Modern airliner on a runway

持続可能な航空燃料(SAF)でより環境にやさしい空へ ~現状と展望


航空業界は、気候中立を目指し、持続可能な航空燃料(SAF)の導入と利用拡大に向けてさまざまな取り組みを進めています。




EY Japanの視点 

空の脱炭素化に向けて日本もいよいよ動き出しています。欧米では既にSAF商用フライトの実績が積み上がりつつあり、エネルギー企業やプラントエンジニアリングライセンサー、クリーンテックスタートアップを中心に次世代燃料開発競争が繰り広げられています。日本も研究段階では欧米と比肩し、パイロットプラントが立ち上がり始めました。しかし、SAFが真に普及するには経済性の確保が不可欠であり、規模の経済によりコスト低減が実現されるまでの移行期、政府支援やカーボンプライシングとの組み合わせが鍵となります。また、SAF供給側/需要側のみならず航空サービス利用側まで含めたエコシステム全体で取り組むことが重要です。EYはグローバルでSAFバリューチェーンの知見を有しており、日本においても事業開発戦略や事業パートナーシップ構築を支援しています。「空飛ぶクリーン燃料」を現実のものとするために、今こそ日本の技術力と協働力が試されます。


EY Japanの窓口

野口 晃宏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー パートナー

藤田 眞実
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー マネージャー



「フライトシェイム(環境への配慮から飛行機の利用を手控える動き)」、「燃料の大量消費」、「気候破壊」──こうした言葉が示すように、航空業界は長年、気候変動をめぐる議論の矢面に立たされてきました。無理もありません。航空機は大量の二酸化炭素(CO₂)を排出します。さらに、高高度では気候に悪影響を及ぼすガス類も放出します。そのため、航空機の利用をやめるべきだとする声も上がっています。こうした状況を背景に、航空業界は今、「グリーン革命」に乗り出しています。その中心となるのは「持続可能な航空燃料(SAF)」です。SAFは、飛行によるエコロジカルフットプリント(自然資源消費量)を大幅に削減できるため、業界の新たな標準になると期待されています。

EYでは、これに関して詳細なグローバル調査を実施し、航空業界が「気候変動の加害者」から「持続可能性リーダー」へと転換できるのか、その可能性を探りました。調査レポートでは、SAFの生産と導入に伴う課題を検証するとともに、最終的なコスト負担構造について分析しています。また、生産能力の世界的な不足に注目し、数百件ものプロジェクトが依然として資金調達に至っていない理由を解説し、さらにEUの対応策がSAF供給市場の拡大にどう寄与し得るかを考察しています。持続可能な航空燃料(SAF)に関する150ページにわたるグローバル調査レポート(英語版)を、以下からダウンロードできます。SAFの現状と展望について、業界専門家の見解と詳細な調査結果をぜひご覧ください。



持続可能な航空燃料(SAF)でより環境にやさしい空へ ~現状と展望

EY独自の知見と見解をまとめたグローバル調査レポートをダウンロードし、ご活用ください。



SAFは未来のジェット燃料となり得るか

国際航空運送協会(IATA)の推計によると、SAFの使用により、航空業界はCO₂排出量を最大65%削減できる可能性があります。そのため、SAFの開発・製造は、気候に配慮した航空の実現に向けて重要な一歩になります。
 

現在注目されているSAFは、原料によって大きく2種類に分けられます。1つは、油糧種子(廃食油)、農業・森林残渣、藻類などを原料とするバイオマス由来のSAFです。もう1つは、CO₂とグリーン水素を反応させて製造される合成燃料由来のE-SAFです。どちらも石油由来の化石燃料(ケロシン系燃料)の代替として有望視されていますが、技術的・経済的課題があります。

 

バイオマス由来のSAFは現在、揚げ物に使われた廃食油などの廃棄物を原料に、確立された製造プロセスで生産されています。世界の大手航空会社の中には、カーボンフットプリントの改善に向けて、既にこのタイプのSAFを導入している企業もあります。こうした動きを受け、バイオマス由来のSAFの生産能力は近年急速に拡大しています。しかし、長期的には原材料不足が懸念されています。一方、E-SAFは、再生可能エネルギーとグリーンCO₂を十分に確保できれば、理論的には際限なく生産可能です。ただし、生産には膨大なグリーン電力を要します。たとえば、EUは航空燃料全体に占めるE-SAFの割合を2032年までに2%にすることを義務付ける方針ですが、ドイツがこれを達成するには、約75テラワット時の再生可能エネルギーと100万トンの二酸化炭素が必要です。加えて、インフラやテクノロジーへの大規模な追加投資も必要になります。

 

