再生可能エネルギーと蓄電池ビジネスの拡大

情報センサー2025年10月 Trend watcher

再生可能エネルギーと蓄電池ビジネスの拡大


再生可能エネルギー事業と関連付けて蓄電池ビジネスを語り、どうすれば今後のビジネス機会を捉えることができるのか――これが実務担当者の関心を集めています。本稿では、同事業の中でなぜ蓄電池ビジネスが重要なのか、その背景及び具体的なビジネスの方向性について紹介します。


本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション 斉藤 直毅

銀行系証券会社、日系不動産ファンド運用会社、外資系格付け機関等を経て、2016年にEYに参画。現在は、再生可能エネルギー分野にて、主にファイナンシャル・アドバイザリー業務に従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ディレクター。



要点

  • 国内における再エネ電源比率の増加に加え、さまざまな運用市場の整備が進んだことにより、蓄電池ビジネスが拡大。
  • 蓄電池を用いたビジネスとしては、主に太陽光併設蓄電池及び系統用蓄電池がある。
  • プロジェクトファイナンスによる資金調達の増加とともに、蓄電池ビジネスが拡大することが期待される。


Ⅰ はじめに

1. 蓄電池ビジネスの現在地

蓄電池関連のビジネスは、以前は電気自動車向けの関連技術として紹介されることが多い印象でした。加えて、省エネを目的とした家庭に設置する蓄電池が挙げられます。したがって、電池メーカー以外で注目されるプレーヤーとしては、蓄電池技術を搭載する自動車メーカー、もしくはその自動車メーカーと共同で開発を行う、あるいは家庭用蓄電設備機器を納める電機メーカー中心でした。

最近では、比較的大型の容量を有する蓄電所開発の記事が連日、新聞、ネットニュース等で見られるなど、蓄電池ビジネスの様相は変化しています。注目プレーヤーも、発電事業者、特に再生可能エネルギー(以下、再エネ)による発電事業を重視している事業者及び外資系投資ファンドを含めた金融投資家による積極的なビジネス参画の話題が目立つようになりました。

2. 変化する蓄電池ビジネス

このような蓄電池ビジネス変化の背景としては、大きく2点考えられます。1点目は、日本の電源構成に占める再エネ電源の比率が増加したため、電力の需要量と供給量のバランスが取りにくい状況となり、蓄電池の技術を用いて調整するニーズが高まったというものです(<図1>参照)。2点目は、蓄電池を用いた電気の運用、具体的には市場価格が安い時に電気を購入して蓄電池に蓄え、市場価格が高い時に売却することができるような取引を可能とし、さらなる収益獲得の機会拡大に資する、新たな市場の導入及び整備が進んだことです。以降、具体的にどのような事象が生じているのか説明します。

図1 電源構成(発電量)の変遷

図1 電源構成(発電量)の変遷
出所: 経済産業省「総合エネルギー統計 時系列表(参考表)」 令和7年4月25日公表を基にEY作成

Ⅱ インバランス対応としての蓄電池ビジネスの拡大

1. 電気の安定供給に必要な「同時同量」

電気の安定供給に重要な原則に、「電力の同時同量」というものがあります。電力の需要量と供給量を常に一致させるという意味ですが、これにより電力系統に接続している機器の安定、すなわち大規模な停電の回避につながっています。この原則に従うために、一般的には小売電気事業者が需要計画を、発電事業者が供給計画を提出し、送配電事業者が需給を調整するという仕組みが採用されています。

2. インバランス回避のための出力抑制実施から蓄電池の活用へ

ただし、再エネ由来の電気を固定価格(kWh単価)で買い取る「FIT制度」の下で開発された発電所の事業者は、再エネ発電所の新規導入を促進するという大義の下、供給計画策定義務が免除され、発電した電気は全量を送配電事業者(または小売電気事業者)によって買い取られる仕組みとなっています。

