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グローバルモビリティが戦略的なAI基盤を築くには


組織には、生成AIとAIエージェントを包括的に捉える視点が求められます。モビリティ部門は、短期的な成果を得るとともに、長期的には進化を遂げることができます。

要点

  • 多くのモビリティ部門は、データや業務上の制約に直面しており、短期的な成果や長期的な計画立案が妨げられている。
  • ホライズンスキャニングと従業員体験の高度なパーソナライズは、モビリティにとって検討すべきインパクトの大きい分野である。
  • 部門は、将来的により堅牢なツールに必要な基盤を構築しないまま短期的な成果を待つような、AIに対する様子見の姿勢を避ける必要がある。

EY Japanの視点

転換期を迎える日本企業のグローバルモビリティとAI活用

日本企業のグローバルモビリティは、制度と運用の両面で見直しの時期を迎えています。
多くの日本企業では、日本本社から海外拠点への赴任を前提に制度が整備されてきました。
しかし現在では、海外から日本への受け入れ、海外拠点間の異動、短期赴任、転籍、国をまたぐリモートワークなど、人材の動きが多様化しています。
一方で、長年見直されていない海外赴任者規程や、赴任者の属性・働き方の多様化に対応しきれていない処遇制度も少なくありません。
今後は、税務・入国管理・社会保険・労務上のリスクを早めに把握しながら、赴任者本人と家族にとってわかりやすく、企業にとっても運用しやすい制度を整えることが重要です。
AIは、社内に分散する規程、赴任者データ、問い合わせ、フィードバックを整理し、より実態に即した制度設計と運用を支える手段となります。
EY Japanでは、日本企業の実務に対する理解とEYのグローバルネットワークを生かし、企業の人材戦略に沿ったグローバルモビリティの高度化を支援します。
EY Japanの窓口

あらゆる面で、生成AIやエージェントツールは、組織の業務運営や戦略、投資の考え方を大きく変えつつあります。AIの導入は急速に進んでいるものの、多くの組織は、モビリティやグローバル給与計算、そしてより広い意味での人事など、戦略的に重要な部門での「決定打となる」活用例を依然として模索しています。多くの組織では、個別のツールの試行にとどまり、短期的な成果を待ちながらも、長期的な成果につながる基盤づくりが十分に進んでいません。一方で、半自律型のAIエージェントを業務に導入しているものの、その結果、うまく機能していない業務プロセスの問題点がより早期に顕在化するにとどまっている組織もあります。

部門のリーダーは、AIが人材不足の解消に役立つ可能性や、エージェントによって効率化とコスト削減の新たな波がもたらされるという期待については、すでに耳にしています。しかし、これから先の段階では、期待や可能性だけでは足りません。道のりの途中で人の懸念が置き去りにならないよう、実際の価値に向けたロードマップが必要です。

生成AIをめぐる過度な期待だけでは、長期的な関心や投資を維持できません。今こそ、人材モビリティ部門が、実務で役立つAIユースケースに向けた道筋を描くべき時です。大きな機会があるのは、次の3つの重要分野です。

  1. より深いホライズンスキャニングを伴う戦略的目的
  2. 統合されたパーソナライゼーションによる従業員体験の向上
  3. 現時点におけるAIエージェントの価値を示す現場レベルの具体例

生成AIやAIエージェントによる初期の大きな反響が次第に落ち着きつつある中で、目的意識を持って主体的に取り組むモビリティ部門は、AIを活用できる人材から価値を引き出す上で最も有利な立場にあります。

現代的な都市の壁を背景に、赤いスーツケースを持って自信をもって歩く女性
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第1章

なぜ戦略的AIがモビリティにとって重要なのか

AIツールによる業務効率化に早い段階から焦点を当てると、全体像を見失うことになります。リスク予測は将来の方向性を定めるのに役立つ一方、エージェントは現時点でユーザー体験の向上に役立ちます。

