EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
日本企業を取り巻く税務環境は、J-CFC税制改正やGMT導入によって、より複雑化しています。税務人材の不足に悩む企業が多い中、限られたリソースで申告・管理をいかに効率化するかは喫緊の課題です。この課題への対応をコンプライアンスにとどめず、税務の観点から企業価値の向上につなげるためには、どのように取り組むべきでしょうか。
※本稿は、2026年6月29日に実施されたウェビナー「外国子会社合算税制(J-CFC税制)およびグローバル・ミニマム課税(GMT)の効率的な実務対応」の内容を基に記事化したものです。
要点
令和8年度のJ-CFC税制改正の内容と、それにより課税のリスクが緩和されるケースについて、EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス部 パートナー/国際法人税務アドバイザリーの太田 光範が解説しました。
年々複雑化するJ-CFC税制において、多くの納税者が抱える課題は3つあります。
1つ目は、J-CFC税制の複雑さです。制度改正の情報にキャッチアップし、必要に応じて業務プロセスやツールを見直さなければなりません。2つ目は、外国子会社の実態把握の難しさです。子会社の情報を収集するだけでなく、所在国の制度も把握しておく必要があります。3つ目は、税務部門の業務負荷の大きさです。制度の複雑化に伴って業務が増える一方、税務人材は慢性的に不足しており、限られた人員で効率的に対応することが求められます。
平成29年度税制改正により、外国子会社合算税制において、活動の実体がない外国関係会社を「ペーパー・カンパニー」として判定する仕組みが導入されました。令和8年度改正では、事務負担の軽減などを目的とした見直しが行われ、その主な内容の1つとして、解散した部分対象外国関係会社や外国金融子会社等に係る特例が創設されました。従来は、事業活動を行っていた外国子会社であっても、清算手続きにおいて資産の売却や従業員の解雇が進むことで経済活動基準を満たさなくなり、会社単位の合算課税の対象となる可能性がありました。
改正後は、一定の要件を満たす外国子会社について、清算手続き開始後、最初に部分対象外国関係会社等に該当しなくなった事業年度の終了日から原則3年間、引き続き部分対象外国関係会社等と見なされます。これにより、その期間は会社単位の合算課税から除外されます。ただし、3年以内に残余財産が確定した場合は、原則としてその確定日までとなります。
特例の対象は、一定期間に部分対象外国関係会社または外国金融子会社等に該当していた会社に限られます。清算開始前からペーパー・カンパニーに該当していた会社には適用されないため、事前のプランニングが重要です。特定外国関係会社の判定については、ペーパー・カンパニー特例の資産割合要件も見直されました。事業年度終了時の貸借対照表における総資産の額がゼロの場合は、資産割合要件の判定が不要となります。
デジタル化やAIによって高度化が進む税務調査の動向と、裁判例や事前照会における当局の見解から見えてくる税務調査対応への準備のポイントについて、EY税理士法人 顧問 水上 勝弘が解説しました。
国税庁の公表資料によると、海外取引等に係る法人税の実地調査件数は、令和2・3年度には7,000件を下回っていましたが、令和4年度以降は10,000件を超えています。令和6年度の調査件数は10,195件で、法人税の実地調査全体の約5分の1を占めました。海外取引法人等への対応は国税庁の重点課題に位置付けられており、今後も重点的な調査が続くと考えられます。J-CFC税制に係る非違件数も、令和4~6年度の3年間、いずれも100件を超えています。
当局は、AIやデータ分析を活用して調査必要度の高い法人を抽出し、調査対象を選定しています。こうした分析手法の高度化により、今後も、より効率的で精度の高い調査が進むと考えられます。
J-CFC税制に関する最近の裁判例では、形式要件や条文の文理解釈が重視され、納税者側が敗訴した例も見られます。納税者にとって厳しい判断が示されている点に注意が必要です。
