EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
そこで有意義なのが、「セルサイド・デューデリジェンス(DD)」。法務や財務、税務、人事、ITなど、各方面にわたる売主自身による詳細な調査です。
要点
前回までにご紹介したカーブアウトディールの全体像や、準備段階におけるカーブアウト分析の進め方によって、事業切り出しのイメージがだいぶ固まってきたのではないでしょうか。しかし、実際に買主候補となる企業の絞り込みと並行して、あるいはその前の段階から、やるべきことはたくさんあります。中でも「セルサイド・デューデリジェンス(DD)」は売主にとって極めて有用なアクションです。切り出そうとしている対象事業について、売主側でその価値やリスクを客観的に評価し、買主側に提示したり、スムーズな売却に向けた準備を進めたりするための調査・分析のことをいいます。
通常、デューデリジェンスといえば、買主側が対象事業の内容を精査し、リスクを把握して、買収対象の価値を査定するために実施するものです。これに対してセルサイドDDは、買主側のデューデリジェンスに先立ち売主が自ら実施するもので、適正な譲渡価格をあらかじめ算定して買主との交渉を効率的に進めることや、買主側のDDで指摘されるであろう問題点やリスクを先んじて把握して対策を講じること、カーブアウト手法の選択に役立てること、また譲渡に付随して必要となる取引をあらかじめ検討することなどが可能になる利点があります。前回取り上げた、対象事業のオペレーションに関するカーブアウト分析もその一環です。
セルサイドDDの主な対象としては、オペレーションの他にも、財務、税務、人事、ITなどが挙げられ、本シリーズでも次回以降それぞれについて詳しく見ていきます。今回はそれらの有用性を認識するための前提として、主に企業法務の観点から、すでに述べてきたことも含めてカーブアウトディールの特徴と留意点について整理しておきます。
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続きを読むカーブアウトとは文字どおり、事業の切り出しを意味します。特定の事業内容を担うグループ会社のうちの1社を単純に切り離して譲渡するような場合がある一方、事業ポートフォリオに組み込まれた一部の事業活動のみを譲渡の対象とする場合も多く、カーブアウトディールのプロセスを複雑で困難なものにしています。そうしたカーブアウトディールの特徴は、次の3点に集約することができます。
企業活動を構成する一つひとつの事業活動は、外から見れば一定の塊としての「事業」と認識することができても、事業活動を行う企業内部においては必ずしも各事業が独立して存在するものではありません。元は1つの事業として営まれていたものが、規模の拡大などによって複数の事業に分かれたり、逆に元々は複数の事業として営まれてきたものが集約されるケースもあります。切り出そうとする対象事業とは別の事業が同一の製造拠点や開発拠点で営まれていたり、同じ取引先との契約や取引に複数の事業が関連していたりすることも少なくありません。また、複数の事業が共通の営業体制や人員体制のもとで運営されることが少なくないため、譲渡対象とする事業をそれ以外の事業と容易に切り分けられないケースが数多くあります。それら複雑に絡み合った糸を解きほぐすかのような作業を進めつつ、どこまでを譲渡の範囲に含めるのか、また含めない部分については代替手段の要否や補完のための手当をどうするかなどが、大きな課題となる場合が珍しくないのです。
カーブアウトの手法、すなわち事業の切り出し方としては、譲渡対象の事業をいわばそのまま売却する「事業譲渡」と、対象事業を新会社に切り出した上で、その新会社の株式を買主に売却する「会社分割」の2つに大別することができます。会社分割を利用する場合はさらにいくつかの手法に分けることができ、1)新設する法人にカーブアウトの対象事業を移転した上で新会社の株式を譲渡する方法、2)譲渡対象の事業を除く事業を新設する法人に移転して、残されて対象事業だけとなった元の法人の株式を譲渡する方法、の2パターンなどがあります。詳細は税務DDの回で説明しますが、これらのスキームのどれを選択するかによって、税務上のコストや法務的な手続き、労働契約の取り扱いなどさまざまな面に差異が生じてきます。
買主側ですぐに必要な機能の手当ができない場合の代替手段を含め、対象事業が独立した事業体として継続するために検討を要する課題の総称が、スタンドアロン・イシューです。前回も述べたように多岐にわたる課題がありますが、特に法務の面から留意すべき課題について次項に列記しておきます。
