海岸の岩場に立ち、夕日を眺める男性
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オルタナティブファンドの運用会社がビジネス機会の新たな視野を開くには

新たな投資家セグメントの獲得により持続可能な成長を実現するには、現行の数多くのビジネスモデルを大幅に変える必要があると考えられます。


要点
  • オルタナティブファンドの運用会社は、個人投資家を成長戦略の最優先事項と位置付けている。
  • 新規投資家が新たな課題をもたらすと予想されており、運用会社は流動性、適合性、教育、そして収益性などの障壁に直面している。
  • 成功するには、新たな変更を加えた後のケイパビリティに合わせて信頼と透明性、テクノロジー、人材を確保する強固な成長戦略が必要となる。

新たな資金源を模索する中で、北米を中心とした世界各地のオルタナティブファンドの運用会社にとって、次の一大成長市場となり、今後3年間の最優先事項となると位置付けられるのは、リテール/マスマーケット、富裕層(HNW)、超富裕層(UHNW)などの個人投資家です。

これは、2024年EYオルタナティブファンド・グローバル調査(2024 EY Global Alternative Fund Survey)(PDF、英語版のみ)の重要なポイントの一つです。この調査では、商品やファンドの多様化、テクノロジーの最適化、人工知能(AI)を活用したイノベーションの開発と普及、ファンド運用会社と機関投資家、両方にとっての今後の懸念材料など主な戦略的テーマについても掘り下げました。

2024年EYオルタナティブファンド・グローバル調査(2024 EY Global Alternative Fund Survey)(PDF、英語版のみ)は、400社以上のオルタナティブファンドの運用会社と機関投資家を対象としたEYの主要な動向調査の最新版です。調査対象となった運用会社の大部分が、成長の原動力となる新たな投資家層を積極的に開拓しています。こうした姿勢が特に顕著に見られたのはプライベートエクイティのゼネラルパートナー(GP)です。その多くが、自らの資金調達能力はここ数年、高金利や予想を上回る資本還流の動きの鈍化、M&A/IPO活動の低迷の制約を受けていると感じていました。

オルタナティブファンドの運用会社にとって今は、目標を比較的容易に達成できる状況にあります。オルタナティブ商品が約束するリターンと多様化を求める声がHNW/UHNW投資家の間で高まっていることを背景に、オルタナティブアセットクラスが「大衆化」するトレンドが加速しています。このトレンドは、マス富裕層の投資家の間でも高まってきました。運用会社でリテール顧客をターゲットとしているのは少数派である一方で、EYが実施した調査結果から、拡大に向けた取り組みが優先的に実施されるセグメントはHNW/UHNWであることが分かっています。

 

今回の調査の結果からは、プライベートエクイティが優先課題であり、運用会社の37%がこのアセットクラスの個人投資家をターゲットにする方針であることが明らかになりました。ヘッジファンドやインフラなどオルタナティブ投資は徐々に個人投資家でもアクセスしやすくなってきており、プライベートエクイティとプライベートクレジットの大衆化が米国を中心に進んできました。流動性の低い資産運用と個人投資家のマッチングを対象としたイノベーションには、以下のようなものがあります。

  • インターバルファンドや非上場不動産投資信託(REIT)などのセミリキッドな仕組みの構築
  • 上場/非上場の事業開発会社(BDC)の利用拡大
  • 投資家にセカンダリーの流動性を提供するファンドアグリゲーターとプラットフォームの拡充

 

他地域も米国に続いて、この学習曲線を描いています。例えば、欧州でオルタナティブファンドの運用会社が模索しているのは、個人投資家を流動性の低い資産に誘導することを目的としたファンドの新たな仕組みの活用です。具体的には、英国の長期資産ファンド(LTAF)、EUの(改正後の)欧州長期投資ファンド(FLTIF)、ルクセンブルグの集団投資事業(undertakings for collective investment:UCI)パートIIファンド、スイスの限定適格投資家ファンド(Limited Qualified Investor Fund:L-QIF)などが挙げられます。

 

個人投資家との関係を構築するため、多くのオルタナティブファンドの運用会社が、事業開発を行う人材に投資をしているか、この投資を計画しています。資産運用会社やプラットフォームプロバイダー、投資顧問会社との連携の高度化や、これらの会社へ教育研修の実施を図っているオルタナティブファンドの運用会社も少なくありません。オルタナティブファンドの運用会社と資産運用会社の間の共同事業やパートナーシップ、合併もよく見られるようになってきました1

 

多くの市場における投資解説(インベストメントコメンタリー)2において、運用会社と投資家の両方の間で、オルタナティブ資産へのアクセス向上を求める声が強まっていることが伝えられています。とはいえ、これは簡単なプロセスではありません。

新規投資家は、新たな課題ももたらしています。EYが行った調査の結果から、オルタナティブファンドの運用会社は、個人投資家層の裾野拡大に伴う以下のような潜在的リスクを警戒していることが分かりました。

  • 流動性 – 運用会社の48%が流動性に関する期待値のコントロールを懸念しています。
  • 透明性 – リスクモニタリングと運用成果報告に必要なデータの可用性が運用会社の2番目の懸念材料です。
  • 用語体系 – 運用会社はオルタナティブ投資の標準的なパラメーターや定義の欠如を懸念しています。
  • 適合性 – 組織文化やオルタナティブファンドの運用/資産運用に関するアドバイスの規範が大きく異なり、コミュニケーションの行き違いが生じる余地は大きいといえます。

運用会社が抱く懸念は、市場ごとに大きく異なります。セミリキッドな投資商品の普及が進む北米で最も懸念されているのは流動性です。一方、欧州では運用会社がデータの可用性と標準化されたインフラの欠如を現時点の最大の懸念材料としているのに対して、アジア太平洋の運用会社はデータの可用性を比較的大きなリスクとしています。