個人や企業のユーザーによるAIツールの利用が広がったことで、議論はようやく一般的な認知から戦略的な行動へと移りつつあります。EY 2025 Work Reimagined Survey(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2025)によると、従業員の多数にあたる88%が、職場で何らかの形でAIツールを利用し、そのうち37%は毎日利用していると回答しています。一方、AIによる変革的な成果を従業員が実現できるよう体制を整えている組織は、わずか28%にとどまっています。

部門のリーダーは、このギャップの根本要因を認識しているでしょう。つまり、チームは、業務上のニーズや日常的なプロセスと、より戦略的で付加価値の高い活動に注力したいという願望とのバランスを取る必要があるのです。予算が逼迫し、市場が不安定な状況下では、モビリティなどの部門におけるテクノロジー投資に対する経営層の支援を得るには、明らかな投資収益率(ROI)が求められます。その結果、より明確な成果を期待して行動を完全に先送りするモビリティ部門もあれば、初期の試行と長期的な変革を結びつけるロードマップを持たずにツールを導入してしまう部門もあります。

AI変革に向けた社内ユースケースを強化する持続的な価値は、戦略的な先見性とリスク管理の強化、従業員体験の向上、そしてエージェントを前提とした将来に向けて再構築された部門によって築かれます。

また、AIを最大限に活用するために必要なスキルや経験については依然として混乱が見られ、各チームがスキルアップに奔走する中で、こうした状況が進捗を遅らせています。しかし、「ビジネス側」と「テクノロジー側」という区別は消え去り、かつて存在したテクノロジーとビジネスの壁を取り払う、チーム全体で統合されたインテリジェンスが、いまや唯一の重要な要件となっています。

AI基盤がもたらす価値

AIは、人が行ってきた仕事のあり方を変革しており、新たなスキル、運営モデル、プロセスが求められています。つまり、仕事の進め方そのものに疑問を投げかけているのです。一部の組織では、この変化によって、部門の運営方法や組織体制の転換を迫られています。特に、経営層の人材戦略を実現するために不可欠なモビリティやグローバル給与計算といった部門では、その影響が大きく表れています。

多くの部門では、断片化されたデータや、手作業での遂行を前提とした従来のワークフローや運営モデルによって、依然として制約を受けています。特にモビリティチームは、入国手続きの調整、複数のシステムにまたがる赴任関連の報酬データの収集、そして依然として手作業に大きく依存している年末の税務調整サイクルの管理といった、人の関与が大きいプロセスを改善するために、AIを導入する方法を模索する必要があります。

しかし、テクノロジーは、それを使いこなせるよう育成された人材がいてこそ役に立ちます。定着と適応力が鍵です。

AIがこうした技術的な能力を補完する中で、人の創造性や俊敏性が重視される将来に向けた土台づくりを進めている部門の例は、すでに存在しています。EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、回答者の大多数が、戦略的思考、問題解決、批判的思考が将来の税務プロフェッショナルにとって不可欠であることに同意しており、78%がコミュニケーションスキルと協働スキルを挙げています。人とのつながりや誠実さが特に重視されています。

これは単なる個人のスキルにとどまらず、部門のリーダーにとっては、AIをめぐる過剰な報道に惑わされることなく、新たなツールから短期的・長期的な価値を引き出せるチームの基盤となるものだと捉えることができます。

長期的なホライズンスキャニング

グローバル企業は、想定される市場動向やリスクを把握・評価するために、ホライズンスキャニングやシナリオプランニングの能力をすでに備えている必要があります。生成AIシステムを活用すれば、大規模で、場合によっては性質の異なるデータセットに基づいたシナリオ分析を飛躍的に強化することができます。デジタルエージェントを活用することで、過去データの整理と予測分析を、半自律的、あるいは完全に自律的なステップとして整理することが可能になります。

モビリティ部門により具体的に当てはめると、入国管理制度の改革案、今後の租税条約交渉、生活費指数の変動、あるいは現在または計画中の赴任に支障をきたす可能性のある地政学的動向を継続的にモニタリングすることが考えられます。