経営管理や財務・経理、法務、総務、広報・宣伝など、一般に管理部門に属するバックオフィス業務の大半が全社共通のものとして機能し、事業部門ごとに分化しているケースは少ないと思われます。したがって、カーブアウトに際しては、対象事業の運営に必要あるいは関連するバックオフィス業務についても、切り出すのかどうかの判断が必要になります。切り出さない場合、買主側にその機能が不足しているならば、譲渡後も円滑に対象事業が継続できるよう、買収当事者間でTSA(Transition Service Agreement)などの契約を締結し、一定期間、売主側が買主側をサポートする方法が採られます。同一法人あるいは同一グループ内であればこそサポートが可能になるものや、手数料や報酬の設定が困難なものなど、さまざまなケースがあります。
対象事業に関連する資産、特にオフィスや工場設備などの不動産について、他の事業と共用している場合は切り出し方法の検討が必要です。例えば、工場であれば、一部の製造ラインのみを譲渡することが可能か否か。可能な場合、壁を設ける、出入り口を分けるなどといった物理的な方策に加え、工場の敷地や建物の所有者が別にいる場合などは不動産賃貸契約に関する手当(例えば、サブリースが可能か、2つの契約に分けて締結し直す必要があるかなど)の検討も必要です。売主が不動産の所有者であれば、売主から買主へ賃貸する場合もありますし、その逆に不動産は買主に譲渡してしまい、売主側が一部リースバックしてもらうケースもあります。
特許権、著作権、商標権、意匠権などの知財の扱いについても検討が必要です。ある特許技術が対象事業だけでなく複数の事業に利用されている場合、単純にカーブアウトして譲渡するわけにはいきません。とはいえ、その技術を使わない限りは対象事業が運営できないのであれば、売主・買主の間でライセンス契約を結ぶなどの対策を講じる必要があります。また、必ずしも売主・買主間の合意のみで足りるともいえず、売主が第三者とのクロスライセンス契約によって特定の技術をカーブアウト対象事業で利用している場合であれば、対象事業の譲渡後もその技術の使用を続けるためには第三者との協議が必要になります。ある事業のカーブアウトのために、第三者との間のクロスライセンスの変更が可能なのかどうかは容易に判断できません。また、そもそもカーブアウト対象事業の運営において、クロスライセンス対象の知財が使用されているのかどうかが、対象事業の担当者にさえ正確に認識されていないケースもあります。そのようなケースでは、カーブアウト対象事業を直接担当しない他部署の関与が必要となる場合もあるなど、IPにまつわる課題は往々にして複雑であり、細心の注意と事業横断的な考慮が求められます。
グループ会社間で、サービスや原材料その他の物品を提供したり取引を行ったりしている場合、対象事業を担う会社がグループから離脱する際、従来と同じ条件で取引を続けられるかどうか。買主としては、買収後の対象事業の業績や企業価値に影響するため、できる限り好条件のまま引き継ぎたい意向が強いことも多く、交渉と調整が必要です。また、会社同士ではなく同一法人内での部門間取引であれば、元々契約関係がないケースがほとんどであり、カーブアウト後、法人間の取引として改めて契約を結ぶ必要が生じます。
仕入れや物流に関する契約など、カーブアウト対象事業に関する第三者との取引契約についても、譲渡対象に含めるかどうかで対応策は変わってきます。特に1つの契約で複数の事業に関係する場合には、第三者との間で現行契約の変更が必要になることがあります。また、新たな契約を締結する必要が生じる場合は、第三者との契約は維持しつつ、売主と買主の間でTSAを締結するなどの対応を検討することになります。
カーブアウトに伴う許認可や登録関係の移転・継承は典型的な課題、論点といえますが、それ自体がカーブアウト手法や取引全体のスケジュールに大きく影響する重要な問題です。再取得が必要な場合や事後の変更届出で足りる場合などさまざまですが、許認可や登録の種類ごとに対処が異なるため注意が必要です。また、所管の官庁ごとに対応が変わることも多く、単に法令等を確認するだけでなく、当局の担当者に都度確認を要するケースが少なくありません。カーブアウトに際して新会社を設立して対象事業を譲渡する場合には、事業の履歴がない新設法人では許認可の取得が困難なケースや、一定の経験を有する人員配置が求められる許認可では、新設法人での雇用・採用が容易でないケースもあります。また、海外での事業切り出しを伴う場合は、法令等を確認しても必要な対応が判明しなかったり、地域や担当者ごとに対応方法が変わるなど、さらに複雑化することも多いのです。
