EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
会計監理部 公認会計士 西野恵子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』(いずれも中央経済社)などがある。
固定資産の減損会計が導入されてから10年以上が経過しましたが、減損処理を行うに当たっては、企業が置かれた経営環境や事業内容などの経済実態に即した判断が必要となることから、実務上の論点が多岐にわたっています。実務で直面する諸問題の解決に資するよう、固定資産の減損会計に関する実務上の論点をシリーズで分かりやすく解説します。
第1回の本稿では、資産のグルーピングおよび減損の兆候に関する実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
次回以降においては、認識、回収可能価額の算定、共用資産・のれん、減損損失の配分・減損処理後の会計処理に関する実務論点、関連する会計基準との関係、連結財務諸表における論点、税務上の論点と税効果会計、四半期における論点等について取り上げる予定です。
同一企業における資産のグルーピングを全ての管理会計上の区分において一貫した方法で行う必要があるかについては、下記のとおりになります。
資産のグルーピングを行うに当たり、店舗や工場などの資産と対応して継続的に収支の把握がなされている単位を識別しますが、継続して収支を把握する単位が管理会計上の区分(事業別、製品別、地域別)によって異なる場合があります。
例えば、ある事業部門では店舗を単位として、別の事業部門では製品を単位として継続的に収支の把握を行っている場合や、継続的な収支の把握をある地域では店舗を単位として、別の地域では地域性を踏まえて隣接する複数の店舗を一つの単位として行っている場合があります。
このように、同一企業で部門ごとに管理会計上の区分、すなわちグルーピングの基礎となる収支を継続的に把握する単位が異なる事実があれば、全社で一貫した方法により資産のグルーピングを行う必要はありません。同一企業であっても、部門ごとに経営者が設けた管理会計上の区分を単位にグルーピングすることになります。
物理的な一つの資産をグルーピングにおいて複数の資産グループに分割することができるかについては、下記のとおりになります。
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、減損指針)において資産のグルーピングの単位を決定する基礎は、原則として、小さくとも物理的な一つの資産になるという考え方が示されていますが(減損指針70項)、物理的な一つの資産とは、物理的に独立して存在し得る資産と考えられます。
土地については分筆登記されていないとしても、各資産グループの利用の実態に基づき区画を設けることにより、物理的にも独立して存在し得る複数からなる資産と考えられる場合、土地の帳簿価額を、例えば事業所敷地内の各生産施設の敷地面積に応じて分割して各資産グループに帰属させることになります。
前述のⅡ2. (1)に記載のとおり、グルーピングにおいて、原則として、小さくとも物理的な一つの資産がグルーピングの単位を決定する基礎と考えられるため、一棟の建物をグルーピングの単位を決定する基礎として分割はしないという考え方が示されています(減損指針7項(1)③、70項(1))。ここで、建物についてフロアや仕切りで細分化して複数の単位に分割することが可能であるとしても、各フロアはそれぞれ物理的に独立して存在し得るものではないため、物理的に一つの資産として減損指針は想定しているものと考えられます。
ただし、本社建物の一部を外部に賃貸する場合に、賃貸部分だけ仕様が異なる場合や、仕様が異ならないとしても自社利用部分と外部賃貸部分とが長期継続的に区分されるような場合には、当該建物は複数からなる資産と考えられる場合もあるとされています(減損指針70項(1))。この考え方は賃貸部分がない場合にも同様と考えられることから、自社だけで利用する本社建物において、例えば資産グループの基礎となる部門が各フロアで分かれて長期継続的に区分されている場合には、複数の資産として取り扱い、その単位でグルーピングを行うことができると考えられます。
連結財務諸表上でグルーピングを見直す場合に、当該見直しを個別財務諸表上でも反映させることの可否については、下記のとおりになります。
管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位の設定などが、複数の連結会社を対象に行われ、独立したキャッシュ・フローを生み出す単位が、各社の個別財務諸表における当該単位と異なる場合に、連結財務諸表上において個別財務諸表における資産のグルーピングの単位が見直されることがあります。
この場合も、個別財務諸表上は、資産のグルーピングが当該企業を超えて、他の企業の全部または一部とされることはないため(減損指針10項)、土地の上にある子会社の固定資産にまで資産のグルーピングを広げることはできません。
このため、連結財務諸表上でグルーピングを見直し、土地の上にある子会社の工場も資産グループに含めて当該工場から生じるキャッシュ・フローを考慮した結果、当該土地の帳簿価額についても回収可能と判断されるような場合でも、親会社の個別財務諸表上に計上されていない子会社の固定資産および工場の稼働により直接的に生み出されるキャッシュ・フローを考慮することはできません(減損指針75項)。
親会社の個別財務諸表上は、賃貸等不動産として使用しているものとしてグルーピングを行うことになると考えられます。
