次世代通信基盤が本格化させる五感を届けるコミュニケーション

次世代通信基盤が本格化させる五感を届けるコミュニケーション


次世代通信基盤と感覚共有型通信の社会実装により、私たちのコミュニケーションの概念は大きな変革が起きる可能性があります。

ビジネスパーソンにとって、感覚共有型通信は新規事業のヒントとなる技術です。医療、教育、エンターテインメント、製造、宇宙・災害対応など幅広い業界で実用化に向けた取り組みが進んでおり、これらの到来により、かつてSFで描かれたような世界観や体験が現実のものとなると考えられます。


要点

  • 感覚共有型通信は、音声・映像に加え視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚をネットワーク越しに伝達し、遠隔でも「存在感」を共有する次世代コミュニケーションである。
  • IOWN/APNの超大容量・超低遅延ネットワークにより、五感情報のリアルタイム伝送、触覚や嗅覚など膨大なデータも劣化なく共有できる基盤を提供できる可能性がある。
  • 医療・教育・エンタメ・遠隔操作など幅広い分野で応用が期待され、6G時代には感覚や感情の共有による新サービス創出が進む見込みである。

ITUによる次世代通信6Gのビジョンと枠組み

現在、2030年の商用化を目指し、5G(第5世代移動通信システム)の次を担う6G(第6世代移動通信システム)の研究開発が世界で進められております。国際標準化に向けた活動は国連機関の国際電気通信連合(ITU)や3GPPが主導しており、ITU-R(ITU無線部門)は2023年に6Gのフレームワーク「IMT-2030」を策定しました1。これにより6Gが目指すビジョンと能力が国際的に合意され、その詳細要件や評価基準の策定が進められています。

6Gは5Gを大幅に進化させ、高速・大容量通信や超低遅延通信、多数同時接続をさらに強化するとともに、5Gにはなかった新たな技術要素を統合する点が特徴です。例えばAI(人工知能)のネットワークへのネイティブ統合、通信とセンシングの融合(ISAC)による高精度なデジタルツインの実現、非地上系ネットワーク(NTN)による衛星を含む全球カバレッジの拡大などが6Gの中核技術として想定されています。これらにより、6Gは単なる通信インフラではなくAIサービスや高度なセンシング機能を備えた社会基盤へと変貌し、ホログラフィックな没入型XR体験や自動運転、遠隔医療など従来困難だったユースケースを可能にすると期待されています。さらにITUの6Gビジョンでは、環境・社会への持続可能性への貢献も重視されており、ネットワークの省エネルギー化や脱炭素化が重要な目標とされています。こうした要件を満たすため、次世代通信インフラには性能向上とエネルギー効率向上の両立が求められています。そのような中で注目されるのが、NTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)というネットワーク構想です。

 

次世代通信IOWNとは

IOWNは、NTTが提唱する次世代の通信インフラ構想であり、2030年頃の実現を目指して研究開発が進められています2。IOWNの中核技術の1つがオールフォトニクス・ネットワーク(APN)で、ネットワークから端末に至るまで信号の伝送を可能な限り光(フォトニクス)に置き換えることで、従来の電子技術の限界を超えた通信性能を実現しようとするものです。APNによってIOWNは現在のネットワークに比べて桁違いの性能向上を目指しており、例えば消費電力100分の1、伝送容量125倍、端末間の遅延200分の1といった目標が掲げられています。

APNの技術的な特徴は、「端から端まで光でつなぐ」ことにあります。これにより電子的な信号処理に伴う遅延や熱・電力消費を大幅に削減できます。具体的には、光ファイバーや光デバイスの導入によってエネルギー効率を100倍向上させ、伝送容量を100倍以上に拡大し、端末間の伝送遅延を現在の200分の1にまで短縮することが期待されています。遅延を劇的に減らすため、データ圧縮を行わずに信号を送るといった新しい手法も検討されています。さらに、IOWN全体ではデジタルツインコンピューティング(DTC)やコグニティブ・ファウンデーション®(CF)といった要素も組み合わさり、膨大な情報処理や高度なリアルタイム制御を可能にする統合基盤となっています。このようにIOWN/APNは、単なる高速ネットワークという枠を超えて、今後の社会インフラを支える革新的プラットフォームとして位置付けられています。

 

感覚共有型通信、五感を届けるコミュニケーション

感覚共有型通信とは、従来の音声や映像だけでなく、人間の持つ五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)に関わる情報までもネットワーク越しに伝達・共有するコミュニケーション形態を指します。例えば離れた相手と会話する際に、音や映像に加えて触れた感触や香り、味覚的刺激なども同時に伝えることで、まるで相手がすぐ隣にいるかのような「存在感」を共有できる通信を目指すものです。

