事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト   なぜ今、カーブアウトなのか ──事業切り出しの必然性とアクティビズム#1

事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト

なぜ今、カーブアウトなのか──事業切り出しの必然性とアクティビズム #1


企業が戦略的に自社の事業の一部を切り出し、売却や譲渡によって事業ポートフォリオの最適化を図る「カーブアウト(carve out)」。資本効率を高めるための一手として、グローバル企業を中心にその実践例が増加しています。どのようにして成功に導くのか。売主の立場から見た重要なポイントを、連載シリーズでお届けします。


要点

  • 「コングロマリット・ディスカウント」解消などを求めるアクティビストからの要請により、カーブアウト事例は増加傾向にある。
  • カーブアウトを含む事業再編によって事業ポートフォリオを柔軟に組み直し、成長事業への投資を中心に経営資源配分の最適化を。
  • 不採算事業に過剰な資本が回っていないか、成長事業への投資がおろそかにされていないか、資本効率性を常にモニタリングすることが重要。

増大するカーブアウト事例とその背景

事業環境の変化に俊敏に対応し、持続可能な成長を実現するために行う事業の切り出し、いわゆる「カーブアウト(carve out)」への注目が高まっています。カーブアウトは、今後の成長が見込めない事業を切り離して売却したり、逆にポテンシャルの高い事業を独立させて評価を上げたりすることで、自社の成長分野に経営資源を集中し、競争力を強めることを目的に行うものです。当社の集計によると、2015年に329件であった国内のカーブアウト件数は2024年には417件へと漸増を続け、その傾向は今後より顕著に推移するものと見られます。

シリーズ見出し

この背景には、気候変動や地政学的リスクへの対応、デジタル化の進展などによって経営環境が劇的に変わるなか、多くの企業が事業ポートフォリオの見直しを余儀なくされていることに加え、後述するように、コーポレートガバナンスの強化による経営の透明性向上や、資本効率重視の経営を求める株主からの圧力など、さまざまな要因があります。それらに応じるため、カーブアウトを含む事業再編を通じて事業ポートフォリオを機動的に組み直し、コア事業の強化や将来的な成長事業への投資を図ることが、経営者にとって必須の課題となっています。

しかし、事業再編に対する日本企業の動きは欧米に比べると総じて鈍く、経済産業省の「事業再編実務指針」ではその一因として、「事業ポートフォリオマネジメントを行う仕組みや基準が不十分」「企業としての規模の維持・拡大を当然の目標とする経営者の意識」「資本効率を重視する発想の希薄さ」などが挙げられています。また、同省の企業アンケート調査によれば、事業売却や撤退を検討・実施する際の課題として、「売却等を検討するプロセス/基準が明確でない」「対象事業が赤字でない限り決断しにくい」などの回答を挙げる企業が多くなっています。

こうした事情を踏まえ、この連載シリーズでは、日本企業が迫られるカーブアウトの必要性と意義、実施に当たってのポイントと具体的な手法、留意点などについて、主に「売る側(売主)」の視点から、各領域におけるEYのプロフェッショナルによる持ち回りで解説していきます。第1回の本稿では、日本のカーブアウトに関する最近の動向と、その背後にある株主アクティビズム(積極行動)についてまとめました。

 

事業再編を求めるアクティビストからの外圧

日本に限らず、ここ10年の世界的なトレンドとしてカーブアウトが増加する傾向にある背景には、アクティビストと呼ばれる「もの言う株主」による企業への圧力が大きく関係しています。主にグローバル企業に対して、資本コストに対して収益性の低い事業や、将来性が見通しにくい事業、成長戦略から外れるノンコア事業などの切り離しを求める声が強まりました。

その狙いは、切り離すことによって事業ポートフォリオを組み換えること、すなわち、成長性が高いコア事業への投資を中心に経営資源の配分を最適化することにあります。その結果、企業の資本効率が上がり、より少ない資金でより多くの収益を得ることができれば、それだけ株主へのリターンも大きくなります。また、カーブアウトによる売却益をもとに自社株買いを進めるなどして、株主還元を強化するよう要求されることもあります。

 

カーブアウトは一般的に、不採算事業の切り離しのイメージがありますが、成長性の見込める事業を新会社として切り出すことで経営の独立性を高め、意思決定のスピードを上げるなどして競争力をつける戦略もあります。日本の場合、当初は資本効率性を改善するためのカーブアウトよりも、スタートアップ創出を目的とした事業切り出しの方が主流でした。その後、グローバル企業と同様に、ポートフォリオ最適化を目的とするカーブアウトが日本でも出現します。2008年のリーマンショック後、「不沈の巨艦」といわれた日本を代表する製造業が経営危機からの脱出を賭け、大胆な事業再編を断行したのは象徴的な出来事でした。

 