この他、スタンドアロン・イシューには人事・労務や福利厚生、ITシステム関連などの課題もあり、それぞれに細かな検討を要します。本シリーズの後続記事を参考にしてください。
法務の視点から見て、カーブアウト取引を実施する際に留意すべき点は他にも多々あります。代表的なものをいくつか挙げましょう。
カーブアウトに向けた準備は、秘密保持、情報漏洩防止の必要性から、できるだけ限られた人員でプロジェクトを組み、迅速に進めなければなりません。特に、不採算事業を切り出す場合は、秘匿性が極めて重要になります。市場からの撤退といった情報が広がれば、カーブアウトをしようとする企業の株価やブランド価値が低減したり、取引関係などへの影響、いわゆるレピュテーションリスクを引き起こし、カーブアウト実施前に経済的損失を招きかねません。カーブアウト対象事業に従事する従業員に不安が広がり、離職を招くことになればさらに事業価値に影響します。カーブアウト対象事業が祖業である場合などは、社内への心理的影響も大きく、社内外への説明や情報提供について、タイミングも含めて細心の注意を要します。また、複数の買主候補と交渉を同時並行して進める、いわゆるオークション方式の場合、それぞれの買主候補からの異なる要望や意向を踏まえながら、情報の提供や取引条件の交渉を進める必要が生じます。秘匿性の観点から、そもそも売主側のメンバーが極めて限定的である場合にはタイムリーな対応が困難になりますので、各種アドバイザーなどの外部リソースを積極的に活用することを検討すべきです。
スタンドアロン・イシューの項目で述べたとおり、対象事業のカーブアウト後の継続性を確保するために、TSAをはじめとする種々の契約が必要になる場合が多々あります。売主側としては、買主側の要望するサービス内容などをあらかじめ想定し、提供の可否や条件などは買主との交渉に入る前に整理しておきたいものです。
グループ企業からの離脱に伴う課題については先ほども触れましたが、対象事業が海外での事業を含む場合は特に留意が必要です。例えば、カーブアウトに伴い海外の子会社も売却する場合、その子会社に対する融資について、売主グループの信用に依拠することができず、早期一括返済が求められることがあります。海外子会社に対して日系金融機関からの融資を受ける場合などが典型例です。また、グループ単位で保険プランに加入している場合や調達契約などで、グループに属することによる何らかの恩恵を受けている場合は多く、その維持継続をめぐる検討・交渉、または離脱する場合についての検討は必須と考えるべきでしょう。
カーブアウト対象事業について、セルサイドDDを実施してスタンドアロン・イシューなどを検討することは、カーブアウト対象ではない事業についてカーブアウト取引後も支障なく運営できるかどうかを確認するためにも非常に有用です。これまで述べたとおり、事業は相互に密接に関連しており、明確に切り分けられない場合が多々あります。カーブアウトを実施した場合に譲渡対象ではない事業に対しても影響を及ぼす可能性がありますので、カーブアウト取引の実施後に対象外事業を滞りなく運営するためにも、セルサイドDDは有用といえます。
以上のように、カーブアウトに際して検討すべき課題は数多くあり、それらを成功裏に収めるためにもセルサイドDDは非常に有用です。知財や取引契約、許認可など、法的検討を要する局面では弁護士など法務の専門家による支援が必要とされるところですが、それ以外にも、財務や税務、人事、ITなど、各分野の専門家の関与を検討すべきです。外部の専門家を活用することで、スタンドアロン・イシューなどの調査と発見、対応方針の検討をより網羅的に進めることができ、またそれを踏まえた確度の高い切り出しスキームの選定が可能になります。
次回は、セルサイドDDの重要項目の1つである、財務面の調査と資料作成について見ていきます。
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カーブアウトディールにまつわる課題は枚挙にいとまがありません。ある種のスタンドアロン・イシューのように課題の発見それ自体が難しく、専門家の知見を要するものもあるでしょう。全体像と留意点を把握した上で、適切なプロジェクトチームを組成することが肝要です。
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