自然由来の再エネ電気は、供給量を正確に予測しかつ短期間でコントロールすることが難しい性質である中、FIT制度に基づく再エネ発電所が数多く開発されたことにより、同時同量が達成できない「インバランス」の状況を回避する措置として、出力抑制を実施する必要がありました。具体的には、送配電事業者が発電所に出力抑制の指示を出して、事実上、全量買い取りに制限がかかっているわけですが、これはすなわち発電したもしくは発電可能であった電気の一部を需要家に届けることができないということであり、再エネ電気の供給能力を無駄にしていることになります。そこで解決策として登場したのが蓄電池を活用する事業スキームです。

(1) 太陽光併設蓄電池

再エネ発電所としての太陽光発電所は、日中の供給能力が高くなりますが、同じ時間帯における電気の需要量と比較すると、供給過剰となる事態が常態化し、出力抑制が頻繁に実施される時期または地域が増えつつあります。そのような事態発生の際に蓄電池に充電し、夜間の需要に合わせて放電(売電)することができれば、電力の供給力を無駄なく利用することが可能となります。この考えに基づき設置された蓄電池が「太陽光併設蓄電池」です。

なお、FIT制度に基づき開発された太陽光発電所に適用される売電単価は、発電所の建設費用や事業者の期待収益を参考に経済産業省が所管する調達価格等算定委員会において決定されます。したがって、事後的に蓄電池を太陽光発電所に併設し、FIT価格を維持した上で、蓄電池設置により当初想定よりも高い事業性を目指すことは、制度上認められていません。

①調整後プレミアム

一方、FIT制度から、発電事業者が販売する電力の市場価格(参照価格)に対して一定のプレミアム(FIPプレミアム)が上乗せされる仕組みのFIP制度に基づく売電方法に移行する場合は、発電所に蓄電池を併設することが認められます。FIP制度において発電事業者が受領するFIPプレミアムは、基準価格と参照価格の差額となりますが、FIT制度からFIP制度に転換した場合の基準価格は、FIT制度時点の売電単価となります。

FIP制度の導入により、供給計画策定義務は発電事業者に課せられますが、FIT制度適用時には出力抑制実施のために売電不可であった時間帯(日本卸電力取引所〈以下、JEPX〉での価格が0.01円/kWh)に発電した電気を蓄電池に充電し、価格が高くなる夜の時間帯に売電(放電)するという運用が可能となります。

なお、JEPXでの市場価格が0.01円/kWhとなる時間帯は、出力抑制を実施している時間帯であり、売電は行われずFIPプレミアムの交付はありません。ただし、その後、売電時に事後的にFIPプレミアムの回収が可能となる「調整後プレミアム」という仕組みがあります。これは調整前のFIPプレミアムに一定の係数を乗じて上乗せして交付するものであり、FIP制度に移行し蓄電池を併設することを検討する事業者にとって1つのインセンティブとなります。

調整後プレミアム単価(円/kWh)
=調整前プレミアム単価(円/kWh)
× 電源別エリア全体実績(0.01円/kWhコマ含む)合計の電気供給量(kWh)
÷ 電源別エリア全体実績(0.01円/kWhコマ除く)合計の電気供給量(kWh)


②補助金の活用

さらに、FIP制度への移行を前提に、蓄電池を併設する事業者向けに、蓄電池設置工事費用への政府補助金を交付する制度が継続的に予算化されています。蓄電池の設置期限など、補助金受領のために遵守が必要とされる事項には留意しつつ、事業性向上のために多くの事業者が申請しています。

(2) 系統用蓄電池

①さまざまな分野からの参入者

インバランス回避のための蓄電池の活用方法として、発電所への併設以外では、電力系統に「系統用蓄電池」を設置し、需給調整を行うという方法があります。政府は、発電所に併設する蓄電池同様、系統用蓄電池の設置についても補助金制度を導入し、さまざまな事業者による参入を後押ししています。

電力需給の変動は、すなわち市場価格の変動であり、蓄電池を利用して電力のトレーディングを行って収益獲得をもくろむ総合商社や金融系の事業者が登場し、旧一般電気事業者のような伝統的な電力会社以外の参入者として目立つようになりました。

②長期脱炭素電源オークション

系統用蓄電池の普及を後押ししている要因の1つに、2024年に第1回の入札が行われた長期脱炭素電源オークションの実施があります。長期脱炭素電源オークションとは、容量市場におけるオークションの特別な形態であり、事業者にとって投資回収の予見可能性を高める仕組みを採用することで、脱炭素電源の供給力強化を図るものとして導入されました。蓄電池自体は脱炭素電源ではありませんが、再エネの不安定な供給を補完するために不可欠な技術であるということから、系統用蓄電池はオークションの対象となっています。