規制によるSAF支援

航空業界のSAF導入において、政治的判断や規制が強力な追い風になっています。たとえば、EUは「ReFuelEU Aviation」規則を導入し、EU域内の空港でのSAF供給に関する最低割合を明確に定めています。目標は、2025年に2%と控えめですが、2050年には70%という非常に野心的な水準となっています。こうした動きが続けば、SAFは、ニッチな選択肢から新たな標準へと定着していくでしょう。EUの大胆な目標は、SAF普及を加速させる強い推進力となっています。
 

加えて、欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)の厳格化も進んでおり、航空会社のCO₂排出コストが大きく押し上げられています。EU ETS価格の急騰や排出枠の供給制限が続けば、長期的にはケロシン系ジェット燃料の魅力は薄れ、SAFの競争力がますます高まるでしょう。また、欧州航空安全機関(EASA)は2025年からフライトの環境ラベルを導入しており、乗客の選択に影響を与えると見込まれています。利用するフライトのエコロジカルフットプリントを意識する人は、SAFを使用する航空会社を選ぶ傾向が強まるかもしれません。こうした選択は、環境に配慮した持続可能な運航を目指す航空業界の取り組みを一層後押しするでしょう。実際、航空貨物輸送の主要顧客の一部は、既に航空会社に対し、より環境負荷の少ないサービスを求めています。

空のグリーン革命における資金課題

航空業界が気候目標を達成するには、環境負荷の少ない燃料の導入が不可欠です。しかし、その実現には、生産者と投資家の双方に巨額のコスト負担が伴います。

現在、SAF価格はケロシン系ジェット燃料の最大6倍であり、この価格の高さがSAF普及の妨げになっています。さらに、生産能力が需要に追いついていないという問題もあります。業界データによると、2025年におけるSAFの需要は、ジェット燃料全体のわずか0.7%にとどまり、その量は210万トンと予想されています。

多大な投資
1兆5,000億ドル
2050年までに需要を満たすために必要な、SAF生産施設およびインフラへの推定投資額

E-SAFはグリーン水素と二酸化炭素を合成して製造されるため、その生産には多大なコストを要します。しかし、技術の進歩や規模の経済により、今後数十年で最大50%のコスト削減が可能になると予想されています。一方で、バイオマス由来のSAFは、原料不足が懸念されており、価格が上昇する可能性があります。従来のケロシン系ジェット燃料とSAFの価格差は依然として大きく、短期的にはSAFの広範な普及を阻む要因となっています。

SAFの生産規模を拡大し、航空業界の需要に応えるには、膨大な投資が必要です。各種試算によると、その規模は、今後数年間で1兆米ドルから1兆5,000億米ドルに上るとみられます。

見過ごされがちな気候への脅威

航空業界における気候問題は、SAFを導入すればすべて解決するというわけではありません。航空機の運航は、CO₂排出だけでなく、飛行機雲やすす粒子、窒素酸化物といった気候要因も発生させます。これらは、いわゆる「非CO₂効果」をもたらし、CO₂排出よりも、地球温暖化への影響が大きいと考えられています。SAFの使用により、すす粒子排出量が減少し、飛行機雲の発生が抑制されますが、影響を完全に排除できるわけではありません。飛行ルートや飛行可能高度の最適化、エンジンの効率性向上、そして何よりも航空交通量の削減など、さらなる対策を講じなければ、航空機の環境負荷はこの先も続いていくでしょう。

 

持続可能な航空業界への展望

航空業界は、カーボンフットプリントの削減に向けてSAFの導入に積極的に取り組んでいます。最近では、各国政府もSAF割当やCO₂排出量取引制度を通じて航空業界への政策的圧力を強めています。SAFは排出量を最大65%削減できるとされていますが、高コストや技術的課題があり、航空業界全体での本格導入はなかなか進んでいません。各種試算によると、今後数年間で最大1兆5,000億米ドルの投資が見込まれています。従来のプロジェクトにおける資金調達の難しさを踏まえると、これは極めて大きな金額です。さらに、非CO₂効果による気候への悪影響も続いています。SAF普及の鍵は、技術進歩によるコスト低減がどれほど早く進むか、投資家・企業・顧客が巨額の負担を担う準備ができているか、EUが資金調達手段を通じてどのように市場を支援できるかにかかっていると言えるでしょう。

【共同執筆者】

藤田 眞実
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

航空機の環境への影響から、航空業界に厳しい視線が注がれる中、解決策として、持続可能な航空燃料(SAF)に期待が寄せられています。SAFは、主にバイオマス由来のものとE-SAFがあり、CO₂排出量を大幅に削減できると考えられています。しかし、高い生産コスト、原材料不足、膨大なグリーンエネルギーの必要性など、多くの課題が残っています。規制面では、EUが「ReFuelEU Aviation」により、SAFの利用促進を目指すなど、取り組みが進んでいます。確かにSAFのポテンシャルは非常に高いですが、SAFだけで航空業界の気候問題をすべて解決できるわけはありません。非CO₂効果を抑える追加措置も並行して講じる必要があります。



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