こうした回答全てを裏打ちするテーマが1つあるとしたら、それは教育強化の必要性です。すなわち、投資家に投資行動やリスク、一連の潜在的な投資成果を含め、投資に関して深く、かつきめ細かく理解してもらうことが必要です。個人投資家の獲得により成長することを模索する運用会社では、これを最重要目標にすべきです。教育が必要なのは投資家だけではありません。ファイナンシャルアドバイザーの教育も必要です。

ここで、収益性という最大の課題が浮上します。流動性と適合性という潜在的リスクに対処すると、オルタナティブファンドの運用会社のオペレーションのコストと複雑さが増大することになります。個人投資家は概して、従来型の資産運用会社や自己管理型口座(self-directed account)を利用した経験から、円滑な口座開設、リアルタイムの報告、専門家へのアクセスを当然のこととして期待することが考えられます。

では、運用会社が新規投資家を呼び込むには何が必要となるのでしょうか。また、それに見合うだけのリターンを得られるのでしょうか。

アクセスという面で大半の市場は米国に後れをとっていますが、個人投資家は言うまでもなく、オルタナティブ投資の初心者では決してありません。とはいえ、顧客層の大規模な拡大を図れば、多くのオルタナティブファンドの運用会社や投資家、顧問会社は不慣れな環境に足を踏み入れることになります。

チャネルや仲介業者の幅を広げて、サービスに対する期待の高い投資家をより多く取り込むには、従来をはるかに上回る顧客体験の充実を図らなければなりませんが、同時に、プレースメントエージェントへの報酬など追加のコストも負担することになるでしょう。運用会社は、それに応じたオペレーティングモデルの調整を行う必要もあります。

2024年EYオルタナティブファンド・グローバル調査(2024 EY Global Alternative Fund Survey)をダウンロードする(PDF、英語版のみ)

システムやプロセス、研修、組織文化も変えなければなりません。運用成果を上げることは常に不可欠ですが、運用会社は、ターゲットとする新たな投資家層のニーズに対応した包括的なエクスペリエンスを提供する、自らの能力についても考えるべきです。まず手始めに、自らのケイパビリティを精査して、成長に不可欠な4つの「T」を戦略の中心に据えましょう。

  • Trust(信頼)– 投資家の信頼を得るには、オープンな姿勢、明瞭さ、適切な商品、適合性に関する丁寧なガイダンス、リアルタイムで効果的な報告が必要となります。ブランド価値と組織文化に明確に焦点を合わせて、クライアントに発信することは、クライアントとの信頼構築と自社のアピールに大いに役立つはずです。
  • Transparency(透明性)– 明確で効果的なコミュニケーションを取ることができるかどうかの鍵を握るのは、テクノロジーの統合やデータプラットフォームを含めた、インフラの整備が必要です。
  • Technology(テクノロジー) – 投資家や規制当局の期待に沿った、質の高いエクスペリエンスを提供するには、AIの最適な活用を含めたテクノロジーの強固な枠組みの構築が不可欠です。
  • Talent(人材)– オルタナティブ投資商品に関わるタイムリーな教育で従業員のスキルアップを図るとともに、適したテクノロジーツールを活用できるようにすることも大いに効果があります。投資家は、顧客一人一人に対応したサービスを引き続き重視しており、商品知識とアドバイザリースキルを兼ね備えた営業担当者はかつてないほど貴重な人材となっています。

オルタナティブファンドの運用会社は、個人投資家の獲得を成功させる土台となる、以下のような目標を設定すべきです。

  • 多大な時間とリソースを投じる態勢を整える。
  • 4つのT(「trust(信頼)」「transparency(透明性)」「technology(テクノロジー)」「talent(人材)」)を個人投資家獲得戦略の中心に据える。
  • 投資プラットフォームプロバイダーやファイナンシャルアドバイザーとのパートナーシップなど、適切な販売チャネルを整備する。
  • 苦情処理など、質の高い投資家とのコミュニケーションを提供できるよう自らの能力を評価/強化する。
  • 該当する行動/商品関連の規制の順守を徹底するとともに、バリューフォーマネー(VFM)など主要領域の監督強化を見越して事前に対応する。
  • 資産運用会社などパートナー候補との連携や統合に向けた戦略的青写真を策定する。

十分な努力と資金がなければ、いかに需要や投資リターンが高くても、運用会社の多くは個人投資家の獲得による持続可能、かつ収益性の高い成長の実現に苦労することになるでしょう。

本記事の執筆に当たっては、PartnerのJesse KrupskiとSenior Manager, Wealth and Asset ManagementのAdam Gahaganの協力を得ました。

  1. "Firms jostle to sell alternative assets to wealthy investors," https://www.ft.com/content/b3ba8fb7-a2c6-44ba-a1f0-3340d410627c
  2. "Morningstar’s 2025 Investment Outlook for Financial Advisors," https://www.morningstar.co.uk/uk/news/257713/morningstars-2025-investment-outlook-for-financial-advisors.aspx

サマリー

成長の在り方の変革を目指すオルタナティブファンドの運用会社は個人投資家を重視する姿勢を強めています。このダイナミックな投資家セグメントが秘める可能性を引き出すために鍵を握るのは、組織文化とケイパビリティ、戦略の大幅な変更であると考えられます。


本記事に関するお問い合わせ

EY Japan アセットマネジメントセクターリーダー 兼 ブロックチェーン・アシュアランスリーダー
EY新日本有限責任監査法人 パートナー
長谷川 敬



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