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情報センサー2026年8月・9月 Trend watcher

18歳人口減少に向けた学校法人の新たなキャンパス活用戦略 -不動産アセットマネジメントの転換-


学校法人は経常収支差額改善に向けた不動産アセットマネジメントの転換が求められています。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション事業部 Transactions and Corporate Finance(TCF) 水野 禎徳

国内大手信託銀行にて、政府系金融機関から富裕層に至る全セクターに対する媒介業務およびCRE戦略提案業務等に従事。2025年にEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に入社し、不動産トランザクション、アドバイザリー業務等に従事している。

※所属・役職は記事公開時のものです

要点

  • 学校法人を取り巻く環境は、18歳人口減少により納付金収入が縮小し、固定費中心の財務構造の中で経常収支は悪化。遊休不動産や維持費増加も重なり、従来型の改善策では限界が顕在化。
  • 不動産を収益・コスト両面から再設計し、定期借地や再開発、施設統廃合により収入拡大とコスト削減を実現。さらに都心集約により志願者増を図る戦略等を総合的に実行することが求められる。
  • 実行には高度な専門知識や外部連携が必須。不動産を経営資源化し、財務余力を創出し、教育投資へ循環させる持続可能な経営を。

Ⅰ はじめに

日本の高等教育機関を取り巻く経営環境は、構造的な危機に直面しています。文部科学省の「学校基本調査」および国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、18歳人口は、2020年代後半には100万人を割り込み、2040年には約82万人にまで落ち込むとされています(<図1>参照)。

図1 18歳人口(男女別)の将来推計

図1 18歳人口(男女別)の将来推計
出典:文部科学省「中央教育審議会 大学分科会(第178回) 高等教育の在り方に関する特別部会(第8回)【参考資料1】関連データ集」www.mext.go.jp/content/20240719-koutou02-000037140_14.pdf(2026年7月21日アクセス)

この「2040年問題」に向けたカウントダウンが進む中、多くの学校法人において経営の根幹である「学生生徒等納付金」の減少は避けられないのが現状です。

日本私立学校振興・共済事業団の「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」によると、2020年代半ば時点で、私立大学の5割以上が定員割れを起こしており、収支悪化はひとごとではなくなってきています。

学校法人の財務健全性を測る最も重要な指標の1つが、「教育活動」および「付随する活動」から得られる経常的な収入と支出のバランスを示す「経常収支差額(経常収支比率)」です。

経常収支差額=経常収入(教育活動収入計+教育活動外収入計)-経常支出(教育活動支出計+教育活動外支出計)

出典:日本私立学校振興・共済事業団「私立学校運営の手引き」www.shigaku.go.jp/files/tebiki202303.pdf(2026年7月21日アクセス)

 

学生数の減少は、直接的に納付金収入を押し下げ、経常収支差額の悪化や慢性的な赤字体質につながり得ると考えます。この課題に対しては、従来の「留学生の受入れ」や「消耗品費の削減」等による収支改善策では解決が困難な状況にあると考えられます。

特に東京23区内に本部を置く大学は、2018年に成立した通称「地方大学・産業創生法」による定員規制が行われており、学部の新設やキャンパス移転・再編が2028年までの時限措置として制限されています。

例えば、都内の私立大学Aでは2028年以降に到来する周年事業として、各地に分散しているキャンパスを本部キャンパス内または近隣に移転する検討を行っています。

本稿では、学校法人が保有する広大な不動産(校地・校舎)に着目して、従来の教育活動としてのみ位置付けられていた学校資産を、経営基盤を支える戦略的資源(アセット)として再考し、いかにして経常収支差額の改善に結び付けるかを検討します。

※ 「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」

II 学校法人の財務構造における課題と不動産の現状

学校法人の財務は、収入のほとんどを帰属収入(特に学生生徒等納付金)に依存する一方で、支出の大部分を人件費、施設・設備の減価償却費、管理経費等の固定費が占めるという硬直性を有しています。そのため、学生数が減少すると収入は即座に減少しますが、校地や校舎の維持管理費や教職員の人件費は簡単には調整することができず、結果として経常収支差額は大きく減少することとなります。

次に、学校法人が保有する不動産には、以下に掲げる特有の課題が存在します。

第1に、遊休資産の顕在化が挙げられます。定員割れによる教室利用率の低下や郊外キャンパス撤退等により遊休資産等が年々増加傾向にあります。

第2に、維持管理コストの急速な上昇が挙げられます。建築費高騰や脱炭素社会に向けた省エネ基準への適合に伴い、修繕・維持コスト、電気代等をはじめとするエネルギー費用は増加の一途をたどっています。

第3に、使途の制限と先入観が挙げられます。学校法人は税制上の優遇措置(非課税措置)との兼ね合いから、教育活動以外の不動産有効活用に対して保守的な対応が多く見られます。

なお、不動産有効活用が収益事業認定された場合であっても、通常の法人税が課税されるだけであり、教育活動外利益は増加すると考えられます。収益事業によって得られた利益を教育活動に充当する場合には、“みなし寄付金”として損金算入できる制度も存在します。しかし、18歳人口減少が確実に訪れる状況においては、硬直的な不動産運用を見直し、経常収支差額の改善に直接貢献する戦略へ転換することが不可欠と考えられます。

Ⅲ 経常収支差額改善のための不動産戦略と実例

学校法人が保有する不動産を活用して、経常収支差額を改善するためには、以下の3軸から検討する必要があります。

  1. 外部資金(教育外収入)の獲得による収入拡大
  2. 保有・維持コスト削減による支出削減
  3. キャンパス再配置(不動産ポートフォリオの最適化)

