経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)2.0の第2の柱であるグローバル・ミニマム課税に関する税務コンプライアンスおよび規定の報告により、企業は異なる国・地域にまたがる財務データの収集、管理、報告の方法を再評価することが求められています。従来の税法改正は多くの場合、既存のプロセスに段階的な変更を加えることで対応できますが、第2の柱に対応するためには、多くの多国籍企業は税務コンプライアンスと報告のオペレーティングモデルを根本的に変更する必要があります。
145を超える参加国・地域が、第2の柱である15%のグローバル・ミニマム課税制度を含むBEPS 2.0の包摂的枠組みに合意しています。現在までに41の国・地域がグローバル・ミニマム課税の国内版を制定しています(最新情報については、EY BEPS 2.0 Pillar Two Developments Tracker(英語のみ)をご覧ください)。グローバル・ミニマム課税を国内法に取り入れる動きは続いており、国・地域によって異なりますが、EYの分析によると、グループの売上高が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業の85%以上が2024年に少なくとも1つの国・地域でグローバル・ミニマム課税の適用を受けており、2025年には95%以上が少なくとも1つの国・地域でグローバル・ミニマム課税の適用を受けることになると予測されています。
GloBEルールとも呼ばれるグローバル・ミニマム課税は、複雑であり、新しい税制の一環としていくつかの新しい概念を導入しています。グローバル・ミニマム課税により、企業は、データの品質と可用性、国別報告書(CbCR)の作成や、異なる国・地域にわたる財務・税務データの集計に対応することも求められています。税務部門は、特に多国籍企業が移行期セーフハーバーの適用対象かどうかを決定するCbCRに現地(または法定)の財務諸表を使用するグループにおいて、財務報告におけるより積極的な役割を果たす必要がある可能性があります。財務報告における税務の関与の程度にかかわらず、税務チームと財務チームは、関連するデータを収集し精査するために、より緊密に協力する必要があります。
2024年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査で調査対象となった財務・税務のリーダー1,600人のうち、42%が、今後3年間の税務部門の最優先事項として、BEPSなどの税務および規制要件へのコンプライアンスを挙げました。しかし、多くの多国籍企業は、第2の柱の報告に向けた既存のフレームワークを有していません。そのため、企業は、複数の国・地域で制定された法律に沿った、運用性および適応性のあるプロセスを開発する必要があります。
第2の柱を反映すべき報告の各側面を分析し、報告とコンプライアンスに必要な人員(役割と責任)、プロセス、データ管理、テクノロジー、ガバナンスを定義する明確な計画を策定することが、このプロセスの鍵となります。包括的な分析を行うことにより、企業は、事業予測、中間および年度末のグループ財務報告、法定決算の報告、税務コンプライアンス(以下、「各種報告」という)にグローバル・ミニマム課税を反映させた持続可能なオペレーティングモデルを設計することが可能となります。これらの各種報告において効率性と望ましい精度を達成するためには、多くの企業において、各作業段階におけるさまざまなレベルのデータの品質と可用性に対応できる新しいテクノロジーを使用する必要があります。
企業全体でデータを集計するには、財務・税務部門がグローバル・ミニマム課税のためのデータ収集、分析、計算、報告に関する新たな管理方法を開発する必要があり得ます。従来の組織や報告のサイロ化を解消することは困難な場合があり、異なるビジネスユニット間の透明性、データのプライバシーとアクセス権、さらにはガバナンスに関する新たな問題を引き起こす可能性があります。
BEPS対応に向けた道のり
持続可能なGloBE報告オペレーティングモデルに向けた取り組みは、グローバル・ミニマム課税の法律が制定される国・地域が増えることにより、複数年を要する可能性があります。この期間は、OECDがさらなる執行ガイダンスを公表し、移行期セーフハーバーが失効し、地域的な論争や行政上の慣行が成熟することで、さらに延長する可能性があります。企業は将来の成功に向けて今、行動を起こすべきです。企業が現在、グローバル・ミニマム課税の義務を負っているかどうかにかかわらず、長期的な第2の柱の報告をサポートするオペレーティングモデルの構築を開始するために、実行可能な具体的なステップがあります。
法律やテクノロジーが絶えず進化する中、事業や税制の変更による混乱を管理するには、柔軟性と適応性が鍵となります。効率的かつ効果的な第2の柱のオペレーティングモデルとは、企業および税務・財務部門のより広範な目標と一致するものです。例えば、企業が財務オペレーションをサポートするためにシェアードサービスセンターを利用している場合、第2の柱のオペレーティングモデルを設計する際には、そのインフラを活用すべきです。
企業は、長期的なニーズと要件を満たすために、グローバル・ミニマム課税のオペレーティングモデルの設計に十分な時間を割くべきです。一元化された税務報告モデルを構築していない企業は、効率的なグローバル・ミニマム課税のコンプライアンスと報告を実現するために、既存のプロセスを標準化し、データのギャップを解消するためのさらなる取り組みが必要になる場合があります。
グローバル・ミニマム課税が企業に与える影響への準備として考慮すべき6つのステップは以下の通りです。
1. 報告要件を理解する
企業は、まず自社が事業を展開する各国・地域における第2の柱の報告要件を理解することから始めるべきです。報告義務の全範囲、各国・地域ごとに必要とされるデータ、グローバル・ミニマム課税のコンプライアンスと報告に活用されるツールやテンプレートを理解することが重要です。これらの要件を社内のシステムやプロセスと整合させ、明確な文書化と管理を維持することが不可欠です。
2. リスクベースのアプローチを適用する
予測、グループ報告、法定報告には完全なデータが利用できない場合があります。各報告の側面のニーズと目的を満たすために、グローバル・ミニマム課税の各種報告にリスクベースのアプローチを適用するためのパラメータを設定します。データの品質と可用性が向上するにつれ、予測からコンプライアンスまでの報告ライフサイクルに沿って報告の精度を向上させます。税務チームと財務チームがリスクベースのアプローチのパラメータに合意し、内部統制基準が満たされるよう確認します。
3. データ、プロセス、システムの要件とギャップを理解する
企業の現在の財務システムを徹底的に検証し、グローバル・ミニマム課税の各種報告に必要なデータの作成能力におけるギャップを特定します。2024年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査では、回答者の83%が、第2の柱の準拠に向けた税務情報を作成するために、ソースデータに中程度から大幅な調整を加える必要があると回答しています。企業は、データのギャップを解消し、本社や税務・財務部門だけでなく、企業全体にとって最適な意思決定を行うために、新しい創造的な代替案を検討すべきです。