前述のⅡ3.(1)の例において、子会社に賃貸している土地だけでは回収可能性がないと判断されるとしても、連結財務諸表上でグルーピングを見直すことで回収可能と認められる場合、当該土地の使用により直接的にキャッシュ・フローを生み出しています。この場合、「共用資産とは、複数の資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産をいい、のれんを除く」(固定資産の減損に係る会計基準(以下、減損基準)注解(注1)5)という共用資産の定義から、本社建物などと同様に親会社の個別財務諸表上、共用資産として扱うことができるかが問題となります。
親会社が子会社に対して事業用土地を賃貸する場合には、子会社は賃借した土地を利用して事業を行います。それにより生じたキャッシュ・フローを将来親会社に配当することになることから、子会社に賃貸している土地は子会社に対する投資に係る将来キャッシュ・フローの生成に寄与しているとも考えられます。しかし、子会社に対する投資は親会社の個別財務諸表上では金融商品であり、減損会計の適用対象となる固定資産の将来キャッシュ・フローに寄与しているわけではないため、事業会社が連結子会社に賃貸する土地を共用資産として取り扱わないものと考えられます。
後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象を言います(後発事象に関する監査上の取扱い(以下、後発事象取扱)2(4))。後発事象は、<表1>のように修正後発事象と開示後発事象に分類されます(後発事象取扱3)
①期末時点の経営環境から遊休状態であった場合
期末時点の経営環境から実質的に遊休状態であり、用途廃止とする旨の意思決定が期末日後に行なわれたにすぎないのであれば、期末日に減損の兆候が発生していると考えられます。その場合、減損損失を認識するかどうかの判定を行い、減損損失が認識される場合は当期決算で減損損失を計上する必要があります。
②期末日後の経営環境の変化に対応して用途廃止の意思決定が行われた場合
取締役会決議が、決算日後の経営環境の変化に基づく意思決定である等、実態としても決算日後に意思決定されたと認められる場合には、減損の兆候が発生したのは期末日後と考えられ、決算期末に減損の兆候はないと考えられます。
ただし、この場合でも開示後発事象として、注記の要否を検討する必要があります。
①後発事象取扱における「決算日」はいつ時点か
後発事象の検討を行う際の「期末日」とは、子会社の決算日(12月末日)なのか、親会社の決算日(3月末日)なのかが論点となります。
連結子会社および持分法適用会社に係る後発事象は、各社の決算日(または仮決算日)を基準として認識するとされています(後発事象取扱4(2)②a.)。従って、連結子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行っている場合の当該連結子会社に係る後発事象は、当該連結子会社の決算日(12月末日)を基準として認識することになると考えられます。
②子会社の決算日後、親会社の決算日前に子会社で発生した減損の兆候(保有する固定資産を処分する旨の取締役会決議が連結決算において修正後発事象に該当するか)
前述のⅢ1. (2)に記載のとおり、子会社の決算日時点の経営環境から、すでに遊休状態であり、用途廃止とする旨の意思決定が子会社の決算日(12月末日)後に行われたにすぎないのであれば、期末日に減損の兆候が発生していると考えられます。一方、用途廃止の意思決定が子会社の期末日(12月末日)後の経営環境の変化に対応したものである場合は、減損の兆候が発生したのは期末日後と考えられます。ただし、この場合でも、開示後発事象として、注記の要否を検討する必要がある点はⅢ1. (2)に記載のとおりです。
減損の兆候の例として、資産または資産グループの市場価格が著しく下落した場合があげられていますが(減損基準 二 1④)、減損の兆候の把握のプロセスにおいて、資産グループ全体の市場価格が把握できない場合があります。この場合に減損の兆候に該当するかの検討フローは、<図1>のようになり、資産グループの主要な資産ではない土地の市場価格が著しく下落した場合の取扱いは次のようになります。
主要な資産(減損指針22項)の市場価格が著しく下落した場合や、土地が主要な資産でなくとも、資産グループの帳簿価額のうち土地の帳簿価額が大きな割合を占め、当該土地の市場価格が著しく下落した場合も減損の兆候に該当するとされています(減損指針15項なお書き)。
減損基準において、減損の兆候を示す状況の例示の一つとして、資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること(減損基準二 1)と定められていますが、「営業活動から生ずる損益」はマイナス、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」はプラスの場合、減損の兆候に該当するかは必ずしも明確ではありません。
一方、減損指針においては、減損の兆候の把握には「営業活動から生ずる損益」によることが適切ですが、管理会計上「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを用いている場合には、それが継続してマイナスとなっているか、または継続してマイナスとなる見込みであるときに減損の兆候となるとしています(減損指針12項(3))。
「営業活動から生ずる損益」と「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の両方を把握している場合は、どちらかを選択適用するのではなく、「営業活動から生ずる損益」によって、減損の兆候が判断されます。そのため、「営業活動から生ずる損益」が継続してマイナスの場合には、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」はプラスであっても、減損の兆候に該当すると考えられます。