実際のところ、現時点でこうした兆候をモニタリングし統合する能力を持つモビリティチームはほとんどなく、変化が訪れた際に、事前の準備ができているというよりは、事後対応に追われる状況にあります。しかし、こうした状況は持続可能ではありません。ホライズンスキャニングを強化せず、規制の改正を見逃してしまうリスクは、赴任の遅延から予期せぬ給与報告義務に至るまで、連鎖的な影響を引き起こす可能性があります。早期に把握することが、具体的な戦略的優位性となります。

ただし、この戦略的価値は、最高水準のデータと、計画を立て、トラブルシューティングを行い、必要に応じてプロセスを適応させるスキルと能力を備えた「人の関与」があるかどうかに左右されます。

これらは、短期的にも長期的にも極めて重要な要素です。

短期的なパーソナライズ体験

近い将来において、エージェントの活用法の中でも特に分かりやすく、目に見える形で成果が表れるものの1つが、日常的なタスクのパーソナライズです。EYのデータによると、現時点でのAIの活用は依然として特定の主要分野に集中しており、顧客やユーザーの体験(31%がカスタマーサポートへのアクセスにAIを活用)や、コンテンツの翻訳(29%)といった個人向けアプリケーションなどが挙げられます。

 

これらは部門が導入できる即効性のある戦術的な利点ですが、実際には導入されていないことが少なくありません。多くの組織はパイロット運用やポイントソリューションの段階から抜け出せずに苦戦しており、従業員体験の具体的な改善が実現されていないのが現状です。

 

特にモビリティにおいては、ユーザーは税務、入国管理、規制、人事に関する情報を見つけるために、複数のシステムにアクセスする必要があります。エージェントツールは、従業員の家族状況、役割、および受入国での要件を反映した、パーソナライズされたポリシーの概要、勤務地別のオンボーディングチェックリスト、あるいは平易な言葉で書かれた赴任に関するブリーフィングを生成することで、このプロセスを効率化できます。従業員とこれらのシステムとの間に摩擦が生じると、本人やその家族にストレスを与え、業務に支障をきたす可能性があります。最新の自然言語処理機能を活用したパーソナライズされたガイダンスは、教育機関の選択肢や現地の医療サービスへのアクセスといった、家族特有のニーズにも対応可能です。これらは、赴任の成功を左右する重要な要素となることが少なくありません。

 

AIツールを使えば、比較的少ない労力でデータへのアクセスをカスタマイズし、従業員にとって最も役立つ形式で情報を提供することができます。さらに、個人の状況に応じて役立つ可能性のある追加の知見を示すことで、従業員の行動をさりげなく促すことも可能です。これにより、データ管理やアクセスにかかるコストを抑えつつ、最終的には従業員体験と満足度の向上に寄与することができます。

 

これらのシステムには指標やベンチマークを組み込むことができ、リアルタイムでの改善を繰り返すのに役立つフィードバックループを提供します。これは特にモビリティにおいて大きな効果を発揮します。モビリティでは、赴任後の調査、ベンダー評価、および従業員からの自由記述コメントが、赴任の成功要因に関する豊富な知見を含んでいるにもかかわらず、しばしばサイロ化したまま十分に分析されないままになっているからです。

 

AIの導入による効率化は確かに好ましいことですが、それは全体像の一部に過ぎません。顧客や従業員の体験が不十分であれば、結果の悪化につながる可能性が高くなります。

 

これらの変化を総合すると、モビリティの次の段階は、単にAIの可能性を理解することではなく、業務上の日常的な課題を解決するためにAIを活用する点にあることが明らかになります。

Man in business casual attire walking up stairs inside a modern train, holding a laptop in one hand and a railing with the other, traveling for business
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第2章