これらを経て、日本の潮目が変わったのは2010年代後半。政府によるコーポレートガバナンス改革の一環で、東京証券取引所が2015年6月からコーポレートガバナンス・コードの適用を始めたのを機に、株主・ステークホルダーと協働しながら中長期的な収益力強化を図ることが、上場企業に強く求められることになりました。これを踏まえ、政府は「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」「事業再編実務指針」などと段階的に、取締役会や社外取締役の機能を含むガバナンス・システムの実効性を高めるためのガイドラインを整備しました。

 

特に、2020年7月に出された事業再編実務指針では、資本効率性重視の立場から、経営資源をコア事業や成長事業に集中させることの重要性を指摘。自社がその事業の価値を最大化させるのに最適な経営主体(ベストオーナー)であるかどうかを取締役会で検証するよう求めるなど、その後の事業ポートフォリオの見直しやカーブアウトを加速させる契機となりました。


コングロマリット・ディスカウント解消の必要性

では、カーブアウトに結びつくアクティビストからの要請とは、具体的にどのようなものでしょう。かつては、内部留保でため込まれたキャッシュを株主還元に充てるよう求める圧力が目立ちましたが、最近では「コングロマリット・ディスカウント」の解消につながる要求が多く見られます。

コングロマリット・ディスカウントとは、複数業種にまたがる企業グループの企業価値が、単一業種で活動する専業企業に比べて低く評価されることを指します。事業多角化には経営安定化やリスク分散などのメリットがある一方、事業の全体像が見えにくい、事業間のシナジー効果が不透明、コア事業で稼いだ利益が不採算事業に回される、などの懸念も指摘されています。そのように市場から見なされた場合、評価の低下を招きかねません。その結果、個々の事業ごとに見た価値の合計値より、全体の企業価値が低くなる現象が起きてしまうのです。

これを解消するため、アクティビストは不適切な資本配分が行われていないかの検証を取締役会に要求します。資本効率の低い事業に資金を投じることが続いていたり、不採算事業に対して経営リソースが割かれるあまり、本来あるべき成長事業への投資がおろそかにされていたりすれば、その是正のための事業再編が求められるでしょう。具体的には低成長事業の切り離しです。そうすることで、親会社は資本効率が改善されて経営体制が強まり、切り出された側も、ベストオーナーの下で成長に向けた投資が得られたり、リソース調達に独自の道が拓かれたりする利点が望めます。

反面、ポテンシャルの高い優良事業が他の事業に埋もれてしまい、市場から適正に評価されていないケースも複合型企業ではよく見られます。こうした場合、優良事業の価値を適正に評価させることを目的に優良事業を親会社から完全に分離し、独立会社として株主に株式を割り当てる手法があります。これは「スピンオフ」と呼ばれるカーブアウトの一種で、海外事業の切り出しなどに多く見られます。

この他、シナジー効果が望めない事業を切り出す例としては、不動産の持つ含み益に着目したカーブアウトも最近のトレンドといえます。本業との関係性が希薄な不動産事業がアクティビストの目に留まり、大手メディア企業や飲料メーカーが対象となった事例が記憶に新しいところです。

いずれにしても、アクティビストは取締役会に対し、政府の事業再編実務指針も盾にした提案書で改革を迫るケースが増えており、事業ポートフォリオの管理や資本配分の検討が不十分と判断された場合、取締役会メンバーの入れ替え要求にまで波及する可能性があるため留意が必要です。


重要性を増す事業ポートフォリオマネジメント

以上を踏まえ、特に複数の事業領域を抱える企業にとって重要なことは、アクティビストからの圧力のあるなしにかかわらず、事業ポートフォリオの管理を徹底することだといえます。不採算事業に過剰な資本が回っていないか、全体の資本配分は最適化されているか、事業ごとの資本効率性の定期的なモニタリングを通じて見極めることが大切です。事業環境の変化や競合他社の動向を踏まえた成長性の検証や、事業間シナジーの検証、また事業を切り出す場合の基準の設定なども必要です。

アクティビストによる要求は往々にして、短期間で結果を出すことを重視しがちです。しかし、新しい領域に成長性を見いだし、収益の上がる事業に育てるには時間を要します。既存事業のライフサイクルを見定めながら、新しい成長ドライバーをどう生み出していくか、株式市場からの期待感と持続的な成長の両立を意識した事業ポートフォリオ管理が求められていくでしょう。


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事業再編実務指針でも指摘されているように、日本では経営者による過度の規模拡大志向や、顧問や相談役などが始めた事業や祖業からの撤退に対する忌避感から、事業再編が進みにくい一面があることも確かです。そうした意識から脱却し、規模拡大ではなく価値向上の度合いによって企業を評価するという、グローバル標準の株主アクティビズムの視点から、自社の経営を検証することが求められています。

次回は、実際にカーブアウトを進めるための考え方や準備、全体プロセスなどについて解説します。




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サマリー

株主アクティビズムの圧力が強まるなか、カーブアウトを含む事業再編の可能性を視野に入れながら常に事業ポートフォリオの適正化に努めることは、経営者にとって最重要課題の一つとなりました。そのためには、事業ごとの資本効率性に対する継続的なモニタリングが不可欠です。


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