情報センサー

外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の改正 前編


情報センサー 2017年6月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ  はじめに

平成29年度税制改正において、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の大幅な見直しが行われました※1。この税制は、国内企業が低税率の海外子会社に所得を移転することにより日本における法人税負担を不当に軽減することを防ぐため、一定の要件に該当する海外子会社の所得について、国内企業(海外子会社の株主)の所得と合算して日本で課税するものです。
 

Ⅱ  旧制度の概要

日本居住者・内国法人等が合計で50%超の持分を直接・間接に保有している外国法人を「外国関係会社」とします。会社の租税負担割合※2が20%未満の外国関係会社が低税率国に所在する「特定外国子会社等」と定義され、この税制の対象になります。ただし、自ら独立した立場で事業活動を行う実体のある会社等に対するこの税制の適用を免除するために、「適用除外基準※3」というスクリーニングの基準が定められています。四つの適用除外基準のいずれかを満たさない特定外国子会社等については、その全ての所得が日本親会社等の所得に合算されて日本で課税されます。適用除外基準を全て満たす場合には、「資産性所得※4」のみが合算課税の対象とされます。
 

Ⅲ 新制度の概要(<図1>参照)

旧制度においては、租税負担割合が20%未満か否かによって「特定外国子会社等」に該当するか否かを判定していました。この「20%」は「トリガー税率」とも言われ、制度の入口基準として重要な意味を持つものでした。しかし、一見して明らかに受動的な所得しか得ていない(経済実体のない)ペーパーカンパニー等について、租税負担割合が20%以上であるという事実だけをもって制度の適用を免除するのは問題がある、という議論などにより、トリガー税率は廃止されました(<図1>の①参照)。ただし、納税者の事務負担の大幅な増加を回避するために、制度適用免除基準としての「税率基準(租税負担割合)」は残されています(<図1>の⑤参照)。


図1 新制度の概要

「ペーパーカンパニー※5」や「事実上のキャッシュボックス※6」といった新たな企業概念が定義され、これらの会社に対する合算課税制度が創設されます(<図1>の②参照)。新制度においては、租税負担割合が20%以上であったとしても、ペーパーカンパニー等に該当すると当該会社の全ての所得に対して合算課税が生じます※7
ペーパーカンパニー等に該当しない外国関係会社については、最初に、「経済活動基準※8」を満たすか否かを検討する必要があります(<図1>の③参照)。四つの経済活動基準のいずれかを満たさない場合に、その外国関係会社の全ての所得が日本親会社等の所得に合算されて日本で課税されるのは、旧制度と変わりません※9。一方、経済活動基準を全て満たす場合には、一定の「受動的所得」のみが合算課税の対象とされます※10。この受動的所得の範囲は、旧制度の資産性所得の範囲と比べて、大幅に拡大されているので注意が必要です(<図1>の④参照)。
新制度は、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
 

※1経済協力開発機構(OECD)のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの行動3「外国子会社合算税制(CFC税制)の強化」において議論がなされた内容も踏まえた上での今回の改正となる。

※2一般的には「支払った租税の金額/所得の金額」で計算される。実際の金額で計算するので、各国の法定税率とは異なる。

※3事業基準、実体基準、管理支配基準、所在地国基準又は非関連者基準の四つがある。

※4一定の範囲の利子・配当・使用料・キャピタルゲイン等が定義されている。通常の事業活動から生じる能動的な所得に対して、これらは「受動的な所得(パッシブ・インカム)」といえる。その範囲が非常に限られているものであったため、実際上、資産性所得の合算課税が問題になるケースは稀(まれ)だった。

※5主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を持たず、かつ、その本店所在地国において事業の管理、支配、運営を自ら行っていない会社

※6総資産の額に対する受動的所得の割合が30%を超え、かつ、総資産の額に対する金融資産等の割合が50%を超える外国関係会社

※7ただし、租税負担割合が30%以上の場合には、制度の適用(合算課税)が免除される(<図1>の⑤参照)。

※8旧制度の「適用除外基準」の大枠が維持されている。内容に多少の見直しはあるものの、四つの基準も変わらない。

※9ただし、租税負担割合が20%以上の場合には、制度の適用(合算課税)が免除される(<図1>の⑤参照)。

※10※9と同じ(<図1>の⑤参照)。

「情報センサー2017年6月号 Tax update」をダウンロード



情報センサー
2017年6月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

情報センサー 2017年6月号