国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直し(平成29年度税制改正)

国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直し(平成29年度税制改正)


情報センサー 2017年5月号 Tax update


EY税理士法人 税理士 清水智恵子

1988年、太田昭和マネージメントサービス(株)(現、EY税理士法人)入所。以来、日本の中小企業オーナーの事業承継コンサルティングに携わる。超富裕層の相続税申告を多数担当し、税務調査についても対応する。近年では、国際相続案件にも多数従事。EY税理士法人エグゼクティブディレクター。


Ⅰ  はじめに

平成29年度税制改正に関する「所得税法等の一部を改正する等の法律」が平成29年3月27日に成立しました。相続税・贈与税に関する改正の中で、国外財産に対する相続税・贈与税の納税義務の範囲の見直しがなされています。
日本国内にある財産を相続又は贈与により取得した場合には、その財産を取得した者の日本への居住・非居住を問わず、またその者が日本人か外国人かの別なく、原則として相続税又は贈与税が課税されます。一方、日本国外にある財産については、一定の要件を満たす場合には相続税・贈与税の課税対象とならないときがあります。本改正においては、国外財産が相続税・贈与税の課税対象とならない場合の要件について見直しがなされています。
 

Ⅱ 本改正の概要

本改正の概要は次の3点です。

①国内に住所を有しない者であって日本国籍を有する相続人等に係る相続税等の納税義務について、国外財産を課税対象外とする要件を、被相続人等及び相続人等が相続開始前10年以内のいずれの時においても国内に住所を有していたことがないこととする※1

②被相続人等および相続人等が出入国管理及び難民認定法別表第一※2の在留資格をもって一時的滞在をしている場合等の相続又は遺贈に係る相続税については、国内財産のみを課税対象とすることとする。

③国内に住所を有しない者であって日本国籍を有しない相続人等が国内に住所を有しない者であって相続開始前10年以内に国内に住所を有していた被相続人等(日本国籍を有しない者であって一時的滞在をしていたものを除く)から相続又は遺贈により取得した国外財産を、相続税の課税対象に加える。

(注1)贈与税の納税義務についても同様。
(注2)上記の改正は平成29年4月1日以後の相続又は贈与に適用される。


Ⅲ 解説

1. 5年ルールを10年に延長

日本人の親子間における贈与を想定してみましょう(<表1>参照)。改正前においては、財産の贈与を受ける子ども(受贈者)と財産を贈与する親(贈与者)双方が外国に住んでから5年を経過してから行う国外財産の贈与について、日本の贈与税は課税されませんでした。

表1 日本人の親子間における贈与

預金は国内の支店に預けていれば国内財産ですが、邦銀であっても海外支店に移すことにより容易に国外財産とすることが可能です。
この制度を利用して国内財産を国外財産に転換し贈与税の課税を回避するというスキームが見受けられたことから、これを防止するため、国内に住所を有していない期間の基準が5年から10年に延長されることとなります。相続においても同様です(<表1>①参照)。

2. 高度外国人材等が保有する国外財産に係る相続税等の見直し

日本で就労する外国人が日本で死亡した場合に、その家族が本国に残っている(単身赴任)、あるいは本人とともに日本で暮らしている(家族帯同)にかかわらず、本国の自宅や金融資産などの国外財産に対し日本の相続税が課せられることとなっていました。また、日本で就労する外国人の親が死亡し本国の財産を相続した場合にも、その本国の財産について日本の相続税が課せられることとなっていました。
これらの制度は高度外国人材等の来日の阻害要因になっているとの指摘がありました。そこで、在留資格をもって一時的に日本に滞在している外国人が被相続人又は相続人となる場合の相続等については、国外財産について課税対象としないこととされます。なお、「出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格をもって一時的滞在をしている場合等」の一時的滞在とは、ビジネスビザ等で国内に住所を有している期間が課税時期前15年以内のうち、合計10年以下の滞在をいいます(<表1>②参照)。

3. 租税回避行為防止策

日本人であっても、出生地主義の外国で出生し日本国籍を取得しなければ、その者の国籍はその外国籍のみとなります。現行税法において、このような日本国籍をもたず日本にも住んでいない者が取得した国外財産については、財産の贈与者が贈与の時に日本に住んでいない限り日本の贈与税は課税されません。これを利用した租税回避行為の余地が考えられるため、本改正では、贈与者について、贈与時点における住所の有無ではなく、期間の概念を導入し、贈与以前10年以内に日本に住所を有したことがあるかどうかで判定することとしました。この改正により、海外で出生し、かつ日本国籍を取得しなかった孫等に国外資産を贈与しようとしても、祖父も10年以上国外に住んでいなければ贈与税が課税されることとなります(<表1>③参照)。
 

※1 財務省ウェブサイト「所得税法等の一部を改正する等の法律案要綱」以下②③にて同じ。

※2 法務省ウェブサイト「在留資格一覧表及び在留期間一覧表」参照


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