欧州の通信企業、エリクソンは2030年頃までに“Internet of Senses”すなわち「五感のインターネット」が登場すると予測しています3。これは視覚・聴覚・触覚といった感覚拡張技術によって、人間が物理世界と同様のマルチセンサリー(多感覚)なデジタル体験を得られるようになるというビジョンです。エリクソンによれば、視覚・音響・触覚に加えその他の感覚をデジタル空間で再現することで、遠隔地の人や物と「まるで隣にいるように」触れ合えるようになるといいます。例えば、自宅にいながら海辺のビーチにいるかのように、肌に当たる風や太陽の熱、潮風の匂いを感じるといった没入型の体験も技術的には可能になるといいます。このように、感覚共有型通信(五感通信)はデジタルとフィジカルの融合によって、人間の経験領域を大きく広げる次世代コミュニケーションとして期待されています。

 

6Gの到来とIOWN/APNの普及で可能となる感覚共有通信の世界観

IOWN/APNの普及によって、感覚共有型通信は現実味を帯びてきます。APNが実現する超大容量・超低遅延ネットワークは、人間の五感情報を支えるのに必要な膨大なデータをリアルタイムにやり取りする基盤となるからです。NTTはIOWN構想において「通信の大容量化・低遅延化によって、さまざまなセンサーが収集した五感を超える膨大な情報をリアルタイムに伝送する」ことを目標の1つに掲げています。現在はネットワーク制約で困難である高精細・高臨場感の情報共有が、IOWNによって可能となります。

例えば、触覚の伝送にはミリ秒単位の低遅延が要求されます。人が「触った」感覚を遠隔地に伝える場合、通信の遅れがわずかでもあると違和感を覚えるためです。IOWNのAPNは、光技術によりネットワーク遅延を人間が知覚できないレベルまで縮小できる可能性があります。また嗅覚・味覚情報はデータ量が非常に大きく、かつ人によって微妙な差異がありますが、IOWNの高帯域ネットワークであれば匂い分子の組成データや味覚の電気刺激パターンといった情報も劣化なく送ることができます。さらにIOWN全体のプラットフォーム上では、AIやデジタルツイン技術を活用して、人間の主観的な感覚や感情もデータ化・再現することが可能になるかもしれません。実際、NTTドコモは将来の6G時代について、「体の動きや五感、感情をネットワークで共有できれば、テレパシーのようなSF的サービスも可能になる4」と展望しています。IOWNが切り開く超高速・超低遅延ネットワークは、こうした人間の感覚・感情の直接的な共有すら射程に入れつつあります 。

 

感覚共有型通信が活用される領域と事例

感覚共有型通信の実現により、ビジネスや生活のさまざまな場面で革新的なサービスが登場することが期待されます。以下、主要な活用領域ごとに展望されるユースケースや既に始まっている取り組みを紹介します。

医療分野:超遠隔ロボット手術の実証

中国の医療機器企業、MicroPortは、2024年にドバイの医療展示会で自社開発の手術ロボット「Toumai®」を用いた世界初の超遠隔ロボット手術デモを成功させました5。上海の術者コンソールから約7,000km離れたドバイ会場のロボットを5G通信で制御し、組織の把持や縫合など精緻な操作を実現しました。高速・低遅延な通信により操作遅れや信号途絶は見られず、現地で行う手術と遜色ない結果が得られました。この成果は6G時代の超低遅延ネットワークによる遠隔医療の可能性を示し、地理的制約のない高度医療提供に寄与することも想定されます。

教育分野:ハプティクスによる技能伝承ARシステム

産業技術総合研究所、東北大学、筑波大学、Adansons社は、熟練職人の「手触り感覚」を遠隔共有できるAR技能教育システムを開発しました6。熟練者が作業時に手首で感じる微細な振動を極薄ハプティックMEMSデバイス付き腕輪で計測し、その触覚信号を補正・数値化してAR空間に可視化します。さらに、その振動触感を受講者の腕輪デバイスに内蔵したバイブレータで忠実に再現し、離れた場所にいながら熟練者の手作業の「コツ」や繊細な力加減を体感できます。2025年の発表時点で世界初の試みであり、6G時代の低遅延通信により遠隔地でも高度技能の継承や職業訓練への活用が期待されます。

エンターテインメント分野①:嗅覚を組み合わせた没入型体験

米国のElevated Perceptions社は、ゲームや映像に「匂い」を付加するデバイス「GameScent」を2024年に発表しました。同デバイスはAIがゲーム内の音声や状況を解析し、6種のカートリッジから場面に応じた香りを自動拡散します。これにより視覚・聴覚に嗅覚を組み合わせた没入型体験が可能となり、ゲームで映画館の4D技術のような多感覚エンターテインメントを実現します。将来的には、6Gの高速・低遅延ネットワーク上でコンテンツと香り情報を同期伝送することで、遠隔地の利用者もリアルタイムに香りを共有しながらエンターテインメントを楽しめるようになると期待されます。