モビリティ部門は今、AIで何ができるのか

モビリティチームが業務の複雑化や高まる期待に直面する中、AIによる最も実用的な成果は、意外なところから生まれることがよくあります。

モビリティは税務、入国管理、給与計算、従業員体験の中心に位置しているため、たとえ小規模なエージェントツールであっても、大きな成果をもたらすことができます。こうしたツールは、チームが自らのプロセスに潜む兆候を読み解くのを助け、人がどこで苦労しているか、業務がどこで停滞しているか、そして期待が満たされていない部分はどこなのかを明らかにします。AIエージェントを活用することで、膨大なデータの処理や分析を加速させ、チームがより迅速に状況を把握できるよう支援します。

進展が停滞する理由の1つは、モビリティチームが、現時点でどこで体験が損なわれているのか、またそれらの兆候が将来のプログラム設計にどのように結びつくのかについて、明確で実践可能な知見を欠いていることです。以下の例は、散在するフィードバックを体系的な知見に変えるシンプルな感情分析エージェントから始め、モビリティが現時点でこうしたツールの活用をどのように試行し始められるかを示しています。

モビリティ部門がAI活用に備えるための3つのステップ

意図的な行動がなければ、モビリティ部門は、成果の少ない限定的な試行という、お決まりのパターンに陥るリスクがあります。

先進的なAIツールを組織に取り入れ、現実世界での成果を実現するために、モビリティのリーダーには、自身と部門のレベルアップを図る好機が訪れています。人の成功を促すため、リーダーは自身とチームのスキルアップに努め、ツールやユースケースについて学ぶ時間を確保し、試行と改善を繰り返す環境を整えることができます。

より広く言えば、部門は戦略的なAI基盤を築く必要があります。

  1. 生成AIが、役割やプロセスに付加価値をもたらし、従業員体験を向上させ、あるいは意思決定のためのデータに基づいた知見を提供できるユースケースを特定し、評価します。解決しようとしている課題を明確にすることが重要です。モビリティチームの場合、初期の候補としては、データ収集ワークフローの自動化、エージェント間のタスク引き継ぎを通じた転居ベンダーとの連携強化、および赴任において例外的な対応が生じる要因の予測などが挙げられます。

  2. 生成AIが正確かつ関連性の高い出力を生成し、効果的に機能するために必要な、クリーンなデータを収集・整理するためのデータ戦略を策定します。これには、タックスイコライゼーションに関する入力データからポリシーの例外事項に至るまで、さまざまなプラットフォームにわたる赴任関連の分散したデータセットを統合し、赴任の成功に関するより信頼性の高い経年的な知見を導き出す必要がある場合があります。

  3. 組織全体への展開に先立ち、管理された環境で生成AIのパイロット運用と改善を繰り返し、その活用方法を洗練させ、その価値を実証します。例えば、単一の赴任形態(短期赴任や通勤型など)や単一の受入拠点から始め、その影響を検証した上で、より広範なAIによる業務支援を展開することがあります。

モビリティ部門にとって、リスクはもはやAIを急ぎすぎることではなく、慎重になりすぎて導入を躊躇することです。今すぐ行動を起こさなければ、目前にある短期的な成果だけでなく、近い将来必要となる長期的な能力も逃してしまう可能性があります。

サマリー

多くのグローバルモビリティ部門では、AIに対して慎重な姿勢が取られており、限定的な試行にとどまる一方で、真の成果を得るために必要な本格的な取り組みを先送りしています。こうした慎重さは、短期的な成果と長期的な準備のいずれも取り逃がすリスクを伴います。モビリティ特有の事例からは、戦略的なAI基盤と実用的なエージェントツールを組み合わせることで、摩擦を軽減し、従業員体験を向上させ、現時点でより明確な知見を引き出すと同時に、将来のリスクを的確に予測し、適応可能になることが示されています。感情分析エージェントの事例は、小規模な取り組みから始めることが、モビリティチームにとって持続的な変革に向けた勢いを築く上で有効であることを示しています。


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