを担う組織と人材について把握し、カーブアウトに伴う新組織の人員計画を検討。例えば、対象事業の要を担う兼務担当者や出向者が、カーブアウト後は本社に残ることが想定される場合など、人材の観点から事業運営に与える影響について検証します。

Assets(資産):

土地、建物、設備、知的財産など、対象事業の運営に必要な資産を明確に。例えば、同じ工場の建屋で対象事業を含む複数の生産ラインが共存している場合、カーブアウトに向けてどのように情報統制を担保した状態で分離し、生産を継続するか。そうした是非や方法を検討します。

Contracts(契約):

対象事業に関する顧客やサプライヤーなどとの契約関係、また社内やグループ会社間でのサービス提供に関する合意(SLA: Service Level Agreement)についても確認。例えば、社内で原材料を共同購買している場合など、カーブアウト後、その契約から抜けた時に生じる影響について考えます。

Systems(システム):

対象事業を支えるIT資産(アプリケーション、インフラ、データなど)の状況を把握。多くの場合、全社共通のIT基盤を利用しているため、カーブアウト後のシステム環境をどう構築するかは大きな課題となります。

図:当社作成

Step 2 Day 1から始まる新体制の将来像を描く

以上の観点からバリューチェーンやオペレーティングモデルの現状把握を進めていくと、カーブアウト後の運営に必要な要素として、主に次の4つに分類できる業務やサービスが浮かび上がってきます。これらを基に、対象事業の継続性・成長性を確保することを主眼として、どの部門や機能を切り出すのか、あるいは切り出さないのか、カーブアウトの範囲を特定するとともに、Day 1以降の新しいオペレーティングモデルの策定に着手します。

① 対象事業において単独で完結する業務・サービス
② 全社機能に依存している業務・サービス
③ 他部門やグループ会社と共有・委託関係にある業務・サービス
④ 外部業者に依存している業務・サービス

このうち①については、カーブアウト後もそのまま対象事業に付随して維持継続できるため大きな問題はないでしょう。しかし、②③④については、事業の継続に必要な要素であるにもかかわらず、本社やグループ会社、外部取引先との依存関係にあるため単純に移行することはできません。例えば、本社と共用する営業所などの施設であれば、一定の情報セキュリティを担保した上でDay 1後もコストを分担して共用する、または退去して新たに物件を準備するなど、対象事業の円滑な運営にとって望ましい方策を検討します。また、対象事業が何らかの許認可を得て運営されている場合、オーナーが代わることで再取得が必要になるか否かを確認しなければなりません。

前回も触れたように、②③④に関する課題、つまり対象事業を独立事業体として成立させるために解決すべき課題を総じて、「スタンドアロン・イシュー」と呼びます。その内容は種々さまざまですが、PEACS毎に下図にあるような視点で検証します。

図:当社作成

Step 3 スタンドアロン・イシューの対応策を練る

オペレーティングモデルの将来像を描くには、洗い出された個々のスタンドアロン・イシューについて詳細に検討し、それぞれの対応方針を決めておく必要があります。この段階では買い手候補の企業探しもこれからという状況が一般的ですが、売主が対象事業の新しい運営体制について確固たる設計図を持っているか否かによって、買い手に与える事業の解像度が大きく変わり、交渉の行方にも影響して来ます。

スタンドアロン・イシューへの対応策は、以下のように分類できます。前項で挙げた②③④をそれぞれに当てはめてみましょう。なお、①については前述のとおり、Day 1後も現在のオペレーションを踏襲する「単独継続」となります。

吸収継続:

②③④のうち、Day 1後の新しい組織や人員で吸収できる業務・サービス。例えば、本社の経営企画部門が担当していた戦略策定業務について、対象事業に移るマネジメントや人員で支障なく引き継ぐことが可能であれば、切り出す必要はなくなります。

新規構築:

②③④のうち、Day 1以降、新オーナーが持つ既存の機能、または対象事業が新規構築することでカバーできる業務・サービス。例えば、買い手が保有するシェアードサービス機能を一部活用したり、新たに担当者を採用したりする事で自前運営するケースが考えられます。

依存継続:

②③④のうち、Day 1に間に合わせることができないため、TSA(Transition Service Agreement)に基づき、一定期間は売主による従来の機能を継続して利用するもの。人事・経理などのバックオフィス機能、ITシステムなど多岐にわたります。上記、吸収継続や新規構築の場合でも、安定稼働するまでの一定期間はTSAによって依存継続する事もあります。

非継続:

新体制において特に踏襲する必要のない業務やサービス。例えば、全社やグループで共通して行われている各種研修プログラムについて、カーブアウト後も続ける積極的な理由がないプログラムは中止するなどの事例が見られます。

特に留意したいのは、依存継続に関わるTSAの範囲です。サイニングからクロージングまでの短い期間の中で、事業継続に必要なすべての機能を整えるのは至難の業です。買い手が異業種の場合はなおさらでしょう。TSAは、カーブアウト計画の実効性を担保するのに不可欠な要素であり、そのサービス内容やサービスレベル、提供期間、コストなどの要件を明確にした上で売却交渉に臨むことが、後のトラブル防止にもつながります。

Step 4 独立事業体としての運営コストを算定する

以上を踏まえ、スタンドアロンコスト、すなわちカーブアウト後に独立した事業体として運営するのに必要な費用を算定します。売主の一事業としての位置付けから独立事業体へと移行することで、TSAの費用を含むさまざまな追加コストの負担が生じます。従前のコストにそれらを加えて調整し、全体にかかる新しいコストを割り出さなくてはなりません。つまり、カーブアウト財務諸表(対象事業に関する財務情報)の作成を担当する財務チームや、バリュエーションの基礎となる事業計画に反映させるスタンドアロンコストを加味して財務情報や事業計画を補正する作業です。

スタンドアロンコストを調整するための分析は、①One-time Cost(一度だけ発生するコスト)、②Recurring Cost(継続的に発生するコスト)の2つに分けて検討します。それぞれの代表例を以下に挙げます。


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One-time Cost:カーブアウトに際し、対象事業の負担で一度だけ発生するコスト

  • 設立費:新会社設立のための法的手続きや登記費用などのコスト
  • システム移行費:ITシステムの再構築に関する初期費用
  • 設備費:新しいオフィスや工場、各種設備投資にかかる費用
  • TSA提供体制構築費用:TSA環境への移行に際して必要となる費用

Recurring Cost:カーブアウト後、対象事業を運営するために新たに継続的に発生するコスト

  • 人件費:新規採用した従業員の給与、福利厚生費など
  • 運転費:新しいオフィスの賃貸料、光熱費、通信費など
  • ITサポート費:新規構築したシステムの維持管理やサポートにかかる費用
  • オペレーション費:調達や販売の商流変更、R&Dの委託などの追加変更費用

One-time Costを負担するのが売主なのか、対象事業なのか、新オーナーなのかは、カーブアウトの切り出し方や進め方、買い手との交渉などによって異なり、ケース・バイ・ケースです。中にはあらかじめ子会社として切り離し、完全に独立運営できる体制を整えてから売却するケースもあります。いずれにしても、これまで見てきた4つのステップからなるカーブアウト分析の精度を高めることが、適正なスタンドアロンコストの算定に直結します。

次回は、法務の視点からカーブアウトディールに関する留意点をまとめます。




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サマリー

新しいベストオーナーの下でなら、この事業は磨けば光る原石になる。そのような価値と可能性を感じさせる事業としてカーブアウトを成立させるために、対象事業の現状分析と将来設計を疎かにしないことが大切です。売主としての確かなビジョンと構想を示すことが、望ましいベストオーナーの選定を誘い、事業の持続的成長となって結実します。


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