平成29年3月期法人税申告の留意事項

平成29年3月期法人税申告の留意事項


情報センサー 2017年4月号 Tax update


EY税理士法人 グローバル コンプライアンス アンド レポーティング部
税理士 公認会計士 矢嶋 学

1998年、太田昭和アーンストアンドヤング(現EY税理士法人)入所。法人向けコンプライアンス業務のほか、組織再編及び事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務等に従事。EY税理士法人入所以前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。


Ⅰ  はじめに

平成29年3月期の法人税申告においては、平成28年度の税制改正に加えて、平成27年度以前に改正され、当事業年度から適用となる事項についても確認が必要です。
本稿では、平成29年3月期(自平成28年4月1日 至平成29年3月31日)決算法人を前提とした法人税申告の留意事項を解説します。
 

Ⅱ  平成28年度税制改正における主要な留意事項

1. 法人税率の引き下げ

平成28年4月1日以後に開始する事業年度の法人税率は、昨年度の23.9%から23.4%に引き下げられます。なお、中小法人の軽減税率(所得の金額のうち年800万円以下の部分に係る税率)は昨年度から変更はなく15.0%(特例適用後)となります。

2. 法人事業税率の変更と外形標準課税の拡大

平成28年4月1日以後に開始する事業年度において、資本金が1億円を超える普通法人の法人事業税・地方法人特別税の標準税率は<表1>の「平成28年度」のとおりです。昨年度に比べて所得割の税率が引き下げられる一方で、付加価値割、資本割の税率が引き上げられています。


表1 資本金が1億円を超える普通法人の事業税・地方法人特別税標準税率一覧

3. 欠損金の繰越控除

平成27年度の税制改正において、平成27年度と平成28年度の青色欠損金、災害損失金及び連結欠損金の控除に関する限度割合が、所得の金額の80%から65%に引き下げられました。平成28年度の税制改正においては、この限度割合をさらに細分化して段階的に引き下げる見直しが行われています(<表2>参照)。なお、平成29年3月期の控除限度割合は所得の金額の60%となります。


表2 欠損金控除限度割合一覧表

なお、本見直しに伴い、欠損金の繰越期間を10年に延長する措置については、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額について適用されることになりました(改正前は平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用)。

4. 減価償却

建物と一体的に整備される建物附属設備や、建物同様に長期安定的に使用される構築物の償却方法が定額法に一本化されました。なお、本改正は平成28年4月1日以後終了事業年度で平成28年4月1日以後に取得した資産の償却限度額の計算について適用されます。建物附属設備や構築物の償却方法として定率法を採用している場合は、その取得日によって定率法か定額法かを区分することになりますので留意が必要です。

5. 役員給与

法人税法上、損金算入が可能とされる役員給与のうち、事前確定届出給与と利益連動給与について次の改正が行われました。これらの改正により、損金算入される役員給与の範囲が昨年度よりも広くなっています。

(1) 事前確定届出給与

届出が不要となる事前確定届出給与に、一定の要件を満たす譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)による給与が追加されました。

(2) 利益連動給与

利益連動給与の算定の基礎となる指標の範囲にROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)、その他利益に関連する一定の指標が含まれました。
 

Ⅲ 当年度から適用される平成27年度以前の主な税制改正事項

1. 所得拡大税制

平成27年度の税制改正において所得拡大税制の適用要件が緩和されており、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度の雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合(増加促進割合)は5%から4%(中小企業者等の場合には3%)に引き下げられています。

2. 外国子会社配当金益金不算入制度

平成27年度の税制改正において、外国子会社配当金益金不算入制度の対象となる配当等から、支払法人側で損金算入される配当が除外されました。当該改正は、平成28年4月1日以後開始事業年度に受ける配当等の額について適用されます。なお、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度では、平成28年4月1日現在有する外国子会社の株式等に係る配当に限り、従前どおり益金不算入の対象とすることができる措置が取られています。

3. 国際課税原則の帰属主義への変更

外国法人に対する国内法の課税原則について、平成28年4月1日以後に開始する事業年度から、いわゆる「総合主義」から「帰属主義」に変更になります。外国法人が国内に有する恒久的施設(Permanent Establishment)に帰せられる所得の位置付けや算定方法が変更になると共に、内国法人の外国税額控除における国外所得の計算においてもこれに準じて算定することになります。


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