1. 外部資金(教育外収入)の獲得による収入拡大

敷地内の一部をデベロッパー等の民間事業者に定期借地することや、キャンパスの一部を一般開放して外部テナントを誘致することで長期安定的、確実な賃料収入を確保します。

例えば、首都圏の国立大学Bでは、附属高校のキャンパス移転に伴う余剰地を活用して、一般定期借地権をデベロッパーと契約し、地代収入および設定一時金に加え、大学施設を代物弁済で取得するなど、収益の多角化に成功しています。

国立大学Cでも、老朽化した宿舎跡地を定期借地権付き分譲マンションとして活用し、収益の多角化および将来的な学校事業での活用という長期的な取り組みを行っている例もあります。 

2. 保有・維持コストの削減による支出削減

経常収支差額の構成要素である経常支出を抑えることも重要であり、不動産の管理手法を見直すことで固定費の削減に取り組みます。

  • ファシリティマネジメント(FM)の導入と集約化
    キャンパス内の施設利用状況をデータ化してコストを可視化し、利用率の低い施設を閉鎖したり、他学部との集約化を検討します。光熱費、清掃費等の削減が可能となり、閉鎖後の施設に関して売却や有効活用の検討が可能となります。
    例えば、国立大学Dでは、学内にアセットマネジメントセンターを設立し、学内保有資産の一元管理化に取り組み、余剰施設を短期貸付し、資産効率化を実現しています。
     
  • エネルギー効率の向上(ZEB・グリーン戦略)
    老朽化した校舎の断熱改修や太陽光パネルの設置、高効率空調の導入等を行うとともに、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)基準を目指します。初期投資が必要ではあるものの、エネルギー費用の削減により経常支出の長期的な抑制が可能となります。
    一例として国立大学Eでは、キャンパス内の新築建物を順次ZEB化し、エネルギーマネジメントを推進しています。

3. キャンパス再配置(不動産ポートフォリオの最適化)

地方や郊外に複数のキャンパスを分散保有している学校法人の場合、これらを都市部や主要駅周辺に集約化する戦略は、学生募集に対してダイナミックに影響します。

この例としては、複数の首都圏市立大学が、郊外から都心部にキャンパスを再配置した効果として志願者数が増加し、受験料や学生生徒等納付金の改善や郊外キャンパスの施設維持管理コストの削減に成功していることが挙げられます。

Ⅳ 学校法人のキャンパス再編による展望

大学キャンパスの特徴として、①市街地に所在(学生が通学可能なエリア)、②敷地規模が広大、の2点が挙げられます。そのため、都市部で開発可能な土地が限られるわが国においては、学校法人のキャンパス再編は、民間企業が抱える建物老朽化等の解決策として産学連携等も含めた活用が期待されます。

例えば、都心部のキャンパスの一部を再開発することで単独で大型複合型施設の供給が可能であり、多数の企業が入居可能となります。それに伴い、移転元の本社跡地の再開発等を連鎖式に実行することも可能となります。他方、郊外で利用率が低下しているキャンパスは、リノベーションにより企業の研究所やデータセンター等に転用できる可能性も有しており、大規模なグラウンドについては先端型の物流拠点や工場として再開発することで、多くの経済効果を生み出すことが期待されます。

Ⅴ 不動産戦略実行における課題と留意点

上記不動産戦略を実行するにあたっては、学校法人特有のハードルを乗り越えていく必要があります。

第1に、「法的・税務上のリスクと収支シミュレーション」が挙げられます。学校法人を含む公益法人が公益事業(教育活動)以外に保有不動産を活用する場合、固定資産税の非課税措置が除外され、収益事業に対して法人税が課税されます。そのため、収益事業によって得られる収入と、新たに発生する税負担・管理コスト等を精緻にシミュレーションし、経常収支差額の改善効果が得られるか慎重に計画する必要があります。特に、教育活動収支を基盤とした財務構造を維持しつつ教育活動外収支を向上させ、かつ、みなし寄付金制度等の税務上の優遇措置等も精査することが重要となります。

第2に、「学内外のステークホルダーとの合意形成」が挙げられます。伝統あるキャンパスの売却や収益物件化、デベロッパー等の学内参入に対しては在校生だけではなく、教職員、卒業生(同窓会)等からの抵抗が生じやすいと考えられます。「教育環境の質向上」が「経常収支差額の安定的黒字化」の上に成り立つことを、中長期的な財政見通し等の数値を提示しながら、論理的かつ丁寧に説明する必要があります。

第3に挙げられるのが「専門人材の不足」です。多くの学校法人の事務組織は教育行政に対応する組織であり、不動産開発やアセットマネジメント、管理運用の専門知識を有する専門人材が不在と考えられます。戦略実行には、デベロッパーやプロパティマネジメント会社等の外部パートナーに加え、利害関係者と連携しプロジェクト全体をマネジメントするアドバイザリーの関与は必要と考えられます。

Ⅳ おわりに

18歳人口減少に伴い、学校法人は「教育の質追求」だけではなく「経営基盤の質追求」が必要となってきています。学生生徒等納付金収入という単一の収入源に頼る時代は終わりを告げたと言えます。

本稿で考察した不動産戦略は、単なる余剰資産の売却(現金化)ではなく、キャンパスを地域や民間企業と接続するアセットへと転換し、新たに生み出す経済価値を経常収支差額の改善へとつなげていくプロセスと考えます。

遊休資産の収益化や重複施設の集約化・統廃合を通じた不動産ポートフォリオの最適化により生み出された財務的余力は、「奨学金制度の拡充」や「最先端の研究分野への投資」に振り向けることが可能であり、理想的な教育環境を生み出すことにつながります。


サマリー

18歳人口減少により学校法人の収支は悪化し、従来策では限界がある状況です。不動産を経営資源として再活用し、収入拡大とコスト削減を図ることで財務基盤を強化し、持続的成長へ転換する時代が到来しています。



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