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国際統括本部と国際貿易センターに対するタイの新しい優遇税制について

2016年5月31日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2016年6月号 JBS

タイ駐在員 公認会計士 髙橋 顕

一般事業会社および税理士法人などに勤務後、当法人 新潟事務所に入社。国内事業会社の監査業務やIFRS業務などに従事した後、2014年7月にEYタイ事務所へ赴任。監査、税務およびアドバイザリー分野で現地の日本企業をサポートしている。米ニューヨーク州弁護士。

Ⅰ はじめに

タイへの外資誘致のため、そしてタイがASEAN※1経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)のハブとしての存在となるべく、タイ投資委員会(Board of Investment:BOI)およびタイ歳入局は、従来の投資奨励政策および優遇税制を見直し、税務恩典をより厚くした新たな投資奨励政策を2015年に導入しました。この新しい制度により、タイ国内および国外からの投資が促進されると見込まれています。
この新投資奨励政策の中で、特に注目されているのが国際統括本部(International Headquarters:IHQ)と国際貿易センター(International Trading Center:ITC)の創設です。基本的な枠組みは旧制度である地域統括事業本部(Regional Operating Headquarters:ROH)と大きく変わりませんが、要件が緩和され、税務恩典が拡充されることで魅力ある制度になりました。

Ⅱ 国際統括本部(IHQ)

歳入局から国際統括本部(IHQ)として認可を受けた会社は、タイ国外の関連会社から得られる適格所得に対する法人所得税が免除となります。また、国外関連会社の株式を譲渡する際の譲渡益も免税となるほか、免税とされた所得を原資としたタイ国外の株主に対して支払われる配当に係る源泉税も免除となります。
また、タイ国内の関連会社へ提供されたサービスから得られる所得は、10%の低減税率で課税されます。その他、IHQに勤務する駐在員に対して適用される個人所得税率は、通常の高い累進税率ではなく、15%まで切り下げられます。
他方、払込資本金として少なくとも1,000万バーツが必要だという要件に変更はありません。しかし、サービス提供先の国数を定めた要件が緩和され、IHQでは最低1カ国(旧制度では3カ国)の国外関連会社に対して、サービスが提供されれば足りることになりました。この結果、旧制度に比べて、企業はIHQとしての要件を満たすことが容易になったといえます。
旧制度のROHとIHQとの比較は<表1>の通りです。旧制度であるROHには、02年度版と10年度版の二つの制度が併存していましたが、<表1>では、10年度版ROHとIHQを比較しています。

表1 ROHとIHQの歳入局の税務恩典の比較

Ⅲ 国際貿易センター(ITC)

歳入局から国際貿易センター(ITC)として認可を受けた会社は、海外の顧客に対する国際貿易事業※2から得られる所得に係る法人所得税が免除となります。その他、ITCからタイの非居住者である株主に対して支払われる配当に係る源泉税が免除となるほか、ITCに勤務する駐在員の個人所得は、IHQと同様に15%の低減税率で課税されます。なお、ITCの必要最低登録資本金は1,000万バーツ以上とされています。

Ⅳ シンガポールとの制度比較

ASEANでは、タイ以外の国々も地域統括機能を持つ会社に税務恩典を与えています。<表2>では、地域統括会社が多く設置されているシンガポールとIHQの制度について比較していますが、税務恩典についてはシンガポールと比べて遜色のない制度だといえます。

表2 シンガポールとタイの地域統括会社の税務恩典の比較

Ⅴ おわりに

ASEANでは、2015年12月31日にAECが発足しました。そして近い将来、域内の関税・非関税障壁が完全に撤廃され、ASEAN諸国は一つの自由貿易圏としての経済統合を果たすことが期待されています。タイは、この統合される広域経済圏の中心に位置し、近隣のASEAN諸国と国境を接しているという地理的優位性がありますが、これに加えて、これまで培われた高い生産能力と優れた人的資源があることを考慮すると、今後、タイがAECにおいて極めて重要な役割を果たすであろうことは疑う余地がありません。

※1東南アジア諸国連合

※2外-外取引:タイ国外から仕入れた物品をそのままタイ国外に販売する取引

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