エンターテインメント分野②:遠隔体験共有装置

日本のH2L社は、人間の動作や感覚を遠隔で共有する「BodySharing」技術の研究開発を進めているスタートアップです7。同社は、視聴覚に次ぐ新世代の感覚共有基盤として触覚や力覚の伝送を可能にするシステムを開発しています。2023年後半にはNTTドコモや明治大学と連携し、味覚共有技術を公開しました。これは送り手の味の感じ方をデータ化し、受け手側でアクチュエータにより味を再現するもので、人間拡張基盤を用いて離れた相手と味覚体験を共有する試みです。今後は嗅覚も含めた多感覚インターフェースへの拡張も計画されており、超低遅延な6G通信によってリアルタイムに感覚情報を同期伝送することで、新たなエンターテインメント体験が可能になると期待されています。

遠隔操作分野:リアルハプティクスによるロボット制御

日立チャネルソリューションズ株式会社と慶應義塾大学発ベンチャーのモーションリブ社は、2025年の技術展示会で人の触覚をロボットに伝える「リアルハプティクス®」技術を用いたデモを実施しました8。このシステムでは操作者がロボットハンドを操作する際、物体に触れたときの力加減や硬さなどの感覚が手元にフィードバックされます。製造現場などで遠隔ロボットを精密に操作しつつ、まるで自分の手で触れているような繊細な作業が可能となり、安全性と作業精度の向上に寄与します。6G時代には高信頼通信と組み合わせ、建設・工場の危険作業や災害現場での遠隔作業支援などへの応用が期待されています。

 

新たなコミュニケーションへの期待

6GやIOWNのような次世代通信基盤と感覚共有型通信は、私たちのコミュニケーションの概念を大きく変革させる可能性を秘めています。距離や物理的制約を超えて人々が五感や感情までも共有できるようになれば、「一緒にいること」の価値を再定義するような新サービスが生まれる可能性があります。

ビジネスパーソンにとって、感覚共有型通信は新規事業開発のヒントとなる技術です。現在、医療、教育、エンターテインメント、製造など幅広い業界で実用化に向けた取り組みが進んでいます。実現に向けてはデバイス開発やコンテンツ制作、標準化など課題もあるものの、世界中の企業や大学・研究機関が市場を切り開こうと挑戦を続けています。

6GやIOWN時代の到来によって、かつてSFで描かれたような体験が現実のものとなりつつあります。感覚共有型通信が普及する未来に向けて、今からその世界観を描き具体的なビジネスチャンスを探ることが、次世代のイノベーションをリードする第一歩になるでしょう。

  1. IMT-2030「IMT towards 2030 and beyond」itu.int/en/ITU-R/study-groups/rsg5/rwp5d/imt-2030/pages/default.aspx、2025年12月2日アクセス)
  2. NTT「IOWN」、group.ntt/jp/group/iown/vision.html(2025年11月28日アクセス)
  3. Ericsson ConsumerLab: Ten Hot Consumer Trends 2030 – The Internet of Senses(Ericssonウェブサイト、ericsson.com/en/press-releases/2019/12/ericsson-consumerlab-ten-hot-consumer-trends-2030--the-internet-of-senses、2019年12月10日リリース)
  4. NTTドコモ「5G Evolution and 6G Powered by IOWN」www.docomo.ne.jp/english/binary/pdf/info/media_center/event/mwc22/5G_Evolution_and_6G_powered_by_IOWN_ja.pdf(2025年12月2日アクセス)
  5. MicroPort® Participates in Arab Health 2024, Completing the World’s First Cross-Border 5G Simulated Tele-Surgery Verification(MicroPortウェブサイト、microport.com/news/microport-participates-in-arab-health-2024-completing-the-worlds-first-cross-border-5g-simulated-tele-surgery-verification、2024年2月28日リリース)
  6. リアルな触覚再現技術による、技能教育システム、心拍数共有アプリを開発しました( NEDOウェブサイト、nedo.go.jp/news/press/AA5_101832.html、2025年3月31日リリース)
  7. 世界初!6G時代の新しい価値を提供する「人間拡張基盤」に味覚を共有する技術を開発( NTTドコモウェブサイト、https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2023/12/21_00.html、2023年12月21日リリース)
  8. 日立チャネルソリューションズ「人の手の感覚を伝える技術を「Aichi Sky Expo」のテクノロジー展で紹介 ~自動化・安全性で現場を支える新技術の活用をともに考える協創パート


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EY Japan Consulting TMTチーム

サマリー

6G/IOWN等の通信基盤の社会実装が進むことで、五感や感情までも共有できる次世代コミュニケーションが現実味を帯びています。超高速・超低遅延ネットワークが医療・教育・製造・エンタメ等の産業分野に革新をもたらし、新たな体験とビジネス創出を加速する未来が始まっています。



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