EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
弁護士/日本公認会計士協会準会員 伊藤 貴則
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理(2022年6月)、日本証券業協会「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」報告書(2022年2月)をふまえて公開価格設定プロセス等の見直しが行われ、企業内容等の開示に関する内閣府令等が改正されました。
これにより、2023年10月1日以降の株式のIPO銘柄より、「仮条件の範囲外での公開価格設定、売出株式数の柔軟な変更」及び「上場日程の期間短縮・柔軟化」等の改善策が実施されています。
これまで公開価格は、あらかじめ証券会社が投資家の需要予測などをもとに定めた仮条件の範囲内で設定されていました。そのため、この需要予測よりも実際の投資家の購入意欲が強かった場合や逆に弱かった場合でも、仮条件よりも高い金額、低い金額で公開価格を設定することはできませんでした。
この点について、本改正では、より投資家の購入意欲を反映する観点から、仮条件の上限より20%まで高く公開価格を設定できるようになりました。例えば、仮条件が800~1000円である場合において、想定していたよりも投資家の購入意欲が高かったときは、公開価格は1200円を上限に設定できることになります。逆に、投資家の購入意欲が想定していたよりも低調であった場合にも、下限よりも20%低い金額(640円が下限)を公開価格に設定することができます。
また、従前の大株主が売り出す売出株式数についても、公開価格決定時の売出株式数が仮条件決定時の売出株式数の80%以上かつ 120%以下の範囲内であれば公開価格の設定と同様に、変更することが可能になりました。例えば、仮条件決定時には、売出株式数100万株とされていた場合、「80万株以上120万株以下」の範囲であれば、公開価格設定時に変更することができます。
ただし、公開価格決定時のオファリングサイズ(株式数×公開価格)による制限が付されており、オファリングサイズが、「仮条件下限×仮条件決定時の株式数×80%以上かつ仮条件上限×仮条件決定時の株式数×120%以下」の範囲内であることが必要です。
上場承認前に有価証券届出書を提出することで、必要な手続きを前倒しで行うことができるようになりました。このような形で上場することは「承認前提出方式」と呼ばれています(なお、この方式は、米国におけるIPOの際に用いられる書類のフォーマットの名称を踏まえて「S-1方式」と呼ばれることもあります)。
これまで上場承認日から上場日までは1か月程度を要していましたが、「承認前提出方式」を採用すれば、この期間を21日程度まで短縮することが可能になります。
今後、上場準備会社としては、従来の方式か、この「承認前提出方式」のどちらかを選択することが可能とされています。
上場承認前に提出する有価証券届出書の記載事項に関して、以下の改正が行われました。
これまでは、実務上、有価証券届出書、目論見書において、特定の上場日を記載する運用が行われていました。
しかし、本改正によって、特定の上場日ではなく、一週間程度の範囲内で、一定の期間の上場日程(条件決定日、申込期間、払込期日、株式受渡期日、上場日等)を記載することが可能であることが明記されました。
上場承認前に有価証券届出書を提出する場合、発行数や売出数について「未定」と記載することが可能となりました。
上場承認前に有価証券届出書を提出する場合、価格に関する以下の項目について、記載しないことが可能となりました。
上場承認前に有価証券届出書を提出する場合には、上場承認前の募集又は売出しの相手方に関する記載を求める等の改正が行われました。
仮条件の範囲外で公開価格を設定できるようになったことや、売出株式数の変更が可能になったことは、上場にあたり、これまでよりも柔軟な条件設定が可能になったと言えます。
特に、証券会社による需要予測よりも実際の投資家の購入意欲が高かった場合において、本改正によって公開価格を高く設定することが可能となった点は、ベンチャー企業が上場することによって、より大きな資金を調達できる余地が広がったといえます。
一般に、上場準備会社は、上場承認から上場日までの間は、株式市場が変動するリスクにさらされることになります。今回の改正によって、上場承認前に有価証券届出書を提出する方式を選択することで、期間短縮が可能になったことは、当該リスクを抑える手段が出てきた点で、上場準備会社にとって利点があると考えられます。