なお、長期脱炭素電源オークションは、事業者にとって長期安定した収益の確保に資する仕組みではあるものの、蓄電池の運用能力次第で変動する利益については、その大半は国に還付することとされています。収入面でのアップサイドが見込めないことから、当初は期待利回りが比較的低水準である国内の大手事業者が主要な落札者となると推察されていました。しかし、落札結果を見ると、比較的業歴の浅い新興系の再エネ開発業者や海外ファンド勢が、国産との比較で安価な海外製蓄電池メーカーとの提携または内製化した蓄電池運用ノウハウを武器に、非常に競争力のある設備投資価格を前提とすることで落札しているという構図となっています。この傾向は2025年に実施された第2回のオークション結果にも当てはまる事象となっています。

図2 発電方式別の応札容量・落札容量

図2 発電方式別の応札容量・落札容量
出典: 電力広域的運営推進機関「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)」 令和7年4月28日公表

Ⅲ 蓄電池ビジネスを魅力あるものにする可能性のある市場の整備

1. JEPX以外の市場での運用

蓄電池の運用について、これまではJEPXを通しての価格差いわゆるアービトラージを狙った運用手法主体でしたが、近年では、供給力を取引する容量市場及び調整力を提供することで収入が得られる需給調整市場といった、JEPX以外の電力取引に関する市場が整備されており、収益獲得の機会が拡大しています。

これまでは、補助金を獲得しなければ事業性が成り立たないとまで言われてきた蓄電池ビジネスですが、複数市場からの収益獲得機会の拡大により、補助金に頼らず運用能力の巧拙によって事業性が判断されるようになりつつあります。このことは、系統用蓄電池向けの事業のみならず太陽光併設蓄電池においても、余剰電気の運用手段の選択肢として、幅広く検討が進むことが想定されます。

2. プロジェクトファイナンスによる資金調達の拡大

さらなる事業性向上のためには、事業者自身の信用力を使わずに負債調達によるレバレッジを高めることができる、プロジェクトファイナンスによる調達可否がポイントとなります。

以前は、蓄電池の運用から生じるキャッシュ・フローに依拠した資金調達は、そのキャッシュ・フローの不確実性を緩和する仕組みが提案されていなかったことから、プロジェクトファイナンスの融資金融機関が許容することはできないとの評価でした。しかし、その後、運用のトラックレコードが蓄積されてきたこと、蓄電池の事業者のキャッシュ・フローを別途固定単価にてオフテイクする存在を事業ストラクチャーの中に確保する仕組みを採用する事業者が現れたこと、そして、複数の市場を活用する蓄電池の運用見通しについて、外部専門家による評価レポートが入手可能となったことなどから、融資金融機関からプロジェクトファイナンス方式での資金調達が可能となりつつあります。これにより、従前のフルエクイティもしくはコーポレートローンを利用しての資金調達との比較で、ターゲットとする投資利回りの実現可能性が高まるものと思われます。


Ⅳ おわりに

日本政府含め多くの国が目標にしている2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネ電源導入拡大のトレンドは、これからも続くことが予想されます。また、電力需要そのものも、データセンター開発の急増に伴い増加することが見込まれ、かつ需要家としてのデータセンター事業者は、再エネ由来の電気を長期安定的に確保することを強く求める傾向にあります。

そのため、日本の電力市場は引き続き系統電力の安定化を図りながら、いかにして再エネ電源を導入していくのかが大きなテーマとなることは確実であると言えるでしょう。電力の需給調整ノウハウを提供するプレーヤーの注目度の上昇、さらにはその需給調整を行うための手段としての蓄電池ビジネスは、同様に拡大していくことが予想されます。


サマリー

再生可能エネルギー事業の中で、なぜ蓄電池が重要なのか、その背景について説明するとともに、太陽光併設蓄電池及び系統用蓄電池といった具体的なビジネスの概要ならびに今後のビジネスの方向性について考察します。


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