増税の検討
期限を迎えるTCJAの延長には、10年でおよそ4.6兆米ドルの財源が必要になると試算されます。トランプ氏は選挙期間中に、時間外労働に対する賃金、チップ、社会保障を非課税にすること、ならびに国内製造業に対する法人税率を15%に引き下げることを公約に掲げました。これらの公約は、合算すると10年間で3.8兆米ドルの財源が必要になるとされています1 。
共和党内では国の債務と財政赤字の水準について懸念も示されていますが、TCJAの延長や追加減税の埋め合わせのために歳入の相殺が必要か党内で意見が分かれています。TCJAの延長の埋め合わせを支持する議員の中には、法人税率引き上げに前向きな議員もいますが、国内製造業について15%の軽減税率を提案しているトランプ氏が税率の引き上げを支持する可能性は低いとみられます。
歳入による埋め合わせに加え、歳出削減と関税も、TCJAの延長に伴うコスト、および追加減税の埋め合わせをする手段として言及されています。
米国の国際税務政策は流動的に
国際税制規定に関わるTCJAの現行法延長が可決されない場合、米国の多国籍企業の納税義務は重くなることが見込まれます。現行法延長コストを他の歳入で埋め合わせるべきかどうかを巡る議論の展開にもよりますが、現行法延長に伴うコスト(米国議会予算局〈CBO〉によると10年間でおよそ1,400億米ドル)は、その「延長可否」に影響を及ぼす可能性があります。
また、トランプ政権は、米国が15%のOECDグローバル・ミニマム課税合意に今後も関与すること、またはその導入を支持するとは考えられません。しかし、共和党の中にもグローバル・ミニマム課税ルール下での米国の研究開発税額控除の扱いを含め、現行の同ルールの変更を求めることに関心を持つ議員が出てくるかもしれません。また、第2の柱を自国の税法に取り込み、米国企業への同制度に基づく課税が可能な国に対する報復的な法律制定が審議される可能性があります。
エネルギー税制の変更
各種再生可能エネルギープロジェクトの順調な進展に鑑みると、インフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act)の税額控除が全面的に廃止される可能性は低いと考えられます。ただし、IRAの一部のエネルギー関連の税額控除、特に電気自動車に対する優遇税制は廃止または縮小され、その資金が他の政策課題に使用される可能性はあります。
新たな関税導入に向けた大統領令の発令
米国大統領は原則、国家安全保障または経済的被害を理由に、議会の同意を得ることなく関税を導入または調整することができます。トランプ氏は、前回の任期中にこの権限を行使しており、今後、選挙期間中に大要を示した関税の導入を図ることが予想されます。その関税の一部を以下に示します。
- 米国への全輸入品に対する一律10~20%の関税
- 中国からの輸入品に対する10%の追加関税
- メキシコとカナダからの輸入品に対する25%の関税
- 米国への不法入国者が多い国からの輸入品に対する25%の関税
- 特定の敵対国からの輸入品に対する60%の関税
- 特定の外国車に対する100%または200%の関税
議会の指導者らは、ほぼ100年ぶりに関税の法制化の実現可能性も議論しています。関税による歳入をTCJAの延長に伴うコストの吸収に公式に使用できるようにはなりますが、将来的に関税撤廃を図る際に、再度法律の制定が必要になるため、困難が予想されます。
また、これらの貿易政策の変更案は、サプライチェーンや経済全体に影響を及ぼす可能性があります。