しかし、事前照会では、個別の事実関係を踏まえた判断が示される場合もあります。例えば、本店所在地国に居住する役員がいなくなった場合の事前照会では、居住役員がいないことだけをもって、直ちに管理支配基準を満たさないことにはならないとされました。管理支配基準は、株主総会や取締役会の開催、事業計画の策定、役員の職務執行状況などを総合的に勘案して判定されます。この照会事例では、重要な意思決定が本店所在地国で行われていたことなどから、引き続き管理支配基準を満たすと判断されました。形式要件を重視された裁判例がある一方、事前照会では具体的な活動実態を踏まえた判断が示されています。
税務調査対応に備えるためには、外国子会社や関係会社の活動実態を継続的に把握し、後から確認できる形で証憑を保存しておくことが重要です。
GMTで規定されるGIR提出に関してOECDより公表された共通理解、計算において活用できる選択や当局の執行体制について、EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス部 パートナーの戸崎 隆太、EY税理士法人 顧問 秋元 秀仁が解説しました。
GMTでは、原則として、事業を行う国・地域でGloBE情報申告書(GIR)を提出する必要があります。ただし、一定の要件を満たす1つの国・地域でGIRを一元的に提出し、各国の税務当局間で情報を交換する「セントラルファイリング」を利用すれば、各国でのローカルファイリングを省略できる場合があります。
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。
2026年5月にOECDが公表した共通理解では、2024年からGMTを導入した37カ国・地域のうち、33(その後35に修正)カ国・地域がセントラルファイリングに対応可能とされました。これらの国・地域のいずれかでGIRを期限内に提出し、各国・地域で必要なGIR届出書を期限内に提出した場合、参加国・地域は、国内法で認められる範囲でローカルファイリングに関する罰則を免除するか、提出義務の履行を求めないこととしています。ただし、GIRが情報交換期限までに各国へ送付されなかった場合は、改めてローカルファイリングを求められる可能性があります。また、この措置は、GIR届出書や国内ミニマム課税(QDMTT)申告書などの提出期限には影響しません。
2026年5月18日時点では、バハマ、北マケドニア、スロバキア、ベトナムの4カ国は共通理解に参加していません(その後、バハマとスロバキアは参加)。また、ギリシャとポーランドは、対象となるEU加盟国との関係に限って参加しています(その後、ギリシャは限定を解除)。これらの国ではローカルファイリングが求められる可能性があるため、注意が必要です。対象国・地域や運用内容は更新される可能性があるため、最新情報を確認した上で対応することが重要です。
GMTには、一定の場合に追加課税や計算上の不整合を調整するための選択規定があります。GloBE Loss Electionは、国・地域別にGloBE損失が生じた場合に、損失額に最低税率15%を乗じた金額を、みなしの繰延税金資産(DTA)として認識できる制度です。このDTAは、その国・地域で将来GloBE所得が生じた年度に利用できます。初年度にGloBE損失が生じ、その後にGloBE所得が見込まれる場合には、有効な選択肢となります。ただし、原則として、その国・地域を含む最初のGIRで選択する必要があり、選択の機会は一度に限られます。
Excess Negative Tax Expense Electionは、永久差異などによって調整後対象租税額が過度にマイナスとなる場合に、超過マイナス税金費用を当年度の調整後対象租税額から除外し、翌年度以降に繰り越す制度です。繰り越した金額は、その国・地域でGloBE所得とプラスの調整後対象租税額が生じた年度に、調整後対象租税額から控除されます。適用要件を満たす場合は、選択の要否を検討することが重要です。
GMTは新しい制度であり、実務運用や関連情報の更新が続いています。令和8年度は、多くの企業が初回のGIR提出期限を迎えるため、必要な情報の収集、提出方法や選択規定の検討、調査に備えた資料整備を進めることが重要です。移行期のセーフハーバーと各種選択規定を区別し、それぞれの適用条件と選択時期を確認しておく必要があります。
J-CFC税制改正やGMT導入で増加した業務に効率的に対応するポイントと、より高付加価値な税務機能の確立に向けた運用基盤のつくり方について、EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 アソシエートパートナーの西岡 道広が解説しました。
J-CFC税制とGMTの導入により、税務部門の業務は増加し、Excelやメールを中心とした従来のデータの収集・管理では、対応が難しくなりつつあります。一方で、税務部門の役割は一段と重要になっており、税務トランスフォーメーションを進める好機でもあります。
税務業務は、「日常的な税務関連作業」「主要な税務機能」「高付加価値税務機能」の3つに分けられますが、現在は前者2つが業務全体の8割を占め、GMT対応によってその負荷はさらに増しています。定型業務や基幹業務を効率化し、税務方針の策定やガバナンスの構築といった高付加価値業務へリソースを振り向けることが重要です。それにより、税務部門は制度対応にとどまらず、事業判断を支える部門へと進化できます。
現在、税務部門には、国別報告書(CbCR)の作成・提出や国内ミニマム課税(QDMTT)の申告対応など、多くの実務が集中しています。高付加価値業務へリソースを振り向けるためには、まず業務、期限、担当者、関連データを整理し、効率化に向けたロードマップを策定することが急務です。
ロードマップの策定に当たっては、制度改正の動向に加え、移行期間CbCRセーフハーバー(TCSH)や、簡易ETRセーフハーバー(SESH)などの負担軽減措置について、適用条件や対象年度、国内法制化の動向を把握しておく必要があります。
また、GMTの導入によって、税務部門が収集・管理すべきデータは大幅に増えています。これらのデータには正確性と透明性が求められ、限られた人員で扱うための効率性も欠かせません。税務プラットフォームを活用して関連データを一元管理し、重複する収集作業を減らすことが、持続可能な税務業務の基盤となります。
高付加価値税務機能を強化するには、日々の税務業務を安定的に運用し、継続的に改善できる仕組みが必要です。その土台となるのが、「業務の標準化」「プラットフォームの導入」「役割分担の最適化」の3つです。
1つ目は、業務の標準化です。専門性が高く属人化しやすい税務業務について、手順や判断基準を明確にし、組織として対応できる体制を整えます。
2つ目はデータとプロセスを一元管理するプラットフォームの導入です。業務とデータを可視化・共有することで、効率性、正確性、透明性を高めます。
3つ目は、役割分担の最適化です。業務の標準化と可視化をもとに、社内人材と外部専門家の担当範囲を明確にします。さらに、業務ごとに適切な人材と拠点を組み合わせる「Right-shoring」を取り入れることで、限られたリソースを有効に活用できます。
収集・蓄積した税務データは、申告や制度対応だけでなく、リスクの把握や将来予測、経営判断にも活用できます。税務当局がデータ分析を高度化する中、企業側にも、自らのデータを分析し、税務戦略に生かす視点が求められています。必要に応じて外部専門家の知見を取り入れながら、データを高付加価値な税務機能へつなげていくことが重要です。
GMTなどへの対応は、増加する実務を効率化するだけでなく、税務部門の役割を見直す機会でもあります。テクノロジーの導入に加え、業務プロセスとチーム体制を整え、制度や事業環境の変化に応じて継続的に見直していく。こうした取り組みにより、税務部門はコンプライアンス対応に加え、経営判断と企業価値を支える部門へと進化できます。
共同執筆者
西岡 道広
EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 アソーシエートパートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです。
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J-CFC税制の改正やGMTの導入により、税務業務は複雑化し、業務量も増加しています。一方で、これは業務の標準化やデータの一元管理、役割分担の最適化を進め、税務部門を変革する好機でもあります。各制度の適用条件、提出スケジュール、負担軽減措置を正しく把握した上で実務を効率化し、税務戦略やガバナンス、データ分析といった高付加価値業務へリソースを振り向けることが重要です。